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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占


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13精霊達には頼りません!

 冒険者ギルドを出た僕達は乗合馬車の乗り場を横目にしただけで西門に向かった。


「本当に徒歩で旅をしているんだね」


「道中、馬車も利用したけれど、道が悪いから遅いうえに揺れすぎて気分が悪くなるんだ」

   

 行商人に同行した時は馬車に乗ったが揺れが酷くてきつかった。トニーと二人になってから、馬車をレンタルするより乗合馬車を利用した方が追跡が難しくなる、と考えたが、馬車待ちをしていた人達の体臭が気になり断念した。


「雨が降るなら馬車でもいいが、身体強化で歩いた方がよほど速い」


 雨が降ると洗濯していない服から凄い匂い立ち上ってきそうで、雨が降っても馬車に乗りたくない。

 僕とトニーの返答に、私も馬車は苦手だ、とシーナは頷いた。


「私も基本は徒歩だよ。うちの族長なら転移魔法を使用できるけれど、私はまだその域には達していない」


 西門の検問所の行列に向かいながらシーナは、脚力には自信がある、と太腿を叩いた。

 細身のシーナはスラリとした綺麗な足なんだろうな。


 トニーは美女と連れ立って歩いているのに、まるでシーナが同性に見えているかのように動じない。

 母のように丸みのある柔らかなふくらみか、同僚のアデルのようにがっしりとした大胸筋がないと、トニーの関心を引かないのかな。


 僕の思考を読んだ精霊達から何か聞いたのか、シーナはクスクスと笑った。


 検問の列に並ぶと子連れのトニーは、検問所発の乗合馬車の時間に間に合うように、と順番を譲ってもらえた。


「歩くのでお気遣いなく」


 トニーが遠慮すると、それなら尚更先に行け!と前方へ押し出された。


「おやおや。子連れなのに徒歩で旅をするのですか!?」

「無謀ですよ。ここから先、徒歩圏内に宿の取れるような村はないですよ」


 僕とトニーの列の市民カードを検分する門番たちが忠告した。


「子どもが疲れたら俺がおんぶするから問題ないですよ」

「乗合馬車は苦手なのです」


 眉を顰めて鼻と口を覆った僕を見て門番たちは笑った。


「不特定多数が乗り合わせるから、匂いがきついのは仕方ないですね。宿はないけれど、乗合馬車は途中の村に降りる人がいたら立ち寄るから、途中からでも乗れますよ」


 僕が手渡した収納ポーチからハンカチや小銭入れを確認しただけで返却した門番がにっこり笑みを見せた。

 ラウンドール王国王家の魔術具である僕の収納ポーチは二重底になっており、簡単な検査では魔術具だとバレないようになっていた。

 トニーの収納ポーチも同様に着替えと日用品しか出てこなかった。


「街道で馬車とすれ違う時にハンカチを振れば乗せてくれる場合もあります。よい旅を!」


 問題ない、と収納ポーチと市民カードを返却した門番たちに見送られて僕達は街道に出た。


 後方のシーナの市民カードを検分した門番が、緑の一族の方でしたか!とシーナに向かって敬礼した。


「いい町でしたよ。今後も発展することをお祈りいたします」


 ガラガラ声のシーナの言葉に門番が、よかった!よかった!と歓声を上げた。


「緑の一族って、ずいぶんと尊敬されているんだね」

「うーん。元ラウンドール王国騎士団員としては、緑の一族を尊敬するけど、国内で見かけると複雑な胸中になるな」


 僕の歩幅に合わせて歩くトニーは小首を傾げた。


「まあ、そうなるよ。滞在地に豊作をもたらすけれど、その土地の魔力が少ないから緑の一族が移住する、ということは、すなわち領主一族が領地経営に失敗していることを意味するんだ。知っている人は限られているから、あの門番は博識だよ」


 僕達に追いついたシーナの説明にトニーは頷いた。


「ああ、だから、いい町だった、とシーナのいう言葉に、知っている門番だけがあんなに喜んだんだ」

「現状のところ緑の一族が移住してくるほどの問題がない、というだけで豊かな土地ではないよ」


 ニーナの言葉にトニーが目を見開いた。


 街道脇は雑草が生い茂り、その奥は深い緑に覆われたこの土地がこの先、魔力不足になるとは僕には思えなかった。


「あのね、冒険者達の装備が大型魔獣を想定したものだっただろ。実際に依頼ボードに掲示されていたのは熊や虎の駆除依頼があった。十分な魔力で満たされた森ならば、大型魔獣が餌を求めて人里に降りてくることは滅多にない」


 シーナは似非占い師らしく、観察から得られた推測をした。


「うーん。そうとも言い切れないだろう。個体数が増えすぎても縄張を追われた大型魔獣が人里に降りてくるもんだ」


 トニーの説明に僕は頷いた。


「いや、森の魔力が完全に満たされていたら、雄が生まれにくくなる。雌は群れを上手くまとめ上げるから森からはじき出される魔獣の個体は少なくなる。まあ、依頼地域まで大型魔獣が降りてくることが少なくなったから、冒険者達が仕事にあぶれて、私が絡まれたのかもしれない……」


「えっ!この世界の人間の出生率で男女に大きく差があるのは……」

「土地の魔力が満たされると人類は皆、緑の一族のようになるのか!」


 シーナの説明から出生率の男女比に着目した僕と違う視点のトニーは緑の一族に着目した。


「緑の一族になるって、どういうこと?平民でも魔力が多くなるの?」


「国の魔力が安定しているラウンドール王国では出生率の男女差は諸外国より少なかったので、国の魔力量で男女の出生率が変わると推測していましたが、国土の魔力量が多いと緑の一族のように女子ばかり誕生してしまうのか!」


 トニーは僕にもわかるように言い直した。

 シーナはケタケタと笑った。


「トニーはうちの一族に詳しいんだな。うちの一族は百年に一人くらいしか男児が誕生しない、女系一族だ」


「騎士団の研修で国境警備に赴いた時に、かつて緑の一族が滞在した村に派遣されたことがあったからな。集落の長は入り婿に任せているが、族長は女性で、自警団も女性ばかりの女系一族だと聞いていた」


「ハハハハハ。うちの一族は特殊だよ。女の子ばかりでも、治安のいい地域の魔法学校に通わせるから、上級魔術師も多い。婿たちは平民の商家出身者が多いので、魔法学校に進学していない者ばかりだ。魔法使いは女しかいない」


「噂は本当だったのか!上級魔術師が大勢いたら力仕事も魔法で済ませられる」


 うんうん、とトニーは自分に納得させるように頷いた。


「実際に見聞きした人からの伝聞は結構正確だな。まあ、世界中の土地の魔力が整えば、世界は楽園のようになり、あくせく働かずして食料が手に入るようになるんだ。だから、人類の男女の出生率は五分五分になる、と緑の一族には伝わっている。だが、戦争が亡くならない限り、そんな世界にならないだろうね」


 一見土地の魔力が十分あるように見えるこの地域で出生率に男女比があるのは、かつて戦場になったことで失った魔力が十分回復していないことをシーナは示唆した。


「緑の一族は女神信仰の厚い一族だから女系化したのでは、と言われている。まあ、魔獣に近い人間なのかもしれないね。大地の神や山の神が女神だから、土地の魔力が整うと魔獣は繁殖期が遅くなり雄が生まれにくくなる。群れのボスが聖獣と呼ばれる寿命が長い個体になり、森の生態系を守るご神木の守護聖獣となる」


「シャオ王国の王都の森にあったご神木のそばには王族しか立ち入れないというのは、王国を守る一族だから王族は聖獣に近い存在なんだね」


「ちょっと違うな。王族は国の守り人としてご神木に認められているが、王族はただの人間で聖獣ほど長生きしない。聖獣は神々の覚えめでたい特別な存在になった魔獣だ。残念ながら人間の王で神々の覚えめでたい存在となれた王は古の時代にしか存在していない」


 そういえば、ラウンドール王国の祖父は若作りしていても、老化による体調不良で公の場に出なくなったらしい。

 人間の族長の場合、不老長寿とはならないのだろう。


 神々の覚えめでたい不老不死の王が結界を守る国があれば、さぞ平安太平な治世だったのだろう。


「いろいろ聞きたい話がいっぱいだけど、まずはシーナの人と成りが知りたいからシーナの話が聞きたいな!」


 緑の一族の話から、聖獣の話に移ってしまったので話を戻すと、シーナの周りに色とりどりに光る精霊達がふわふわと漂った。

 シーナは手を振って、シッシ、と手で追い払う仕草をした。


「ぴかぴか光って悪目立ちをするのを隠匿魔法で隠すのは、歩きながらでは難しい。おとなしくしてなさい」

 

 屋台で張った特殊な結界は動きながらでは難しいようだ。

 精霊達が姿を消すと、シーナは頷いた。


「私の話か……。緑の一族が土地の魔力を整えるから、その土地の精霊達に好かれるのは理解しやすいだろう?」


 シーナの言葉に僕とトニーは頷いた。


「土地に定着する精霊達だが、中に個人的に思い入れがある人物についていく場合があるんだ。トニーやアルフィーの周りにいる精霊達は二人を気に入ってラウンドール王国やシャオ王国からついてきた精霊達だ。緑の一族は世界中を転々としているから、いつの間にか世界中の精霊達を引き連れて移動している。私のそばにいる精霊達も緑の一族の集落にいた時代からの精霊もいるし、魔法学校時代や教会暮らしの頃からついてきた精霊達もいるよ」


 見えなくなっても僕達の周りにたくさんの精霊達がいるらしい。

 小走りくらいの速度で歩いている僕は息を弾ませながらも、親指と人差し指を丸めて輪を作り精霊達が通り抜けるトンネルをつくった。


 目立つなと言われた精霊達は控えめな光で姿を現し、僕の手の中をくぐり抜けた。

 可愛らしい奴らだ、と考えていると、弾んでいた息が楽になった。


 隣を歩いていたトニーが回り込んで僕の顔を覗き込んだ。


「精霊達がアルの身体強化の補助をしたんだ。必要最低限の箇所のみ強化し、胸を広げて呼吸の補助もしている」


 そういえば、心なしか足が軽くなった。


「アルは身体強化のコツを身につけたら無茶しそうだ。長い旅路の事を考えたら、効率的な魔力の使い方を覚えた方がいいな」


 おお!僕が魔力を使い過ぎることを心配していたトニーが考え方を改めた。


「精霊達が勝手に干渉しているより、自分で意識して身体強化を使える方になった方がいい」


 シーナの言葉に、グフッ、とむせたトニーは自分の下半身をチラッと見た。


 トニーの男性機能が低下した理由は、トニーの魔法を勝手に強化し、トニーのトニーをギリギリまで我慢させすぎた、精霊達の干渉が影響しているのかもしれない。


 僕は自力で身体強化ができるようにしよう。


「……精霊達は夢中になると加減を忘れてしまう。アルを慕う精霊達はアルに早く強くなってもらいたいから、何かやらかしそうな気がする。ああ、そういった事態に陥りそうになる危険があっても、自分たちに都合の悪い未来を精霊達は知らせない……いや、精霊達は気付かない、と言い訳しているよ」


 シーナの言葉に、僕とトニーは力なく笑った。

 精霊達を頼りにするとろくなことにならない予感がする。

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