第195話 この子たちもまた兵器……のはず
両手を拘束する器具の強度を推測しそれが自身の力で簡単に破壊可能な物だと理解しエリスはため息をつく。
「……もしかしたら、舐められてるのかな……私。」
エリスは仲間を……パンドラを殴った事を後悔していた。
あの時の私は明らかに感情が制御できていなかった。
……ただ、エリーの明日を守りたい……奪う為に過去に来たはずなのに、そう……思ってしまった。
「私のおかげで……か。」
エリスは先ほどサイサに言われた言葉を復唱した。
未来ではこんな事一度も無かった為、もしかしたら未来には存在しない未知の病原菌にでも感染したのでは無いかと自身の肉体をスキャンしたが、そもそも特殊コーティングにより外部のウイルス等が自身に入らない事を頭では理解していた為、無駄な考察だとエリスは再び天井を仰ぐ。
「……と言うか、敵を監視するにしても……この子たち何してるの?」
エリスはチラリと扉を見るとそのまま扉を透視し、扉の向こうに張り付いている四人のメカニカルワルキューレ達を訝しげに見る。
おかしなポーズで重なりながら耳を貼り付ける様はもはや滑稽にすら映る。
そんな彼女達から視線を離すとエリスは再び思考する。
───メカニカルワルキューレ……マザーから与えられた情報では、"魔力結晶"と言う物質をコアとするエネルギー機関"メガミ・ドライヴ"と言う、既に未来では廃れた、使用者の素養により性能の変化をしてしまう不安定なロストテクノロジーを使った旧世代の兵器と言う認識だ。
しかし───MV-01ヴァルキリー……リリィという少女が装着するメカニカルワルキューレは、未来のデータに記録されていた性能を遥かに上回り、ロード・テスタメントの使役する無人機"アビーター"すらも単騎で落としてみせた。
そして……エリーを始めとした子供達の保護を行っていた二人……名をラクシャシーとアスラと言うらしいが、彼女達すらもそのヴァルキリーと同等の性能を持っていた。
この二人に関しては、そもそも未来のデータには存在すらしていなかった。
更に、自身を尋問した白いメカニカルワルキューレ
───サイサ。
彼女もまた、未来のデータには存在しない人物だった。
「……確か、サイサとかいうワルキューレ……別の世界から来た……と言っていたっけ……本当に、何が……どうなって……」
エリスは自身に起きた説明不可能な異常と、マザーの歴史データとの乖離にため息を零す。
未来においてマザーの情報に齟齬が生じた事は一度もない。
だからこそ、この異変は看過できない。
今起きている異変に対し、改めてこの過去の時代と未来の情報を照らし合わせる必要があるとエリスは考えていた。
その結果次第ではこの過去を滅ぼすと言う作戦自体即刻中止すべきだと……。
エリスがそう自身の考えをまとめていたその時、何やら部屋の騒がしくなった事に気付く。
チラリと扉を見ると、どうやら外でメカニカルワルキューレ達が騒いでいるのが分かった。
「───いや、……ロード・テスタメントってやっぱロボットじゃないか?だって未来だぜ未来。すげぇ未来ならやっぱロボットだろ?スリープモールド突入したんだよきっと。」
アリアは扉の奥から音がしなかったため詰まらなさそうに扉から耳を離すと唐突に持論を述べた。
だが───この時代ですら人型ロボットは珍しくない。
未来だからロボットという理屈に、一同は揃って首を傾げた。
「……キュベレの様な人工生命体かも知れませんよ……もしかしたら人を模した外宇宙生命体かも……あと、スリープモールドじゃなくてスリープモードですねアリア。」
メガイラはアリアの間違いを指摘しつつ腕を組み話を広げる。
「でも、修理中のラクシャシーの話だとパワードスーツの中身は普通の人と変わらない柔らかさだったって……。」
リリィは先ほどラクシャシーから聞いた話を伝える。
「……何故、ラクシャシーはヤツの中身の感触を知っているのだ?」
ナギサは当然の疑問を浮かべる。
あの圧倒的な性能を持つロード・テスタメントのパワードスーツの中身を知る機会など、本来無いはずだからだ。
「それが……私にもよく分からないんだけど……ラクシャシー曰く、数日前に突然孤児院の玄関前でエリスが立ってたから、てっきり新人のメカニカルワルキューレだと思って、招き入れたらしいの。
それでエプロン貸したら、特に拒否もしないでそのまま付けて何だかんだ丸一日お手伝いしてくれたらしくて……。」
リリィはそう言いながら扉の向こう側のエリスの方を向く。
「……何を言ってるんだリリィ?
奴らはこの時代を滅ぼそうとしているんだぞ。
そんな荒唐無稽な真似は……しないだろう。」
ナギサはそう言いながら、沈黙したままの扉を見つめる。
「……もしかしたらメカニカルワルキューレの関係施設だと思って潜入したのかも知れませんね……ただ、何故わざわざエプロンを受け取り、あまつさえ子供達と遊んだのか……
そもそも……ロード・テスタメントの仲間であろうパンドラを殴り付けた理由が全く持って理解できません。」
メガイラも腕を組みながらエリスの居る部屋の扉をじっと見る。
エリスは独房の中一人頭を抱えた。
「……当事者の私が……一番分からないわよ……!」
「なあ……それにしてもすごい静かだしさ……
もしかしたら中で寝てるんじゃねーか?
──誰か、中に入ってちょっと小突いてみろよ。」
アリアは遂に突拍子もない事を言い始める。
「もう……やめなよアリア……」
そんなアリアをリリィは宥める。
「……言い出しっぺのアリアがやれば良いだろう。
ほら、お前を一撃で葬れるロード・テスタメントを小突るものなら小突いてみろ。ほらほら。」
ナギサはそんなアリアの背中をグイグイと押す。
「ばっ!!や、やめろ離せ脳筋クソゴリラ!!」
その言葉を残し、ナギサの華麗なアッパーを受けたアリアは宙を舞うとそのまま輸送機の床と一つになった。
そんな二人のやり取りをリリィとメガイラは目を細め、苦笑いを浮かべつつ見つめていた。
───そこにコックピットにいたルキア達からリーナの研究所に到着したと言う放送が輸送機の中に流れた。
「……とにかく、話はハカセ達と、だね。」
───ロード・テスタメント……エリスには聞きたいことが沢山ある。
何故、未来が過去を滅ぼすのか……
そして何故、そんな滅ぼす対象の一人、エリーを仲間を攻撃してまでを助けてくれたのか……
リリィは窓の外に見えたリーナの研究所を見て呟いた。
エリスは扉の外で繰り広げられるあまりにも組織的でない彼女達のやり取りに、ただただ困惑していた。
マザーのまるで宇宙の様に膨大なデータベースを検索しても、過去、どんな歴史の中でもこのような軍事組織は存在しなかった。
「……メ、メカニカルワルキューレって、何なの……?」




