第199話 ガンマ世界線
リリィはエリスが空中に展開した異なる世界の歴史……ガンマ世界線で起こった事象を目に焼き付けていた。
途中までは自分達と寸分の狂いも無く同じ歴史を辿っていた。
家族をプロメテウスのテロで失い、自身も巨大兵器に捕らえられようとした時、空からアリアが駆けつけ自身を助けてくれて……
リリィがメカニカルワルキューレとなった。
様々な出来事が起こりながらもアリア、ディアナ、そしてメガイラと心を通わせ始め、ようやく自身も新たな居場所を見つけたと思った矢先、それは起こった……
───アスラの攻撃でアリアが息絶えた。
此処から、世界は明確に分岐した。
大切な仲間を失ったメカニカルワルキューレは明確にラクシャシーとアスラを殲滅すべき敵として戦った。
そして……激しい戦闘の末、ラクシャシーとアスラを殺してみせたのだ。
既にアスラは全ての四肢をメカニカルワルキューレ達に切断または破壊され、ディアナ達が頭を吹き飛ばし殺害。
残るラクシャシーも相棒を殺された怒により力の増したリリィを前に両足を失い地面にへたり込んでいた。
『は、はは!さぁ……思いのまま殺せよヴァルキリー!!殺っ……』
ラクシャシーは口から血を吐きながらも笑みを浮かべリリィに叫ぶ。
『……言われなくても。』
そして……リリィは……私は、何の躊躇いも無く無表情のままラクシャシーの首を撥ねた。
私が……明確に自分自身の意思を持って、敵を切り捨てていた。
───だって……
───その時の私の表情は、とても楽しげだったから。
────
「っ……!」
リリィは思わず顔を顰める。
自身の中にあのような加虐性が内包されている事が信じられなかった。
その後のガンマ世界線のメカニカルワルキューレは……はっきり言って悲惨だった。
メカニカルワルキューレは軍事組織然とした誰も笑わない、世界の規律を守る為圧倒的な性能を持って世界の軍事施設を破壊する組織に成り果てていた。
───たった一人。
アリアが失われるだけで、此処まで世界は変わるのかと。
───たった一つの死が、世界そのものを変えてしまっていた。
誰一人として言葉を発せなかった。
そんな沈黙を破るように、サイサがリリィの肩へそっと手を置く。
「……ね?……この貴女達の世界……アルファ世界がいかに儚く尊いものなのか、よく分かったでしょう?」
サイサはリリィを励ましながらその場の皆に呼びかける。
「───このデルタ世界線だけじゃないの、他の様々な世界線を私は観測してきたけれど、この世界だけよ。
───誰もが笑いながら家族として、世界を守るメカニカルワルキューレとして存在しているのは。
だからこそ……私はこのアルファ世界を守るわ。
───例え、どんな敵が相手でもね。」
そのサイサの言葉にエリスが答える。
「……滅ぼしに来た私が言うのもおかしな話ですが……誤った作戦とあらば、必ず仲間達を止めてみせます。」
エリスはエリー達を見つめながら返す。
「……まぁあれだ。死んでたかも知れないアタシが言うのもあれだけどさ……
要は……皆で掴もうぜ最高の未来って事だよな?」
アリアがキョロキョロとしながら言うものだから、ハカセをはじめその場の皆が思わず笑う。
リリィも先ほどまでの暗い顔から、明るさを取り戻していく。
「そうだね……やっぱりアリアが居ない世界は嫌だもん。」
リリィの言葉にナギサとメガイラ、ルキアとノアも力強く頷く。
ハカセはそんなワルキューレ達を見て笑みを浮かべると一歩前に出た。
そんなハカセの背中をサイサは温かな瞳で見つめる。
そしてリーナの端末を操作してラボに通信を送った。
「───メカニカルワルキューレ各位……皆、これから詳しくは資料に纏めるけれど、消えた未来を取り戻すための希望が見えて来たわよ。
───異なる世界からサイサとエリス、二人が協力者として技術提供を行い、ロード・テスタメントの作戦阻止にも力を貸してくれることになったわ。
ロード・テスタメントによる全世界の軍事施設への攻撃は未だ続いている……けれど、此処からが私達、メカニカルワルキューレの正念場よ。
エリスがロード・テスタメントの指揮官、ネメシスへ作戦中止を働きかけている間、貴女達は全力で世界の全てを救ってちょうだい。
私の知っている貴女達なら、きっと出来るはず。
───信じているわ。」
ハカセの言葉にラボからディアナやミレイナ達待機組のメカニカルワルキューレ達の声が返ってくる。
───更に
『───まかせてよハカセ……私も……隣のキュベレさんもハカセの声聞いて飛び起きたわ。
私達の大好きなこの世界……私達メカニカルワルキューレが絶対守ってやるんだから!』
アビーターの攻撃で倒れていたフィレアとキュベレが通信に割って入って来た事で、妹の復活を知ったルキアは思わず涙を浮かべノアに抱きつく。
皆が思い思いに未来を見つめているのを見てエリスは胸の前で小さく手を握る。
そこにエリーが駆け寄りエリスのお腹に抱きつく。
エリスはそんなエリーの頭を優しく撫でながら呟く。
「……ごめんねエリー。貴女達のお家も先生達も守れなくて。」
「ううん……お家は皆でまた直すもん!
エリスお姉ちゃん悪いやつと戦ってくれたんでしょ?
皆元気だから大丈夫だよ!
───だって、皆笑ってるでしょ?」
エリーが辺りを指差し、それをエリスは見る。
───本当に、皆が笑っている。
その価値は私には分からないけれど……
「うん……なんだか……温かいね。エリー。
──絶対に、守るからね。」
エリスは優しい笑顔でエリーを抱きかかえた。
そんなエリス達を見てリリィも笑みを浮かべる。
───皆の笑顔を見て、そして敵だったエリスまでもが変わり始めた姿を見て、世界滅亡という未曾有の危機を前に、ただ指を咥えて見ていることしかできなかった国連事務総長───ソーマは、量子コンピューターが描いた真っ黒な未来を、彼女達なら、メカニカルワルキューレなら変えられるかもしれないと確信する。
────しかし……
ベータ世界とデルタ世界線の技術提供という奇跡を受けたにもかかわらず量子コンピューターは未だ、滅亡へのカウントダウンを淡々と続けていた。
───アルファ世界線滅亡まで、後一ヶ月。




