38 砦の外と見張り塔
新たな襲撃者を警戒して僕達の外出禁止が続いていたのに、不審者の一報に漠然とした危機感を抱き約束を破って外に出ると、いたるところに鉢植えの野菜や花があった。
傷痍騎士達や青年アダムの頑張りに胸が熱くなった。
この砦に危険人物を入れてたまるか!
見張りの塔の入り口に辿り着くと、お戻りくださ殿下!と叫ぶ騎士達を飛び越えて僕とノンは一気に階段を駆け上がった。
「アルフレッド殿下!どうなさったのですか!?礼拝室に避難してください!」
驚く見張り塔の騎士達に魔法少女の杖を掲げて見せた。
僕とノンの後に続いて見張り塔の頂の部屋に入ってきたバーニーの頭頂部を見た騎士達は頷いた。
「礼拝室にはサミュエル伯父上達が向かいました。ここからトニーとシーナの魔法を強化します!」
「はい。あちらです。シーナ殿が予測していた旧市街地の教会跡地に一人の男が突如出現しました!」
見張り塔の騎士の一人が指さした方向を視力強化で見ると、すでにトニーとシーナが不審者と相対峙していた。
砦の外の周辺にはカモミールが咲き乱れていたが、トニーとシーナが不審者と対峙していた場所はまだ灰だらけの荒野だった。
「賊は一人ですか?」
「はい。シーナ殿が予測していた地点に一人の男が突如出現しました!」
前回の賊が使用した魔術具は転移先の目印がないと転移できない魔法だったので、今後も教会跡地を目印に不審者が来るとシーナは予測していた。
「不審者は魔法を吸収する術が使えるようでトニー閣下の魔法剣の炎を掌で吸収してしまいました」
見張り塔の騎士の説明に合わせて掌の精霊達が僕の脳裏に映像を送りつけてきた。
不審者に向かって単独で挑むトニーが抜刀すると立ち上った炎の魔法が付きだした不審者の掌に吸収され、一部の炎がカモミール畑に飛んでいった。
すぐさま駆けつけたシーナが不審者を挑発するような仕草をして罠の方におびき寄せたのに仕込んでいた魔術具が反応しなかったようだ。
いったいどうなっているんだ?
掌の精霊達が怯えたように掌の一か所に集まって震えている気配がする。
「それで現在、お二人は不審者がどう出るのか様子見をしているので……」
僕に続いて見張り塔に着たバーニーの言葉が終わる前に後方から、キャーと叫けぶローラさんの声がした。
「ああ、もう!突然、戦闘に巻き込まれた蜂達が怒っているわ!」
バーニーに遅れて見張り塔の頭頂部に来たローラさんはシーナに対しての信頼が厚いからか不審者が砦に侵入する事ではなく蜜蜂の心配をした。
「何匹かの蜂は犠牲になったかもしれませんが巣箱の設置場所とは反対方向なので、巣箱は無事です!」
見張り塔の騎士の報告にローラさんは小さく首を横に振った。
たとえ階級の低い騎士のような働き蜂だったとしても大事に育てたローラさんとしては無残にその命を散らされたら怒りも湧くだろう。
カモミール畑にいる蜂達はトニーとシーナを敵視せず不審者に向かって群れを形成していた。
「……今、花畑に取り残されている蜂達を……北西方向へ誘導できますか?……蜂達を砦の守りの魔法陣の範囲内に入れましょう!」
ローラさんよりさらに遅れてやってきた青年アダムは息を切らせながら蜂達を砦の陰に避難させようと提案した。
頷いたローラさんはポーチから女王蜂の模型のような魔術具を取り出すと魔力を込めた。
「わかりました。一旦、砦の陰に避難させます。シーナ姉様達が危なくなったら一斉に攻撃させます」
ローラさんは魔力を込めた女王蜂の魔術具をカモミール畑の蜂達に向けて放つと、青年アダムが口元を隠して祝詞を唱えた。
女王蜂の魔術具が青年アダムの魔法バフ効果で超高速飛行をすると、見張り塔の騎士達から、おおーと声が上がった。
「次は僕が、僕の支援の魔法がトニーとシーナに届くかどうか試してみるね!トニーとシーナ!頑張れ!」
魔法の杖を一振りしながらアップウの呪文を小さく唱えた。
精霊達よ!魔法と共に吸収されないように慎重になれ!
精霊素達よ!トニーとシーナの周りに集まれ!不審者のそばから離れろ!
現場で精霊例達が反応したのかシーナが見張り塔を見上げた。
『ありがとう。アル!活路が見えたわ。こいつに精霊素を渡さなければいいのね!精霊魔法を使うとこいつの手袋に仕掛けがあるのか精霊達を吸収して魔法を無効にしてしまうのよ!』
マジで魔法だけでなく精霊達を吸収していたのか!?
それで、掌の精霊達がこんなに怯えているのか!
了解したよ、シーナ!
「アダムさんも協力してください!奴が掌で魔法を吸収してしまうのなら、掌以外に攻撃が及ぶように炎の流れを変えてください!」
魔法の杖をお払いの棒のようにブンブン振りながらアップウの呪文を口の中で連発すると、青年アダムも祝詞を唱え始めた。
シーナが頷くとトニーは再び抜刀すると、刀身から立ち上った炎の欠片がちぎれて不審者の背中に届き掌以外の全身に炎が上がった。
おおお!と見張り塔の騎士達から声が上がった時には、不審者を包んでいた炎が掌に吸収されてしまった。だが、トニーとシーナが同時に蹴り上げた足が不審者の両脇にヒットしていた。
そうだよね。
魔法攻撃が効かないなら物理的に叩きのめすのが一番効くよね。
「行け!今だ!」
ローナさんの声と同時に砦の壁に避難していた蜂達がトニーとシーナにボコボコにされている不審者に突進した。
まさに泣きっ面に蜂だなぁ。
行けー!やっちまえ!と僕達が盛り上がっていると不審者が現場から姿を消し、いきなり背後から男の低い声がした。
「みーつけた!こんなところから魔法操作をしていたのか!」
転移魔法で見張りの塔に侵入したフードを目深にかぶった不審な男がローラさんを背後から羽交い絞めにしていた。
侵入者の腕が首に入っているにもかかわらずローラさんは冷静に身体強化をすると侵入者の顎に頭突きを入れ、体を丸めて勢いよく背負い投げをした。
僕とノンがスライディングで両サイドから蹴りを入れると見張り塔の騎士達が侵入者に飛び乗った。
「拘束の魔術具を持っている者はいないか!」
文字通り山積みになっている騎士達の一番下で侵入者を取り押さえているバーニーの言葉に、ここにはない!と上に載っている騎士達が答えた。
「あるよ!」
「魔法が効かないかもしれないから魔術具は駄目よ!普通のロープの方がいいわ」
見張り塔の頭頂部の窓から飛び込んできて指示を出すトニーとシーナに、転移魔法じゃなくて飛んできたのか!と僕達はギョッとした。
「縄ならある!」
トニーは収納ポーチから猪の血抜きの時に使ったロープを取り出した。
「とりあえず両手を拘束してしておけば、ここまで押しつぶしておく必要はないよね。窒息死しちゃうと証言が取れないよ」
「詠唱魔法を唱えられると面倒だから死なない程度に息ができない方がいい」
シーナの主張にトニーとノンが頷いた。
「声が出ない程度に喉を押さえて腕を完全に拘束してから喉元を開放したらいいんじゃないかな?」
「それならいい」
シーナの言葉にトニーも頷いた。
「喉元の拘束は誰が押さえている!」
「私です!」
「よし、死なない程度に強く抑えておけ!」
「腕をこっち側に出してもらっていいかな!」
トニーとシーナが見張り塔の騎士たちにテキパキと指示を出していると、どうしましたか!と他の騎士達が雪崩れ込んできた。
狭い空間に人口密度が半端ない!
「私達を援護していたローラの魔術具から転移先を割り出され、不審者が転移魔法で侵入した。見ての通り既に拘束済みだ。魔法を吸収する手袋を装備しているからそれを回収するまで物理的に拘束している!シーナが今回収しているところだ!」
トニーが端的に事の経緯を説明すると押し掛けてきた騎士達は下がった。
「はい!回収したよ!」
「シーナ姉様、猿轡用のハンカチです」
「あっ!舌が動かないように小石か何かを包んで噛ませておこうよ」
「使用済みの魔石がポケットにあります!」
ローラさんは侵入者の喉をガッツリ押さえているバーニーのお尻のポケットからゴルフボールサイズの魔石を取り出すとハンカチに包んだ。
バーニーは侵入者に猿轡を嵌めやすいように侵入者の顔を持ち上げると目深にかぶっていたフードがズレた。
侵入者の男は頭頂部や顔や首にかけて火傷のようなじくじくとした傷を負っていた。
「神罰相当の痛みに慣れているいるのだったら、もう少しきつく殴っておけばよかったっかな?」
シーナの言葉で、男の傷を見て下半身がキュッとなっていた僕はこいつが砦に奇襲をかけた駝鳥の盗賊団の依頼者の協力者だったことを思い出し、同情の余地なし、と小さく首を横に振った。
「逃げられないけれど、体に負荷がそれほどかからない縛り方をしよう。後ろに回した手にこうやってロープを通して、こっちを通して、こう持ってきてここを通して……」
古式ゆかしい罪人の拘束方法を伝授すると、亀甲縛り、という言葉がどこかからか聞こえてきた。
えっ!異世界転生者が僕以外にいるのか!
『夜のお店の特殊なサービスにあるらしいのよ。異世界転生者はお隣の国の建国王で神罰の前の時代の人物よ!』
えっ神罰の前の時代に異世界転生者がいて、その後、文字も言葉も失われてしまったのに亀甲縛りのプレイだけは現代の夜のお店に残っているのか!




