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俺はアイリスに微笑みかけて、そのまま城の外を目指す。後方からは俺を追いかける足音が聞こえてきた。やがてその足音を振り切ると城のエントランスに辿り着く。
そこには一人の騎士が立っていた。その騎士の名前はバルデッド・アークゼオス。俺と相対するのは王国最強の騎士であり、シンナイト。
「アイリス王女を単身で助けるその意気や良し。しかし俺がここにいる限り、貴様たちが死ぬ運命は覆らん。貴様は俺に殺されここで終わる」
「そりゃどうかな。やってみなきゃわからねぇだろ?」
アイリスを腕から降ろして、俺はバルデッドへと剣を構えた。
「分かるさ。俺は最強だからな。その事実が空しくもあるが」
俺と同様に剣を構えたバルデッドが寂しそうに呟く。それでも尚、その目には燃え滾る闘志が宿っていた。バルデッドの身体から膨大な闘気が立ち上る。
大気が震え、地面が揺れる。俺が王国という大地に来て初めて感じる圧倒的なプレッシャー。なるほど王国最強という肩書きは伊達じゃないってワケか。
「ひっ」
後ろにいるアイリスなんかは短い悲鳴を上げ、バルデッドの闘気に怯え後ずさっている。
「大丈夫だ。お前には指一本触れさせねえよ」
そんな彼女に俺は振り返らず声を掛けた。ここで俺がバルデッドに負けてしまえばアイリスも殺されてしまうだろう。そんな結末は俺が認めない。
それに"アイリス"の記憶を見た時からバルデッドとは戦う予感があった。フェリクスの近衛騎士となったバルデッド、そしてアイリスを守るために立ち上がった俺、どうしようもなく相容れない俺たちがこうして向かい合う。
「何故、そこまでして貴様は戦う? その王女は箱入り、貴様と面識があるとも思えんが」
「面識があるとかないとか関係ねぇ。俺は俺のやりたいようにやってるだけだ」
ずっとそうやって生きてきた。今更生き方を曲げる気はない。
「ハッ! 理由もなく、王国とこの俺を敵に回すか。面白いッ! 貴様狂人の類か。この俺を前にしてその余裕がいつまで持つかな」
「お前、自分のこと最強って言ってたよな。悪ぃがこっちも"最強"って看板背負ってんだよ。どっちが本当に最強か決めようぜ」
俺は不敵な笑みを浮かべながらバルデッドを挑発した。対するバルデッドは無表情のまま剣を構える。
次の瞬間、俺達は同時に動き出した。まずは小手調べに軽い一撃を放つ。お互いの刃がぶつかり合い火花が散った。そこから更に追撃を仕掛けるが、バルデッドはそれを難なく捌いていく。やはり一筋縄ではいかないか。バルデッドは生涯で俺が戦ってきた相手の中でも相当に上位のレベルだろう。
ならば。
今度は大きく踏み込んで渾身の突きを放った。しかしそれはフェイントだ。即座に体勢を変えて横薙ぎの一閃を放つ。
「チィッ――――!!」
俺の攻撃を忌々しそうにしながらも、バルデッドには紙一重で攻撃を回避された。だがこれは想定内。本命はここからだ。
バルデッドの横腹目掛けて蹴りを入れる。それと同時に左手で掌底を打ち込んだ。攻撃を回避したと思ったら俺の追撃を食らい、バルデッドは苦悶の声を上げる。
「ぐっ……!!」
バルデッドはダメージを負ったものの、何とか耐えきったようだ。しかしこれで終わりではない。俺は間髪入れずに追撃をかけるべく、再び斬りかかった。
バルデッドはその連撃を防ぎきれないと判断したのか、咄嵯の判断で後ろに飛び退いて回避行動に移る。
「オラ、どうした! 王国最強の名が廃るぜ、バルデッド!」
「調子に乗るな馬鹿がァ!! 」
怒声と共に放たれたのはバルデッドによる大上段からの強烈な振り下ろしだった。それを剣の側面を使って受け流す。金属同士が擦れ合う甲高い音が響き渡った。
直後、互いの武器が交差する形となり、鍔迫り合いとなる。そしてそのまま力比べが始まった。
「オラァァァァァ!!!」
「ぐぬぅぅぅぅぅ!!!」
バルデッドの力と俺の力はほぼ互角。簡単に押し勝てると思っていただけに少々誤算だったが、このまま力でねじ伏せてやる。
やがて均衡が崩れ始めた。
徐々に俺の勢いに押され始めるバルデッドの顔には焦燥感が見え隠れしている。俺は大きく息を吐くと、そのまま勢いよく相手の剣を押し返した。バランスを崩すバルデッドに向けて容赦なく剣を振るう。
舞う鮮血。確かな手応えを感じた。だが致命傷には至っていないようで、バルデッドは肩口から大量の出血をしながらこちらを睨みつけている。その瞳からは先程までの余裕は完全に消え失せていた。
「貴様、何者だ? 貴様のような強者がこの王国にいるとは思えん」
俺の斬撃を受けて尚、戦闘を継続する意志を見せるバルデッド。そのタフさは流石という他ない。
王国最強を名乗るだけあってバルデッドの実力は本物らしいな。しかしそれは高いレベルにあるというだけであってこの俺と並ぶかと言われれば断固否定させてもらう。
「どうだ、バルデッド? 自分が敗北する予感にワクワクしてきたか?」
「抜かせ。ククッ、だが愉快なものだな。久しぶりに戦いで充足感を感じる。感謝するぞ、侵入者よッ!」
そう言ってバルデッドは再び俺へと肉薄し、袈裟懸けに斬りかかってきた。俺はそれを受け流し、反撃を試みる。剣戟が交わされ、激しい攻防が繰り広げられた。幾度と無く繰り返される剣と剣とのぶつかり合い。互いに一歩も引かない戦いが続く。
しかしそれも長くは続かなかった。
先に限界を迎えたのはバルデッドの方だ。バルデッドの動きは次第に精彩を欠いていき、俺の攻撃を受ける回数が増えてくる。やがてバルデッドは俺の攻撃に耐えられずに後方へと下がった。どうやら生身の勝負では決着がついたようだな。ならばバルデッドに残された手は一つ。どうせ、ぶつかるのなら俺から催促してやろう。
「見せてみろよ、バルデッド。お前のシンナイト、その"祝詞"を」
シンナイトとは優れた戦士が至る到達点。そして祝詞とはシンナイトとしての在り方、そしてシンナイトとしての力を開放するための言霊。
「ククッ、そうだな。業腹だが俺は貴様に戦闘能力では劣っているらしい。しかし感謝もしている。この戦いの高揚感こそ俺の生きている証。故にこの俺の祝詞はッ!」
そう言うとバルデッドは自らの祝詞を口にした。
『力を求め、剣を持ち。剣を持ち、力を求める』
その瞬間、バルデッドの身体からさらに膨大な闘気が溢れ出す。凄まじいな。これが王国最強にしてフェリクスを支えてきたバルデッド・アークゼオスの真の姿。
『――――接続・罪騎士』
バルデッドの口から響く無機質な声音。同時に彼の姿も変貌していく。
その姿はまさしく異形の騎士。全身を漆黒の鎧に身を包み、バルデッドの顔を覆う兜には四本の角が生えていた。
「罪騎士ねぇ」
俺は小さく、バルデッドの在り方について呟いた。昔は俺も"そう"思っていたから。
♦♦♦
シンナイトの力は常人を遥かに凌駕する。強固な鎧を身に纏い、人外の力を発揮する化け物になる。シンナイトとなったバルデッドに対して俺は生身で応戦するが、力負けして吹き飛ばされた。
「ハハハッ! どうだ、我が罪騎士の力はッ! 罪騎士とは罪を重ねるほどに力を増す力。重ねた罪に比例してこの俺の力も頂点へと近づく。感謝するぞ、侵入者。お前を喰らって俺はまた一つ罪を重ねよう」
目の前で高笑いしながら黒い騎士は勝利を確信しているようだった。
「クククッ、ククッ、クハハハハハハハッ!!!!」
その姿が滑稽で、面白い。つい、俺の口から哄笑が漏れてしまう。
「何が可笑しい? 気でも触れたか」
そうやって笑う俺の姿を不気味に思ったのか不愉快そうな声音で俺を見るバルデッド。
「いやーつい笑っちまった。俺も昔そうやって思っていたからな。シンナイトの力は罪を重ねるほど強くなるって。人を殺せば殺すほど力が増していくって。でも本当は違うんだ。シンナイトとは己を映す鏡。シンナイトに罪を意識すればお前のように鎧は黒く染まるし、逆に真なる騎士の姿を思い描けば誰にも辿り着けない真実の姿、真騎士へと至る」
「何、を。まるで貴様がシンナイトの力を使えるような口ぶりで」
バルデッドは俺の言葉に後ずさる。俺を中心に澄んだ闘気が満ちて、溢れていく。
「その通り。見せてやるって話だよ、シンナイトの力をな!」
後ろでアイリスが息を吞む。バルデッドも俺の闘気の上昇に狼狽を隠せない。
そして俺は自らの祝詞を口にする。
『命を救って、命を奪い。命を奪って、命を救う』
救命奪命の祝詞。これが世界に轟いた命の力を司る俺の祝詞。"世界最強"の名を欲しいままにした俺の力。
さあ、行こうか。もう一度俺は高く羽ばたこう。
『――――接続・真騎士』
俺の身を包むのは翼が生えた白銀の鎧。アイリスの色を思わせるその美しい鎧が俺の身を包んで無尽の力を与える。
「白銀のシンナイトといえばたった一人。最強の名を欲しいままにした、シンナイト。貴方は」
アイリスが驚愕を隠せずに俺のシンナイトとしての姿で俺の正体に辿り着いた。そして同時にバルデッドも俺の名前に辿り着く。
「アルヴァース・ダイドラッドォ!!!!」
俺の名はアルヴァース・ダイドラッド。帝国のシンナイトであり、"世界最強"のシンナイト。
「よぉ、王国最強。世界最強と遊ぼうぜ?」
俺はニヤリと笑いながらバルデッドにそう言い放った。




