新しい人生の幕開け
この星、セレスティアは60年前に大小様々な隕石の衝突を受けた。その隕石からは未知のエネルギー・ストレングが発生し、次々とあらゆる生物が凶暴化していった。
衝突してすぐに、多くの人々は今までに感じたことのないエネルギーが体内を巡りだし、力が増したことを知覚しだしたという。そして、そのエネルギーを体から出力し、物に作用できることにも気づき始めた。やがてそれを便利に使い始め、魔法と呼ぶようになった。
しかしその便利さの一方で、体内に許容できないストレングは循環が滞り、額に蓄積され結晶化していった。その黄金色の結晶が大きくなるにつれ、精神は高揚し、ついには常軌を逸するようになった。
凶暴化した者や動物を目の当たりにし、人々はストレングを恐れた。ストレングの研究は急ピッチで進められ、ついには一部の植物が、ストレングをはね除けることを見つけた。それらの植物を忌避草と呼び、忌避草に囲まれた生活が始まった。
また、ごく稀にストレングの影響を受けない人がいることも発見された。その者に額の結晶を取り除く力があることも。その稀少さと能力から、世界はその人々を除去師として手厚く保護し、管理した。
除去された結晶をストレングマテリアル、通称ストレアルと名付け、火や石炭にかわるエネルギー源として利用し始めた。新たなエネルギー源の発生と魔物の脅威は、今までの統治を揺るがし、多くの国々で地方分権化が進んだのだった。
◇◇◇◇◇
-セラトン・西門前-
「おーい!カイ坊!」
俺の憂鬱を吹き飛ばすかのように、満面の笑みを浮かべたダムおじさんの大声が響く。
おじさんの銀のサークレットが日の光で煌めいてる。
村への行く道の護衛として来てくれたようだ。
おじさんと言っても、血縁があるわけではない。
父さんの同僚、村の護衛役。40歳くらいだっだと思うが、その体は筋肉隆々。家は向かいらしい。
「ちょっと早いけど、お帰り。」
父さんが穏やかな笑顔で言った。
面会で会う時と違って、防具を着けた姿はまるで騎士のように見える。おじさんと同じ銀のサークレットが、その姿によく似合ってる。
「何というか...ただいま、でいいのかな?」
自分でも苦笑いになってるのが分かる。
「ん?...ああ。お前は今まで村で一度も暮らしたことはないが、立派な村の住人だろう?」
「そうだぞ!カイ坊!村の皆は、村の唯一の子供のお前が可愛いくて仕方ないんだから!お前が帰ってくるって浮き足立ってるぞ!」
「おじさん、もう子供って歳でもないんだけど。それに帰るっていっても村に行くのは初めてだから...。」
「いやいや。初めてだから...。って、関係ない!村はお前の故郷だろう?お前は村人みんなの可愛いカイ坊だ!」
まるで太陽のような笑顔で肩をはたかれると、もう食い下がるきもなくなってしまう。
「除去師になれなかったことを気にしているのか?」
まだ、憂鬱が顔に張り付いていたのだろう。父さんが心配そうにこちらを見る。
「...うん。俺は、村の助けになりたかった...。」
「前にも言ったろう?除去師になったとしても、うちの村の規模だと専任の配属は難しいだろうって。」
「...でも!うちの村への派遣回数を増やすくらいできたかもしれない。」
「どうだろうな。国は除去師の手綱を握っていることで、中央としての権力を保っているようなものだ。客観的にみると、保護という名目をもとに、除去師を完璧に管理下に置きたいようにしか見えない。そんな国が除去師の思いを汲んでくれるだろうか...。」
「そうだよなー!カイ坊もこの街の産院で産まれてすぐに、除去師保護の為って言って、取り上げるように保護地区に連れてかれたもんなー。村の皆がお前がくるのを楽しみに待ってたってのに!」
おじさんは悔しそうな顔で手を握ったり開いたり、わきわきさせている。
母さんの話だと、そのせいで結局、街の保護地区の仮住まいに村人みんなが押し寄せて、家の中が人で溢れて大変だったらしい。産後だからってすぐ帰ってくれたらしいけど。
それ以来、村人達が街への来るときは、俺の顔を見に来るのがお決まりのコースになったらしい。
お陰で、村に住んだことがないにも関わらず、すっかり村人の一員として育った。
「でもよ!お前、ストレング値1だったってことだろう?そしたらよ!きっと凄腕のハンターになれるぜ!」
おじさんが俺の金のサークレットを指差しながら言う。
そう。精密検査を行ったら、ストレング値は0に近い1だということが分かった。ストレングの計測は体内にストレングを徐々に流し入れ、結晶化が始まるまでのスピードを測定する。そのスピードが遅ければ遅いほど、体内に循環できるストレングの量が多いということだ。
0だと、いくら流しても結晶化しない。ストレングが流れない絶縁体。だから除去師になれる。
俺の場合は、測定で流す基準量を遥かに越えた量で漸く結晶化した。つまり、今までの基準からいくと0に近い1。
ストレングの結晶化スピードと、許容できる結晶の大きさは比例しているらしい。体内にストレングを多く循環できる人は、額の結晶も大きくなっても狂いにくい。
国民は産まれてすぐの検査で、ストレング値が計測され、その値に見あったサークレットが支給される。
このサークレットの額に当たる部分には、菱形の覆いがある。その覆いの大きさは、各個人のストレアルの大きさの許容量に合わせて作ってある。この覆いを越えた大きさの結晶になると、サークレットが外れてしまう。
そうなると、もう狂う一歩手前ということだ。
俺の支給されたサークレットは金色。
ストレング値の値によって、サークレットの原材料が異なってくる。
1から30未満だと金。
30から80未満で銀。
80から200未満で銅。
200から300未満で忌避草を塗料につかったグリーンサークレット。
300以上で忌避草の蔦を編んでつくられたプラントサークレット。
ストレング値0だと、サークレットは支給されない。結晶化することはないから。
昨日初めて着けたサークレットはまだ違和感がある。
「村は万年金欠だ!お前がハンターになって稼いでくれれば...っいやいや!すまねぇ!お前は漸く国の保護という檻から自由になったんだ!自由に生きろ!」
おじさんが輝かせていた顔を、ハッとして真剣な表情に変えていった。
「カイ。これからお前の行く道は、お前が決めていいんだ。村の為なんて考えなくてもいいんだよ。」
俺のほんの少しだけ回復した表情を見て、父さんは困ったような笑顔を見せた。
「そろそろ、村に出立しなければ!皆が首を長くしてるだろう。」
父さんの指差す先。
重苦しい門の外、太陽の照らす草原が目に入った。




