第189話 アスラの怒り
パンドラは当初のラクシャシー達を馬鹿にした表情は消え失せ、目の前の二人の強者の登場に目を輝かせていた。
今回のマザーから任命された旧文明のデリートという作戦自体がパンドラはつまらなかった。
自分よりも圧倒的に性能の下回る原始人を滅ぼす等、ただの面倒な掃除でしか無いとすら考えていた。
しかし───いざ過去に転送され偵察してみればデータを上回る強さを見せたメカニカルワルキューレ・ヴァルキリー。
そして自身を投げ飛ばした漆黒のワルキューレ……高鳴らずには居られなかった。
「あはっ……あはは!!
面白いぞメカニカルワルキューレモドキ!!
どうせ消えるけど、アンタ達の名前教えてよ!
……マザーのデータに残しといてやるからさ!!」
パンドラは勢い良く飛び起きると目を見開き歯を見せて笑う。
ラクシャシーはパンドラの拳を受け止めた腕の動作確認をし、自身の手を力強く握り締めるとパンドラを睨みつける。
「……私らはラクシャシーとアスラ……しかと覚えてアンタの大好きなママのお家に帰りな!」
次の瞬間、言い終わるより先にラクシャシーは地面を砕く勢いで飛び出し、一直線にパンドラへ鋭い突きを繰り出した。
パンドラはエネルギーフィールドを展開するがエネルギーフィールドごと後方に弾かれる。
「アスラ!!ぶちかましな!!」
ラクシャシーが叫ぶとラクシャシーの後ろからアスラがパンドラに向け突進し超高速の連続突きをパンドラに放つ。
「了解。子供達の敵を粉砕する。」
先ほどはパンドラのエネルギーフィールドに砕けてしまったアスラの鋼鉄の腕だったが、キズナシステムβを起動して放った無数の攻撃は、パンドラのエネルギーフィールドの許容を上回りついに強固な壁を貫いてみせた。
「おいおい……!本当かよ!くふぅ!」
パンドラは歯を見せて笑いながらも的確に砕けたエネルギーフィールドを高密度のエネルギー弾へ変換し、アスラへ撃ち放つと自身は後方に飛び二人から距離を取る。
二人から離れるとパンドラは頬を紅潮させ、激しく脈打つ胸元へ手を当てる。
こんなに昂ぶったのは未来では経験の無い初めての事だった。
シミュレーターでは味わう事の出来ない生きた強者との命の駆け引き……
自身の想像を超える力を魅せてくれるラクシャシーとアスラに、パンドラはエクスタシーすら感じていた。
「はぁ……はぁ……!
───こんなのヤバいよ……アンタ達最高!!もう昂ぶっちゃうよ……!!」
パンドラが叫ぶと同時……凄まじいエネルギーの渦がパンドラから放たれる。
「なっ……!?」
「!」
ラクシャシーとアスラは驚愕した表情で思わず身構える。
出力が一気に跳ね上がった。
今まではただ遊んでいたに過ぎない。
───つまり、ここからがパンドラの本気という事……
「あはは!滾ってきた!!
───最後までいくぞラクシャシーとアスラ!!」
次の瞬間……凄まじいエネルギーの余波が孤児院を襲う。
木造建築のそれは高出力の波動に耐えられるわけもなく一撃で地下シェルターが露出する。
「……!ラクシャシー!子供達が……!」
アスラが後方の子供達への被害を懸念し視線を後ろに向ける。
「わ、わかってる……!とにかく、子供達を避難させ……!!」
二人は倒壊した孤児院を見てパンドラから一瞬意識を離す。
それを見たパンドラは眉間に皺を寄せる。
目の前の自分ではなく、二人があの出来損ないの人間達に意識を向けた事がとにかく癪に障った。
「……ふぅん……なるほどね。
───あの小さい人間達が居ると、アンタ達……戦いに集中出来ないわけね。」
パンドラは呟くとおもむろに銃口を二人の後方の地下シェルターに向けた。
それを見たアスラは目を見開く。
そして全エネルギーを脚部へ送り、これまでで最速の手刀を放つ。
───しかし。
アスラの右半身はその手刀ごと消失した。
「アスラ!!?」
ラクシャシーは自身の姉の捨て身の特攻に思わず叫ぶ。
しかし───アスラはそれでも止まらなかった。
失った右半身を無視し、次は左の腕でパンドラの構える銃口を握る。
「……私達の大切な……子供達だけは……何があっても守り抜く……!
あの子達に銃口を向けたお前だけは……絶対に、許さない。」
脳を改造され感情の抑制された筈のアスラが初めて敵を憎悪の表情で睨みつける。
戦況的にも、出力でも上回っている筈のパンドラはアスラから向けられた殺意に満ちた眼差しに、無意識に身震いした。




