14 どんなに固い決意しても、精霊達は尊重しない
僕の周りで柔らかな光量で遊んでいる精霊達を見たシーナは小首を傾げた。
「今回に限っては、精霊達の干渉は正解だと思うよ。アルはトニーから魔力の動かし方の基礎をすでに学んでいるんだから、今、精霊達が強化した場所に意識して体の中の魔力を動かしてみたらいい」
精霊達が身体強化をした感覚が残っているうちに試してみるように、とシーナが勧めると、トニーも頷いた。
目に見えない魔力は本人の感覚次第なので、忘れる前に実践してみよう!
離宮を脱出してからトニーに自分の中の魔力を移動させることを学んでいてた僕は精霊達が干渉した場所に体の中で循環させた魔力を送り込むイメージをした。
つま先を起点に立って歩くときに使用する筋肉が温かくなった気がする。
胸が広がり心肺機能が向上した感じがする。
軽くなった足取りで歩きだすと、普通に歩いていても大人が小走りで歩く速度で歩けた。
「ああ、ちょっと待って!アル!想定外の事態!!」
僕について歩いていたトニーより出遅れたシーナが走りながら僕を呼び止めた。
「過保護な精霊達が、勝手に気を回してアルの身体強化にトニーの魔力を使用しているの!」
僕達に追いついたシーナが想定外の事を言い出した。
なんてこった!
自力で身体強化をしたつもりが、精霊達に干渉されていたなんて!
自分の魔力を使用されたのにトニーは全く気付いていなかったようで、納得がいかな気に小首を傾げた。
「トニーの魔力を使用したという事は、トニーに懐いている精霊達ね!アップウ!!」
トニーの周りにいるはずの精霊達に人差し指を立てたシーナが叱った。
姿を現さないようにと言われていたことを精霊達は逆手取り隠れているつもりなのだろう。
はた目には細身の美女が体格のいいトニーを幼児のようにしかりつけているように見える。
なんだか楽しい絵面だ。
「ちょっと説明してほしい。俺は魔力を勝手に使用された感覚がない」
憮然とした表情でトニーはシーナに尋ねた。
「うーん。ちょっと待って。私も情報の整理中……。ああ、そういう事ね」
一人先に納得をしたシーナが小さく頷いた。
「今日は追手に遭遇する事も、強盗に襲撃される事もないから、トニーが危険察知に使用している魔力をトニーに懐いている精霊達が盗んだらしい」
「「魔力を盗んだのか!!」」
「トニーの最強の魔法は、そもそもトニーの魔力を使用しないで精霊達が敵の魔力を勝手に使用して威力を高めていたんだから、そこに驚くなんて、今さら感が拭えないね」
シーナの説明にトニーは口をあんぐりと開けた間抜け面になった。
「ほらほら、ぼんやり立っているのも目立つから、歩きながら話すよ」
シーナに促されて僕達は衝撃を引きずったまま、とりあえず普通に歩き出した。
……敵の魔力を使用して魔法を強化していたならトニーは間違いなく最強だっただろう。
だって、火炎魔法の威力が弱まる時には敵側が魔力枯渇を起こしているんだもん!
「精霊使い最強説はどうやら本当らしいな」
トニーの呟きを耳にしたシーナは、フン、と鼻で笑った。
「本物の精霊使いなんてこの世界に片手の指で数えるほども存在していない。その話は伝説だと考えた方がいい。精霊達は気まぐれに人間に手を貸すことがあるけれど、それは一時、自分たちに都合のいいように人間を利用するだけで、トニーに懐いている精霊達のように、トニーのために精霊魔法を使用する精霊達は特殊だよ」
シーナは精霊使いの存在を否定しなかったが、能力についてはぐらかした。
「ハハハ、この子達は初めて使った精霊魔法がトニーの魔法を強化する事だったからそれ以外できないらしい。トニーの魔力を奪ったのはトニーに懐いている精霊達で、アルの身体強化に干渉したのはメリーアン妃を慕っていた精霊達だ。魔力を盗用している事がトニーにバレないように、探査に使用した魔力が少なくなっても広げた規模を維持していたのは、今朝の屋台で私達に興味を持ってついてきた精霊達だ。土地勘があるから協力しやすかったらしい」
屋台で精霊達があれだけピカピカ光っていたら、面白そうだとついてくる新入りがいてもおかしくない。
だけど、僕たち三人の周りには異様に精霊達が多いんじゃないのかな。
はぁ、と僕とトニーは溜息をついた。
「アルが自分の魔力を使用して感じる疲労感も魔力を扱う練習として必要なんだ」
トニーの呟きにシーナは頷いた。
「精霊達は私が危険探査をして、トニーがアルに魔力を提供して、アルが身体強化のコツを習得しながら歩いた方が今日中に安全な宿がある村に辿り着く、と考えていたようだ」
「野営の設備を持って旅をしているんだから、僕は今日中に安全な宿のある村に辿り着くより、自力で身体強化をする練習がしたかったよ」
僕のぼやきに、僕の身体強化に干渉した精霊達が、ごめんなさい、と言うかのようにぼんやりと光った。
「ほだされるな!アル。精霊達は自分たちの都合のいいように物事を曲解する癖がある」
シーナの指摘に僕は背筋を伸ばした。
「身体強化より先に、精霊達に干渉されないようにする訓練をした方がいいな」
「「ご教授お願いします!」」
僕とトニーは同時に頭を下げた。
「ああ、トニーはもうすでにできている。自分の魔力を外に漏れださないように抑え込むだけだ」
それならやっている、と魔力を盗用された事に気付かなかったトニーは眉を顰めた。
「魔法を行使している間は自分の魔力を放出するから、精霊達の干渉を防ぐのは全く異なるやり方になる。まずは精霊達に変な癖をつけられないようにアルの指導を先にするよ」
もちろんだ、とトニーは頷いた。
「この世界はすべての物に多かれ少なかれ魔力がある。精霊達はそれを自在に扱える存在なんだ」
トニーも初耳だったのか、そうなのか、と驚いた。
「精霊達が魔法を行使している魔力をスルッと盗用するなら、なるべく魔力が漏れ出さないようにすればいいんだね」
「察しがいいな。人間は汗や呼吸から結構魔力が漏れ出ているんだ。魔力の循環を意識して整え、自然に排出される魔力をできるだけ少なくすると、魔力の操作の鍛錬と同時に体から漏れ出る魔力を抑えることができるから、この方法がお勧めだよ」
シーナが簡単に説明すると、トニーは苦笑した。
「体から漏れ出る魔力を抑える訓練は、気配を殺す訓練と同時に行うことが騎士団では一般的で難易度が……。おいおい!いい感じにできているよ!」
身体強化を気にせず、魔力を循環させるだけならすでに手慣れていたので高速で魔力を循環させたら、どうやら体から漏れ出る魔力を抑えられたようだ。
「これ、楽ちんでいいね!」
「でしょう!子供の頃に、うるさい精霊達の声を聞きたくないと思いながら魔力操作の訓練をしていたら聞こえなくなったのよ」
シーナが嬉しそうに言うと、魔力を漏らさない訓練は結構大変なのに……とトニーが呟いた。
まあ、突破口があれば簡単にできる事なんて世の中にはよくあるよ。
「シーナが苦労して編み出した方法をちゃちゃッと真似しちゃったけど、いいの?」
「苦労して苦労して成長しなさい、っていう教育方針、好きじゃないのよね。ああ、これはパパッと精霊達の干渉を妨げるけれど、ずっと維持すると疲れるから、魔力が漏れ出ない感覚を覚えて自分の魔力を外側に固める練習もした方がいいよ」
シーナの説明にトニーは納得したように頷いた。
やっぱり、簡単に習得できる技術ではなかったようだ。
「うちの族長は完全に魔力を遮断できるのよ。精霊達は人間の都合なんてお構いなしに干渉してくる。緑の一族の族長はそんな精霊達に惑わされずに決断できる人物が選ばれるの。精霊言語を習得している私は候補に選ばれてはいるけれど、責任の重い仕事だから跡を継ぎたいとは考えていないの。だけど、精霊達に振り回されない生活がしたいから日々修行をしてるんだ」
漏れ出る魔力を完全に抑えることは今のシーナでも難しいらしい。
精霊達に振り回されない生活がしたい、と言うシーナの言葉に僕とトニーはしみじみと頷いた。
僕達はこんなにたくさんの精霊達を引きつれているんだから、精霊達に干渉されないようにすることが必須だ。




