第188話 反撃の一歩
アスラからの緊急要請の内容を受け、リーナは歯を食いしばる。
「……一刻の猶予も無いというのに……今の私達には孤児院に回せる人材が……」
メカニカルワルキューレはその殆どが戦闘不能。
何よりリリィのスーパー・ヴァルキリーに匹敵する性能を獲得したラクシャシーとアスラですらこのままでは敗北するパンドラと名乗るロード・テスタメント。
「……リリィはまだ動けないの?」
サイサは腰に手を当てながらリーナに質問を投げる。
「……リリィはネメシスとの戦闘でスーパー・メガミドライヴ専用のスーツを失って居ますわ。
通常のメカニカルワルキューレでロード・テスタメントの相手をするのは、いくらリリィと言えど……」
リーナとサイサ、そしてソーマの目がハカセの方を向く。
その場の誰も、決断を下せないでいた。
「まさかこんな事になるなんて……導きの聖女よ……どうか我らに救いのあらんことを……」
ソーマは神話に謳われる災厄から人々を救い導いた無もなきメガミに救いを求める。
もはや神にすがるしか政治家のソーマには出来なかった。
科学者であるリーナですら、今だけは神に縋りたいと思っていた。
───その時だった。
『ハカセ……聞こえますか?……私……出ます!』
件のリリィからハカセの端末に通信が入る。
リリィはアスラとリーナの通信を傍受したロゼッタから孤児院の危機を知らされ、既に輸送機から飛び立とうとしていた。
「リ、リリィ……!?
スーパー・メガミドライヴこそ無事だけど、今貴女の使えるスーツは通常の……」
ハカセはリリィ提案を却下しようとする。
スーパー・メガミドライヴを使いこなせるリリィは自分達にとって言わば切り札。
メガミドライヴ・リヒトの技術をスーパー・メガミドライヴに組み込む事が出来ればもしかしたら彼女らに対抗出来るかもしれない唯一の希望……
ここで彼女を失えばそれこそロード・テスタメントを倒す未来を失いかねない。
それに何より……大切なリリィをハカセ自身が失いたくなかった。
ハカセが躊躇している時だった。
『───アタシ達も行くぜ……ハカセ。
まだ武器も装甲も生きてる……アタシ達はまだアイツらと戦える。
なら、戦えない奴らの事を全力で守る。
それが……メカニカルワルキューレだろ?』
ハカセとリリィの通信にアリア達、未だ動けるメカニカルワルキューレ達が割って入る。
『───私も……フィレアを傷付けたロード・テスタメントを許せません。
もうこれ以上誰も奴らに傷付かせない為に……出撃許可を。』
ルキアもバイタルの安定したフィレアの頭を撫でながらハカセに通信を行う。
更に補給を終えたディアナやノア、ナギサ達も次々に表明していく。
メカニカルワルキューレ達全員が未来から来た圧倒的な敵を前にしても誰一人諦めていなかった。
───自分達が守るべき明日を。
それらを聞いていたサイサは温かな笑みを浮かべながらゆっくりとハカセの肩に手を這わす。
「本当……貴女の育てた子供達は……最高ねベル。」
そしてハカセを後ろから抱きしめながらサイサは呟く。
「……良いわ。
本当は……平行世界への干渉がどう世界に影響するか分からなかったし、技術だけ伝えて帰るつもりだったのだけど……
──でも辞めたわ。」
サイサは抱きしめていた腕をそっと離すと、ハカセの頬へ優しく手を添え、その緑の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「───この子達に免じて私の持って来た装備も、私の技術も、この身も全部貴女達に貸してあげる。
──だからベル……私達全員でロード・テスタメントをぶっ潰すわよ。」
サイサはそう言うと、パッとハカセから離れ、振り返ってウインクして見せた。
「……さ、まずは反撃の第一歩。
……孤児院の子供達をサクッと救っちゃいましょう?」




