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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第一章 僕と最強の護衛

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17 トニーと僕とシーナの思惑

 シーナにコテンパンに言い負かされたトニーはプルプルと首を振るとパンパンと頬を二回たたいて正気に戻った。


「とりあえず、俺もやってみる!」


 即、実践しようとするところが脳筋ぽくみえてしまうよ、トニー。


「身体強化をしたい場所に魔力の流れを一部留めて……」

「全く駄目だ!魔力の流れがそこで滞って膨れているよ。私にそれがわかるという事は魔力が体から駄々洩れしている!」


 僕の身体強化の方法を真似しようと奮闘するトニーにシーナが早々にダメ出しをした。


「トニーは難しく考えすぎていると思うよ。僕はトニーに教わった通りに魔力操作の練習をしていただけなんだから、魔力操作で魔力漏れを防ぐ方から練習したらどうかな?」


「そうか、そもそも魔力が漏れないようにする方法が俺のやり方と違ったな」

「あっ!魔力を練り上げるようにこねくり回しながら循環させるのではなく、ただ単純に早く流すの!」


 魔力を練り上げるって何だろう?

 トニーは僕が教わった方法じゃない魔力循環をしたらしく、シーナの指導が入った。


 魔力を練り上げるって、今は一定方向に循環させている魔力をねじり飴みたいにひねりを加えながら循環させるのかな。

 ひねりを加えると魔力を皮膚の表面に固める作業を失念してしまうな。

 そっか!

 もともと漏れ出る魔力を防水スプレーみたいに表面で固めてしまえば隙間なく体の周囲を僕の魔力で固められる。


「ああ、そうか。基礎の基礎だったな」

「そうそう。一定方向に魔力を循環させると体から漏れ出る魔力の量を少なくできる。これなら洗礼式前の子どもがやっても負担がないだろう?」


 そうだな、とトニーはシーナの指摘に相槌を打った。


「ああ、それでも漏れる魔力を全身を覆う服のように固める……、ああ、できた」

「これも問題ないだろう?」


 トニーとシーナが僕の魔力操作の手順を一つ一つ確認している間に、僕は高速ねじれ魔力操作に挑戦していた。

 魔力をねじる利点は雑巾を絞るように魔力をぎゅっと圧縮できるところだ。


「この状態で身体強化をしたい部分に魔力を留めておく……」


 トニーが言い終えないうちに、トニーのズボンがパンパンのピチピチになるまで足の筋肉が膨れ上がった。

 いかにも脳筋がする身体強化だ!

 僕とシーナは爆笑し、精霊達も笑っているように弱い光を揺らした。


「アハハハハ、身体強化をすると考えると筋肉が条件反射してしまうんだね」

「いやぁ、これは難しい」

「瞬発的に身体強化ができるように訓練してきた証拠じゃないか」


 トニーが僕の身体強化の方法に夢中になっている間に、もう少し自分の魔力で遊んでいたかった僕はトニーの気持ちが削がれないように前向きの発言をした。


「そうか、身体強化をしようと考えなければいいんだよ!」

「その、無心になる、というのができないんだよ」


 僕の思い付きにトニーは小さく首を横の振って唸った。


「歩きながら世間話の続きでもして意識を身体強化から切り離せばいいんじゃないかな。僕はそうしていたら、自然と身体強化ができたよ」


 これは嘘だ。僕は二人の話を小耳に挟みながら意識して身体強化を試してみたんだ。

 だけど、意識したら筋肉を強化してしまうトニーには、気にしない状態でできる、という事にしておいた方がいいだろう。


「まあ、アルの手順を辿るのなら、世間話をしながら歩いてみるのもいいんじゃないかな」


 シーナの提案にトニーは頷いた。

 


「アルは前世で結婚していたのかい?」


 シーナはトニーが食いつきそうな話題として前世の僕の話を持ち出した。


「いや、結婚どころか、女性とお付き合いしたこともないよ。一回死んだ記憶がある身からすると、一度でいいから女性と深い中になりたかったな、という気持ちがあるんだよね」


 僕の立場では政略結婚になる事が間違いないだろうから、結婚観や恋愛観を話すより女性と付き合っていい仲になってみたい、という方向に話題を逸らした。


トニーは大きく首を横に振ったが、シーナは首を傾げてから大きく頷いた。


「……戦場で未経験なら魔法攻撃が当たらない、とか、そんなの迷信だよ」


 うわ!そんな迷信があるのか!童貞なら当たらないって、ダジャレだろ!


「うん。知ってる。未経験でも俺の同僚はいっぱい死んだ」


 それがそうなら、最前線が少年兵だらけになってしまう。


「だったら、出征前に経験ぐらいしといたらいいのに……。あっ!もしかして、未経験だから最強になった、とトニーは騎士団でからかわれるようになったの?」


 僕の推測に顔を真っ赤にしたトニーは激しく首を横に振った。


「……子どもに話す内容じゃない」


 男だらけの騎士団で下ネタが飛び交わないはずがない。だけど母の面影を残す僕に話す事じゃないよね。


「うーん。そうは言っても、トニーの強さに僕の命がかかっているんだもん」


「トニーの場合は秘めた恋心を押し殺しているのにもかかわらず、窮地に湧きたつ情動に精霊達が歓喜したから、魔法強化に繋がったんであって、……まあ、事を致したことがない、というのは関係ある……のか」


 トニーが初めてを卒業したら、精霊達の歓喜が起こらず魔法が強化されないなら、なんだか理不尽だ。

 トニーの周りの精霊達が申し訳なさそうに弱々しく光った。

 

 うぬ!防水スプレー方式でも魔力が漏れて精霊達に思考が読まれたか!

 いや、話の流れから精霊達はしおらしく反省しているふりでもしているのだろうか?


「もう一度トニーのトニーが元気になれば、精霊達は歓喜するのかな?」


 トニーの周りの精霊達はほんのりと二回点滅した。


「再びトニーのトニーが機能するようになればトニーに愛着を持つ精霊達が喜ばないはずがないだろう」


 シーナの言葉に、うーん、と唸り声をあげたトニーは額を押さえた。


 母の死の前からトニーの一物は元気がなかったのだろうか?

 トニーの周りの精霊達が淡い光で二回点滅した。


 チッ!思考を読まれてしまった!

 うーん。どこから漏れ出ているんだろう?

 髪の毛の先までスプレーで魔力を固めるイメージをしたのに……。

 

 あっ!スプレーだったら目や鼻穴まで塞げない!


 皮膚から少し浮かせたところで魔力を固めたら粘膜だって大丈夫だろう!


「失った初恋の情動を再燃させることは困難だろうけど、可愛らしいモノや好ましいモノに、フッと心を和ませることを繰り返せば、きっとまた違った情動の種が育っていくんじゃないかな?トニーはアルを見る時はとても優しい目をしているよ」

 

 身体強化の練習をするのに、一旦、身体強化から気持ちを切り離したように、男性機能不全の原因を気にせず、心を豊かにしよう、とシーナは提案した。

 

「ああ、そうか。僕の護衛として常に気を張っているトニーは、僕以外の物で心を和ませる機会を失っているんだな」


 僕の言葉にシーナは頷いた。

 トニーは自覚がないのか首を傾げた。

 

「異世界の記憶のせいで言動に危うさがあるアルを見ていると楽しい事は理解できるよ。トニーにとって、アルは護衛対象者、というだけでなく親心に近い感情があるだろうしね」


 シーナの指摘に、それはそうだ、とトニーは頷いた。


「トニーはね、自分では気が付いていないけれど、ずっと心がこわばっているんだよ。ほら、肩が凄く凝り固まっている人はそれが通常だから、肩が痛いと、は認識していないけど、首の筋違いをすれば、周辺を擦ってようやく肩が凝り固まっていることに気付いたりするでしょう?」


 トニーは首を傾げたが、あるある、とシーナは頷いた。


「心が無理をしていることに気付いていないけれど、体に影響が出ているということかい?」


 トニーの言葉に精霊たちが一斉に淡い光を二回発した。


「健康な男性が男性機能を失ったりしない、と精霊達は主張している」


 シーナが精霊達の言葉を伝えると、トニーは胸に手を当てて考え込んだ。


「そう、深く意識しなくていいんじゃないかなぁ。今すぐ、初恋の相手以外の女性に興味を持て、と言っているわけじゃないよ。まずは目に映るものを愛でてみようよ。ほら、ちょっと太ったキジバトがいるよ。可愛いでしょう?」


 僕が街道脇の林に向かって飛ぶ数羽のキジバトの中にコロコロと太った一羽がいることを指さすと、トニーは笑った。


「ああ、美味そうだな」

「アハハハハハ!視点が違い過ぎる!」


 僕とトニーのやり取りにシーナは爆笑した。


「例えが悪かったね。あれは確かに美味しそうだ。食べられる生き物じゃ駄目だったな。トニーは僕やメラニー以外にも可愛いと思えるような対象があった方がいいんだ。それが心の余裕に繋がるよ」


「……空の青さは昨日と変わらないのに、透明で済んだ空と感じるか、鈍色ではない、と感じるかは、心のあり方次第だよ」


 シーナの言葉が腑に落ちたのかトニーは小さく頷いた。


「……そうだな。青空を見ても、旅の日程が順調に行くだろうと考えるだけだったが、アルの話を聞いた後だと、確かにこの青空は初夏を思わせる美しく澄んだ青空に見える」


 気の持ちようで世界が違って見える事を理解したトニーは深呼吸をした。


 トニーの心がほぐれて、可愛い、を理解するようになれば、萌え萌えキュン、とはいかなくてもメイドさん達を可愛い女性として見えるようになるかな?


 おおっと!

 僕の異世界よりの発想に精霊達が反応しない!

 どうやら、皮膚から浮かせて魔力を固定する方法は成功したようだ!


 調子に乗った僕は高速ねじれ魔力循環の速度をさらに上げ、身体強化で歩く速度も上げた。

 歩幅を大きくしても体が無駄に弾まず、トニーとシーナの歩幅と同じくらいで歩ける。


 口角を上げたシーナは僕をチラッと見た後、視線を道の先に向け、もう少し速度を上げろ、と目で指示した。


 僕は不自然にならないように速度を上げる理由を探した。


「あっ、あっちの木の上に親子のリスみたいのがいる!」


 指をさして駆けだす速度はトニーでも小走りになる速度にした。

 そうか?と言いながら僕に速度を合わせたトニーは小走りになることなく身体強化で早歩きをした。


 タイミングを見計らって仕掛けたシーナの策略は功を奏し、トニーは肉体強化をしない身体強化ができるようになっていた。

 

「あれは、リスじゃなくて、番のモモンガですね」

「モモンガなんて初めて見たよ!」


「あのねぇ、トニーが力を抜いて身体強化ができるタイミングを窺っていたら、アルが視力強化ができるようになっているんだけど、アル!また何かやったな!」


 できたのか!と膝を叩いたトニーは、シーナの後半の言葉を聞き、僕が街道の奥の林の中のモモンガを見つけた不自然さに気付いてピシャリと額を叩いた。


「目と鼻の穴の表面にも魔力を固定するように意識したら、視力強化ができちゃった!」


 えへへ。

 魔力循環の副産物がもう一つ増えて、一石四鳥だね!!

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