第208話 魔力と科学と
月にまで届く光の柱……その光をリリィを通して見ていたヴァルキリーが呟く。
『遂に……此処まで……』
「……ヴァルキリー?どうしたの?」
リリィは突然呟いたヴァルキリーに聞く。
それを横で見ていたアリアは首を傾げる。突然相棒が虚空に向かって話しかけたのだから無理もない。
「リリィ……?誰と話してんだ?」
「え……?そっか……アリアには聞こえないんだ……
あのね、変に聞こえるかも知れないけど……私にはヴァルキリー……魔力結晶の声が聞こえるの。」
アリアはそう話されても理解出来なかった。
魔力結晶は鉱物だとハカセから聞いていた。
確かに意思のような物はあるが意思疎通は不可能だ……とも。
『そう……私はあくまで魔力結晶の残滓……適合者である貴女にしか私の声は届かない。
───でも、これから話す事は、ベルやサイサにも聞いて欲しいの。リリィ……協力してくれるかな?』
ヴァルキリーの懇願にリリィは黙って頷く。
アリアはそんなリリィをアワアワとした表情で見つめながら彼女についていった。
「リ、リリィがおかしくなっ……えぇ……」
───
突然リーナの部屋にリリィがアリアと入って来る。
入るなりリリィはハカセ達の顔を見渡して口を開く。
「こんな時にすみません。
でも……大切な話が皆さんにある……と言っている人がいて」
リリィのあまりに真剣な表情にリーナは何かがあるのだろうと口を紡ぐ。
いきなりの事にハカセは勿論サイサすら困惑する、しかし──
「……さっきの唄と関係のある事らしいんです。
彼女が……どうしても伝えたいって……」
リリィの発言にハカセ達は押し黙る。
「リリィ……?その、彼女と言うのは捕虜にしたペルセポネの事でしょうか?」
リーナが質問をするがリリィは首を横に振る。
『リリィ……貴女の身体、今だけ、ちょっとだけ借りるね。』
ヴァルキリーの言葉にリリィは頷く。
するとリリィの意識は表から消える。
まるで先ほどまでのヴァルキリーの様に意識だけが分離したかのようだった。
ヴァルキリーの横でリリィは自身の身体を見つめた。
そして──リリィが目を開くとそれまでの翡翠の瞳ではなく、黄金の輝きを放つ瞳になっていた。
「───始めまして……ベル……サイサ。そしてアヴェリーナ。
私はヴァルキリー。
───貴女達が魔力結晶と呼ぶ者。」
リリィが突如理解出来ない話を始めた事でハカセは怪訝な表情を浮かべる。
「リリィ……?何を言って……今は冗談を話している場合では……」
「冗談や絵空事ではないよベル。
……私はヴァルキリー。リリィの身体を借りて貴女達に話しかけている。」
リーナが困惑しながらリリィをスキャンして目を見開く。
リリィの言葉通り、リリィの持つデバイスの中の魔力結晶がこれまでに無い活発な反応を示していたのだ。
そう……まるで脳神経の反応の様な。
「──ベルとサイサ……始めて教会でであったあの日から……私はずっと貴女達に話しかけていたのだけど……誰にも私の声は届かなかった。
───リリィを除いて。」
"教会"と言うワードを聞いてハカセとサイサは真剣な表情になる。
これは過去……ベルとサイサの二人と、その場にいた魔力結晶だけしか知り得ない情報だからだ。
「そもそも、貴女達は魔力結晶が何なのかを知らない。
───偶然二人が魔力って名付けた時は驚いたけれど……」
「───科学では解明出来ないエネルギーや性質を持つ未知の物質……それはもはや、魔法や魔力としか説明出来ない……だから私達はその物質に魔力結晶と名付けた……。」
ハカセは項垂れながら呟く。
突然リリィから自分達しか知り得ない魔力結晶との出会いを言い当てられた事で動揺してしまう。
「……では……ヴァルキリー。魔力結晶である貴女はその物質の由来も知っているのね?
今は時間が惜しい、貴女が知っている事を話してくれるかしら……あの唄の意味も。」
サイサはハカセの肩に手を置き擦りながら聞く。
「──はい。
……まず、魔力結晶とは……太古の昔、女神をその身に降ろした少女の核……
貴女達風に言えば魔力コアと呼ばれた物が結晶として残った物です。
魔力コアは太古の人々に備わった特異な器官であり、人々はその力で魔の法則……すなわち魔法を使役して日々を暮らしていた。
本来、魔力コアはその人間の死と共に失われます。
けれど───女神をその身に降ろした少女達の魔力コアだけは違った。
あまりにも膨大な力を宿していたため、その核は消滅することなく……結晶として、この世界に残った……」
リリィ……ヴァルキリーはそう言いながら自身の胸に手を置く。
魔法と言うファンタジーでしか聞いたことのない物が現実にあったのかだとか、魔力コアがどんな器官なのかだとか聞きたいことは沢山あるが、今はヴァルキリーの説明を黙って聞いていた。
「それが……私達、魔力結晶。
───あの唄は言わば呼び声。
互いに共鳴し合った女神達の力が現代の科学と太古の少女達のコア、その適合者を通して顕現しかけた。
だからこそ未来の神格の攻撃すら払いのける力となった……」
「……では、私からも質問しても良いかしら?
魔力結晶と適合したリリィが貴女の声を聞ける理由は?
貴女……ヴァルキリーが特別だから?
……でも、私が貴女の適合者だった時、貴女の声を聞く事は無かったわ。それは何故?」
ハカセはヴァルキリーの目を真っ直ぐ見て聞く。
「私も……今も、こうして魔力結晶と繋がって居ますが声なんて聞いた事はありませんわ。それは他の適合者も同じ……
───何故リリィだけが貴女の声を聞けたのですか?
サイサさんがリリィさんは全ての魔力結晶と適合出来る"特異点"と仰っておりました。
───何か、繋がりが?」
リーナは自身の持つネガ・メガミドライヴを撫でながら聞く。ヴァルキリーの話が真実ならリリィ以外に魔力結晶の声を聞かなかったのはおかしい。
それではまるで、リリィだからこそ聞けたと言っているように……
「───あります。」
ヴァルキリーは隣で不安げにこちらを見るアリアを見て安心させようと笑みを浮かべながら続ける
「リリィが私の声を聞けるのは、彼女がただ適合者だからではありません。
───アリアやディアナ、メガイラ達が適合者として不足しているからでもありません。」
「彼女自身が───リリィが私達と同じものを持っているからです。」
「な、なぁ……えっと……ヴァルキリー?
それって……?」
アリアが不安げな表情のままポツリと質問する。
───リリィがこのまま帰って来ないのではという不安を覗かせながら。
ヴァルキリーは「大丈夫、貴女の相棒はすぐ返すから」と困った様に笑みをアリアに向け、改めて皆の顔を見ながら続ける。
「───リリィの身体には確かに存在しています。
……現代人がとうの昔に失ったはずの器官……魔力コアが。」
「彼女の身体はこれまで何度もスキャンして来たけど……他の子たちと異なる器官なんて無かったはずよ……」
「魔力コアは器官と言っては居ますが形は有りません。
言わば人の形を成す全て……と考えなさい。
……心臓や脳のように、ここにあると指し示せるものではありません。
人の全身に重なる、目には見えないもう一つの循環器……そう考えるのが近いでしょう。
本来その器官を通して外部のマナを体内に流して使うのが魔法でした。
───現代において魔力結晶との適合は、魔力コアを持っていた者の血縁者にのみ起こります。
それは貴女達、科学を志す者達も知っている筈。
DNA……でしたか……だからこそベルが自身の細胞から作り出したメガイラが魔力結晶と適合出来たのです。」
───ヴァルキリーの発言は全て的を射ていた。
遺伝子操作によりある程度適合率を上げられる説明もつく。
これまでの現象とも辻褄が合う。
「でも……だとすると……あの時、始めてリリィがヴァルキリーを起動した時……
───魔力結晶のオーバーフローによってヴァルキリーがリリィの元へ転移したのも……偶然ではなかった?」
───あの日……リリィが始めてメカニカルワルキューレを身に纏ったあの日の光景がハカセの脳裏によぎる。
「───はい。私はあの時、リリィに感じたのです。
───私の全てを引き出してくれる可能性の器を。」
───ヴァルキリーの声を聞いてアリアも思い出していた。
自身の目の前でプロメテウスの起こしたテロ被害者だった筈のリリィが、誰も動かす事が出来なかったヴァルキリーを呼び寄せ起動させた瞬間の記憶を。
「では……本来起動出来ない筈のスーパーメガミドライヴをリリィだけが起動できたのも……」
サイサは目を見開きながら聞く。
サイサの中でこれまでの不可解な現象の全てが点と点が線で結ばれていく。
「───はい。あれは機械だけでは完成しません。
私の思いと力、リリィの願いと器が一つになったから成せた偉業。
───ベル。
貴女達のこれまでの数多の研究のおかげで私は貴女達を守れた。
……ありがとう科学の子たち。」
1話からの伏線を回収し始めました!まあ元々あった脳内設定を羅列するだけの回ですが……




