第19話 『迷宮第四層:覚醒』
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定期的な執筆を心掛けております。
目を覚ますと、俺は一面に黄緑色の草が生える綺麗な草原の上に横たわっていた。
さっきまで飛竜と戦っていたはずなのに、いつの間に知らぬ所へ来たのだろうか。
まさか、迷宮の四層がこんな場所な訳ないしな。
とりあえず情報確認のため周りを見回そうとするが、身体が立ち上がろうとしない。いや待て、今更気付いたが後頭部に何か柔らかい感触が。この柔らかさ、身体が動く事を拒否してやがる。
「あ、やっと起きたのね。おはよう」
横たわっている俺の目の前に、十台後半と見える銀髪美少女の顔が現れた。リアナに似ている…………?
俺は慌てて身体を起こすと、彼女を
「…………色々聞きたいが、アンタは誰だ?」
「ありゃ、もう少し驚くと思ったのだけど。そうね……………………ナイショ♪」
「………………ここは?」
「うーん…………秘密♪」
この女、可愛く言えば何でも許されると思ってるんじゃないだろうな? 可愛いけど、あざとい!
「冗談じょーだん、私が誰かとは内緒だけどこの場所位は教えられるよ。ここはあなたの夢の中」
夢の中はこんなにハッキリと意識があるものなのか?
どうでも良いけど俺の夢の中って随分メルヘンチックなのな。もう完全に異世界の住人だな。
「それでね、どうしてあなたがここに居るのかの話なんだけど、気になる?」
「お前の仕業なのか?」
「そうだよ。あなたがあんまりにも弱いから、つい実力行使しちゃったの」
「…………おちょくってんのか?」
確かに、ワイバーンと戦った時の俺は不甲斐なかった。ドヤ顔でワイバーン三匹を相手に一匹も倒せず、挙げ句の果てに派手に一撃喰らって何も出来ずにリアナ任せ…………振り返ると酷いもんだ。
それにしてもコイツ、実力行使したって言ったよな? 故意にこの場面を作る事が出来るのか?
それに俺の事を弱いって言うからには相当自信があるのだろう。
「まさか。まだまだ弱いレイ君に力の使い方をレクチャーしようと思ってね」
「は? お前が、俺に?」
「そーだよ! 早速だけど、レイ君は覇属性の特徴を知ってる?」
「…………そう言えば知らんな」
王国伝は色々な種類のものを何冊か読んだ事はないが、アーサー王は身体強化系の魔法ばかりを使っていた気がする。まさか、覇属性の特徴は身体強化?
「まさか、そんな地味なものじゃないよ」
「おい、サラッと俺の心を読むな」
コイツ、本当に何者だ? 読心術ってそんな魔法聞いた事ねえぞ。
「覇属性の特徴は大きく分けて二つよ。まずは一つは『全能』」
「全能? なんだそりゃ」
「書いて字の如く、覇属性は他の属性全部の能力が使えるの。あ、全部って言っても基本四大属性しか使えないし、他にも制限はあるんだけどね」
なんだそのチート能力は。四大属性だけっていっても十分だろう。まあ、制限次第にもよるのだが。
「それで、その制限の内容は?」
「詠唱すればいいの。そう言えばあなたって詠唱した事ないよね?」
「…………そう言えば、そうだな」
詠唱とは魔法名を発する前に厨二病っぽく文を付ける事で、俺は絶対にやらないと心に決めていたのだ。
初めて魔法を使った時に詠唱無しで出来たので意地でも使って無かったのだが、ついに避けられない問題になったか………………。
「詠唱は自分で決めてね。それで、全能は四大属性が何でも使える訳でもなく、一回の詠唱に一種類しか使えないの。つまり、属性を変えたい時はもう一度詠唱しなくちゃいけいない」
…………まあ、妥協するしかないか。強くなるためには仕方ない 仕方ないけどなあ。
「それに、全能のメリットはそれだけじゃないの。全能は四大属性をレベルアップさせるのよ。例えばホラ、『神の怒りよ、炎よ、燃え上がれ【神炎】』」
彼女が詠唱をすると、手から黄金に輝く炎が出た。
確かに凄い、凄いが先に疑問が沸き起こる。コイツ、今覇属性の魔法を使ったのか? 俺以外で使えるのは師匠とリアナだけなはずだが。どういう事だ?
「お前――――――――」
「はいはい、聞きたい事はあるだろうけど時間無いから次いくよ。二つ目の特徴は、空間。例えば転移魔法ね。あなたが使っている紛い物じゃないわよ? 本当の転移魔法」
「それって縮地の事か?」
紛い物って、この女どこまで俺を貶せば気が済むんだ。結構イライラしてきたんだが。
縮地は師匠から何もヒントを貰わすに作った魔法の中で最高傑作だったんだが、何が悪い?
「そう、だけどそれとは運用方法が全く別物でね。転移魔法は戦闘面には使えないわ。発動に時間がかかるし、短距離転移に向いてないもの。転移したい場所の明確な情報、つまり一度行った所に転移できるって魔法よ。まあ、空間魔法の真髄は転移魔法なんかじゃ無いのだけどね」
「と言うと?」
「フフッ、秘密だよ♪ …………冗談だって! 理由はあるから!」
俺がキレそうな顔をすると、やっと懲りたみたいだ。頼むから最初からそうしてくれ。
「ごめんなさい、これ以上ヒントは与えられないの。そういう風になっていてね、本当は私も………………」
最後の方は聞き取れなかったが、何やら事情があるみたいだ。
事情があるって言っても、ここは俺の夢の中なんだろ? 本当、コイツは一体何者だ。
「ごめんね、もう限界みたい。もっと話したかったんだけど」
「……? そっか、まあすげえヒントくれて助かったよ。ありがとな」
「どういたしまして。じゃあ、お礼として一つお願い事しても良い?」
「…………まあ、内容次第なら」
こんな幽霊みたいなヤツの願いねえ。正直に言うと、態度は悪かったが随分嬉しい話を聞かせてくれた。師匠はあまり大きいヒントは教えてくれない。
俺に大きな利をくれたんだ。少し位の我が儘なら聞いてやろう。
――――――チュッ
「お願い、リアナの事守ってあげてね」
「ッ!? おい!」
頬にキスされたと気付いた時には彼女の顔がぼやけて見え始め、暗闇が世界を覆った。
□■□■□■□
「――――――レイ! レイ! レイ!」
今度目を覚ましたのは暗い迷宮の中だった。
目に映るのは泣きながら俺の名前を呼んでいるリアナ。それだけで俺の心は痛くなる。いっぱい心配させたんだな。
「…………ごめんリアナ、心配かけたね」
「――――!? レイッ!」
俺が返事をするとリアナは心底驚いた顔をしたが、すぐに俺に飛び付いて痛いぐらいに抱き締められる。
俺も壊れ物を扱うように優しく抱き返した。
「……もう無茶しないで。すっごく心配したの。いくらレイでも死なない訳じゃないんだから」
「ああ、そうだな。今まで調子乗ってたって痛感させられたよ」
俺が意識を失ってからの事をリアナは少しずつ話してくれた。
リアナの使った魔法でワイバーンを纏めて倒した事。一、二層と同じ様に上から報酬が落ちてきた事。動かなくなった俺を抱えて階段の踊り場まで行った事。
「それで、その落ちてきた報酬って何だったんだ?」
「むげんの水ぶくろ。魔力をこめるだけで水属性のてきせいがない人でも水ができるって」
「お、そりゃ嬉しい。これで収納の中の水が捨てられるな」
無限の水袋から水出てくるのを確認してから水を捨て、早速飯を作る。
残ったワイバーンの肉を使ってステーキにすると、柔らかくて旨い肉になった。火を通すと柔らかくなるみたいだ。
まあ火に弱いって知ってても前の俺じゃどうしようもなかったけどな。
食べ終わって少し休憩してから階段を降り始める。しかし、四層までの階段は前までよりも圧倒的に長く、蒸し暑い。
苦労して四層に行き着くと、今まであった壁なんてものは無く、一面に熔岩が広がった階層だった。二百メートル先位にボス部屋前の門が見えた。
中央には申し訳程度に岩が並んである。それで渡れって事か。
それだけなら簡単だったのだが、熔岩の中にはトカゲのような魔獣がいた。そう簡単には渡らせないらしい。
この場面を潜り抜けるのには二パターンあるな。どうせならどっちも試してみるか。
「…………レイ、どうするの?」
「大丈夫、ここは俺に任せてくれ」
先程までのあの夢の中での会話を思い出す。
最後のキス――――――何故かあれで魔法の発動の感覚は掴めた。むしろ失敗するイメージが湧かない。
意識を研ぎ澄ませて息を止める。イメージするのは――――――
『凍り付け、神の息吹【神氷】』
俺の身体から噴出された黄金の冷気は、溶岩を泳いでいるトカゲ型の魔獣を溶岩ごと凍らせた。
これで確信をもてた。俺の攻撃パターンを一気に広げる事ができる。
「……レイ、それはどうやって覚えたの?」
「んー、どう説明すれば良いかなー。さっき寝ている最中? それより、覇属性の性質についてどうして教えてくれなかったんだ?」
「…………せいしつって何?」
「俺がさっき使った神氷の事とか」
「これのこと?」
俺の話を聞いてリアナは本当に分からなそうにしていたが、神氷の話を持ち出すとそれを実演してやってのけた。とすると、リアナは記憶喪失だから性質の事も分かっていない? ただ感覚でやっているって事かよ。
俺は溜め息を吐いてもう一つの選択肢の魔法を使う。
確かに神氷でこの階層全てを凍らせても良いが、いくら術神の指輪があるからって魔力の方が心配だ。この覇属性の全能は燃費が悪すぎる。
そういえば、彼女はリアナを守れって言っていたよな。そんなことは当然なのだが、アイツはリアナと知り合いなのか? どんな関係だ?
「レイ、きぜつしている間に何があったの?」
「さあ、俺にも分からん」
怪しんで来たリアナの発言を適当にお茶を濁す。実際俺も何が何だか分からんし。
それでも、後々分かるだろう。何の根拠も無いがそんな気がする。
デュランダルでオーガ亜種やキマイラを薙ぎ倒しながら進んでいく。武器のお陰だけでなく、俺自身の力がついたと実感出来た。この程度の魔獣なら問題なく倒せる。
結局、道中は変なトラップもなく、そこまで苦労せずにボス前の扉まで辿り着いた。
結局、教えてもらった転移魔法は使えなかったが、とりあえず今は気持ちを切り替えて目の前のボスに集中しよう。三層の様なヘマは絶対にしない。
「行くぞ」
「…………ん」
リアナと短く言葉を交わしてボス部屋の扉を開ける。
中を見渡すと今までとは違い魔獣は一匹しか居なかった。
――――――三つの頭を持つ魔獣、ケルベロス。
縦の大きさだけでも成人男性の一・五倍はある魔獣。
数は極少数しか目撃されておらず、Aランクの中でも飛び抜けており、最もSランクに近い魔獣の一体として有名である。
その強さは騎士団の一個小隊、つまり百人分の力を持つ。ただの一般人なら歯牙にもかけないだろう。
「リアナ、コイツは俺に任せてくれ」
「……ダメ。もうそんな事はさせない」
「………………頼む」
「……………………」
ただ単純にカッコつけたい訳じゃない。俺はこの迷宮で成長したという実感が欲しいんだ。三層の時みたいに短絡的思考じゃない。ここでコイツ一匹倒せないようじゃ、魔王なんて倒せる訳ないじゃないか。
「………………わかった。でも、少しでもあぶないって思ったらすぐ助けるから」
「ありがとう――――――信じてくれ」
都合の良い言葉をだってのは重々承知だ。それでも、ここは引けない!
『【金剛力】【明鏡止水】』
魔法を発動させながらストレージからデュランダルを取り出す。そして、デュランダルに魔力を込めた。俺の魔力に反応するかのように柄にある宝石が光り輝く。準備万端だ。
俺が駆け出すのと同時に、ケルベロスも疾走する。スピードは明らかにあっちの方が速い。
ケルベロスが爪で引っ掻いてくるのにデュランダルで斬り合う。そのままヤツの後ろに入る。
スピードが勝てないのは明らかだが、パワーは負けていない。それなら――――――
『百連【|魔力物質化《マテリアライズ・覇】【魔力爆弾】』
時間稼ぎに爆発を付与した槍を百個瞬時に作り出し、ケルベロス目掛けて放つ。これで詠唱の暇ができた。
『響け、轟け、神の咆哮【神雷】ッ!』
隙が出来た瞬間に素早く詠唱して魔法を発動させる。
発動させるのは神雷。効果は近接戦闘による麻痺の付与と、自身の速度上昇。
俺の黒髪が一気に真っ白になり、周りに金色の雷が帯びる。
俺が魔法を発動させている間に、ケルベロスに向けた百連発の魔法も切れていた。
煙の中から現れるケルベロスは少し焦げてはいるが、それでも無傷と言って良いだろう。ここまでは大方予想通り。
ケルベロスに向かって駆け出すと、意識してもないのに縮地のような疑似瞬間移動が出来た。
そのまま連続して瞬間移動し、ケルベロスをかき乱す。ワイバーン戦とは違って縮地がスムーズに出来るのでより一層速くなった。
前回の失敗を生かし、今回は傷を刻むように斬りつける。これで剣が抜けなくなる心配も無い。
このインファイトを繰り返していると、一瞬ケルベロスの身体がぐらついた。この隙は逃さない!
『【雷鳴剣】ッ!』
一気にデュランダルに魔力を込めて今度は深く斬り込む。
胴体に深い傷ができたが、まだ倒れるまでには至っていない。しかし、ケルベロスの身体が完全に止まった。麻痺がかかったな。これならイける!
『震えろ、砕け、神の鉄槌【神地】ッ!!』
俺は瞬時に神雷を解くと、今度は防御と膂力に長けた神地を発動させる。これでぶった斬る!
今日一番の魔力をデュランダルに込めて上段に構える。柄の宝石が鈍く光った。
『【神剣・斬岩剣】ッッ!!』
デュランダルをケルベロスの首目掛けて降り下ろすと、まるでバターを切るかのようにすんなりと斬れた。
三つの首が全て同時に落ちる。それにワンテンポ遅れて胴体がどう、と低い音を立てて倒れた。それに合わせて神地も解く。
ケルベロスを倒して一息吐いたと思ったら、いつの間にか隣にリアナがいた。
「…………よかった、レイに何もなくて」
「そんなに危なっかしかったか?」
リアナは首を振って否定の意を示すが、すぐに俺に抱きついて顔を胸に埋めた。心配かけちゃったかな。
『第四層クリアおめでとうございます。報酬に巻物が贈られます』
いつも通り無機質なアナウンスがボス部屋に響くと、上から白い巻物が降ってきた。この設定にもなれたもんだな。
早速ほどいてみると、中には魔方陣が描かれていた。
『なお、この巻物の魔方陣は第五層クリアと同時に自動的に発動されます』
要するに、第五層のボスを倒さない限りこの巻物はただの紙切れか。まあ、自動で発動されるってのは魔方陣の使い方が分からないから嬉しいな。
ともかく、これで四層までクリア出来た。残すはラストの第五層。マップはボス部屋だけだから簡単に聞こえるが、ボスの強さが問題だ。
Sランクの魔獣はその強さから災害級とも呼ばれる。弱小な領地の騎士団なんかでは歯が立たず、国の騎士団が出てこないと討伐は出来ない。
次にそれと戦うのか…………。これは持てる切り札は全部切っていかないとな。
「リアナ、五層のボスは生半可な相手じゃないだろう。ゆっくり休んで万全の状態で戦おう」
「…………ん、ぜったい負けない」
妙にやる気を出しているリアナの頭を撫でる。この一年ずっとリアナと過ごしてきたが、ここまで感情を露にするのは初めてかもしれない。
俺も負けてられないな。
放置していたケルベロスの死骸を収納にしまい、ワイバーンの肉を食べて身体をサッと拭いてから、今回もリアナと一緒の寝袋で寝た。
もう完結までの流れは出ているのに、それを書いている時間が無い。
土日でもう一本上げます。




