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メカニカルワルキューレ ─未来を取り戻す物語─  作者: ハムスターマン
第四章 ロード・テスタメント編
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第190話 大好きだから、大切だから


左半身に残った僅かな腕で銃口を掴んで離さないアスラにパンドラは不快感と……恐怖心すら抱いていた。



今、自身が対峙しているのは強者等ではなく、ただの気狂いだとパンドラはアスラの認識を改めた。


右半身を失わせたビームガンの銃口を怯むことなく残りの腕で掴むなど狂気の沙汰だと思った。



パンドラはただ呆然としたまま、ビームガンを振り回してアスラを振り解こうとする。




しかし───アスラはパンドラを睨見つけながら必死にしがみついていた。




「……離せ!離せよ!!


……なんなんだよ……たかが人間のなりそこないを狙ったくらいで……なんなんだよお前!!」




パンドラは自身が攻撃すれば一撃で破壊可能であろう瀕死の筈のアスラに気圧されていた。




……もちろん戦闘として見れば誰が見てもパンドラが圧倒していた。




しかし───大切な子供達を守り抜くという覚悟だけは、格上のパンドラすら押し返していた。





「……私は……自分が怪物だと理解している。」



パンドラに振り回されながらアスラはポツリポツリと呟き始めた。




「……私が異形の姿なのは知覚している。」



火花を散らしながらも残った腕と足でパンドラの身体に組み付く。




「……でも。」





「……あの子達は。


そんな私を、綺麗だと……かっこいいと……"先生"と言ってくれた……!だから!」




アスラはこれまでの無表情ではなく、歯を食いしばり、がむしゃらにパンドラを見据える。




「……私達姉妹から……もうこれ以上……!大切な物を何も奪わせない!!」




───それは……生身の身体をプロメテウスに奪われ、記憶を奪われ……人格すら破壊され、人としての尊厳を奪われ続けたアスラの悲痛な叫び。




「あアあぁああァァァ!!」



アスラは雄叫びと共に渾身の力でパンドラのビームガンを引き裂いてみせた。




───だが、そこで完全にキズナシステムβの維持限界を迎える。



強化形態を維持可能なエネルギーが枯渇し、アスラは残りの左半身と足を粉砕されながら投げ飛ばされる。




ラクシャシーは投げ飛ばされ宙を舞った姉を抱きとめると唯一無事だった頭を撫でる。




「……ごめんラクシャシー。負けた。」





「へっ……上出来だよ……姉さん。」



アスラは「ん。」と返事をすると強制的にスリープモードに移行した。



……既に限界を超えていたのだ。




───先ほどアスラがリーナに救援要請を送ってからある程度の時間が経過した。



後少し、後ほんの少しだけ持ち堪えられればメカニカルワルキューレかアトラスの救援が駆けつけてくれるだろう。



ラクシャシーはゆっくりとアスラを地面に降ろすと首でパンドラに空に上がるようにジェスチャーして見せる。



パンドラはアスラに比べて会話の通じそうなラクシャシーに笑みを浮かべるとその誘いに乗り空へと飛翔した。





───






スラム街で小さな兄妹と触れ合ったエリスは、自身に満ちる不思議な気持ちが何なのかを確かめるため……エリーと再び会うために孤児院に向かって飛んでいた。




しかし登録した目標座標からパンドラの物とメカニカルワルキューレと思わしきエネルギー反応が激しい戦闘を繰り広げている事を悟り速度を上げた。




パンドラの放出するエネルギーは今までにエリスも経験の無い……明らかに過剰な状態であり、あの家屋の強度ではこのエネルギーの余波に耐えられないだろう事を察した。




(まさかパンドラがあそこで戦闘を……!


エリー……!!)




───自身がマザーに生み出されてから、初めて自己の容姿を褒めてくれた存在……


利便性や性能ではなく、ただ"優しいから好き"と言ってくれたか弱い人間の未成熟体……"子供"



エリスは生まれて初めてマザーブレインの与えた任務から逸脱した動きをしていた。




考えるよりも先に、身体が動いてしまっていた。




───




ラクシャシーとパンドラは空中で激しい戦闘を繰り広げていた。


ラクシャシーはエネルギーの膨れ上がったパンドラの攻撃が自身に当たれば一撃で破壊される事を悟り、思わず苦笑いを浮かべる。



(昔……私達と戦った時のリリィ達は、こんな緊張状態の中で戦ってたのかねぇ……我ながら……嫌な奴らだこと。)



周囲の雲を吹き飛ばすほどの攻撃の応酬の中で笑みを浮かべるラクシャシーに対してパンドラは聞く。



「あはは!!そんなに私との戦いがうれしい?感激だよ!!」



パンドラの見当違いな発言にラクシャシーは顔を歪めながら口角を上げてみせる。



「あぁ……全く……"最高"だよ……アンタ。」



軽口を叩くラクシャシーだったが、突然スラスターが煙を上げラクシャシーはそのまま地面に叩きつけられる。



ラクシャシーは薄れゆく意識の中、網膜に表示された全システムがレッドゾーンへ到達しているのを見た。




目の前には邪悪な笑みを浮かべ手刀を振り上げたパンドラ───



───ついにラクシャシーが死を覚悟した時だった。




「パァンドラァアアアア!!」



凄まじい叫びと共に鋼鉄に身を包んだ少女……エリスがラクシャシーとパンドラの間に割って入った。





視界に映るのは、エリーを大切にしてくれていた二人の姉妹が、ロード・テスタメントの仲間であるパンドラに破壊されようとしている姿。




その足元には、無残に崩れ落ちた孤児院。




───エリーの……彼女達の帰る温かな場所は、もう無かった。





エリスはそのままパンドラの顔面を殴り飛ばした。




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