26 僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです!
「それで、最終的に精霊達はどんないたずらをしたの?」
「ああ、そうよね、事の顛末は水鏡で見た事が事実なのよね」
深呼吸をして落ち着いたシーナは淡々と語り始めた。
「呪文は単純なの。私について回る精霊達を叱りつける言葉がそのまま呪文になってしまったの」
シーナは自分の周りにいる精霊達はそこそこ制御できていたし、トニーを慕っている精霊達を叱って僕の身体強化でトニーの魔力を使用する事を止めさせたな。
いきなり呪文を開発したというより、素地はあったのだろう。
精霊、中級精霊、上級精霊、と精霊達の格が上がるのなら、一番偉いのは精霊神かな?
「もしかして、呪文って、アップウ?」
思い付くまま口にした僕の言葉にフワフワ漂っていた精霊達が一斉に動きを止めた。
「キャー!ちょっと待った!何々!アル!何やってるのよ!」
シーナが悲鳴のような高い声を発した。
あれ?
呪文を言い当てたら精霊達に何らかの作用があったのか!
おや?
呪文は開発者以外の上級魔導士が唱えても魔法は発動しないんじゃなかったのか!
トニーは頭を抱えて、信じられない!と首を左右に振っている。
「ああ、もういいわ。ぶっちゃけてしまうと、詠唱魔法は教会が独占しているけれど、本当は神々に声が届けば誰だって使用できるのよ!」
シーナの衝撃発言にトニーは足を止めた。
これだけ深刻な話をしていたのに僕達はシーナと再会してからずっと魔力循環をしながら身体強化で歩き続けていたのだ。
たぶん僕達は存在自体が常識外になっている。
「知りたかったのはあの町で起こった事の顛末なのに、上級精霊や、時間がループする話だけでも俺の理性が崩壊しそうなんだよ!なのに、教会が独占している詠唱魔法の秘密をこんなところでバラすなよ!」
トニーは頭を抱えたまましゃがみ込んだ。
「あのね。私だってもう、いっぱいいっぱいよ!アルが唱えた私の呪文に少なからず効果があった。そんなことは、普通あり得ないのよ!このまま放置するわけにはいかないから、事実を話すしかないでしょう!トニーは現在アルの保護者代理なのだから知らせないわけにはいかないのよ!」
力が抜けたように膝をついたトニーは無言で頷いた。
「かくいう私も、初級魔導士の試験に合格する前に上級魔導士クラスの呪文を完成させてしまい、教皇猊下に隠蔽してもらったのよ。それで、大聖堂島の上級精霊様は私の事をご存じだったらしいの」
シーナはそもそも規格外の元聖女だったのか。
「アルは素直すぎるから、精霊たちを統べる神様にお願いしたらどうにかなる、なんて考えたんでしょう!」
僕が頷くと、僕は目を開けていられないほどの閃光に包まれていた!
神様!
神様なのか!
精霊達の神様に召喚されるのか!
「残念ながら、私は神ではない。神々の僕にすぎない」
真っ白な大きな空間に雪のように青白い長い髪の男性がいた。男性に見えるけれど、足元に影がなく、人間ではない存在だ。
上級精霊。
言葉に形容しがたい美丈夫で、人間ではありえない存在、と言ったシーナの言葉は大袈裟じゃなかった。
僕は亜空間でたった一人、上級精霊と向かい合っていた。
「アルフレッド。君は誰にも教わらずに、呪文の本質に迫ったね。精霊神は数多の精霊達の頂点に立つ神だ」
「僕は精霊達の頂点に立つ神様の事を考えて、アップウ、と言ってしまったから、呪文として魔法が発動してしまったのですか?」
「そう、ともいえるが、やや違う。詠唱魔法とは、術者が神々を称え、自然現象では起こり得ない現象を魔法で行う。その際、精霊達が術者の魔力を使用し、術者がイメージした魔法が発動するように媒介する。シーナが唱えた、アップウ、は通常の詠唱魔法だ。だが、アルフレッドの唱えた、アップウ、は魔獣の魔法に近いな」
やっぱり僕は魔獣系なのか!
「ハハハハハ。そうだな。聖獣になる前の魔獣に近い。魔獣は神々の名を知らぬが、聖獣となると精霊言語で世界の理を知り、己が敬う神々の名を知る。アルフレッドは精霊神の名も知らないのに、精霊神はアルフレッドの存在を気にかけた。よって、精霊達はアルフレッドの呪文に縛られた」
精霊言語で世界の理を知る?
「この話から、そこに着目するのかい。異世界転生者らしい視点だね。創造神が創り給うたこの世界の原理が、世界の理、だよ。人間達はいろいろ解釈をつけて論じているが、どれも正解ではない」
教会とか魔法学校で世界の理を研究しているけれど、市中にいる精霊達の存在を認めないから、頓珍漢なことになっているのかな?
「精霊言語を理解したら、いずれ世界の理に辿り着く。アルフレッドはい精霊言語を取得してもおかしくない境界線上にいる。世界の理の存在を知る緑の一族のシーナが君を保護すべく声をかけるのは当然だ」
シーナは、僕が精霊達の救世主になるかもしれない、と言っていたが、精霊言語の取得間際だったからあの時声をかけたのかな。
「いや、精霊達の救世主はアルフレッドではない。まだ生まれていない、生れないかもしれない、異世界転生者だ」
おっと!人違いか!
「人違いではないよ。アルフレッド。君が生きのこることだできたなら、精霊達や緑の一族に、ヘンタイ、として語り継がれつつ、君らしい功績を遺す。それが、後の世に生まれるかもしれない異世界転生者に引き継がれる」
僕の功績が僕ではない異世界転生者に引き継がれる……?
何だろう。
僕に何がなし得るのだろう?
「わからなくていいんだ。アルフレッドはアルフレッドのままでいれば、いずれ君はそれをする。とにかく君は生きのこることを優先しなさい」
このままラウンドール王国まで平穏な旅路とはいかないのだろうか?
ラウンドール王国に入国してヘンタイサディストの伯父さえ避けれたら、生き残れると思ったのに!
「呪文を取得したから、生き残りの難易度が上がったんだ。ああ、それに、シャオ王国の王太子、アルフレッドの父が、君の捜索を東の魔女に依頼した。東の魔女は精霊使いだから、シーナの精霊達では東の魔女の動向を追えない」
本物の精霊使いが僕の捜索に介入するのか!
というか、父は僕と腹違いの弟が入れ変わる側室の策略に騙されなかったのか。
「ああ、そうだよ。側室の策略は破綻した。君の父は自分の子どもを見間違えるような男じゃない」
父とは接点が少なくて、愛着を感じなかったが、あの人は一応、母が愛した人なんだよな。
僕は父にも愛されているのか……。実感が湧かない。
父は愛情表現が下手くそな男なのかなぁ。
「アルフレッドは前世の記憶を思い出すまでは、ただ少しばかり魔力の多い普通の子どもだった」
「僕の記憶の父上は、父上の一部分しか見えていなかったという事でしょうか?」
「ああ。そうだ。あれでいてあの男なりに子煩悩だったんだよ。あの男の災難は兄を押しのけて王太子になってしまった事で、兄の婚約者を側室として押し付けられたことだ。側室の産んだ子は君の兄弟ではなく従弟だよ」
爆弾発言キターーーーーー!!
托卵かぁ!
ああ、どうしても次の次の国王の父になりたい側室の父親が、ラブラブカップルの両親に、前王太子の子を孕んだ娘を側室として無理やり押し付けたんだな。
「父上はそのことを知っているのですか?」
「ああ。致す事を致していないのに、王家の特徴を持つ子が生まれたからな」
処女受胎、なわけないもんねぇ。
「あの男は事実を知ったうえで、側室の実家を陥れる機会を待つために、とりあえず甥っ子を実子として扱っている。期限はその子の洗礼式までだ。あの男はそれまでの間にシャオ王国国内の派閥をまとめる手筈で動いていたところを、欲をかいた側室がアルに手を出した、というのがアルフレッドが離宮を出る羽目になった事の真相だ。ちなみに、メリーアンの呪いがなかったら君は死んでいたよ」
どうせ、僕の発育が遅くて体重が軽かったから仕込んだ毒が致死量オーバーだったんだろう。
「そうだ。側室は実家に内密に離宮内に拘束されている。連絡が取れなくなったことを焦った側室の実家は、遺産目的ではなく、孫を君と入れ替えるために何としても君を殺害しようと躍起になっている」
シャオ王国の刺客も油断ならないのか。
「ああ、それに、人前で呪文を使うなよ。現人神だの異端の子だのと騒ぎになって、教会から刺客がいくぞ」
何ですか!教会からの刺客!?
「だけど、君は呪文を使いこなせるようにならなくては、自分たちにとって都合のいい救世主、を求めて押し寄せる精霊達を御せないぞ」
なんてこった!
精霊達の救世主は別人なのに、何でそうなってしまうんだ!
「シーナは結果としてあの町の精霊達の願いを叶えてしまったからな。君たち一行は精霊たちを救う、と勘違いする精霊達が多くいる」
「僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようですね……」
「だから、生きのこることを優先しろと言っているだろう」
そうですね。
上級精霊様は一貫して、生きのこればいい、と言い続けている。
精霊達の救世主がどうしただの、父が本当は僕を愛していて捜索している、とか、一旦考えるのを止めよう。
僕は僕が生きのこる道を選ぶだけだ。
時をかける元聖女から上級精霊(前作の月白さんの方)の登場まで一話にまとめようとしましたが、無理でした。
『前途多難』と登場人物が被らない、と明言していましたが、精霊達は被っていました。
ごめんなさい。
東の魔女は『前途多難』の東の魔女ではありません。(あっちは妖精使いです)
もうすぐ第一章の終わりです。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。




