第204話 無限の目
ナギサ達とミレイナ達が同時に戦いを始めようという時、エリスは位相空間移動母艦アズガルドの中でネメシスに対して口火を切ろうとしていた。
───この過去は違う、この世界を破壊したとしても私達の世界線の未来には何ら影響を与えられない……故に即刻作戦は中止し、一度未来に帰還しマザーの指示を仰ぐべきだ……と。
エリスが口を開こうとした、その瞬間──。
ネメシスの後方からエリスの名を叫びながらパンドラが突っ込んできた。
「エェリィスゥウウウ!!!
この……裏切り者がぁ!!」
「なっ……パンドラっ……!!」
突然のパンドラの奇襲をエリスは腕をクロスして受け止めるも凄まじい衝撃で後方にそのまま押し込まれる。
「なに……防いでやがる!!私の顔思い切り殴りつけておいてさ!!
───めちゃくちゃ痛かったぜクッソ裏切り者!!」
パンドラの顔の傷は既にナノマシン治療により完治していた。
しかし───理由も分からずに殴られた事、マザーの命に背こうとしている事……
そして何よりも、鼻を折られ自身の止まらない血を見た時……このまま死ぬかも知れないという恐怖を自身に植え付けたエリスへの怒りは最高潮に達していた。
「……お前だけずるいだろ!お前も死ぬかも知れない恐怖を……味わえよ!!」
パンドラは叫ぶと自身の攻撃を防いでガラ空きになった腹部に膝蹴りを放った。
「かっ……!?」
鋭い蹴りにエリスは一瞬意識を失いかけガードを弱めてしまう。
それを見たパンドラはすかさずエリスの頭を掴むと後方の柱に叩きつけた。
叩きつけられた衝撃で柱はひしゃげ、エリスはその場に座り込む。
そんなエリスにパンドラが追撃をしようとした時……ネメシスが彼女の腕を掴んだ。
「───そこまでだパンドラ……君の怪我に対しての復讐は、既に済んだだろう。」
「ネメシス……クソ!!離せ!!離しやがれ!!私は……まだっ……!!」
「……これは命令だパンドラ……分をわきまえろ。」
ネメシスの"命令"という発言にパンドラは彼女を睨みつける。
「ロード・テスタメントに……同じデウス・エクス・マキナに階級は無いはずだ……マザーに気に入られてるからって……誰がテメェの命令なんか……!」
パンドラの叫びに対しネメシスは何も言わず、ただパンドラの腕を掴む手に力を込めた。
「……二度は言わない。引け。」
するとパンドラのパワードスーツは音を鳴らしながらひしゃげていく。
腕をパワードスーツ事圧迫されたパンドラは悲痛なうめき声を漏らす。
「ひぐぅ!?は、離せ……痛……離して!!」
ネメシスが無表情のまま腕を離すとパンドラは腕を押さえ悔しそうに顔を歪めながらも後ずさる。
そんなパンドラを他所にネメシスは意識の朦朧とするエリスの前にしゃがむと彼女の頭にそっと手を翳す。
「……エリス……君があの少女を助けたいという気持ちは理解した。
───しかし……君がメカニカルワルキューレに技術を託したのは最悪の悪手だった……それは救いとは真逆の愚行……過ち。
───全て忘れなさい。
私達ロード・テスタメントはただ、マザーが与えた"この世界の技術を全てデリートする"という任務にだけ専念すれば良いのだから。
それが、この世界を救う……唯一の方法なのだから……」
ネメシスは優しげな声と共にエリスの記憶を消去していく。
自身の記憶が消されていくのを悟ったエリスは消えゆく意識の中、ネメシスが次に行おうとしている事を悟り、ハカセ達に通信を送った。
月と地球の間にロード・テスタメントの母艦アズガルドがあり、その主砲がラボへ照準を合わせた……という事。
そして……自身の記憶は消され、おそらく次に対峙する時は敵だという事。
最後に……
──ごめんなさいエリー。約束守れなくて。
……と。
そこでエリスの意識は完全に途切れた。
───
怯えたようにその場から地球にテレポートしたパンドラの方をしばらく見た後、ネメシスはエリスを優しく抱きかかえると一人彼女をベッドに運んでいく。
エリスを抱え歩きながらネメシスの脳裏に浮かぶのは
──未来世界でネメシスだけがマザーブレインから見せられた光景──
何故、マザーブレインが未来世界において地球全土を装甲で囲い、人類種を冷凍保存するという暴挙に出たのか。
それは……宇宙の果て───或いは常に私達の隣に存在し、こちらをじっと見つめる世界の終わり。
いつから存在するのかは分からない、けれど宇宙が生まれるよりも前から存在する、星々を……行き過ぎた文明を喰らうもの……。
霊長種の細胞に深く刻まれた、闇を恐怖する起源……
───暗黒の宇宙に……暗闇に溢れる……無限の目。
ネメシスは身震いしながらポツリと呟く。
「……この世界が滅びを迎える前に……無になる前に……文明をデリートしなければ。」
コズミックホラー!!




