第182話 異なる歴史、絡み合う世界
メガイラが庇ったので最小限のダメージで済んだとは言え、ハカセがメガイラと共に墜落の衝撃で気絶してしまった時……
……ナギサは敗北を確信していた。
自分達メカニカルワルキューレ……すなわち戦士の誰かがやられたとしても、頭脳であり母のハカセが居てくれればやがていつか、メカニカルワルキューレはまた空を羽ばたける、ナギサは常々心の内にそういった感情を抱いていた。
もちろん……仲間の誰にも欠けて欲しくはないし、欠けさせるつもりも無い。
───あくまで可能性の話だ。
しかし───ハカセがやられてしまったら、文字通りメカニカルワルキューレは終わる。
メガイラやキュベレも確かに頭脳明晰だが、ハカセの科学技術はもはや神にすら届くと感じさせる程だ。
そんなハカセが目の前で流血し意識を手放している現実に、ナギサは機首から外部に放り出され地面に叩きつけられながらも歯を食いしばる。
そして無理矢理立ち上がろうとした時、ナギサの目の前にアンノウンが降り立った。
「……っ!」
ナギサは先ほどの戦闘のダメージと合わさってピクリとも動かない身体は諦め、眼球だけ上を向かせアンノウンを見あげる。
……最悪スーツのスラスターだけでも吹かして牽制か敵のヘイトを稼ぐつもりだった。
───その時だった。
「───ギリギリ、間に合ったかしら……?」
動かないナギサから、新たに現れた声の方向にアンノウン二機が振り返る。
燃え盛る飛行機の炎に照らされ揺らめく人影……
ナギサは始めて見るメカニカルワルキューレに釘付けになった。
「……貴女……は?」
ナギサはポツリと呟く。
「……ベル……ハカセの、旧友よ。
お疲れ様……ゆっくり寝ていなさい。」
ボヤける視界の中、ナギサはその声に身を委ね、意識を手放した。
「良かった……ちゃんと生きてるわね。
さて……と……」
白いワルキューレ……サイサはメガイラとハカセの頭を優しく撫でるとゆっくりと立ち上がる。
二機のアンノウンは新たに現れたパワードスーツの少女に照準を定める。
「私の、可愛いベルと……その家族によくもやってくれたわね無機物共……
───ベルは確か、この技術をこう名付けたんだっけ……
───キズナシステム……エンゲージ……」
サイサが呟いた瞬間、リリィと同じ様な眩い光に包まれる。
リリィとは異なる紫の光に。
「───まぁ、私のはベルのスーパー・メガミドライヴに出力は劣るんだけど……
あなた達無機物の相手なら、私の力……
───"メガミドライヴ・リヒト"で十分ね。」
攻撃をしてこないサイサに対してアンノウン達は攻撃をしかける。
しかし───
「あら……思ったよりずっと軽い攻撃なのね。」
左右から同時に放たれたアンノウンの突きをサイサは両手で受け止めてみせる。
そして笑顔から一転して鋭い眼光でアンノウン達を睨みつけると奴らの"腕"を握り潰す。
「───簡単に壊れられると思わない事ね。
……もっとも、あなた達無機物に恐怖心があるかは甚だ疑問だけど。
……ヘーラ。蹴散らすわよ。」
そう言うとサイサは邪悪な笑みを浮かべる。
そして魔力結晶ヘーラ特有の紫の光を輝かせると
文字通り、二機のアンノウンを蹂躙した。
───
ハカセは目の前のサイサの姿に様々な感情でぐちゃぐちゃになっていた。
「な、なんで貴女が……だって……だって貴女は……!」
「"私がこの手で貫いたはず"……?」
サイサは首を傾げて笑みを浮かべ逆に問いかける。
「え、えぇ……それにその姿、その声……昔の、あの時のまま……な、なんで……!?」
ハカセの狼狽えぶりにサイサはクスクスと笑い、そんなサイサをリーナはムッとした表情で見つめる。
「うふふ、ごめんなさい……ベルの反応が可笑しくてつい……
……私は確かにサイサだけど、貴女の知るサイサじゃ無いわベル。
───此処とは異なる歴史のサイサ……って言えばベルなら……分かるわよね?」
「平行世界の……同一存在……
───異なる世界線の……サイサ?」
ハカセがポツリと呟くとサイサは笑みを浮かべた。
「そ……だから、"はじめまして"……ベル。
───貴女を殺めてしまってから数十年……ずっと……貴女に会いたかったわ……ベル。」
サイサから、先ほどまでの笑みは消えていた。
───後悔と悲しみを滲ませながら、サイサは静かに呟いた。




