4−101:悪魔の石像、現る
エントランスホールの少し奥まった所に、通路を挟むように向かい合って鎮座する悪魔の石像――ガーゴイル。赤い双眸を互いに向け合い、2体とも一切の動きを見せていない。どうやら、俺たちの存在にはまだ気付いていないようだ。
ファンタジー小説やゲームに出てくるゴーレム系モンスターは、探知能力が高めに描写されていることが多いのだが……このガーゴイルには当てはまらなかったようだ。攻める側の俺たちとしては、ありがたいところだけどな。
「"エンチャント・アイス"」
――カキンッ
入り口をすぐ背に、いつでも逃げられるよう退路を確保しながら……まずは初手、氷属性エンチャントを朱音さんに付与する。これで一旦様子を見て、効き目がありそうなら全員に付与する予定だ。
……そういえば、九十九さんのギフト【焔の魔女】に氷属性エンチャントを乗せたら、一体どうなるんだろうな? 朱音さんのギフト【魔槍士】は特定の属性を持たないからこそ、逆に色々な属性エンチャントを手当たり次第に試しているが……九十九さんの場合、反対属性にあたる氷や水属性のエンチャントは試したことが無い。何をどう考えても、【焔の魔女】の良さを打ち消してしまうことになる未来しか見えなかったからだ。
だが、今回の相手であるガーゴイルに火属性攻撃は通用しない。それなら九十九さんには氷属性エンチャントを乗せた状態で【火魔法】を使ってもらい、どんな魔法が撃てるのか試してもらうのもいいかもしれないな。ガーゴイルに増援が来なければ、少し時間を取ってみようか。
「ありがとう、高良さん。いくわよ、"飛突・凍花"」
「私もいきます、"氷烈波"」
――ヒュッ!
――ドシュドシュッ!!
鋭い風斬音がエントランスホールに響き、2体のガーゴイルにそれぞれ氷の花が咲く。どちらの攻撃も脇腹付近に当たっており、ガーゴイルの体の奥深くへと浸透していった。
……予想通り、氷属性攻撃がよく効いてるな。さすがに致命打にはほど遠いが、それなりにダメージを与えることができたようだ。
――ガタガタガタッ!
そして、ここでようやくガーゴイルが動き始めた。石像とは思えないほど滑らかな動きでこちらに振り向き、赤い双眸を激しく点滅させながら口を大きく開けて……!?
「口に炎……ファイアブレスか!? 盾展開!」
――ブォン
――ゴォォォォッッ!!
移動のために1度切っていた防壁を、再度ドーム状に展開させる。それと同時に、2体のガーゴイルがファイアブレスを重ねて撃ち込んできた。
……この火力は【ファイアブレスⅡ】だな。ランクⅡのブレスを普通に撃ってくるとなれば、爬人隊長ことハイリザードマンよりも格上の相手なのは間違いない。
だが、【ファイアブレスⅡ】の魔力コストは決して安くない。休み休み放つならともかく、長時間ずっと撃ち続けるだけの魔力量はさすがのガーゴイルにも無いだろう……。
……おかしい。そろそろ3分が経過しようというのに、炎が全く途切れない。いい加減魔力切れになっていてもおかしくないはずなのだが、一体これはどういう……!?
「……しまった、忘れてた!」
ここ、魔力が特に濃い場所だったじゃないか! その恩恵は俺たちだけでなく、当然ながらモンスター共も受けているはず。
そして【ファイアブレスⅡ】を撃つための魔力を、ガーゴイルが空気中から得ているのだとすれば……炎の嵐は、このまま待っていても決して途切れないだろう。
幸い、ファイアブレスを防壁で防いでいてもほとんど魔力は目減りしていない。あと数時間は余裕で耐えられる。それでも、ずっとこのままというわけにはいかない。
こちらから仕掛けて、ガーゴイルのファイアブレスを止めるしかない。そして今回、それを為してもらうのは……。
「"エンチャント・アイス・オール"」
――カキンッ!
「ですっ!? どうしたのです、恩田さん!?」
普段は絶対に掛からないはずのエンチャント・アイスが掛かったからか、九十九さんが驚きの声を上げる。
「九十九さん、せっかくだから試してみないか? 【火魔法】と氷属性エンチャントの合わせ技。確かにガーゴイルに火属性攻撃は効かないけど、氷属性エンチャントを加えたら、もしかするとガーゴイルにも効く魔法が撃てるかもしれない」
「……です、確かにそうなのです。でも、やったことがないので時間が掛かるかもなのです。大丈夫なのです?」
「大丈夫だ、問題無い」
「それは問題がある時の言い方なのです……ふふっ、でも分かったのです、やってみるのです」
俺の意図を理解してくれたのだろう。九十九さんが小さく頷いた後、詠唱の体勢に入った。
……ファイアブレスは変わらず放たれ続けているが、オートセンシングのおかげでガーゴイルがその場から動いていないことだけは分かる。今のところ、他のモンスターの増援が来るような気配もなさそうだ。
この状況に変化があれば、全員でガーゴイルを倒しにかかる。それまでは、九十九さんが納得いくまで魔法作りに取り組んでもらうつもりだ。
……そうして、更に2分ほど。ガーゴイルはその場から動かず、ずっとファイアブレスを吐き続けている。
その炎の中に、たまに物理攻撃が混ざり始めた。ガーゴイルは手に大型の三叉槍を持っており、ファイアブレスを吐きながらそれを突き出しているのをオートセンシングで検知できたのだが……槍を突き出した直後、防壁に少しだけ圧力がかかったのだ。おそらくは朱音さんの飛突と同じ、遠距離攻撃系の武技を放っているのだと思われる。
もっとも威力はそれなりで、ぶっちゃけ朱音さんの飛突の方が何倍も強い。火属性対策だけで完封されないように、こういう攻撃を織り交ぜているのだと思われるが……なんと言うか、無駄に多芸なモンスターだよな。
「……うーん、イメージが全然固まらないのです。氷と炎、合わせても溶けて水になるイメージしか……でも、それは【火魔法】とは言えないのです……むむむ……」
九十九さんは、まだ魔法のイメージ固めに苦戦している。モンスターの増援が現れそうなら、朱音さんと帯刀さんが氷エンチャントを乗せた魔武技を放つつもりで待機してくれているのだが……現状そのような気配が無いので、俺から待ったをかけさせてもらっている。
……ただ、このまま時間だけが過ぎていくのもよろしくない。少し俺からもアドバイスした方がいいか。
「氷に炎、ね……」
その組み合わせに、なにやら引っ掛かるものがあったので記憶を深く探ってみる。
……頭の片隅に、その条件に合致する知識が置かれているのを見つけた。それを取り出し、口に出す。
「……そういえばあったな、燃える氷ってやつが」
「燃える氷、です?」
「ああ、メタンハイドレートって名前のやつだ。メタンガスが水分子の中に大量に内包されていて、メタンを取り出すと体積が100倍以上になるらしい。次世代エネルギーがどうとかって感じで注目されてるんだが……技術的な課題がまだまだ多いらしくてな。商業利用には至っていないそうだ」
ネットで見た程度の知識しか持ち合わせていないが、深海のかなり特殊な環境下でのみ生成されるものだったはず。ゆえに採掘が非常に難しく、採算が取れるほどの採掘効率を実現するまでには至っていないそうだ。
……まあ、扱いやすい天然ガスの方が主流なのは、今も未来も変わらないだろうな。天然ガスも主成分は確かメタンだし、今は極低温で液化させて大量運搬する方法が確立されているから、そちらに重きが置かれるのも当然かもしれない。
とまあ、それはともかく。燃える氷というのは、地球上に実在するわけだ。あとはそれを、九十九さんがどうイメージするか。
「燃える氷……ガスを内包する氷……! ピンときたのです!」
俺の言葉に、遂に九十九さんのイメージが固まったらしい。両手に魔力を集中させ、魔法を唱えた。
「"バースト・ハイドレート"!」
九十九さんの手から生み出されたのは、4つの小さな氷の礫だ。【焔の魔女】らしからぬ光景だが、九十九さんは気にせずそれを撃ち放つ。
氷礫は防壁を越え、ファイアブレスの嵐の中を飛んでいく。そのまま氷礫は溶けることなく、2体のガーゴイルの両目へと1つずつ着弾し――
――パキパキパキパキッ!
――プシュン……
何かが割れるような音と同時に、炎の嵐が急に止んだ。
クリアになった視界に、両目を砕かれた2体のガーゴイルの姿が映る。どうやら氷礫がガーゴイルの赤目を撃ち抜き、砕いたことでファイアブレスを維持することができなくなったらしい。まさか、ガーゴイルにそんな弱点があったとは……。
……などと言いつつ、そういえばファイアブレスを撃つ前にガーゴイルの目が赤く輝いてたっけか。あれが魔力集中による輝きだったなら、ファイアブレスを撃つにはあの赤い目が必須だったというわけだ。
「よし、これで攻撃に移れるな」
少し様子を見ていたが、赤い目が再生する気配は無い。1度両目を壊せば、もうその個体は2度と炎を吐けなくなるようだ。
思わぬところで足止めを食ったが、ここからは俺たちのターンだ。油断せず、きっちり仕留めてやろう。
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