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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第一章 僕と最強の護衛

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25 シーナのループ

「そんなことがあり得るのか!」


「あり得なくても、起こってしまったのだから、何とかするしかないでしょう。時間が少しだけ戻る体験はしたことがあったから、その時はそこまで混乱しなかったの。教会から散っていく精霊達に建物を爆発させるな、と精霊言語で伝えることができたのよ」


 それで、壁が一部崩壊した建物があった程度で済んだのか。


「時間が少しだけ戻る体験を過去にしている事が凄いな」


 トニーは時を戻す魔法を知らない魔法のようで、シーナのループの二回目の話の導入部分から目を白黒させた。


「中級精霊なら、少しだけ時間を戻す魔法が使えるのよ。いわゆる、精霊使い、と呼ばれる人達は中級精霊と契約しているわ。だから、それなりに時間が経過したはずの光る祭壇の前に戻った時に()()()()()()()()()かかかわっている、と確信したの。でも、訳がわからないのには変わりないし、精霊達がやり過ぎないように見張るために、即座に宿に戻ると、アルとトニーを説得して町中に出たわ」


 その時の自分がシーナの話を理解したとは思えない、とトニーは呟いた。

 たぶん当時のシーナは急いでいたから詳しい説明は省いたと思う。


「中央広場にはまだ人はまばらで、屋台は準備段階だったんだけど、アルがソーセージを焼く匂いにつられて立ち止まったら、屋台の親爺さんが開店前だけど売ってくれたのよ」


 二回目のループでシーナは朝食にありついていたようだ。


「パンは焼き立てで温かくてソーセージは焼き立てで美味しかったわ」

「呑気に味わって食べたんだ」


 トニーの突っ込みにシーナは眉を寄せた。


「一回目で食べそびれたからお腹が空いていたのよ。私は精霊使いではないのよ。できる事は限られているの。うちの子たちはそれなりに私の気持ちに沿って行動してくれるけれど、あの町の精霊達はそうはいかない」


 あの町からついてきた精霊達が申し訳なさそうに淡い光を揺らした。


「私に懐いている精霊達はあの子たちがやらかす種類が多すぎてまともな予測はできなかったし、そもそも余所から来た精霊達の忠告なんて聞いてくれないから、私は見守るしかなかったの」


 シーナの周りの精霊達が、そうだそうだ、と二回淡い光で点滅した。


「もしかしてその時、僕はソーセージパンが熱くて口の中を火傷した?」


「そうね。口の中の皮がむけたって言っていたわ」


「……記憶にないやり直しで俺達は行動を変えたのかもしれないな」


「……三回目もアルは口の中を火傷したのよ。それ以後は、宿に戻らず直接中央広場に向かったからアルの行動は知らないわ。でも、最終的には口の中を火傷することなく上手に食べたのね」


「ソーセージパンにかぶりつく前にちょっとだけ歯を立てて先にソーセージの皮を破って肉汁をパンに吸わせたんだ。そうした方が美味しい気がしたんだよね」


「俺はシーナの分のソーセージパンを買ったけれど、シーナの朝食は何とかなる、と脳裏をよぎって両手を空けるためにサッサとシーナの分も食べたんだ」


 僕とトニーの言葉にシーナは黙り込んだ。


「……やり直したのは私だけなのに、やり直しをしていない人にも影響があったの?……うーん。そこまで注視していなかったから、何とも言えない……」


 宿の受付の人が、僕に配慮しろ、と小声で呟いたのは、シーナが三回のやり直しで反論した影響があって面と向かってトニーに小言を言いにくかったのだと思う。


「それからも、何度も何度もやり直したの。あの町の精霊達は建物を爆破するなと言ったら、地中で暴れて地震を起こして建物を潰したり、ボヤでは済まないような火事を起こしたり、どんなに注意しても破壊の限りを尽くしたの」


 新顔の精霊達は申し訳なさそうに淡い光を揺らした。


「まあ、あの町の精霊達は町でのさばっていた悪党達に相当腹を立てていたから、私が中央広場で精霊言語で呼びかけても聞く耳を持たなかったのよね。光る祭壇の前で町中に散らばる直前でないと私のお願いが精霊達に届かなっかたのよ」


「ああ、町中が誘拐犯の元締めに何らかの形で被害に遭うか恩恵を受けているかの二択しかないような、いやな雰囲気がする町だった」


 トニーの言葉に新顔の精霊達が、そうだそうだ、と淡い光を二回点滅させた。


「無限に続くかと思えたループの最後は光る祭壇の前に戻った時に、新しい呪文、そう、上級魔導士の呪文を閃いたの。呪文で精霊達を一喝できるようになったから、最終的に死亡者を出さずにすんだわ」


「呪文で精霊達を制御できるのか!」


 顎を引いて驚くトニーの言葉に、シーナは、そうなのよ、と頷いた。


 シーナはそもそも自分の側にいる精霊達をそこそこ制御できていたから何度もループしている間にあの町の精霊達もシーナに馴染んでいった、と考えたら、そこまで驚くことではないだろう。


「詠唱魔法は聖典の言葉を駆使し長い詠唱を行ない魔法を行使する方法なんだけど、呪文はそれを省略して発動するの。唱える呪文が短ければ短いほど上級魔導士の技術が高い、とされているわ」


 動じない僕にシーナは呪文の説明をした。

 ざっくりとした説明すぎる、とトニーは苦笑した。


「短い呪文だと、他の上級魔導士が唱えても魔法が発動しないの。それだけ、短い呪文は特別なのよ」


 前世のイメージで呪文なんて、ファイアーボール、と唱えれば火の玉が出てくる、くらいの軽いノリでできそうな気がしていたが、どうやら、この世界ではそうではないらしい。


「アル。精霊達をしたがわせる呪文が完成したという事は、上級魔導士が精霊使いのような存在になれる可能性があるという事なんだよ」


 興奮したトニーが補足説明をしてくれた。

 他者の魔力を使用して魔法を行使する精霊達を上級魔導士が操れる、となれば、上級魔導士は精霊使いになれるだろう。


「何度も言うけれど、精霊使いはそこら辺の精霊と契約しているのではなく、中級精霊と契約しているのだから格が違うの。この領全域の精霊達を全部集めてようやく中級精霊が誕生できるかどうか、と言うくらい格が違うの!」


 僕達の周りの精霊達は、正解!と淡い光を二回点滅させた。


「まあ、それでも、普通の精霊達をしたがわせるのも十分あり得ない呪文なのに、私はあの場で精霊達を一言で従わせる呪文を開発してしまい、それを面白いと思った、あの状況を作っていた上級精霊様に特別な空間に招待されたのよ」


「「特別な空間?」」


「そう。この世界とも、死後、魂が潜るとされている天界の門の奥とも違う世界、上級精霊様は亜空間と呼んでいたわ」


 僕達の周りにいる全部の精霊達が、正解!と二回点滅した。


「どこまでも広がる真っ白な空間に水鏡の台があって、私はそこで精霊達のいたずらの顛末を上級精霊様と見届けて、アルとトニーの背後に転移させてもらったのよ」


「転移魔法だったのか!道理で気配の欠片もなかったのに背後にいきなり現れるわけだ!」


 わかるわけがない、とトニーは項垂れた。


「中級精霊でも転移魔法が使用できることを知っているから私は移動方法に驚きはしなかったけど、そんな経験をした直後だったから、合流した時に私がどれほど混乱していたかわかるでしょう?」


 僕とトニーは素直に頷いた。


 精霊達のやらかしの無限ループを経てあり得ない呪文を開発し、大聖堂島の上級精霊に亜空間に招待された直後だなんて、非常識が山盛りすぎてお腹いっぱいな状態になるだろう。

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