第185話 パンドラ
「……つまらん。」
パンドラは空から無数の青白いビームを放ち、眼下に広がる軍事施設を破壊しながらポツリと呟いた。
ネメシスから「軍事施設と攻撃手段を優先して破壊しろ」と命じられていたのだが、ネメシスと自身とでは戦闘力やスペックの差は有れど、本来マザー・ブレインに生み出されたデウス・エクス・マキナに階級等の差は無いはずなのに、マザーからの指令を他のロード・テスタメントに発信する役をネメシスが担っている事が不満だった。
何よりマザーからもたらされた指示はあくまでこの旧文明の滅亡であり、結果は変わらないのだから何処から破壊しても同じだと言う進言に対して
『……パンドラ、お前はただ……与えられた作戦をこなしているだけでいい』
とネメシスからあしらわれた事を思い出して眉間に皺が寄っていく。
「つまらないつまらないつまらないっ!!」
ふと気が付けば破壊対象の軍事施設は既に更地になっていた。
「はぁ……張り合い無いなぁ……
───ネメシス、先に私が目ぇ付けてたメカニカルワルキューレと戦うとか……テメェは何様なんだよ!」
この時代最強の兵器、メカニカルワルキューレ……
その中でもアビーターを単騎で落としたリリィの事をパンドラは一目置いていた。
未来ではシミュレーターでしか使えなかった自身の力をあの娘に振るいたかったのだ。
───なのに、それなのにネメシスが出しゃばり勝手に彼女を倒してしまった……せっかく……面白そうな相手だったのに……!!
パンドラはイライラしたまま彼方の市街地に銃口を向けるが、ここで放ってしまえばあの澄まし顔のネメシスに負けた気がしたため、舌打ちしながらビームガンを下ろした。
そしてパンドラは更地になった軍事施設を後にして新たな獲物を探すように空を漂っていた。
「はぁ……次はどの施設を……ん?」
───人里離れた山奥に存在する比較的大きな建造物と大きな庭
そして、その庭で飛び跳ねたり追いかけっこをしている、これまで見たことのない小さな人間達を見てパンドラは口角を引き上げた。
「なんだよあれ……
……未成熟状態の人間が外に出ちゃってるじゃん……うへぇ……気色悪!!」
パンドラは未知の存在……子供を目の当たりにし、刺激を求めて急降下していく。
……そこは、先日エリスが訪れた後のラクシャシーとアスラの孤児院……
エリーは再びエリスが訪れないかと空を見あげていた。
「お姉ちゃん……?」
───招かれざる客が空から迫っていた。
───
激しい揺れと悲鳴を受け、ラクシャシーは孤児院から飛び出した。
リーナから未知の勢力、ロード・テスタメントが攻撃をし始めたのを聞いていたためラクシャシーは冷や汗をかいていた。
「クソっ!!まさかロード・テスタメントの目的は魔力結晶適合者……子供達か!?」
ラクシャシーが庭に出るとそこには大きなクレーターが出来ており、子供達が何人か倒れていた。
「皆!!」
ラクシャシーが血相を変えて子供達に駆け寄ると皆流血こそしているが、致命傷は受けていないようだった。
おそらく爆風に吹き飛ばされたのだろう。
子供達の擦り傷や打撲が痛々しかった。
「……ラクちゃん先生……」
腕の中の少女がラクシャシーを見て安堵したのだろう、ポツリと呟く。
「……任せな……先生がぶっこ……血祭……懲らしめてやるからな。」
涙すら浮かべながらラクシャシーは笑顔で少女を安心させると近くに居た別の少女に腕の中の傷ついた少女を託す。
そして、鬼の形相でクレーターの中心を睨みつけた。
土煙の中からはこのクレーターを作ったであろう存在がヘラヘラと笑っているのが聞こえる。
「何だよ……あんなんで吹き飛ぶとかマジでこの世界に出てくるべきじゃ無いだろ!」
そして土煙を吹き飛ばしパンドラの姿が見えた。
パワードスーツを身に纏った、銀髪の少女……
「メカニカル……ワルキューレ……?」
ラクシャシーは土煙の中から現れた存在が、メカニカルワルキューレに似ていた為困惑の声を零す。
ラクシャシーの呟きをパンドラは鼻で笑う。
「あぁ?私をそんな骨董品と一緒にするなよ。
私はパンドラ、ロード・テスタメントのデウス・エクス・マキナが一柱……パンドラ様だ!!」
ロード・テスタメントという名前を聞いてラクシャシーは咄嗟に偽装解除のコマンドを言おうとした。
しかし───パンドラの元に一人の少女……エリーが近づいて行った。
「ま、待ってっ!!下がれエリー!!」
ラクシャシーの制止も虚しく、エリーはパンドラの元に近づくと聞いた。
「貴女は……エリスお姉ちゃんのお友達?」
自身に突然話しかけてきた個体をパンドラは見下ろす。
「……人間のなりそこないが……気安く、私に話しかけるな。」
パンドラは冷たく言い放つと銃口をエリーに向ける。
ラクシャシーはその光景に目を見開き、咄嗟に走るが間に合わない。
「エリー!!!」
ラクシャシーが叫び手を伸ばした時だった。
彼女の後ろから黒い影がパンドラ目掛け駆け抜け、そのままパンドラを吹き飛ばした。
パンドラはそのまま地面を転げた。
「アっちゃん先生……?」
エリーは突然現れたアスラに首を傾げる。
「……こいつは私達の敵。エリー、下がって。」
アスラは鋭い瞳でパンドラを見つめる。
計測した出力は今の自分達より遥か上。
子供達を守りながらどこまで戦えるか、アスラはいつもながらの無表情ではあるが、珍しく額に汗を滲ませていた。
吹き飛ばされたパンドラは一瞬呆気に取られ空を見あげていたが起き上がると笑みを浮かべる。
「何だよ……!黒いメカニカルワルキューレなんて私達のデータにないぞ!」
パンドラは目を見開き歯を見せて笑う。
「……偽装、解除。」
そしてそこでラクシャシーも偽装を解除し漆黒の鎧を晒しアスラに並ぶ。
「……マジかよ。二体も居るじゃん!マザーのデータに無いワルキューレとかレアキャラかよ!
……アンタ達もメカニカルワルキューレだろ!?」
パンドラの問いにラクシャシーは相手を睨みつけたまま口角を引き上げて答える。
「違うね……私達は……メカニカルワルキューレの……"天敵"さ。
───さぁ、地獄に出向く準備を済ませな……ロード・テスタメント!!」




