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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第三章 男児はつらいよ ~僕とおじさん

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39 自白に導く手段

「なるほどね。私が砦の守りの結界を強化していたのにみすみすと侵入されたのは、ローラさんの女王蜂の魔術具をこの男に奪われてしまい、その魔力の元へと転移魔法を使われてしまったからなのか」


「申し訳ありませんでした」


 砦の執務室で事の経緯を聞いたサムエル叔父にローラさんが深々と頭を下げた。


「いやいや、ローラさんを責めているわけじゃないんだ。あの場で蜂達の動きを制御できる魔法は素晴らしい。トニーとシーナの援護として申し分のない攻撃だった」


 ローブを脱がされ亀甲縛りで拘束され魔石を包んだハンカチの猿轡をされた侵入者の男の素肌にはいくつも蜂に刺されて腫れた箇所があった。


「問題は魔力を吸収する手袋の魔術具によって女王蜂の魔術具の魔力を解読されてしまった事だ」


「魔力を辿って転移できる手袋の魔術具は禁忌の魔法を使用しています。大聖堂島で完全に焼却し灰の処理も厳重にしなければなりません。あれは教皇猊下に直接お渡しします」


 シーナの言葉に拘束されている男は眉を顰めた。


「よっぽど痛みが好きなのかな?禁忌の魔術具を使用したらこのように体中に火傷のような爛れが出る副作用あることを知っていただろう?」


 サミュエル叔父の男への問いにシーナが頷いた。


「口にしたら天罰が下る素材を使用した魔術具です。それが地表に浮かび上がってくると手練れの上級魔導士総出で封印します。ですが、強力な魔法を行使できる素材として秘密裏に研究する(バカ)が後を絶たないのです」


 シーナの説明に心当たりがあったのかブライアン伯父上が、ああ、と言って眉を顰めた。


 ブライアン伯父上は国の守りの結界から砦の守りの結界が強化された事を察知して転移の部屋を使い砦に転移して来たのだ。


 王太子が単身で異常があった砦に転移してくるなんてどうなのだろう。

 タイミング的には侵入者を拘束した後に転移して来たので、危険はなかったから良しとしていいのだろうか。


 色々と表沙汰にできない事が多かったからトニーの執務室には厳選されたメンバーだけが招集されていた。

 ブライアン伯父上を囲む面々は子ども達とノンとトニーとシーナとサミュエル叔父と青年アダムとローラさんと居心地が悪そうなハイアット部隊長だ。


 拘束されている男は魔石を包んだハンカチを咥えたまま何か反論しようとしてフゴフゴと唸った。


 サミュエル叔父が青年アダムの膝を突くと頬をほんのりと赤く染めた青年アダムは目を逸らせた。


 詠唱魔法封じと、全身がまだらに爛れているからきつく締め付けないように配慮した拘束方法なのに、この二人にかかるとボールギャグと亀甲縛りをされた男の公開SMショーみたいじゃないか。


 子どもに見せてはいけない雰囲気を一瞬醸し出したが、それは心が穢れている人たちにはそう見えるだけで、これは被疑者に対して人道的配慮をそれなりにした生ぬるい拘束方法だ。


「破滅願望でもなければあの素材には手を出してはいけないのに……。聖職者でも最強魔法を手にしたい願望に抗えないのか」


 ブライアン叔父の言葉にシーナは頷いた。


「神罰前の時代には普通に使えた魔法が今はだいぶ制限されていますからね。まあ、ラウンドール王国は神罰前の時代の魔術具を現代でも使用できる国宝級の魔術具が多く存在しているので、大方その技術がほしくてラウンドール王国の情報を探っていいたのでしょう」


 拘束されている男はシーナの推測が図星だったようで斜め下に視線を逸らせた。

 精霊達が忌避する危険な魔術具を外してしまえば精霊達は男の思考を読めるのだろう。今のシーナは精霊達から男の情報を引き出し放題だろうな。


「我が国の情報を収集していたら癒しの温泉についての情報を知った、という事か」


 拘束されている男はブライアン伯父上の言葉に頷いた。


「それほどの傷を負っているのなら、なぜ自らが真っ先に湯治に来ず、駝鳥の盗賊団と仲間を先にしたんだ?ああ、猿轡をしていたら何も言えないか」


「おそらくですが、砦の中に転移する足がかりがなかったから失敗しようがしまいが関係なく見越して駝鳥の盗賊団に攻撃させ、我々がさらなる敵襲に備えて砦の外に魔術具を仕込むよう誘導していたのではないでしょうか?」


 サミュエル叔父の自問自答にトニーが答えると、拘束されている男は頷いた。


「見張り塔から見ていた感じでは、この男はシーナが仕込んでいた魔術具の場所をあえて踏まないようにしていたように見えたよ。どうしてだろう?」


 僕の素朴な疑問に、そうだね、とノンは頷いた。


「私とトニーが駆けつけるのが早すぎて手袋をした手で魔術具が触れらない状況だったからでしょうね」


「ああ、あの魔術具を足で触ればそのまま捕縛できたでしょう」


 シーナとトニーに言い当てられた男は悔しそうな表情で俯いた。


「この男は魔法を吸収する魔術具をもってしてもうちの騎士達とシーナ殿に到底適わなかったんだな」


「ローラさんの頭突きからの背負い投げが決定打だったよ!」

「いえいえ、トニー様とシーナ姉様の攻撃ですでに弱っていたからできたまでです」


 ブライアン伯父上と僕のやり取りにローラさんは謙遜した。


 拘束されている男は、シーナ姉様、という言葉に反応し驚愕した表情で男装のシーナを見上げた。


「国宝級の魔術具とはこういった物ですよ」


 シーナがマントを脱いで素顔を晒すと男は茫然とした表情になった。


「ラウンドール王国の変装のマントの素晴らしいところは魔法を使用している気配がしないところです。国宝級の魔術具とはこういった物ですよ。禁忌の素材などに手を出さずに大人しく古代魔術具を研究していればよかったでしょうに」


「こんな細身の女性二人にボコボコにされたなんてさぞ悔しかろう」


 煽るシーナに調子を合わせたサミュエル叔父の言葉に男は小さく頷いた。


「シーナは、いえ、緑の一族の女性達は強いですよ。お前が転移した後、私達がなぜあんなに早く見張り塔の頭頂部に辿り着けたかというと、シーナが私をがっしり掴み上げると見張り塔に向かって投げ飛ばし、シーナはジャンプだけで砲弾のように飛ぶ私を捕まえてそのまま空中を移動したからです!」


 シーナは丸太を投げて飛び乗て移動するタオパイパイだったのか!


 いくら転移魔法を公にできないからといって急にそんな突飛なことを思いつかないだろう。どこかで事前にタオパイパイごっこの練習をしていたのかな?


 なにそれ凄い!とサイラスとセドリックは目を輝かせ、他の全員が口をあんぐりと開けてシーナを見た。


「見張りの塔を破壊せずによく塔の頭頂部に着地できたな!」


「頭頂部に到達する前に風魔法で減速させました。そのままの勢いで見張り塔に激突したら砦を守る魔法に攻撃判定されてしまい衝突の衝撃と同等の衝撃をさらに喰らってしまったら私もトニーも死にかねません」


 それはそうだ、と僕達は笑ったが、拘束されている男はシーナの実力を知って青くなった。

 身体強化したシーナにボコられたけれどかなり手加減されていたことに気付いたのだろう。


「教会の上級魔導士を馬鹿にするつもりはないんだが、相対峙する敵の実力を測れないようならそもそも砦に来てはいけなかった。ここでこうして今お前が生きていられるのは子ども達が目の前にいるからだ」


 ブライアン伯父上が、教会を介することなくこの場で処刑できることを臭わせると、拘束されている男は猿轡の魔石を噛みしめて息をのんだ。

 

「兄上、この男の尋問は私にお任せください」


「口を開けば呪文を唱えかねない男を尋問する必要などない」


 あくまで危険を冒して証言を取るより男などいなかったことにすべきだ、とブライアン伯父上が主張した。


「兄上、この男の古傷は癒える事のない神罰なのです。たとえ、癒やしの湯による効果があったとしても一日経てばまた同じ場所が爛れてしまうでしょう」

 

 サミュエル叔父の言葉にシーナは頷いた。


「使ってはいけない素材に手を出せばそのようになります。それにしても、サミュエル殿下は中級魔導士で危険な現場に出たことがないでしょうに、よくご存じですね」


「ああ。私は派遣された事がないがアダムが行ったことがある」

 

 サミュエル叔父と同じように中級魔導士の資格しか取得していない青年アダムが頷いた。


「私は後方支援で上級魔導士達の仕事の成功を祈っておりましたが、残念ながら数人穢れに触れてしまいこの男のようになってしまいました。どんな聖女様の祈りでも癒えることがなかったと聞いています」


「私も聖女時代にそういった上級魔導士への治癒魔法を頼まれた事がありましたが断わりました。彼らは一度治癒をして痛みから開放されると、再び同じ痛みに襲われることが怖くなり癒しを施した聖女のそばから離れなくなってしまうのです」


 毎日痛みに襲われる恐怖心は理解できるが、傷が癒えている時も金魚のフンのようにずっと付きまとわれるなんて迷惑千万だよね。


「それに集団で行う封印の作業中に一部の上級魔導士にだけ被害が出るのは本人の深層心理に邪な思いがあるからです。神々がその傷を癒える必要がないと判断されているのなら、癒しの魔法で完全治癒できないでしょうね」


 シーナの説明に僕達は、なるほど、と納得し、拘束されている男の顔面が蒼白になった。


「せっかく癒えない傷を持つ検体が現れたのですから、必要なこと以外口をきけなくする対魔導士用の魔術具を使いましょう。正直に話さなければ温泉水を与えないようにすれば、、永遠の痛みから開放される喜びを再び得るために完全自白をさせられるでしょう。ついでに、源泉からどれだけ離れたら効果が変わるのかも詳しく調べられますよ」


 サミュエル叔父の提案に、一理ある、とシーナは頷いた。


「毛根が完全に死滅しているこの状態から髪の毛が再び生えてくるのかどうかも調べられるかもしれませんね!」


 僕の一言にブライアン伯父上は、マジか、と呟いた。


「サイラスにつけた騎士がやたらとフサフサになった話は王都にまで伝わっているぞ。砦の勤務を希望するはげ、いや、禿頭の紳士が文官にも出てきた。毛根まで逝っているのに生えてきたら、それは凄いな」


 ブライアン伯父上は薄毛研究の話に乗り気になった。

 ラウンドール王国の薄毛の男性を救うために首の皮一枚でつながった男は嬉しそうに小さく何度も頷いた。


 これは早々に何でも自白してくれそうだ。

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