第25話 私達の日常
ナギサさんとの決闘を終えた後、アリアの意識が戻った事が分かった私達は、急いで彼女の病室に行く。
するとアリアはつまらなさそうにベッドで横になっていた。
私達が嬉しさのあまり駆け寄ると、アリアは咄嗟に布団に顔まで包まってしまった。
──何処か具合でも悪いのだろうか……まさか顔に傷があるとか……
「どうしたの……まだ……痛む?」
私が話しかけると布団の中からくぐもったアリアの声が聞こえる
「……の!」
ん?なんて……
「……きてないの!」
えっ?えっ何?
「だーかーら!スキンケア出来てないっつってんだろ!!」
ガバッと布団から飛び出てきたアリアは一部包帯が付いて居るけど、でもとても元気そうで、相変わらず可愛らしい……
普段と変わらないアリアで、私は思わず抱き締めてしまった。
私が抱き着いたら途端にアリアが「イダダダ!!」と叫んだので咄嗟に離れる。
……元気は元気だけど、やっぱりまだ痛みはまだあるみたいで、私が申し訳なくてオロオロしていたら
アリアは私の後ろのナギサさんに気付いたらしく、一瞬気まずそうにする
「……ティシポネ、あんた、リリィに負けたんだよな?最新型のスーツのくせにダッセーの!」と笑顔を浮かべる。
煽られたナギサさんは、ほんの一瞬ムッとした顔をするけれど、ふいにおかしくなったように鼻で笑う。
「……あぁ、そうだ。私は完全に負けた。
……頭の悪い金髪に鍛えられた、リリィに……な」
売り言葉に買い言葉の二人のやり取りを見て、私とディアナさんは喧嘩になってしまったら、直ぐに止めようと二人で目配せする。
それを聞いて何とも言えない表情のアリア。
「……なぁリリィ」
唐突にアリアが私に話かけて来る。
「ん?どうしたのアリア」
「ティシポネが言ってる頭の悪い金髪って誰?リリィの師匠?」
部屋に流れる数秒の沈黙。
「えっと……アリア……の事……」
「ん……アリ…ア……?……アリアぁ!?おいこら!てめぇこらティシポネ!!アッイダダダ!!」
私とディアナさんで暴れようとして自滅したアリアをなだめる。
「大丈夫よアリア……貴女は……ほら!あまり考えない所は有るかもだけど、可愛いじゃない!」
ディアナさんが必死にフォローしてくれている。
私も頑張らなきゃ!
「そうだよアリア…!アリアは優しいし強いし!」
私も渾身の笑顔でアリアをなだめる。
「……つまり、頭が悪いは、客観的事実では」
メ、メガイラちゃーーん!!!!
「メガイラー!!お前までそんな……」
メガイラの発言を受けついにアリアの目に涙が浮かぶ。
「……でも、アリアが優しいのもまた、事実です。」
メガイラちゃんは優しい眼差しでアリアを見ていた。
「メ、メガイラ……」
アリアはそれを聞いて潤んだ瞳でニンマリしている。
「……フン、優しさ、か。
戦場では何の役にも立たないと思っていたが……」
ナギサがアリアのベッドへ一歩近づく。
「アリア……その、腕を捻った件……すまなかった。本当は……それを伝えに来た。」
ナギサさんの突然の謝罪に対し、部屋が一瞬しんと静まり返る。
「……あー……じゃあ、まぁ、そうだな……アンタの洗顔剤とかスキンケア商品教えてくれよ。
アンタ、目つきは最悪だけど顔はやたら綺麗だし……それでチャラにしてやる」
私は思わずきょとんとしてしまう。
それはすなわち、怒ってないし、だから仲良くなりたいって事。
……相変わらず、アリアは素直じゃなくて可愛いです。
「……すまない、戦丸罪……とは何の罪の事だ。後、すきんけあ?とは……何だ」
ナギサさんは本当に分からない様で、私も驚いた。
私も似た様な物だったけど、流石に無知過ぎて彼女のこれまでの境遇が想像される。
そこにぐいっとディアナさんが横から割り込む。
「ちょっとナギサ!? 洗顔もスキンケアも知らないの!? 全く!せっかくの美人が危ないわ!」
ディアナさん……ナギサさんの事、あまりよく思って無かったと思ったけど、この感じなら大丈夫そうで、私はつい微笑んでしまう。
「そうだぞ!!リリィと言い天然物が多過ぎるだろ!!」
アリアはベッドのうえで文句が止まらない。
なんだか楽しくなって、私は思わずメガイラちゃんに話題を振っていた。
「……メガイラちゃんも今度私と洗顔剤使ってみる?私も最近使い始めたばかりだけど……」
「ん……」
メガイラちゃんはモジモジしながらも頷いてくれた。
そんな和気あいあいとした雰囲気の中、
病室の自動ドアが開き、ハカセが咳払いしながら入ってくる。
「んっんっ!!……スキンケアの話なら、後で私がたっぷりレクチャーしてあげるわよ小娘達。
……とにかくまずは、全員聞きなさい。
アスラたち、偽ワルキューレ達への対策についてよ」
────
「あー……こちら、ラクシャシーとアスラ。
これより帰還する。ゲートを開けろ。」
私達はプロメテウスの本部まで近付くと管制室にゲートを開く様に指示を出す。
「こちら管制室。PMHW-10、PMHW-11両機の着陸許可を承認。」
何時ものAIオペレーターの無機質な声が帰って来る。
私達が近付くと地下格納庫のゲートが開き、真っ黒い口を開ける。
この時が……私はいつも嫌いだった。
私達がゆっくりと着陸すると、格納庫壁面から伸びてきた固定用アームが背中に接続され、更にその後伸びてくる複数のアームが私達のパーツを徐々に分解していく。
……毎度毎度、吐き気を覚える。
徐々に失われていく私達の手足。
ガチャガチャとパーツ群が無くなった後に残る"コンパクト"な私達……
私達は"頭と胸部だけ"の状態で格納され、その姿がガラスに反射して見える。
──あぁ──なんて醜いのだろう。
ガラスに映る自身の無残な姿を見つめながら、普段何も言わないアスラが呟く。
「……ラクシャシー。ヴァルキリーたちや貴女の『笑顔』と言うのは……あれも、特殊な機能の一つ……ですか?
私には既に無い機能で、ラクシャシーにはまだ備わっていたはずです。」
「…………黙りなアスラ。
余計な思考は爆弾の起爆に繋がりかねない。
……次に目覚めた時は、もっと徹底的に『破壊』するわよ。」
──私達は……もともとは戦争孤児だった……はずだ。
なんてことは無い、何処にでも居る双子の姉妹。
プロメテウスに両親を殺され、ただ忌々しい魔力結晶と適合してしまったばかりに捕まり、私達は人類の進化の為に……と。
より、効率的に……と。
四肢を排除され、胴体も胸部以外は全て機械に置き換えられてしまった。
今の私達は……頭と胸以外は全て機械になっていた。
ダルクの言う戦争が人を新たな進化に導くなんてのは方便で、奴はただ、私達と言うモルモットでメガミドライヴとかいう技術を試したいだけのイカれカス野郎だ。
あんな奴の指示を聞くのは反吐が出る。
──でも……もし私がプロメテウスを裏切ればアスラの爆弾が、多分無いだろうが、アスラが裏切れば私の爆弾が起爆する様に設定されている。
この相互作用する爆弾さえなければ、こんな組織、自らの手で破壊してやれるのに……
このやり場の無い復讐心を胸に抱きながら、今日もまた、私は強制的に思考をシャットダウンされた。
年末年始は家族行事がてんこ盛りで執筆がしづらい!




