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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第一章 僕と最強の護衛

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18/40

18 魔獣でしょうか?馬並みですか!いいえ、牛かもしれません

「精霊達が干渉したのか!?」

 

 違う、とシーナが即座に否定すると、精霊達も弱い光で、干渉していない、と言うかのように二回点滅した。


「冷静になれ!トニー、今のアルの状態からアルの魔力を感じるかい?」

「いや、まったく感じない。これなら騎士団の魔力探査の専門家でも、平民の男子だと思うだろう」

「ああ、うちの族長くらい上手に魔力を抑えている。精霊達もタジタジだ」


 一石四鳥目の魔力操作の第一の副産物である魔力漏れの抑制は、どうやら大成功のようだ。


「……魔力を体の表面に固めただけで視力強化ができるんだったら、今までの俺の鍛錬は何だったのか!」

「魔法の研究なんて、大概こんなものだよ。誰かが確立したものをなぞる学習をするうちに、小難しくなっていくんだよ」

「ああ、そうか、イメージで操作する魔力を的確に伝えられないから、できない方に合わせて手順を細かくすると煩雑になっていくのか!」

「ああ、そうだよ。魔獣が炎や風魔法を使うのに魔法陣や詠唱をするかよ!本能で魔法を行使する場合、人間社会の厳格な魔法学なんて関係ないね」

 

「僕の魔力操作の練習でできるようになった副産物は、もしかして魔獣みたいな魔法なの!?」


「身体強化のような自身の体内で完結する魔法はそもそも魔獣の魔法みたいなもんだよ」


 シーナの説明に僕とトニーは同じように目が点になった。


「身体強化は魔力鍛錬の末に身につける……ああ、そうか。魔獣だって強くなる個体なら魔力操作ぐらいやっているんだな」


 トニーは人間だけの特殊な技術じゃない、と気付いたようだ。


「視力強化ができるなら、聴力強化もできるかな」

「適性があればできるんじゃないかな」

「適性?」

「もともと耳の聞こえが悪かったら、聴力強化をしてようやく普通になるだろう。どこまでの音を聞こうとするかによって聴力は変わると思うよ」


 僕の疑問にシーナはもっともな説明をした。

 どこまで耳を澄ますかによってそもそも、聴力は変わるな。


「アルは精霊言語を取得する間際の状態だから、聴力強化はお勧めしないね」

「僕は精霊達の情報を脳内に直接映像で見せられたけど、通常は耳で聞くものなの?」


「私は精霊達の声が脳内に直接響くけれど、情報を発した精霊がどこにいるかの気配もわかってしまう。後ろにいる精霊からの訴えは後ろを振り向いて聞いてしまうように、耳で聞いたかのような動作をしてしまう。その上、実際に耳で聞く情報も同時にあるから、とにかくうるさくてかなわない」

 

 生まれつき精霊達の声が聞こえたシーナでさえ、この年になっても制御するのが大変なんだ。


 シーナが僕とトニーの周りを見渡すと精霊達が弱々しく光を揺らした。


 現状は、シーナと付き合いが浅い僕とトニーの周りの精霊達がシーナに激しく訴えかけて迷惑をかけているのだろう。


「アルが魔力を閉ざしてしまって寂しいらしい。ちょっとくらいお漏らししても思考を読まれたりしないから、どうか、緩めて魔力をあげてくれ」


 精霊たちの要求に頭が疲れたのかシーナはこめかみに親指を当て、ぐりぐりと押している。


 母を慕っていた精霊達は僕が生まれた時からずっと寄り添っていてくれたのだろうに、僕がお年頃の反抗期みたいにいきなり拒絶したら、さぞかしショックを受けただろう。

 

 防水スプレーを洗い流すイメージで両手だけ魔力の膜を解くと、淡く光る精霊達が僕の両手にすりすりした。

 僕の両手が陽炎のように揺らめいて見える。

 数回、瞬きをすると視界がはっきりした。


 トニーも瞬きを数回すると視界がはっきりしたのか、微笑みながら僕と淡く光る精霊達を見守った。

 トニーは、可愛らしくて仕方ない、といった優しい表情だが、僕以外の物にそういった優しい気持ちになってほしい。


 ああ、でもこんなメルヘンな状況じゃあ、僕だって頬が緩む。


「アルとトニーが精霊魔法の影響を受けないのは、二人が精霊達を結構多めに引き連れていたからなんだよね。ほら、足を止めないで、歩くよ」


 せっかく筋肉を強化せずに身体強化ができるようになったトニーに、再現しろ!とシーナは促した。


「初対面からシーナの素顔が見えた事?」

「そうそう。あれは、族長の精霊の(しもべ)による精霊魔法で、他人が私に持った印象で外見が決まる。私をよく知る人達にには通用しないが、初対面で見破られることはほとんどない」


 精霊魔法、という言葉にトニーの左眉がピクッと動いた。


「俺達の周りの精霊達が族長の精霊の(しもべ)の精霊の精霊魔法を排除したからかい?」


「ああ。アルとトニーを慕う精霊達は素顔の私の方が話の通りがいいと未来予測をして介入した」


 確かに、怪しさは万歳だったけれど、トニーはシーナを手練れの魔法使いだとすぐに踏んだし、僕はシーナの情報に興味を持った。


「精霊達が介入すると精霊魔法は簡単に打ち消されるのかい?」


 トニーは精霊魔法の話にガッツリ食いついた。

 しめしめ。

 今回は、僕の身体強化の耐久性を検証しよう。


 いいねぇ。足取りを少し速くしてもトニーは気付かない。


「通常は精霊魔法を行使した精霊より強い精霊じゃないと打ち消せない。だが、あの時は、打ち消した方が族長の手先の精霊にとっても都合がよかったから成功した」


「なるほど。俺の周りの精霊達はそもそも、若くて精霊魔法が得意じゃないんだったな」


「ああ、だけど、精霊達は同族との交流で急速に成長する。おまけにこれだけの量の精霊達が集まっているから、共同で精霊魔法を行使するので、アルとトニーを慕う精霊達も他人への認識に干渉する精霊魔法を取得したようだよ。と言っても、まだ、印象を薄くするだけだ」

 

 おお、僕がコッソリ魔力操作の特訓をしている間に精霊達も学習していたのか!

 いい子たちだな!


 僕の掌に集まっている精霊達が、褒められた!と嬉しそうに柔らかい光を放った。


「もしかして、いま、俺達は信じられない速度で歩いているのに、通り過ぎる人達には印象に残らないのか!」


 トニーの言葉にシーナは頷いた。

 チッ!二人にはとっくにバレていたようだ。


「こんな小さな子どもを連れた私達が馬車並みに早く歩いているのに注目を浴びていないだろう」


 しまった!張り切りすぎて馬並みの速度になっていたのか!


「このまま、次の村の手前までこの調子で歩いても大丈夫だ。私達がおかしいと気付くような人物はまだこの街道に辿り着いていない」


 シーナが危険予知の契約通りの発言をすると、トニーは苦笑しながら頷いた。


「アルが魔力切れをする心配もないんだな」

「うん!体調は問題ないよ!」

「トニーだって魔力循環の副産物の身体強化の魔力消費の少なさは体感しただろ。身体強化のお陰で、アルの体力も問題ない」


 シーナの説明にトニーは、うんうん、と頷いた。




 順調に歩き続けた僕達は午前中のうちに二つの農村を通過することができた。

 畑で働く村人たちの中にも女性はおらず、日中でも家に籠っているようだった。


「農村でも全く女性を見かけないよね」


「町から近い農村ではよそ者が通過する開門時間の間、女性たちは村長宅で紡績関係の内職をして人目につかないところに隠れているんだ。まあ、それだけ警戒しなければいけないほど女性の誘拐事件が頻繁にあるんだよ」


 シーナの説明に精霊達が小さく二回点滅した。


 東方連合国周辺地域では適齢期の女性は一人で外出しなかったが高齢女性は普通に働いていた。

 ここまで女性が表に出られないなんて、中央大陸中心部はどれだけ女性が少ないんだろう。


「この近辺の村の女性達は紡績関係の職人として活躍している。年齢を重ねると熟練の職人だ。価値が高いのだろうな」

 

 トニーは女性の価値を生産性で見ている。

 いや、ある意味それも正しいのかもしれないが、たぶん、この世界には熟女の娼館があると思う。

 需要と供給のバランスのせいだけでなく、そういった趣味の方々だっている。


「メリー殿下は世界各地の織物に興味をお持ちだったから、紡績業が盛んなこの地域を旅したい場所に選んでいた。ここら辺りでは麻の生産が盛んで、ラウンドール王国の商会も買い付けに来ている。さっきの村の情報は商会関係者から得た」


 トニーは通過した村をチラッと振り返り、ちゃっかり仕入れた糸の素材が入った収納ポーチをそっと撫でた。

 きっと母が欲しかった素材なのだろう。


「麻だったら、もっと南下した方がいい素材があるよ。光沢のある柔らかな最高級品があるんだ。出荷量が少ないから市場に滅多に出回らない逸品だよ」


 最高級品と聞いたトニーの耳がピクッと動いた。


「大きな教会の神具の下に敷く特別な布で、生産するほとんどを教会に献上するから一般には流通しない。まあ、高く売れる商品でも、食べ物の生産より優先させることがないから、生産量が限られてしまうからなんだよね」


 それはそうだ。

 高級繊維より食べ物を優先すべきだよ。素っ裸で暮らせないけれど、お腹がすいたら仕事ができない。

 

 今朝のおかゆは美味しかったけれど消化が良すぎてお腹が空いてきたな。


「そろそろ昼食にするかい?」


 トニーの提案に僕は一も二もなく頷いた。


「アルは食べ物のことを考えている時に口をもぐもぐさせるんだね」


 フフフとシーナが笑うと僕は両手で頬を押さえた。


「言わなければもうしばらく見れたのに……」


 トニーは残念そうに眉を顰めてシーナと睨んだ。

 指摘してくれてありがとう。

 言われなければ気付かなかった。そんな子供っぽい仕草をしていたなんて恥ずかしい。


「子どもっぽい、というより、反芻する牛?」


 トニーの言葉に僕は項垂れた。

 魔獣のように身体強化をし、馬並みに走るのはカッコいいけれど、食べ物のことを考えると牛のように口をもごもごとする王子様……。


 もう少し行動に気をつけなくちゃね。



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