第186話 キズナシステムβ
「───はっ!?」
リリィはスーパー・ヴァルキリーを持ってしても歯が立たなかったネメシスの事を思い出して勢い良く飛び起きる。
───しかし、視界に飛び込んできたのは自身の股の間に鎮座するロゼッタとリリィの手を握っているローレンツだった。
「ローレンツ……ロゼッタちゃん?」
リリィは思わず首を傾げる。未来から来たという敵と戦っていたはずなのに、気が付けばベッドの上に居て更に二人が自身を見守るという構図に思考がついて来ない。
「良かった……リーナ博士がメカニカルワルキューレ達を助けろって各地のアトラス隊員に伝達を行なったんだ。
確か、サイサって協力者の助言を受けたとか……」
サイサ……? 確かハカセが話していた、亡くなった親友の……。
「えっ……でも、サイサさんは死ん……」
『そんな事より!!
お兄ちゃん!リリィさんが起きたんだから伝えなきゃでしょ!
───全メカニカルワルキューレの救出は成功!皆ベル博士とリーナ博士の元に移送中!
急ピッチで対ロード・テスタメント用の新たな力を全メカニカルワルキューレ分開発中って!』
リリィはそこで今自分の居る場所が陸地でないことを知る。
今リリィの居る場所……アトラスの輸送機の中……そこのベッドの上だった。
『……クソったれの未来に……反撃の狼煙を上げる時って事ですよリリィさん!!』
───
パンドラと見つめ合うラクシャシーとアスラは一瞬、硬直状態になる。
敵の出力は推定でもあの時のガドルを上回る可能性がある。
勝てる見込みは限りなく低い。
それでも───ここで退けば、子供達が死ぬ未来しかない。
その思いを胸に最初に動いたのはアスラだった。
六本の腕のうち一本をパンドラに向け繰り出す。
しかし───アスラの拳が見えない壁へ叩き付けられたように止まり、その衝撃だけで鋼鉄の腕がひしゃげた。
確かに、先ほどの不意打ちは直撃した。
───だが、二度同じ手は通じない。
パンドラは既に高次のエネルギーフィールドを展開していた。
それは、もはや見えない物理的な壁だった。
「!」
アスラは関節が死んだ腕を強制パージして後方に飛ぶ。
そしてそこにラクシャシーがすかさず強力な胸部ビームを放った。
赤黒いエネルギーの波は確実にパンドラを飲み込む。
しかし───
「なるほどねぇ……見た目は派手、演出は良好……だけど。」
煙の中から無傷のパンドラが姿を現す。
「───強そうなのはデザインだけ……所詮、珍しいってだけの骨董品か」
「───アスラ……子供達は……」
ラクシャシーが隣のアスラに問いかける。
問いを受けアスラは小さく頷く。
「……大丈夫。皆既に避難訓練の通りに地下シェルターに移動している……。」
「そいつは良好!!」
ラクシャシーは叫ぶと特殊なデバイスを呼び出す。
これもまた未来のデータに存在しないパンドラの知り得ない装備。
「……何をする気?まさか対抗しようとしてるの?旧文明の骨董品風情が。」
「対抗……?
───違うね。
未来だか何だか知らないが、私らの可愛い子供達を傷付けたその澄まし顔、ぶん殴って砕いてそのまま地面に擦り付けてやるよ!!」
ラクシャシーは叫ぶとアスラと共にデバイスを胸部に付ける。
「「キズナシステムβ……オールエンゲージ!」」
ラクシャシーとアスラが同時に叫ぶと彼女達の鋼鉄の鎧がまるで粉々に砕けたかの様に赤いラインが装甲表面に浮かび上がる。
「キズナシステム……確かヴァルキリーの装着者……リリィも言ってたけど、それはどんなシステムなんだい?
私達のデータに無いんだよね……」
パンドラはラクシャシーとアスラの変化に戸惑う様子も無く軽々しく聞く。
「……キズナシステムすら知らないってアンタ達……本当に未来から来たわけ?
……随分知らないことだらけでさぁ……
───ロード・テスタメントとやらも、大した事なさそうだね。」
ラクシャシーは呆れた様に言い放つ。
その発言を受け、パンドラの表情が変わる。
───これまでの馬鹿にした表情から、殺意のこもった表情に。
「───まぁ……記録する必要すら無い廃れた技術ってことだろ!!」
パンドラは叫ぶと同時に凄まじい速度で拳を繰り出す。
目標はロード・テスタメントを馬鹿にした目の前の黒いワルキューレ、その澄ました顔面。
「───砕けんのはテメェだよ!!」
パンドラは、ラクシャシーの脳髄と血飛沫が宙を舞う光景を思い浮かべ、口角を吊り上げた。
───目の前のコイツらがメカニカルワルキューレかは分からないが、ここがメカニカルワルキューレに匹敵する兵器のいる施設であることは間違い無い。
こいつらを片付けたらあの小さい人間達ごとこの施設を焼き払ってしまおう。
パンドラは醜悪な笑みを浮かべるが次の瞬間彼女の表情が固まる。
「あぁ……"骨董品"相手だから手加減してくれたのかしらぁ?
───未来から来た後輩ちゃんは優しいのねぇ?」
ラクシャシーはパンドラの拳を片手で受け止めそのまま彼女の顔に自身の顔を近づけると邪悪な笑みで返した。




