第200話 新たな力、ヘル・バースト
リリィ達がそれぞれの決意を新たにした時、コトネが緊急の通信を割り込ませて来た。
『ブリーフィングのところすみません!緊急の連絡です!
ラボにロード・テスタメントの上位機種と思わしき機影接近!更に同時に二箇所にも同等の反応を検知!
なお、一機は真っ直ぐそちらに向かっています!』
コトネが叫ぶと同時、リーナの研究所に緊急アラートが鳴り響く。
それは、何かがこちら目掛け飛んでいることを示していた。
リーナがモニターを操作すると、敵影が拡大表示された。
「新手か!」
ナギサがモニターに映された敵機を見ながら叫ぶ。
「あれは……ペルセポネ……っ!」
エリスは敵の姿を確認すると顔を歪ませながら呟いた。
エリスの呟きを受けたハカセはモニターに映る容姿淡麗な淑女を思わせるロード・テスタメントを見つめ呟く。
「ペルセポネ……?」
「えぇ……ロード・テスタメントが一柱ペルセポネ。
容姿こそ美しいですが……他者をいたぶること、他者が苦痛に歪む姿に快楽を見出す、極めて残忍な兵器です。」
エリスの発言を受けアリアは自身の拳と拳をぶつけるとニヒルに笑う。
「上等だぜ……未来パワーでパワーアップしたアリアさんの力……その残念な奴にぶつけてやるよ。」
格好良く言い放ったつもりだったがメガイラはアリアに突っ込む。
「……格好つけているところ恐れ入りますが……残念ではなくて残忍ですよアリア……」
メガイラの突っ込みを受けたアリアを皆が見つめるも、アリアはこちらに背を向けたまま、恥ずかしそうに肩をプルプル震わせていた。
リリィはそんなアリアの後ろ姿を見て笑みを浮かべつつ彼女の隣に立つ。
「───大丈夫。
あのペルセポネにとって残念な結果にしてやろうよアリア!
アリアと私、最高のバディの二人で!」
そんなリリィの叫びにアリアは満面の笑みを浮かべると元気に返した。
「おうよ!」
────
ペルセポネはとにかく刺激が欲しかった。
薄暗い灰色の空、笑顔も、街の喧騒もない全てが静止した未来の世界では味わえなかった刺激。
未来ではただマザーの命令に忠実な、詰まらない優等生でしか無かったエリスがロード・テスタメントを裏切ってパンドラを殴り飛ばしたという事実に思わず胸が高鳴っていた。
過去の世界には彼女を狂わせるだけの何かがある。
規則ばった秩序なんて詰まらない。
もっと……もっと強い刺激を。激しい混沌を。
ペルセポネがリーナの研究所へ一直線に飛翔していると、中から二つの反応が飛び出した。
───翡翠の輝きと赤い輝き……
MV-01ヴァルキリーとMV-02ヘル。
旧文明における、ロード・テスタメント、メカニカルワルキューレ……
「あはっ……早速現れてくれたわねぇ……
───さぁ、楽しい楽しいショーと行きましょう?
惨めったらしく滅びから藻掻く旧文明の同類さん達?」
───
出撃しようとするアリアとリリィに続いてナギサ達も出撃しようと後に続くも、それをアリアが止める。
「……ここは私達二人でなんとかする。
ルキアとノアはラボの方を、ナギサとメガイラはもう一箇所の方を頼む。」
しかし、アリアの発言を受けたナギサは怒鳴り声を上げる。
「アリアお前……!分かっているのか!敵はあのロード・テスタメント何だぞ!おふざけや酔狂で遊んでる場合じゃ……!」
「───遊んでなんかないぜ。
敵は三箇所を同時に攻撃しようとしてるんだ。
───皆を守るのがアタシ達。ならさ……これが一番の手だろ?
へっ……安心しろよナギサ。
アタシ達は泣く子も黙るアリアさんとリリィの無敵バディだぜ?
絶対勝つさ。」
そう言いながらアリアはウインクして見せる。
そこにサイサがフォローのため割って入ってくれる。
「大丈夫よナギサ。貴女達は私が全力でサポートするわ。
私が託したベータ世界の力……存分に振るいなさい。」
サイサの言葉を受け、ナギサは一度歯を食いしばるも力を抜いてアリアとリリィを抱き締め伝える。
「……ならばアリア、リリィ……生きろ。
絶対に死ぬな。
私も……お前達が居ないと、寂しいから。」
初めて聞くナギサの思いにリリィとアリアは笑顔で頷いた。
───
「はぁい、始めましてメカニカルワルキューレさん達ぃ……
私のお仲間、エリスがお世話になってるみたいだから挨拶に来てあげたわよぅ?
……でも……遊んでくれるのはぁ……貴女達二人だけなのぉ?」
ペルセポネはリリィとアリアを見てニコニコしながら語りかけてくるが、笑っているのは顔だけ。
全身から漂う殺気は、まるで獲物を目の前に舌なめずりをする捕食者そのものだった。
豊満な女性らしいボディライン。
整った顔立ちはまるで聖母を思わせるのに
───その顔はただ笑顔を模った無機質なお面を思わせた。
ペルセポネの放つ威圧感に思わず半歩後ろに下がってしまったリリィの背中をアリアが支える。
「……最近はリリィに守られてばっかりだったよな。」
アリアはそう呟くとリリィの前に立つ。
元々はリリィを導く立場だったはずなのに、気が付けば守られることの方が多くなっていた。
戦闘技能でも先を越され、スーパー・メガミドライヴを動かせる唯一のワルキューレになったリリィに対して、少なからず……いや、かなり嫉妬していた。
でも……それでも、その嫉妬が憎しみに変わることはなかった。
だって……どんなに苦しくても絶対に諦めず絶望を希望に変えてきた……そんなリリィが大好きだったから。
「あぁ……悪いなペルセポネ。アンタの相手は私達で十分なんでな。」
アリアは不敵に笑うとペルセポネに返す。
「…………ふぅん」
ペルセポネは表情こそ変えなかったが、少し声色が低くなる。
旧文明の遺物、メカニカルワルキューレ風情、例え逆立ちしたとしても勝ち目のないはずの原始人にまさか二人で十分と返されるとは思わなかった。
対等な戦いではなく、一方的な凌辱ショー。
これからペルセポネが行おうとしていたのはそれだった。
だと言うのに……見下している相手から馬鹿にされるのは、癪に障った。
その時、研究所からエリスや他のメカニカルワルキューレが空に飛び上がるのがペルセポネの目に入った。
「本当に……貴女達だけで私の相手をするつもりなのねぇ……
───舐めてるのかしら。」
ペルセポネはリリィ達ではなく、研究所から飛び立った他のメカニカルワルキューレ達にビームを放つが、リリィとアリアがそれを正確に全て撃ち抜く。
「おいおい……だからテメェの相手はアタシ達だって言ってんだろうが……"おばさん"」
「……は?」
ペルセポネはそこで初めて表情を変える。
呆然とアリアの方を凝視する。
──────今、この金髪のガキは……何と言った?
「……聞こえなかったのなら何度も言ってやる。
───テメェの相手は私達だよ!"ババア"!!」
アリアはクローを構えて叫ぶ。
そんなアリアの隣でリリィもソードを構えた。
「ふ……ふふふふふふ!!!
……ぜってぇぶっ殺してやるよ下等な原始人どもぉ!!」
ペルセポネは激しい怒を顕にすると二人めがけ突撃して来た。
爆音と共に地面をえぐりながら迫るペルセポネは、まるで大蛇の様だった。
それを既で左右に飛び退き回避するとアリアとリリィは同時に叫ぶ。
「サイサ!」「サイサさん!」
「ペルセポネのヘイト管理、感謝するわアリア……
───さあ、反撃の時間よ!!
メガミドライヴ・リヒト……転送!!」
サイサが叫んだ瞬間、リリィとアリアは眩い光に包まれる。
「……はっ?な、何っ……眩しっ……!?」
ペルセポネは突然の強力な光に思わず視界を手で覆う。
そして光が落ち着き、ゆっくりと手を下ろして驚愕した。
先ほどまでは鋼鉄を思わせる銀色だったはずなのに翡翠の輝きを放つヴァルキリーの鎧と、
同じく銀色の鎧だったはずなのに真紅に染まったヘルの鎧……
───リリィとアリアが未来のデータには存在しない、新たな形態へと変化していたから。
───姿だけでは無い。
測定したエネルギー出力は先ほどのおよそ十倍……
目の前の二人はロード・テスタメントにすら引けを取らない、圧倒的な威圧感を放っていたのだ。
「……あ、貴女達は……いったい……ただ、無様に滅びるだけの歴史のはず……!!」
アリアはペルセポネの反応にニヒルに笑うと高らかに叫ぶ。
「───MV-02ヘル改め、ヘル・バースト!!
……さぁ、アタシら過去の反撃の時間だぜクソったれ未来!!」
アリアは長い髪を一つに縛りポニーテールにすると真っ赤に染まった新たな鎧でクローを構える。
そして、リリィも鋭い瞳で真っ直ぐペルセポネを捉えた。




