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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占


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12/24

12 似非占い師はオーバースキル

 朝市の露天は中央広場まで続いていた。


 僕達は冒険者ギルドに行く前にこの町を護る七大神の祠に魔力奉納をすることを優先した。


 シーナ曰く、日々神々に魔力を奉納すると魔法学校に通い初めて魔法を行使する時に最初から上手く魔法が発動しやすくなるらしい。


 街道沿いのある程度発展した町でなら僕が魔力奉納をしても、高い魔力を持った冒険者やお忍びの貴族も紛れているから目立たない、という事だった。


 広場の真ん中に並び立つ光と闇の神の祠で最後の魔力奉納をすると、タグに記載されていた個人のポイントが増えていた。


「アルフィー。魔力奉納で増えた分のポイントは口外してはいけないよ」


 増えたポイントを見て瞬時に顔をほころばせた僕に、シーナが小声で忠告した。

 商家の子のふりをしているのだから魔力が多いと知られてはいけない。でも、お小遣いが増えるのは単純に嬉しいから頬が上がってしまうの成し方ない。


「少額でもコツコツポイントがたまると嬉しいよ」


 僕の言葉に祠に参拝するために並んでいた市民たちが微笑ましそうな表情をした。

 市民たちも来店するだけでポイントが付くドラックストアに毎日通うような感覚で魔力奉納をしているのだろう。


「旅の安全を祈願しつつポイントがたまるなんて、いいこと尽くしだよ」


 僕の言葉にトニーも笑顔になった。

 光と闇の神の祠の奥にある立派な建物が教会で、さらにその奥に町長邸宅がある町並みはどこの地域も共通しており、冒険者ギルドの場所もある程度推測できる。

 トニーとシーナは迷うことなく冒険者ギルドに向かって歩き出した。


 冒険者ギルドが近くなるにつれて、一般市民より厳つい男たちが増えた。

 商人の格好のトニーと占い師の格好のシーナと子どもの僕は明らかに場違いな装いだった。

 人相の悪い男たちばかりだったが、そんな中でも数人の若い男性達が親子連れに見えなくもない僕とトニーに優しい眼差しを向けた。

「若い冒険者達は最終的には金を溜めて家庭を持つことを夢見ている。体格のいいトニーは冒険者で運よく商売でも成功し、家庭を持ったように見えるのだろう」


 シーナの言葉にトニーも頷いた。


「多くの冒険者達は別の職を持っている。腕に覚えがある場合は冒険者登録をしておく方が徴兵された時の戦場での扱いが変わるからな」

「冒険者は歩兵より後方に下れるの?」

「うーん。前線に立たされるのは同じだが、魔術具を支給される場合があるから生存確率が上がるだけだよ」


 平民が使い捨ての駒にされることには違いないようだが、重火器が使用できる冒険者の方がまだましといったところなのだろう。


「そんなにしょっちゅう召集されるの?」

「そうだな。大きな戦争はそれほど頻繁に起こらないけれど、領主交代があると小競り合いが起こりがちだね。同盟国や同派閥に紛争があると援軍を送るから、結局、男性なら生涯に一回は徴兵されるよ」


 シーナの説明にトニーも頷いた。


「この町は中規模の冒険者ギルドがあるから中古魔術具屋がいくつかある。おっと、粗悪品ばかりだから覗く価値もないよ」


 中古魔術具屋という言葉に頬を緩めてあたりを見回した僕に、一見の価値もない、とシーナは言い捨てた。


「実戦で故障していた魔術具が混ざっているから、使用するとその場で爆発する物がある。魔法学校に入学して魔法陣の勉強をして物の良し悪しがわかるまで中古魔術具屋に出入りしては駄目だ」


 

 収納ポーチを使用しているため、僕だって日常的に魔術具を使えるのだから中古魔術具屋を覗いてみるぐらいいいじゃないかと考えていたら、トニーが即座に釘を刺した。

 精霊達の告げ口が聞こえないはずなのに、トニーにはぼくの考えがお見通しだ。


 まあ、ちょっと魔力を流したら爆発する物が混ざっているのなら、近づかない方がいいだろう。


 はい!と聞き分けよく返事をすると二人は頷いた。


「ああ、あそこだ」


 シーナは窓のない土壁の建物を指さした。

 倉庫のような建物の大きな扉の前には出勤したばかりらしいギルド職員が扉の鍵を開けていた。


「冒険者登録とギルド経由の依頼をしたいんだが、まだ早かったかな?」


 シーナが職員の声をかけると職員はトニーをチラッと見た。


「急ぎですか?受付時間前ですが私が担当しますから、今すぐできますよ。個人間の契約ではなく冒険者ギルドを通してくださるなんて、大歓迎です」


 場違いな服装の子連れの僕達を見るなり依頼者と請負人だと気付いたギルド職員は時間外なのに笑顔で対応してくれた。


 お入りください、と快く言った職員は真っ暗な室内に案内した。


 即座にトニーが指先に火の玉を出すと、職員は苦笑した。


「ありがとうございます。照明をつけることが先でしたね」


 職員が壁に手をつくとカウンターの燭台に明かりがともったが、全体的に薄暗い。照明の魔術具に使う魔力さえケチるのだったら建物に窓をつけたらいいのに。

 王城育ちのお坊ちゃんだね、と言いたげな視線をシーナが僕に向けた。


「冒険者登録書類はこちらです。冒険者へのご依頼の書類はこちらです」


 薄暗い室内の奥に入ったギルド職員はカウンターの奥の引き出しから書類を出し、冒険者登録の書類をトニーに、依頼の書類をシーナに手渡した。


 二人が無言で書類を交換すると、逞しい体格のトニーと細身でフードを深くかぶったシーナを見比べたギルド職員は首を傾げた。

 もしかして、ギルド職員には僕とシーナが親子の依頼者に見えたのかな。


「冒険者登録の方は市民カードと推薦者の書類の提出をしてください」


「私は魔法学校を卒業しているから推薦者の書類は必須ではない。市民カードで確認してください」


 シーナが職員に自分の市民カードを手渡すと、職員はシーナのカードを小さな箱に入れた。

 箱から白い光が透けて見えると職員は驚愕した表情をして後退った。


「た、たた、大変失礼いたしました。上級魔術師で、しかも、聖女様なのですか!」


「ああ、すまなかったな。女の一人歩きは危険なので男装していた」


 変装の魔法を解いたシーナの声が女性らしい高さになると、職員はポカンと口を開けてシーナを凝視した。


「聖女様でしたか!大変失礼いたしました!」


 シーナが若い女性と知っていたが聖女となれば話が違うようで、トニーは姿勢を正して一礼した。

 トニーの豹変ぶりに驚いた僕は、まじまじとシーナを見上げ、聖女様がどれほど偉い立場なのかわからないのに、この場の空気を読んで頭を下げた。


 なんだか、僕達もシーナを男性だと見えていたような状況になった。


 冒険者ギルドに来ただけでもワクワクしていたのに、シーナが聖女だなんてファンタジー感満載でお腹いっぱいだ。


「いやいや。結婚する前に聖女は引退した、元聖女だよ。だけど、教会で神学を学び詠唱魔法を使用できる上級魔導士同等の資格として、聖女の称号を残している。そういう訳で上級魔術師として魔法陣を使用し、上級魔導士と同然として詠唱魔法も使用できる」


 シーナの言葉に、上級魔導士同等!とトニーは驚き、既婚者でしたか、とギルド職員はがっくりと項垂れた。

 シーナの市民カードを返す時にシーナの手を両手で包み込むように手渡したギルド職員には、シーナが離婚していることを告げない方がいいだろう。


「聖女様は最上位クラスの資格を有しておられますが、冒険者としての実績がないので、特秀ではなく、秀からのスタートになりますが、宜しいでしょうか?」


 シーナへの対応がとても丁寧になったギルド職員を横目に、トニーは僕に冒険者のクラスを説明した。


「冒険者として活躍できる実力を保証するために、魔法学校卒業の成績表か紹介者の推薦状必要なんだ。実績がない登録者は通常、可のクラスの冒険者になる。実績を積めば優のクラスに昇格し、さらに活躍しなければ秀には登録されない。より破格の実績を上げた者だけが特秀クラスになる」

 

 大雑把なレベル訳だから、各クラスの実力差は相当ありそうだ。


 それにしても、シーナは新規冒険者登録をするにはオーバースキル過ぎたようだ。


「シーナの使用する魔法陣は上級魔術師として洗練されたレベルの高いものだ。その上、上級魔導士相当の詠唱魔法まで使用できるのだから、一流の聖女様だったのだろう」


 トニーは防音の魔法陣はたいいしたことないと言っていたのに、レベルの高いものだったのか!

 ついさっきまで似非占い師扱いをしていたのに、打って変わってトニーは尊敬の眼差しをシーナに向けた。


「ご依頼内容は……占いによる危険察知。えっ!占いですかぁ!」


 トニーの書き込んだ依頼書をチラ見したギルド職員の声が途中から裏声になった。


「元騎士の俺と連れの旅に護衛は必要ない。とはいえ、面倒事に巻き込まれたくはない。彼女は腕のいい占い師だから、道中の危険地帯を予測してもらう予定だ」


 トニーの言葉に僕が頷くと、職員は再び口をあんぐりと開けてシーナを凝視した。


「これだけの資格を持つ聖女様に占い師として依頼するのですか!……まあ、聖女様の占いなら、紛争地帯や流行り病の発生地を避けられるでしょう。それにしても、引退した聖女様への依頼にしては金額が低すぎます!」


「いや、よく見て見ろ、この金額は前払い金だ。報酬の確定は目的地に到着してからだ」


 このギルドで取引する金額がこのギルドに入る手数料に関係していたようで、高額取引に繋がらなかった事にギルド職員はがっかりしたように肩を落とし、カウンターを指でコツコツと叩いた。


「丁寧に対応してくれたから、職員さんにチップをはずんでいいんじゃないかな?」


 トニー上着の裾を引っ張り、小声で囁いた。


「そうだな」


 頷いたトニーは金ぴかに光るコインを一枚収納ポーチから取り出すと、ギルド職員の掌に握らせた。

 ギルド職員の頬がグッと上がり、無言でポケットに手を滑らせた。


「それなら、私はチップの代わりに貴方に助言をしよう。鍛冶屋の親方のお嬢さんは貴方を少し気にかけている。気立てのいいお嬢さんだからライバルは多いが、諦めない方がいい」


 今日一番の笑顔になったギルド職員は急ぎで僕達の書類を仕上げてくれた。


 そうこうしていると、正規の営業時間になったのか部屋全体の照明が点灯した。

 それを合図にしたようにどかどかと大きな足音を立てて冒険者達が入ってきた。


「なんだ!今日はえらく早くから営業しているじゃないか!」

「いい依頼を余所者に回して、仲介手数料の利率を上げてピンハネしているんじゃないだろうな!」


 数人の人相の悪い冒険者達がギルド内に入ってくるなりがなり声でまくしたて、ギルド職員を睨みつけた。


 このギルド職員は丁寧に対応してくれたからチップをはずんだだけで、不正な数字など吹っかけていない。


「こちらの方々は個人間の取引ができるような依頼をご丁寧に冒険者ギルドを通してくださる真面目な方々です!失礼のないようにしてください!」


 シーナが元聖女だったからか、トニーがチップをはずんだからなのか、はたまた、気になるお嬢さんとの恋の行方を助言してもらったからなのか、ギルド職員はガラの悪い冒険者達にひるむことなく反論した。


「そこをなんとか、地元に金を落とすように説得するのが、地元に根付いたギルド職員のやるべき仕事だろうに。職務怠慢なんだよ!」


 ギルド職員に文句をつけながら、ねめつけるようにトニーを睨んだ冒険者に、やめなさい!とギルド職員が制止した。


「まったく!依頼者に喧嘩を売ってどうするんだ!ギルド長に報告しますよ!」


 こっちが依頼者だったのか!と悪態をついた冒険者達が、失礼しました、とトニーに頭を下げた。


「そもそも依頼内容は占いだから、この町にこの仕事をこなせる冒険者はいませんよ」


 ギルド職員が依頼書を掲げて見せると、冒険者達はトニーとシーナを見比べた。


「なんてこった!女じゃないか!」


 フードを深くかぶったシーナの顔をまじまじと見た冒険者の一人が声を上げると、冒険者達は一斉にシーナに詰め寄った。


 まったくもう!変装の魔法を解いていたのにややしばらくシーナが女性だと気付かなかったくせに、跳びかからんがばかリの勢いで近寄るなんて、女性に飢えすぎている。


 これ見よがしに大きく腕を上げたシーナが指を鳴らすと、シーナのフードを引きはがそうと手を伸ばしていた冒険者達の動きがピタリと止まり、腰が引けたかのように体勢を崩すと、そのままひっくり返った。


 シーナの美女ぶりに驚いたにしては大袈裟すぎだ。

 シーナが何らかの魔法を使ったのだろう。


「フン!そっちの趣味はないんでね。気安く近づかないでくれ」


 男装に戻ったのか、ガラガラ声のシーナが冒険者達を鼻で笑った。


 シーナは指先に魔法陣が仕込まれているのか、呪文を詠唱した気配はなかった。

 精霊使いではない、とシーナは自己申告をしていたのだから、精霊達の魔法ではないのだろう。

 

 トニーは床に仰向けで転がっている冒険者たちを気にすることなくギルド職員に仲介手数料を支払いっていた。


「終わったぞ」


 トニーが僕に声をかけるとシーナは一足飛びで冒険者達を飛び越え、僕の手をとった。


 遅刻してきたらしいギルド職員達がドアを開けると、床に転がっている冒険者達を目にし、トニーを凝視した。


「俺は何もしていない」

「勝手にひっくり返っただけだ」


 トニーとシーナが同時に言うと、僕達の相手をしてくれたギルド職員が、そうですね、と言いながら小さく肩を揺らした。


「皆さんの旅路が安全でありますように!」


 丁寧に対応してくれたギルド職員に見送られて僕達は冒険者ギルドを後にした。


「シーナはどんな魔法を使って、冒険者達を床に転が下の?」


 小声でシーナに尋ねると、シーナは涼しい顔で答えた。


「風魔法で連中のみぞおちを強打した。折れた肋骨に癒しをかけておいたから、連中にも何が起こったわからないはずだ」


 シーナの回答に、お見逸れしました、とトニーは頭を下げた。

 ……まあ、突然の激痛が瞬時に消えても、訳がわからなくて起き上がれないはずだ。

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