第206話 懇願
ナギサとメガイラが地上に降り被害状況を確認しようとすると軍事施設の周辺の生き残った人々は彼女達を讃えた。
国連の施設である為市街地から離れていたのが功を奏したのだろうとメガイラは少しだけ安堵し小さく息をもらす。
しかし、ナギサはある事に気付く。
エオスが無差別に放っていたと思われた圧倒的な火力……それにしては被害状況が軽微過ぎると。
ナギサは、未来技術の強力なビームを浴びた以上、この場の人間はメカニカルワルキューレを除けば壊滅していてもおかしくないと考えていた。
だが現実には、想定以上の生存者が残っていた。
「やはり……」
人々を安全な場所に誘導しつつナギサはポツリと呟く。
「……ナギサ?」
そんなナギサの顔を見てメガイラは首を傾げる。
「……どうやらエオスは、言葉通り軍事施設だけを狙っていたらしい。
その証拠に想定より生存者が多い。
……少なくとも、ただ闇雲に撃った訳ではなさそうだ。」
周囲を見渡しながら話すナギサにメガイラは眉間に皺を寄せる。
「……仮にそうだったとしても、私は許しませんよ。
生存者がいても被害者はゼロではありません。
皆……明日だって生きたかった筈です。笑い合っていたかった筈です……」
そう言いながら手を握り締めるメガイラを見てナギサは笑みを浮かべる。
「あぁ……メガイラ、許さなくていい。
私もこんな非道、許すつもりは無い。
……次に会う時は必ず奴を仕留めるさ。
───ただ、実際ロード・テスタメントは無差別に攻撃を仕掛けてきている訳では無い。
世界中の軍事施設の破壊後、どう動くかは未知数だが……
奴らには奴らなりの戦う理由がある……そう感じたんだ。」
ナギサはエオスの消えた空をじっと眺めた。
───
ラボの前ではミレイナとアルテミスが剣と刀で激しい剣戟を繰り広げていた。
二人の剣戟を見ていたディアナとソフィアは思わず息を飲む。
どちらも自身の間合いに入れば即死級の一刀を放ち、それを神技の如くいなし次の一手を放つ。
西洋を思わせるアルテミスの剣と極東を思わせるミレイナの刃……そのどちらも日々研鑽を重ね遂に至った異なる頂の力。
しかし───千年先を行くアルテミスのパワードスーツとの性能差にミレイナは徐々に競り負け始める。
「くっ……!!」
「───流石は旧文明最強の剣技を誇るメカニカルワルキューレ・アテナ!まさか我が出力で押し切れないとは!
先ほどの無礼、貴女の剣に免じて許しましょう!」
アルテミスはミレイナのサムライソードを下からかち上げ、ミレイナは咄嗟に後方に飛び一度体勢を整える。
気が付けば呼吸をする暇もなく攻撃を放っており、ミレイナが呼吸を再開すると微かに目眩が起きる……軽い酸欠状態になっていた。
ミレイナは歯を食いしばって自身の身体に喝を入れ再び刃を構え直す。
「───無礼……?
命の重みも理解出来ず、誤った正義を翳す貴女達ロード・テスタメントに許される筋合いはありません!
……マザーだか何だか知りませんが、文明を滅ぼそうとするコンピューターを神のように崇拝している貴女達の気が知れません!」
ミレイナは息を整えながらもアルテミスに言い放つ。
───そしてミレイナの発言を受けたアルテミスは青い瞳に鋭い光を宿す。光と共に、瞳の向こうにドス黒い闇が灯る。
「……そうですか。
───一度は許しましょう。
人は間違える生物、まして旧文明の……データインプットすらされていない知能レベルでは言葉を選ぶのも一苦労でしょうから……
しかし───」
「───二度は与えません。」
アルテミスは突如テレポートし絶対必中の間合いに飛ぶとミレイナを切り捨てた。
突然の攻撃……ミレイナは何が起きたのか理解する間もなく崩れ落ちた。
一拍遅れて周囲に凄まじいソニックブームが轟き、アビーター達が弾け飛ぶ。
「まずは、一人……
マザーの崇高さも、その真意も分からぬ無知蒙昧、万死に値すると知りなさい。」
アルテミスは静かに言うとミレイナに背を向けた。
「ミレイナ!!?よくも……!!」
ディアナがアルテミスの頭部をロックオンし、ソフィアがスラスターを吹かせアルテミスに飛びかかろうとした時……
「待って……ください!!」
ミレイナは再びサムライソードを杖代わりに起き上がる。
「……まだ起き上がれるのですね。
メカニカルワルキューレの防御性能……侮りすぎましたか」
アルテミスは再びミレイナに剣先を向ける。
先ほどまでの笑顔は消え、冷たい瞳でミレイナを見下ろしていた。
そして再びミレイナに剣を振り下ろそうとした時、上空から無数のビームがアルテミスとミレイナの間に振り注いだ。
ディアナとソフィアが空を見上げると救援要請を受けていたルキアとノアが駆けつけていた。
「なんとか間に合いましたね……ルキアとノア、これより加勢します!!」
───しかし、アルテミスはルキア達の遥か先、宇宙の方に視線を向け、つまらなそうにため息をこぼす。
「新手……五対一は流石の私でも分が悪いですね。
アビーター達も思わず破壊してしまいましたし……
───仕方なし。
どうやら戯れは此処までのようです。
───ネメシスめ……詰まらない愚策を……」
アルテミスはそう言いながら剣を収める。
「───どうせ消える儚い命……最後に戯れをと思ったのですが……
───もしまだ生きていたらその時は、また決闘しましょうアテナ……いいえ、ミレイナ。」
アルテミスはそう言い残してテレポートしていった。
アルテミスの姿が消えるとミレイナは意識を手放し身体を傾けていく。
そんな彼女をソフィアがそっと抱きかかえた時、ラボの管制室からコトネの緊急通信が木霊する。
「メカニカルワルキューレ各位!!
大変です!!上空……宇宙から超高エネルギー反応を検知、エネルギー反応なおも増大!!
距離は……一九万二千二百km!!
エネルギーの周波数からロード・テスタメントの母艦クラスと推定!!
───目標の攻撃予想地点は……ここ、ラボです!!」
───
ネメシスはラボに主砲の照準を合わせると赤い瞳に微かに涙を浮かべていた。
「もはや、一刻の猶予もないのだ……このままではやがて……全ての世界は無に帰る。
───許してくれとは言わない。
だが……頼む……全てが手遅れになる前に……
───滅びてくれ……メカニカルワルキューレ。」




