第196話 無駄ではない
ミレイナはフィレアとキュベレの眠る治療室の前で拳を握り締めていた。
謎の敵をソフィアと二人でなんとか撃退し、そのままエネルギー切れで倒れたミレイナとソフィアの二人は気が付いた後ナギサからラボの警護を任されていた。
メカニカルワルキューレ姿のままミレイナはフィレア達が眠っている姿をただじっと見つめる。
───自分がこれまで磨き続けてきた頂にすら届くはずの刃が敵の……それも無人量産機にすら届かなかった現実に思わず歯を食いしばる。
リリィがスーパー・メガミドライヴの力で敵の無人機……アビーターを倒したと聞いたが、そのリリィすら敵の上位個体、ネメシスの攻撃に倒されたと聞き、もはやこれから先、自分がどうすれば良いのかをミレイナは見失いかけていた。
───積み上げてきた全てが無意味だったのではないか──そんな考えすら頭をよぎった。
そんなミレイナの元にソフィアが歩み寄ってくる。
「……まさか遥か未来の技術を持つ敵が相手だったとはね……仲間が誰も死ななかったのは……ある意味奇跡じゃないかしら。」
ソフィアはそう言いながらミレイナの隣に立つと寝ている二人を眺めた。
「……この二人も、傷こそ深いけど経過は順調みたいだし……どうやらハカセ達はこれから敵……ロード・テスタメントの一機と話をする機会を得られたらしいわ。
……結果が出るまで私達はラボで待機ね。」
普段であれば元気に返してくるミレイナが返事を返さなかった事でソフィアはミレイナが何を感じ、思っているのかを察した。
「……まだ、諦める時じゃないわよミレイナ。」
ソフィアの諭すような発言にミレイナは目覚めてから始めて声を荒げた。
「私達の……私の努力は、何も意味が無かったんですよ!?
この前のガドルにも成す術もなく倒されて、その時もリリィさんが奇跡を起こして助けてくれて……今回は量産機にすら届かなかった……!!
私のこれまでの努力は何の……!!」
ソフィアの両肩を掴みながらミレイナは叫ぶ。
ソフィアは黙ってその瞳を見つめ──
そんなミレイナの頬をソフィアは叩いた。
乾いた音が、通路に響いた。
ミレイナは叩かれた頬に手を当てながらソフィアの顔をじっと見つめ返す。
「アンタ……辛いのが、悔しいのが自分だけだとでも思ってるの?
私だって……悔しいに決まってるでしょ!
私だけじゃない……今眠ってるフィレアだって、キュベレだって、リリィさんだって……メカニカルワルキューレの皆が悔しいに決まってるでしょ!!
───それにリリィさんがガドルを倒したのはけして奇跡なんかじゃ無いわ……
ハカセとリーナさん……それに今は亡きサイサさんがスーパー・メガミドライヴという可能性を作り、リリィさんがそれに応えたから成せた事よ!」
ソフィアはそこまで言うとミレイナを優しく抱き寄せる。
「……大丈夫。
貴女の努力の凄さは皆ちゃんとわかってる……
ロード・テスタメントの量産機……アビーターを今の技術で倒せたのは、スーパー・メガミドライヴを持つリリィさんを除けば……貴女と私のコンビだけだったそうよ。
私達の偉業をちゃんと誇りなさいミレイナ。
───貴女の剣は……未来に届いた。」
ミレイナはその言葉を受け、瞳に輝きを取り戻す。
「あ……ご、ごめんなさいソフィアさん!わ、私っ……!」
突然慌てふためくミレイナを見てソフィアは思わず笑う。
「ふふっ……謝る暇があるなら万全の状態でハカセ達の続報を待つわよ。
……どうやら異世界の強力者から技術提供があったらしいの。
未来技術にも届きうる力……
───大丈夫。
私達はもっと……もっと強くなれる。
───皆を守れるよミレイナ。」
二人が笑顔を浮かべ抱き合った時、治療室のフィレアの瞼が微かに動いた。
───
エリスはリーナの部屋に招かれ、そのまま彼女と対談していた。
「まずは……はじめましてかしら?
私の名はアヴェリーナ・アレクサンドロヴナ。
先ほど貴女が助けてくれたラクシャシーとアスラの開発者にして今はメカニカルワルキューレの協力者をしております。
───まずはじめに、あの二人と孤児院を守って頂いたこと、心より感謝を申し上げますわ。」
リーナは目の前のロード・テスタメントに臆することも無く、車椅子の状態で深々と頭を下げた。
「……貴女……足が……」
エリスは始めて見る下半身不随という症状に息を飲む。
「えっ?……あぁ、貴女の居た未来では珍しいかしら……これは私の脳の障害で、孫の……この身体は元気なのですが……」
リーナは少しだけ苦笑いを浮かべながら自身の足を擦る。
するとエリスは片膝をついてリーナの足と身体を詳細にスキャンした。
「───なるほど……本来電気信号を伝達すべき脳から脊髄神経にかけての細胞発達の遅れによる脚部への不具合……ですね。
……何故、修復しないのですか?」
エリスは当然の疑問の様にリーナに問いかける。
「え、えぇ……治せるものなら治したいのですが、今の医療技術では神経組織の完全修復は実現出来ておりません。
ましてこの身体は本来私のものでは無くて……現状治療は難しいのです。
……お見苦しいものを見せてしまい申し訳ありませんわね……。」
リーナの落ち込んだ表情を見てエリスはため息をつきつつ、誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
「……これでは……弱いものいじめ……ね。」
そう言いながらゆっくりと立ち上がりエリスは辺りを見渡す。
「───それで……ハカセ、というメカニカルワルキューレの責任者はどちらですか?
此処にいると彼女達から聞いたのですが……」
───その時、扉が開かれた。
「───待たせてしまってごめんなさいねロード・テスタメントのエリスさん。
───少しメカニカルワルキューレと情報共有をしていたの。」
扉を開きながらハカセとその後ろからサイサ、そして緊張した面持ちでメカニカルワルキューレ達がハカセの警護の為にリーナの部屋に入ってくる。
しかし───エリスはハカセの姿を視界に捉えた瞬間、目を見開きながら呆然とした表情でポツリと呟いた。
「───マザー……?」
彼女の発言にその場は静まり返る。
「ハカセが……マザー?」
リリィは困惑の表情でエリスとハカセを見つめた。




