第40話 最強の姉妹/先生
ラクシャシーはプロメテウス残党勢力の仕業であると分かった時点で、敵は複数居て更に子供達の命だけはひとまず安全だと分かった。
生体部品にする以上、敵は彼女達を生かしておく必要がある筈だ。
だが、だからといって怒りが湧かない訳では無い。ラクシャシーは今まで生きてきて感じた事の無い…ジワジワと膨れ上がっていくドス黒い怒りを感じていた。
「待ってな……今先生が助けに行ってやる」
その時、先行していたアスラから無線が入る。
『敵は5人、人間の部隊。既に1人は私が殺害。残りは孤児院に向かっている。拉致された子供達は全員無事。…無事確保した。』
無線越しの声は、いつもと変わらなかったが何処か安心の色が透けていた。
「ありがとうアスラ。子供達にカーテンを閉めさせたら───殺るわよ」
『了解。殲滅開始。』
───
私はいつもと変わらないトーンで子供達にカーテンを閉めさせる。
「ほらアンタ達、いい時間なんだから早く寝るのよ。しっかり鍵かけて、カーテンを閉めて。閉めないと外から怖ーいお化けに見られちゃうわよー」
───カーテンの外で今から行う処刑を子供達に見られるわけには行かないんだから
「ラクちゃん先生…」
1人の少女がモジモジと裾を引っ張ってくる。
「どうした…早く寝ないと…」
「あのね……怖いの…抱っこ」
ラクシャシーはそれを聞いて、ため息を付きつつ少女を抱えた
「ふぅ……仕方ないわね。ほら、ちょっとだけだぞ」
「ミーナちゃん達が居ないの…また、アイツらが連れてっちゃったの?」
アイツら…それはプロメテウスの事だろう。
彼女達は皆拉致被害者なのだから。
泣きそうな少女の頭を優しく撫でる。
「大丈夫……先生達に任せな…」
私は少女をあやして落ち着かせると
月明かりが照らす孤児院の庭に立った。
庭の広さは小さな学校のグラウンド並
──暴れるには十分だった。
「出てきな。散々キモい視線向けてきやがって、いい加減…目障りだ」
私が声を発すると木の陰から4対のパワードスーツが出てきた。アスラの言ってた数と合っている。
「ふっ……相手は丸腰の女1人だ……一撃で仕留めろ」
隊長の男は、先ほどから待機している者と無線が繋がらないのは気がかりだったが、
今は目の前の魔力結晶の適合者達と言うご馳走に目が眩んでしまっていた。
隊長が部下に指示を出すと隊員の1人がホバー移動し、一気に加速。そのままラクシャシーの頭を粉砕……
───する、筈だった。
「なっ…!?」
自身の繰り出した腕が少女に掴まれてしまったのだ。
更にメキメキと音を響かせながら鋼鉄の腕が空き缶の様に歪んでいく。
危機感を覚えた男は少女の腕を振り払おうとするがびくともせず、自身の腕に装甲がめり込み激痛が走る。
男は悲鳴とも、呻きとも取れる声を上げながら必死に少女を振り解こうと足掻くが
少女はその場からピクリとも動かない。蹴っても殴ってもスラスターを吹かしても身じろぎすらしない。
ラクシャシーは男の腕に更に力を込める。バキバキと音を鳴らし骨すら折れ、男はパワードスーツの中で無様に涙を零しながら懇願し始める。
「いだい!いだいぃぃ!や、やめてください!助けてくださいぃ!!はなじでくだざいぃ!!」
「……そんなに私から離れたいのかい?そっちから来といて、酷いわね」
そう言うとラクシャシーは腕を掴んだまま胴体を蹴り上げ、
関節ごと引き千切って地面へ蹴り捨てた。
「ぎゃあああ!!」
一連の流れを見ていた残りの3人は思わず後退る。
何が起きたか分からなかった。ただの子供好きな少女のはず……
「な、何なんだ!?」
ラクシャシーはかつての加虐性を剥き出しにした笑みを浮かべ、持っていた敵の腕を握り潰す。
「アタシらの可愛い生徒達に手ぇ出したんだ…この世からリタイアする準備が出来たってことだよなぁ?」
ラクシャシーは一呼吸置くと呟く。
「偽装解除…。」
声を合図にして彼女の身体を覆っていたエネルギーフィールドと空間湾曲が消え
漆黒の鎧が姿を現す。
刺々しいフォルム。外見だけで相手を威圧する為に作られたデザイン……
「あ、あれは……ラクシャシー!!?」
──プロメテウスの者なら、知らぬ者はいない。
対メカニカルワルキューレ用決戦兵器。
その時、3人の男達の後ろから何者かが歩いてくる。振り返ると背中に4本の育児用アームユニットらしき物を付けた少女……
──いや……六本の腕……
「あ、あっあぁあぁ!?」
隊員達が育児用アームユニットだと誤認してしまうほど、アスラは日々穏やかに六本の腕を使っていたのだ。
隊員の男はここに来て全て理解した。
自分達がどんな所に踏み込んでしまったのか。
命が、もう無いことも。
「偽装、解除。」
アスラも静かに告げると禍々しい漆黒の鎧の姿になる。
「あ、アスラも……だと……!」
隊長が自身だけでもどうにか助かる算段を考えようと思考を巡らせようとした瞬間。
頭をアスラに貫かれ弾けた。
音もなく隊長が死に、残すは2人。
アスラはジャンプして一人に食らいつくと、そのまま地面に押さえつけ馬乗りになる。男は必死に抵抗しようと藻掻くが、簡単に両手を掴まれてしまった。
アスラは残りの4本の腕で徐々に敵機体をミンチにしていく。
隊員は恐怖から
「こ、この、ば、化け物…!!」
と弱々しく声を絞り出す。
「…ン?私は生徒達から綺麗だしかわいいと言われている…」
アスラはそう言いつつ素早い連続突きでミンチにする手を止めない。
敵からの"化け物"という罵倒を、アスラは傷つくこともなく、"事実誤認"として淡々と訂正する。そして……
──男の生命活動が終了した
残りは1人。
「あはは。最後に残ったお前には選択肢をやろうかねぇ。一撃で死ぬか、ミンチにされるか、好きな方を選びな。」
ラクシャシーは口角こそ上がっているがその瞳は笑っていなかった。
「た、助け…」
ラクシャシーは笑顔を止め無表情になると
男に高エネルギービームを放ちそのまま蒸発させた。
ラクシャシーは凄惨になった辺りを見渡し
子供達に悪影響だからと残骸へ薙ぎ払う様にビームを放ち、全て消し去った。
全てを終えたラクシャシーは、ふと孤児院の方を見て血の気が引く。
カーテンの隙間から子供達がこちらをジッと見ていたのだ。
「あ…」
ラクシャシーは似つかわしくないか細い声を零す。
終わってしまった。あの温かな日常はもう来ない
凍りつくラクシャシーを横目に、アスラが漆黒の鎧のまま子供達にゆっくりと近付いていく
「ァ、アスラ…待っ……」
ラクシャシーは手を伸ばすが届かない。
──やめてっこれ以上あの子達を怖がらせないで……私達を嫌わせないで……
アスラは真っ直ぐ、子供達に近づいて行くと皆の見える位置で止まった。
───そして
ゆっくりと六本の腕を上に上げ
六本のピースサインを作った。
「びくとりー。」
それを見た子供達の表情はパッと明るくなり、孤児院から大きな歓声が上がった
子供たちが窓から飛び出してきた
「ラクちゃん先生!アッちゃん先生!今の何!?超かっこいい!ズバッ!バキューン!」と皆からもみくちゃにされる。
ラクシャシーは子供達に囲まれる
「先生超カッコ良かった!!」
「あぁ………あーアッツいわね…なにこれ、地球温暖化ってやつ?」
ラクシャシーは真っ赤に染まった顔を手で仰ぐが、一向に顔の火照りは冷める気配がない。目頭すら熱を帯び始めた。
「…お待たせ。先生、綺麗だった?」
アスラは子供達に自身の活躍について聞いた。
「うん!! すっごく綺麗で、すっごくカッコよかった!」
アスラは無表情で6ピースをしながら、ただ「よかった。」と、言葉を零す。
その時、アスラの口角がほんの少しだけ上がっているのを生徒達は見逃さなかった。
「「「アッちゃん先生が笑ったー!!」」」
───夜が明け、再び孤児院に朝日が差した。
3話で終わらせたかったのにーあっあっあー




