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メカニカルワルキューレ ─未来を取り戻す物語─  作者: ハムスターマン
第一章 プロメテウス編
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第24話 皆が最強になれば良い


私は明日決行する事になった決闘を前に、以前アリアと模擬戦を行ったラボの地下にある性能試験場に来ていた。目的はティシポネさんとの決闘でスペックを覆すトレーニングの為。……

正直、未だに意味が分からない……強敵のラクシャシーとアスラが来て、アリアが傷付いてそれどころでは無いんだけど……でもティシポネ……ナギサさんの、今までとは違う輝きを放つ瞳に答えてあげたくて……後、ほんのちょっとだけ、アリアの腕を捻った事へのお灸も据えたくて。私は決闘を受け入れた。


ラボの中ではそんな事をしている場合なのかと言う空気が満ちているのが分かる。私も……多分ティシポネさんも理解している。


……でも、きっとこれは彼女なりのけじめなのだ。



地下の性能試験場という閉ざされた空間での決闘。話を聞いたディアナさんはカンカンだった。

「いきなり帰って来て決闘だなんて、本当に何なのあの子!リリィ……嫌なら嫌って言うのよ?」

「……ありがとうディアナさん。でも、大丈夫です。私、見せたいんです。私達はティシポネさんの言う弱い存在じゃないって。」

私は笑顔でディアナさんの方を向く。

「……分かったわ。じゃあ、思いっ切り気持ちよく打ち負かして来なさい!」

ディアナさんはガッツポーズをして応援してくれた。

「リリィ……ヴァルキリーのスペックではティシポネには勝てません」

メガイラちゃんは少し伏し目がちに言う。

「……でも、リリィなら何とかなるかも知れませんね。」

メガイラちゃんは本当に微かに微笑んでくれた気がした。


決闘の話を聞いたハカセは気が気では無い様子だった。

「リリィ…貴女達、まさか殺し合うなんてバカな事言うんじゃないでしょうね…!メカニカルワルキューレの開発者としてそんな事…」


「ハカセ……殺し合いじゃありません。これは、私たちが『家族』になるための話し合いなんです。剣を使わないと伝わらないことが、きっとあの人にはあるから……」


きっとナギサさんは他人の言葉を信じない、でも、命を懸けた戦いでの「魂の輝き」だけは信じてくれる。そんな気がしたの。もちろんこんな所で死ぬつもりも、彼女を殺すつもりも無いけど。


私の目をしばらく見ていたハカセはため息をつくと背中を向けてしまった。

「……勝手にしなさい。……でも、メンテナンスは完璧にしておくわよ」

「ありがとう…!ハカセ!」

背中しか見えないのにハカセがなんだか笑って見えた。


ラボの片隅で、ナギサもまた自分の剣を研ぎ澄ませていた。

彼女の頭をよぎるのは、抗えない過去の記憶と温かなミレイナの小さな手。

「ヴァルキリー。お前の"優しさ"と言う強さが力を覆せると……証明してみせろ。でなければ、私はこの道を行く」



気が付けば、朝日が差していた。



私とティシポネさんは訓練場の真ん中で見合っていた。

「いきなりの決闘の申し出を受けてくれた事、感謝している。」


「私も……私達の方をちゃんと向いてくれて、ありがとうね」


「……ありがとう…か」

その時ティシポネさんは目を瞑って笑った気がした。



「行くよ、ティシポネ!」

「来い、ヴァルキリー!」


私とティシポネは互いにスラスターを吹かせると空中で激突する。出力の差から私は押し負け、踏ん張るも弾き飛ばされる。

私はすかさず反転するとコンバットメイデンで薙ぎ払いつつティシポネの二振りのサムライソードを往なす。


一度距離を取ろうとしてもスピードすらあちらが上のため追い付かれてしまう。

きっと傍から見れば無謀な戦いなんだろう。

スペック差はある。でも、不思議と怖くない。私の背中には、ディアナさんの温もりが、ハカセが夜通し調整してくれたスーツの鼓動が、そして病室で眠るアリアの意地が宿っているから。


「はぁああぁ!!」

私はアリアの戦い方を真似てみる。

それは超至近距離でのインファイト。

突如戦闘スタイルが変わった私を見てティシポネは驚く。

けして付け焼き刃じゃない。任務の無い時はアリアに至近距離の極意を教えてもらってたんだから!

ティシポネ、貴女が頭の悪い金髪とバカにしたアリアの戦いを、受け止めて!!


「……っ!? 貴様、急に動きがっ……!」

まるで獣の様な連撃、往なそうにもぴったりとティシポネに張り付き大振りの攻撃の隙を与えない。

これがアリアの戦い方だった。

「この動きはね。アリアが教えてくれた戦い方。私1人じゃ生み出せ無かった力だよ。」


ティシポネも本気になり、二振りのサムライソードを強引に割り込ませようとする。

だが、リリィはそれを読み切り、アリアなら絶対にやらなかったディアナが放つ、まるで"狙撃"の様な精密な一撃を混ぜる。


それを剣で受けたティシポネは一本のサムライソードが破壊されつつ吹き飛ぶも華麗に着地。膝を付いてリリィの方をじっと見つめる。


「ティシポネ……ううん、ナギサさん。貴女一人が最強じゃなくていい……。私たちは、アリアも、ディアナさんも、メガイラちゃんも、ハカセも……みんなが違う最強になれば良いんだよ。」


「…ふっ……そんな綺麗事……」


「綺麗事だって、最後まで貫いたら本当じゃない?」


「ならばその綺麗事…!!貫いてみせろ!」

そう言うとナギサは壊れたサムライソードの一本を捨て、一振りの剣で迫る。

私もすかさずコンバットメイデンを振り下ろし2つの刃が激突し火花を散らす。

サムライソードは細身の軽量剣であり、大振りのコンバットメイデンとは相性が悪い。

更にリリィはコンバットメイデンのエネルギーブレード展開ギミック、本来斬るためのエネルギーを"推進力"代わりに使い、火力とスピードの底上げを行っていた。これは先の強敵アスラに対抗する為にリリィが編み出した秘策だった。それに対しティシポネは、元々の高い基礎スペックでその猛攻に耐える。

二人はこの時互角の戦いを繰り広げていた。


そこに、ディアナや、メガイラ、コトネ、ラボの皆の声援がリリィに響く。


ティシポネ……ナギサは敗北を受け入れようとした。リリィは私の想像以上の強さを示した。

ナギサが負けを認めようとした時だった。


「頑張れー!!ティシポネお姉ちゃーん!!」


剣を収めようとしたナギサの腕が、ピクリと動く。

「……あの子が。……私を……っ…」

視界が滲み、折れかかっていた心が、これまでとは違う「温かな熱」で再燃する。


「温かいよね。ナギサさんっ!」

「っ……!あぁ………あぁ!!」


絶叫と共に、二人の剣裁きは更に加速していく。そして遂に二人は最大出力で激突する。

コンバットメイデンとサムライソードが真っ向からぶつかり、訓練場が光に包まれる。



──ナギサの腕から、サムライソードが吹き飛んで地面に刺さった。



決闘はリリィの勝利に終わった。



肩で息をしながら、二人はパワードスーツを解除し、生身の少女の姿で仰向けに倒れ込む。

ナギサは確かに敗北したのに、胸の奥から温かさが溢れ、爽やかな笑みを浮かべていた。



決闘が終わり、静まり返った試験場に、バタバタと駆け寄る足音が響く。

「リリィ! 大丈夫!? 変なとこ怪我してない!?」

ディアナさんが私を抱き起こし、メガイラちゃんはそっと手を貸してくれた。

「……リリィ。お疲れ様でした。スペックを覆す、良い、戦いでした」



ミレイナがナギサの胸元に飛び込む。

「……あぁ。すまないな、ミレイナ。かっこ悪い姿を見せた」


「ううん!お姉ちゃん! すごく、すっごくかっこよかったよ!」


そう言われたナギサは恥ずかしそうにしつつもほんのり顔を赤らめ、ミレイナの頭を不器用に、けれど優しく撫でた。




『……全く。私のスーツをあんな無茶苦茶な使い方して……。二人とも、早く上がってきなさい。メンテナンスが大変なんだから』

と通信越しのハカセは小言を言うも、その声は何処か寂しげで、だけどとても嬉しそうだった。

更にハカセの通信から


『おっまえらー!私が居ない内に面白そうな事してんなー!!』


と元気そうなアリアの声が聞こえた。

私とディアナさんは目を見合わせると思い切り抱きしめ合い、一緒に泣き合った。


地下の訓練場は無機質で肌寒いのに、この時私達は確かな温かさに満ちていた。

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