第191話 入り乱れる思い
リリィは改めてローレンツに礼を述べる。
きっと彼らアトラスが助けてくれなければ既にリリィはこの世界には居なかっただろう。
ロゼッタが傍受したロード・テスタメントによる孤児院襲撃の事実を知ったリリィは考える間もなく即仮設ベッドから飛び起きると出撃準備を始めていた。
そして、輸送機の後部ハッチを開くリリィの背中をローレンツはじっと見つめていた。
『ほら、お兄ちゃん!リリィさんに言いたいことあるんじゃないの!ちゃんと伝えないと伝わらないよ!?』
そんな兄をロゼッタは後ろから突くがローレンツは首を横に振った。
「俺は……信じてるから。
リリィなら……メカニカルワルキューレならこの世界を……皆を救えるって。
だから……全部が終わったら……。
───皆が幸せになったその時に伝えるさ。」
そう話す兄ローレンツの真っ直ぐな瞳にロゼッタはため息をつきつつもローレンツの頭を叩いた。
リリィは通常のメカニカルワルキューレを身に纏うと改めて二人の方を笑顔で振り返る。
その真っ直ぐな瞳にローレンツは微笑みを浮かべる。
「じゃあ……ローレンツ、ロゼッタちゃん、孤児院の皆を助けに行ってきます!」
リリィは軽く手を振るとそのまま自由落下する。
そして途中でスラスターを全力で吹かすと姿勢を整えながら飛行機雲と共に孤児院に飛翔した。
リリィが孤児院に向かう途中でアリアが並走して来た。
「よ!リリィ!さっきはありがとな!
───早いとこラクシャシー達の所にいくぞ!」
いつもの笑顔で言うアリアにリリィは笑みを浮かべる。
ロード・テスタメントの強さは身に染みているはずだ。
なのにそんな気配を微塵も感じさせないアリアの様に、リリィは改めてアリアという少女の強さを感じていた。
「……アリアは……怖くない?
……正直……私は今回の敵……凄い怖いの。
……上手く言えないけど、ガドルの時とは根本的に違う……そんな怖さ。」
皆を守りたいのは事実だ。
どんな敵が相手でもけしてそれは揺るがない。
だが、だからと言って自分達を圧倒したロード・テスタメントという"未来"からの侵略者に恐怖心を抱かないかと言われたらそれは違う。
更にネメシスはヴァルキリーすら恐れさせる"神域"なる力を持つ。
リリィはアリアの顔をチラリと見る。
「……正直、今も凄く怖いよ。
───目の前でキュベレがやられてさ。アタシも、リリィが来てくれなきゃ死んでたと思うし……
リリィが助けに行くって言わなきゃ……きっとアタシは飛べなかった。
アタシだけじゃない……他の皆も飛べなかったよ。」
アリアは前を向きながらもその声は沈んでいた。
「でも……さ。」
「アタシ達は仲間の誰かが一人でも飛べるならきっとまた皆と同じ空を飛べる。
───アタシ達メカニカルワルキューレは今までだってずっとそうだったろ?」
アリアはそう言いながらはにかんで見せた。
「───そうね。それが私達よね。」
ディアナとナギサが編隊に加わりながら話を続ける。
「……アリアにしては弱気じゃないか。
お前は猪突猛進が人の形を成した女のはずだが。」
ナギサは片目を閉じアリアを茶化す様に笑みを浮かべた。
「ロゼッタさんがアリアの魔力結晶は猪の様な性質と言っていましたからね。
ナギサの印象はあながち間違いないですね。」
メガイラもクスクスと笑いながら編隊に加わっていく。
そしてノアとルキアが加わり、今動けるメカニカルワルキューレは大空で再び集結した。
「すみません。ルキアとノア、孤児院への救援に参加します」
ルキアは先ほどまで泣いていたのだろう。
目元を赤くしながらもリリィ達に追従して来た。
「ルキアちゃん、フィレアちゃんは……」
リリィは胸を貫かれたフィレアの身を案じる。
自分がもう少し早く動けばフィレアがあんな怪我を負わなくて済んだのではないかと思わず視線を落とした。
「フィレアは……バイタルも落ち着きましたし、ハカセのナノマシンが優秀なおかげで近い内には戦線にも復帰可能かと。
……あれも訓練を積んだ一人前のメカニカルワルキューレです。
……問題ありませんよリリィさん。」
ルキアは戦士然とした表情でフィレアの近況を報告する。
しかし、その震える唇からフィレアが危ない状況だったのは分かった。
「ううん、……戦士としてじゃなくて、お姉さんとしてのルキアちゃんから見てどうだったのかな……?」
リリィの発言を受け、思わず押し黙るルキアの肩をノアが抱く。
「……フィレアはロード・テスタメントの無人機の攻撃を受け、一度心停止しました。」
ノアの発言にその場の皆が目を見開く。
瞬間的にとは言え、一度フィレアが死にかけたという事実に言葉が見つからなかった。
「───ですが、ラボの皆と迅速に対応してくださったダルケンさん達のおかげで今はぐっすりと寝ています。
ありがとうございましたリリィさん……
……ですが……私と姉さんもあんなフィレアを観るのは始めてで……今回の作戦、足手まといになるかも……」
ノアが俯き気味に言った時、それをルキアが遮る。
「いいえ……いいえノア。
だからこそ私達は戦うのよ。
───同じ苦しみを誰にも味あわせない為に……
私達家族の様な悲劇を繰り返させない為に……
だって今の私達には、守るための……メカニカルワルキューレとしての力があるんだから……!」
ルキアの叫びにメカニカルワルキューレの皆が力強く頷いた時だった。
後方から凄まじい速度で白いワルキューレ……
サイサがリリィ達を追いかけてくる。
「ベル……貴女は最高の娘達を育て上げたのね……
世界を守る抑止力……メカニカルワルキューレ……本当に最っ高だわ!」
サイサは言うなりリリィに飛びつく。
リリィは突然現れた未知のメカニカルワルキューレに困惑を隠せなかった。
バランスを崩しながらもなんとか飛行姿勢を整える。
「なっ……!!誰だお前!?」
アリアは突然の乱入者に声を荒げるもサイサはキョトンとした表情でアリアを見返す。
「私? ……ベルを超える天才、とだけ言っておくわ。
───それより孤児院に急……」
遂に孤児院に到着という所でサイサ、そしてリリィ達は黙った。
全員の視界には倒壊し地下シェルターがむき出しになった孤児院とボロボロで倒れたラクシャシーとアスラ。
───そして
「パァンドラァアアアア!!」
ロード・テスタメントにして襲撃者、パンドラが突然現れたの謎の少女の右ストレートを顔面にもろに受け、盛大に鼻血を吹き出しながら吹き飛ばされるという光景が広がっていたのだから。
「───これは……どういうことかしら……?」
サイサは謎の少女……エリスの装備を見て眉をひそめる。
彼女の身に纏うパワードスーツ……
それはこの時代では建造不可能なオーバーテクノロジーの産物。
───ロード・テスタメントの物に間違い無かったから。




