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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第四章 僕と愉快ないとこ達

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1 砦に来た王族

 トニーの執務室で大聖堂島から帰ってきたシーナの話を聞くことになった。


「あの男の手袋の魔術具は燃やして灰にして教皇猊下が厳重な保管庫にしまうのを見届けてきました。教皇猊下を暗殺未遂でもしない限りあそこから持ち出すことはできません」


 教皇以外が開けられない厳重な保管庫に封印された事がシーナの口ぶりでわかった。


「大聖堂島の魔術具研究所での事故の関係者を教皇猊下は把握なさっていました。これでもう、癒やしの湯を求めて襲来する者はいないはずでず」

 

 シーナの報告に僕とサイラスとセドリックは安堵の表情になったが、トニーとサミュエル叔父と青年アダムとハイアット分隊長は教皇以外の教会関係者を信用できないのか厳しい表情のままだった。

 

「後は、あの男から協力者を自白させるだけか」

 

 サミュエル叔父の呟きにトニーとハイアット分隊長が頷いた。

 

「尋問は殿下にお任せいたします。大聖堂島の聖水に増毛効果があるかどうかはあの男ではわかりませんでしたが、大聖堂島に暮らす教会関係者達が大病しないという事は継続して飲んでいると体にいいのではないかと思われます。大量に汲んできましたから調べてみましょう」


「ここの温泉水のように移動距離と汲んできてからの時間で効果が薄れて行くことを考慮すると温泉水の治験は早めにした方がいいな」


 サミュエル叔父の言葉にシーナは頷いた。


「劇的な効果があるわけではないから、かすり傷程度で検証しましょう」


  シーナの言葉に青年アダムは困ったように眉を顰めた。


「ここではみんな温泉水で癒されているので、虫刺されや肌荒れのような症状さえありません。どうしましょう?」


「騎士団の宿舎で大浴場に行く前の騎士を捕まえたら、とこかここかすり傷くらいあるだろう」


 トニーの言葉にハイアット分隊長は頷いた。


「では私が療養所の先生と一緒に宿舎に行きます。シーナ様はアルフレッド殿下がシャオ王国のお話を聞くのを楽しみにされていますから、ここに残ってください」

 

 青年アダムはワクワクしている僕をチラッと見てシーナに提案した。


「わかりました。アダムさんにお任せします」

 

 青年アダムとハイアット分隊長が退席すると、僕の親族と家族同然のトニーとシーナだけになった。


「ラウンドール王国国王陛下がシャオ王国新国王即位のお祝いの品の第一陣がシャオ王国に届き、その一部が教会に献上され大聖堂島まで届いていました」


 シーナの説明に僕は微笑みながら頷いた。


 父上の即位の儀に僕を出席させたくない祖父が先手を打って贈り物だけドンドン送る作戦に出ていた。

 その荷物と一緒にメアリーへのお土産第一弾を運んでもらっていたのだ。


「お土産は無事メリーアン姫に届きました。こちらがアデルが描いたブリジット妃殿下によるノンの刺繍の入ったスタイを身につけたメリーアン姫のスケッチです」


  シーナが机の上に広げた紙にはノンが蝶と戯れている刺繍が入ったスタイを身に着けて離乳食を食べているメラニーのスケッチが角度を変えて何体も描かれていた。


「可愛いね。このムチムチのほっぺ。元気にしている様子が伝わるよ!」


 サイラスとセドリックも、可愛いね、と目尻を下げている。


「二枚目はノンのぬいぐるみを抱っこしている姿です」


 等身大のノンのぬいぐるみにハグをしているメラニーのスケッチにノンはにっこりと笑った。


「最近のメラニー姫はご機嫌になるとしきりにアブゥアブゥとお喋りをされるそうですよ」


 シーナの報告に僕とトニーとノンは顔を見合わせた。

 アブゥとアップウは発音が近すぎる。


 母を慕っていた精霊達は全部僕が連れてきたよね?

 いや、メラニーにもついているよなぁ。

 

 掌の精霊達が二回淡く光った。


『緑の一族の関係者が王城でメラニー姫の採寸に立ち会ったけど、精霊言語を取得そうな気配はなかったらしいわ。今のところ、ただの喃語みたいね。カカシ様は要警戒と判断して、アデルさんの助手として緑の一族の関係者を潜入させたそうよ』


 カカシが介入してくれるのなら一安心……?じゃないだろう。

 緑の一族が見守らなければならない事態に発展しかねないのかな?


『あり得ないとは言い切れないから、今はメラニーを慕う精霊達を刺激しないようにしているだけよ』


 なるほど、言葉を覚える前にメラニーがアップウの呪文を使えるようになってしまったら一大事だもんね。


「セドリックが始めて言葉らしいことを言った時は、母上と父上は大喜びしていたよ」 


 サイラスが懐かしそうに言うとセドリックの頬が上がった。


「ありがとうシーナ。メラニーの様子が知れて嬉しい……」


 僕の言葉が終わる前にトニーとサミュエル叔父が腕を擦って顔を見合わせた。


「王都から誰か転移の部屋を使って砦にお越しになったようです」

「また、ブライアン兄上だろう」


 トニーとサミュエル叔父は立ち上がった。


「私達も行っていいでしょうか?」


 サイラスの問いにサミュエル叔父は頷いた。


「かまわないよ。転移の部屋を使えるのは王族だけだ」


 王族と砦の責任者以外立ち入り禁止の扉の前でシーナとノンと護衛たちが待ち、僕たち王族とトニーが転移の部屋の前まで行くことになった。




 立ち入り禁止エリアの突き当りの壁がほんのりと光っていた。

 光が収まると壁に扉が現れた。


 僕達は誰が出てくるのだろうとワクワクして待っていたら、開いた扉から現れたのはブライアン伯父上とコンラッドだった。


「出迎えご苦労!砦の襲撃騒動も収まったことだし、コンラッドを連れてきた」


「ようこそいらっしゃいました、ブライアン殿下!サイラス殿下!……ですが、サイラス殿下がお越しくださったのは大歓迎ですが、お部屋の準備も護衛態勢も整えていません」


「事前に連絡を入れるべきですよ、ブライアン兄上」


 トニーとサミュエル叔父が挨拶も早々に抗議の声を上げた。

 騎士達がいないせいか二人ともブライアン伯父上に容赦ない。


「いやいや、すまなかった。コンラッドはサイラスと同室でかまわない。おやおや、サイラスなんて顔をしているんだ。二人がしょっちゅう入れ変わっていた事なんてとっくに気付いていたぞ!」


 ハハハハハ、と笑いながらブライアン伯父上はサイラスの肩をバンバンと叩いた。


「いや、なに、サイラスが砦に行ってから顔立ちがはっきりしてしまったから、王都で試験勉強ばかりしていたのコンラッドと顔立ちに差が出てしまった。これでは二人が入れ変わる時に支障をきたすだろう?」


 ブライアン伯父上の言葉に僕達はサイラスとコンラッドを見比べたが、二人の外見はそっくり同じだ。

 

 いや、瞳の輝きが違うかな?

 

 サイラスの瞳は落ち着いているが、コンラッドの瞳は好奇心丸出しにキラキラしている。


「うーん。コンラッド兄上の方が幼く見えます」


 セドリックも気付いたようだ。


 そうだろそうだろ、とブライアン伯父上が頷いたが、そうですか?とサイラスは首を傾げた。


「新領地と国を守る結界を繋いだ状態で砦を守る魔術具を起動させるのは相当な負担がある。その現場を見るだけでも勉強になるのに、砦の襲撃が同時に起こったんだ。いくら教会の護りの魔法陣から魔力を盗用、いや、ちょこっと借りていても、相当の負担がサミュエルとトニーにかかったんだ。現場でアルフレッドが魔法を増幅させる魔法の杖を使ってくれたとはいえ、なかなか緊迫していた状況下にいたサイラスとセドリックは精神的に成長した」


 ブライアン伯父上の説明に、それはそうだ、と僕達は納得した。


「コンラッドは今ここでサイラスに会わなければそれを理解できないだろうと連れてきたんだ」


「なるほど、我々が受け入れ態勢を整えてしまうと、二人が入れ変わった時に違和感がはっきり出てしまうので、ここで入れ替わってしまった方がいいのですね」

 

 トニーの言葉にブライアン伯父上とコンラッドは頷いた。


「今ここで入れ替わって私の部屋に下がってからいろいろ打ち合わせしたところで、そんなに簡単に違和感が薄れたりしませんよ。第一、扉の外で待っているシーナ様や護衛騎士達を誤魔化せるとは思えません」

 

 サイラスの言葉に僕達は頷いた。


「サイラス兄上はサーフィンが上手になったのですよ。入れ変わったらコンラッド兄上は初めてだからへっぴり腰になってしまいます!」

 

 セドリックの指摘に、サーフィン?とブライアン伯父上とコンラッドは困惑し、そうなるよな、と僕達も困惑した。


「トニー殿に内緒で指導してもらったら何とかなるんじゃないかい?」


 サーフィンの練習をしていないサミュエル叔父はさも簡単そうに言った。


「辺り一帯、見張りの塔から丸見えなのにどうやって秘密裏に練習するのですか?」


 サイラスの突っ込みに僕達は頷いた。


「シーナ殿に空飛ぶボードを貸していただいて……」

「シーナはあれを絶対に貸してくれません!騎士団に貸すと、いずれ軍事目的に使用するから本体の貸し出しも魔法陣の公開も一切しないとのことです」

 

 そうか、とサミュエル叔父は残念そうに項垂れた。


「見張り塔から見えないところまでぶっ飛んでいくだけだったら、トニーとシーナがいたらできなくはないよね」 


 僕の言葉にトニーが、ア゛!と変な声を出した。


「できなくはないですが、私がコンラッド殿下を抱きかかえるのですか!」

 

 サイラスとセドリックとサミュエル叔父は何を話しているのかを理解したようで噴き出した。


「おんぶ紐があるじゃないか!」

「それなら危険なくできるでしょうが、シーナが承知しないでしょうね」


「なんとなく、シーナ殿の手を借りなければならない気がして、陛下からシーナ殿の分の管理者用の魔術具を借りてきていたんだ。シーナ殿を呼んできてくれ」

 

 ブライアン伯父上はトニーに魔術具の指輪を手渡した。

 トニーは納得がいかないような表情をしていたが、シーナを呼びに行った。


「いいですよ。コンラッド殿下さえよろしいのでしたら、荒野の果てまでぶん投げますから、そこでごゆっくりサーフィンの練習をしてください。時間が来たらお迎えに行きます」

「はい。よろしくお願いいたします!」

 

 あっさり引き受けたシーナにコンラッドは喜んで頭を下げた。

 

 いいのかな。

 コンラッドは詳しく話を聞いていないのにシーナにお願いしちゃったよ。

 荒野の果てまでって、比喩じゃないんだよ。


 高速で飛ばされたらきっと逆バンジーより怖いと思うよ。


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