第209話 新たな力への道
アスガルドを主砲と機体の上部ごとメカニカルワルキューレに貫かれ艦内部にアラートが鳴り響く中、ネメシスは玉座型の制御装置に座りながら虚ろな目で地球を眺めていた。
「もう……滅びは止められませんマザー……やはり……私には……」
そして玉座から手を伸ばすと視界に映る地球をそっと撫でて掴む。
「滅びを迎えるのは……地球が滅ぶのは……
お前達のせいだ……メカニカルワルキューレ……!」
アスガルドは地球に向けゆっくりと進行を始めた。
───
「……もう良いの?ヴァルキリー。」
『───うん。ありがとう。リリィも疲れたでしょう?』
「あはは……ちょっとだけね。」
ふらつくリリィをアリアが受け止める。
「リリィか……?大丈夫かリリィ?」
心配そうにリリィの顔を覗くアリアにリリィは翡翠の瞳で見つめ返す。
「うん……私は大丈夫。ありがとアリア。」
自分のよく知る相棒の笑顔である事を確認しアリアは笑みを浮かべる。
二人が笑い合うのをハカセ達は見つめ、今後の方針を定めた。
「───先ほどのヴァルキリーの話を信じるなら……ロード・テスタメントとの戦いを終わらせる鍵も見えてきたわね。
……エリスから最後に送られてきたアスガルドのデータと……謝罪のメッセージ……
つまりネメシスは和平の道を切り捨てている。
───おそらくエリスはもう……」
サイサが顎に手を置きながら呟いた言葉にリリィは目を丸くする。
「エリスが……彼女がどうかしたんですか?
確か……ネメシスにこの時代への攻撃を止めるよう進言に向かってもらったんじゃ……」
リリィの発言にリーナとハカセは顔を伏せる。
「……エリスは……おそらくネメシスに破壊、もしくはこちらに戻れない様にされた筈よ。
証拠にエリスから敵の母艦アスガルドの位置と性能……そしてエリーへの謝罪のメッセージが届いてから間もなくさっきのビームがエリスのデータの通りの座標から放たれた……
言わば先ほどのラボへの直接攻撃はネメシスからの返答よ。」
サイサの言葉にアリアは歯を食いしばる。
「何だよ……つまりネメシスの野郎は仲間を手に掛けたってのか……!」
「──あくまで可能性の話だけれど。
でもだからこそ、貴女達を更に強化する必要が出てきた。
サイサの齎したリヒトの力だけでなく、エリスが託してくれた未来技術も取り入れて。」
ハカセはリーナとサイサの方を見ながら言う。
「……でもベル。強化するにしても方針は有るの?
ネメシスはスーパーメガミドライヴを使ったリリィすら一撃で倒す様な怪物よ。
リヒトの力じゃ通常のデウス・エクス・マキナは退けられても……」
サイサの問いにリーナが横から割って入る。
「……それでしたら、私から一つ提案がありますわ。
リリィがメガミドライヴとのリンクが切れた時に私とベル博士で合同開発した、エクゾスケレートの技術を応用してみませんか?あれは出力の低下した魔力結晶の力を魔力結晶の欠片を全身に装着する事で無理矢理通常のメカニカルワルキューレに迫ろうとした物。
───結果としてエクゾスケレートは望んだ性能は得られませんでしたが、全身に装着するのを魔力結晶片からサイサさんの開発した人工魔力結晶……イノセントクリスタルに置換するのですわ。
ただ装着するのではなく、機体中央のメガミドライヴ・リヒトから全身のイノセントクリスタルにエネルギーを循環、共鳴させ合う事で疑似的に先ほどの"唄"の現象を引き起こせるかも知れませんわ。」
リーナの案を聞いてサイサは口角をあげる。
「つまり……太古の人間が持っていた全身を巡る魔力の循環器を、現代科学でパワードスーツ上に再構築する……そういうことね。
リーナさん。貴女もやるわね。」
「ふふっ……そう言っていただけるとお二人のファン冥利に尽きますわ。」
リーナが笑みを浮かべていると突然ドアが開かれ、焦った表情のソーマがなだれ込んできた。
「べ、ベル!それにリーナさんとサイサさん聞いてくれ!
量子コンピューターのカウントが急速に速まったんだ!!」
───
ソーマの焦りを受けハカセ達は量子コンピューターのある部屋に集まる。
───確かに前回確認した時は一ヶ月程の猶予があった筈の滅びへのカウントダウンが急速に進んでいた。
既にタイムリミットが一週間を切ろうとしていた。
「……しかし……ずっと考えていたのだけれど、このカウント……おかしいわよね。」
ハカセは量子コンピューターを睨みながら呟く。
「……おかしい?」
リリィは首を傾げながらハカセに聞く。
「あぁ……それは私もずっと思っていたわ。
───このカウントの不自然さ。」
サイサもハカセに続いて何かに引っ掛かっていたのだと言う。
「いや、だから何が変なんだよサイサおばさ……」
不用意な発言によりアリアはサイサにアイアンクローをかませられ床に沈む。
「このカウントのおかしなところ……それは未来が完全に消失している事よ。
───これではまるで人類どころか、地球そのものがなくなっているように見える。」
「……それの何がおかしいんですか?」
「───ロード・テスタメントが地球を消すのならなら最初からさっきの攻撃なりで消せば済む話なのよ。
……でも彼女達は軍事施設の破壊等、まるでこの地球の、この世界の力を削ぐような事しかして来ていない……
ましてロード・テスタメントが別世界……ガンマ世界線から来たのはエリスのデータから見ても明らかだった。
───だとするとこのカウントの先に何故未来が無いのか……それがおかしなところよ。」
───確かに、ネメシスのあの力がただこの世界を滅ぼす為に使われたのなら、カウントダウン等待たずアルファ世界は簡単に破壊されていただろう。
では……ロード・テスタメントが関与していないのだとしたら……このカウントダウンはいったい何なのか……
そこまでの話を聞いてリリィがポツリと呟く。
「───もしかして……私達の未来が消えるのは……ロード・テスタメントのせいじゃない……?」
ハカセは窓の外……空を見上げた。
「さて……戦って聞くしか無いわね……ロード・テスタメント……それもおそらく全てを知って居る人物……ネメシスに。」
───無限の目は地球をじっと見つめていた。




