第202話 未来を超える強者達
月を背に宇宙に浮かぶ箱舟……アズガルドの中央でネメシスはリリィ達にペルセポネが倒されるのを無表情で見つめていた。
「……そうか……デウス・エクス・マキナを倒す……か。」
ネメシスは一人、玉座を思わせる船の制御装置に座りながら何処か物悲しげにゆっくりと目を閉じる。
「───足掻いた所で滅びの未来は変わらないというのに。」
しかし──思い出すのはネメシスがリリィを倒した際に彼女を助けたパワードスーツの兵士……ローレンツと呼ばれた存在の言葉……
──生きろ!最後の時まで足掻け!
……けして自身に向けられた訳では無い。
あくまでリリィを救う為に彼女の仲間が放った言葉でしか無いはずのそれがネメシスの中でずっと繰り返されていた。
そしてネメシスがゆっくりと目を開くと玉座の間にはテレポートしたエリスが立っていた。
「ネメシス……!大切なお話があります!」
ネメシスは彼女を視界に捉えると微かに目を細め、エリスには聞こえない小さな声で呟いた。
「エリス……君の善行という選択は……過ちだよ。」
そう呟くとネメシスは重い腰を上げた。
───
リリィとアリアがペルセポネと戦っている時、別の場所でナギサとメガイラの二人と、新たなデウス・エクス・マキナとの戦闘が始まろうとしていた。
「───そろそろ目標座標です。
ナギサ、移動中にサイサさんから説明のあったメガミドライヴ・リヒトを起動させましょう。」
「あぁ……この力があれば……。」
ナギサは武装スロットへ新たに組み込まれたメガミドライヴ・リヒトに静かに視線を落とした。
ガドルとの戦いでも、ロード・テスタメントとの戦いでもリリィにばかり負担をかけてしまったと、メカニカルワルキューレの皆が思っていた。
「……はい。この驚異的なカタログスペックが事実なら、リリィにだけ強敵と戦わせてしまっている現状を打開出来るはずです。」
二人が顔を見合わせ頷いた、その時だった。
視界の先では、ロード・テスタメントの無人機アビーターが国連の軍事施設を一方的に破壊し暴れ回っていた。
そして、その群れを統括するように一人の少女が空へ佇んでいた。
紫のパワードスーツを身に着けたロード・テスタメントの上位機種、新たなデウス・エクス・マキナだ。
彼女は砲撃タイプなのだろう、圧倒的な火力を持って軍事施設の戦力を跡形もなく破壊していく。
そして、彼女達が引き起こした戦火に巻き込まれた多くの人々の姿を見てメガイラが叫ぶ。
「お前達……やめろぉおお!!」
そしてサイサに託された力を二人が解き放つ。
「「キズナシステム!オールエンゲージ!!メガミドライヴ・リヒト起動!!」」
叫びと同時にメガミドライヴからリヒトに置換され、彼女達の装甲はその色を変える。
メガミドライヴのコアである魔力結晶とイノセントクリスタルが互いに共振しあい無限に等しいエネルギーを生み出していく。
ナギサは金を思わせる鎧に、メガイラはまるで青空の様な水色に染まる。
二人を視認したデウス・エクス・マキナはニヤリと笑みを浮かべると高らかに叫ぶ。
「……現れたなメカニカルワルキューレ!」
彼女はナギサとメガイラを指差して続ける
「私は……泣くAIもフリーズするロード・テスタメントが一柱!」
「……デウス・エクス・マキナ……エオォス!!」
足を大きく開き大地に立ち、腕を組みながら高らかに名乗った。
「なっ……!?」
エオスと名乗るロード・テスタメントの突然の口上にナギサは困惑の色を隠せない。
エオスは再び二人を指差すと叫ぶ。
「まず、私は弱者いじめは嫌いだ!お前達がこのまま引くというのなら私は作戦を優先しこの施設破壊をしたら次の場所に向かうつもりだ!」
エオスの叫びを受け、ナギサの表情が変わる。
「ほう……弱者と来たか。」
ナギサはゆっくりとサムライソードに手を伸ばす。
「……弱者いじめは嫌いと言っておいて、自らの砲撃で一般市民を巻き込んでるくせに……!」
メガイラは叫びながらレイピアを構える。
「うむ……我が攻撃はなかなか加減が難しいゆえな、
……多少の些事は許せ。」
「───些事……だと?」
エオスの発言を聞いたナギサの眼光が鋭いものになる。
ナギサは軍隊に所属している人間が戦火により命を散らす事は、ある意味仕方の無い事だと思っていた。
武器を手にした以上、命を奪うこともあれば、奪われることもある。
それはある意味、戦場の摂理だと。
しかし──無辜の人々は別だ。
彼ら彼女らはエオスの言う弱者であり、力ある者が守るべき者たちだ。
ナギサはメカニカルワルキューレと言う力を、そんな人々を守る為にあると考えていた。
故に、このエオスと言う"敵"とは絶対に分かり合えないと悟った。
「───一つ、忠告をしてやろうエオス。」
ナギサは刀身が眩く光る二振りのサムライソードを構えながら告げる。
「───貴様の前に立つ我らメカニカルワルキューレは
───貴様を……未来をも超える強者達だ、とな。」




