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 鳩にくくりつけられていた手紙を見てからレオンはどこかおかしい気がする。いつも何かを考えていてボーッとしていることが多い気がするんだ。


「レオン?」


 隣を歩いていたレオンが立ち止まった気配がしたので横を向く。彼はどこか寂しげな蒼の瞳で私を真っ直ぐと見つめる。

 どうしてそんな瞳で私を見るのだろうか。私は何かしたのだろうか。


「りいな」


 真っ直ぐ見つめてくる瞳に心臓が激しく高鳴る。苦しいのに心地いいこの高鳴りは消えることはない。

 蒼の瞳は寂しげに揺れる度に美しさを醸し出す。それにまた心臓が跳ねた。

 あぁ、一体どうしてしまったのだろうか。どうして、どうして私達は互いに見つめ合っているのだろうか。

 どうして、先に進もうとしないのか。


「もう少しで……もう直ぐそこに王都が見えてきます」


 ほら、その言葉で下を見下ろす。ここは山の上らへんであっても下を見下ろせるくらい景色がいい。

 下に見えるのは大きな外壁に囲まれた街。その中央にそびえ立つのは、おとぎ話に出てきそうな大きなお城。


 あそこでレオンは産まれ、生きてきたのかと考えると寂しくもある。私とレオンは所詮は違う人間なのだと思い知らされるのだから。


「大きいね」

「えぇ、無駄に大きいのです。まるでそこは箱庭のように」


 どうしてレオンはそんな例えをするのか。そんな冷たい口調で語りかけるのか。

 気になってしまい、レオンから視線が逸らせない。いいや、逸らすことが出来なかったのだ。

 寂しげに揺れる蒼の瞳の奥には言いようもない暗い色が浮かんでいたのだから。


「そう、あそこは箱庭みたいに閉ざされた世界なのですよ」


 閉ざされた世界。その閉ざされた世界でレオンは生きてきた。

 そう言えば、レオンは特別と言っていた。私がこの世界に飛ばされた神殿には本来は男性禁止。だが、レオンは特別だと言っていた。

 レオンが特別な本当の意味はよく知らないが、少しだけ分かった気がする。

 彼は神殿の巫女から恐れられていた。怖いと彼女は言っていたんだ。

 それにレオンはアルフレートと同じで獣を連れている。その獣は本当の獣なのだろうか。


「あなたの獣、レーヴェは本当に獣なの?」


 レオンとよく似た金色の鬣に透き通るほど美しい蒼の瞳の獣。レーヴェは野生の獣といった感じがない。高貴な雰囲気を漂わせているんだ。

 アルフレートの獣だってそうだ。漆黒の毛に同じく漆黒の瞳。

 獅子と狼は本当にただの獣なのだろうか。


「魔物憑き、なのです」

「えっ?」

「僕も奴も魔物憑きなのですよ」


 真っ直ぐ私を見つめていた瞳は今では城を映し出していた。

 それが無性に悲しい。そっとレオンに近寄って、彼の手を握り締める。

 驚いたように城から私に視線を向け、彼は微笑んだ。

 そして、ゆっくりと語り出す。


 魔物憑きというのは、産まれた時から魔力が高くて魔物に目を付けられるというものだ。

 魔物は魔力が強い人を取り込もうと、食べようとするのだ。だが、そんな魔物の中にも力が強くて理性がある魔物がいるわけだ。その魔物に魅入られた者を人は「魔物憑き」と呼ぶ。

 魔物憑きは人から恐れられる。何せ、魔物憑きは魔力が強いということだ。魔力が強いと魔に堕ちて魔族になる率が高い。

 その為、人は魔族憑きを忌み嫌う。殺そうとするのだ。


「この話を聞いて貴女は僕を恐れますか?」


 今にも泣きそうだと思った。レオンはいつもと同じように顔に笑みを貼り付けているが、私はそう思ったのだ。

 彼は求めている。自身を必要としてくれる人を求めて、恋い焦がれているんだ。


「……ばか」

「貴女はやっぱり優しいのですね」


 自分自身の頬が濡れる感触が伝わる。視界がぼやけてよくレオンが見えない。

 あぁ、私は泣いているのか。そう分かると何だか落ち着いてくる。

 最近の私はどこかおかしい。情緒不安定になっているんだ。

 だから、今だけは泣かせてほしい。


「りいな、りいな。僕だけのりいな」


 レオンの体温が私を包み込む。温かくて安心するぬくもりだ。

 そっと彼の胸に耳を寄せれば、とくんとくんと心臓が鼓動する音が聞こえる。

 生きている。そう思える音が私を嬉しくさせた。



 しばらく、レオンの腕の中にいたが私達は行かなければいけない。あのレオンが称した「箱庭」へと。

 そう思い、彼の胸をトンッと押すと彼は案外呆気なく離れる。


「貴女は殺させません」


 彼の言葉に私は笑みを浮かべた。私は死ぬ前提であの城に行かなければいけないのかと。


「レオンが守ってくれるんでしょ?」


 だから大丈夫だと。あなたが怖がることはないのだと、私は彼にそう微笑んだ。




 王都は人が溢れる活気あるところだった。見たことのないたくさんの店に、いろんな人達。

 自分が浮いてる気がして何度も着ている服を見返してしまった。

 それに王都に入る前までは側にいた獣達も今はいなくなっていて、レオンと二人きりだ。


「ここは人が多いですから離れないで下さいね、リーナ」


 王都に入ってからは、レオンは私のことを「りいな」ではなく「リーナ」と呼ぶ。それは王都に入ってからは監視が付いているかもしれないからだとかなんとか。

 レオンは私の本名を他人に教えたくないみたいだ。だが、よく考えてみると「りいな」も「リーナ」も私的には対して変わらない気がする。


 ふぅと息を吐き出し、彼から離れないようにそっと彼の袖を掴んだ。

 彼は他人の流れに流されず、サクサクと中央にそびえ立つ城へと歩みを進めた。

 城の正面まで辿り着いたら、彼はどうもすることなくその場に立ち止まる。

 門にいる門番に何かを言うわけではなく。ただ、この王都に来たばっかりの人達みたいにただ大きい城を見つめていた。


 レオンと口に出そうとした時だった。門が勝手に開き、中から数人の騎士の格好をした人達が出て来る。

 いきなりのことで、その場にいた人達はその騎士達を凝視する。


「王が死んだか」


 冷たい声が隣で聞こえた。その声はあまりにも冷たくて、隣を向くことさえ出来なかった。


 レオンが小声で呟いたことを騎士達は王都にいる人達に言い放つ。そして次の王は皇太子である第一王子である人だとも。

 レオンは自身のことを第二王子と言っていたのだから、皇太子は彼の兄 に当たる人だ。


「行きましょう」


 あの時までは寂しげに揺れていた蒼の瞳も今では冷たい氷みたいだ。

 彼に頷き返して、私達は騎士達に紛れて城の中へと入り込んだ。

 あっさりと城の中へと入り込めて、拍子抜けしてしまう。それに入り込んだ後も目立つことなく、ある謁見の間の前まで辿り着いてしまった。

 まるで、私とレオンをここまで案内しているみたいで。


「ここは……」


 私の呟きに反応したかのように勝手に頑丈そうな扉は開く。

 不思議に思うことなくレオンは中へと入る。それに釣られるように私も歩みを進めた。

 この謁見の間は普段は使われてないのだろうか。ところどころ内装が寂れている気がする。

 それに中央にある椅子は豪華ではない。シンプルな椅子が一つだけ置かれていた。


「普段の謁見の時は別のところ使っている。こんな時だからこそ、ここを使おうと思ったのだけどね」


 椅子が置いてあった近くから声が聞こえた。

 いきなり現れたレオンによく似た金色の髪を腰まで伸ばし、緩く纏めている男性は椅子に手を置き、優しく微笑んだ。


「あっ……」


 どくん、どくんと心臓が鳴り響く。

 どうしてなのだろうか。どうして、ここにいるのだろうか。

 私は無意識に一歩と後ずさる。それに気付いたレオンが私を優しく包み込んでくれる。


「こんな格好で申し訳ございませんが……お久しぶりです、兄上」


 その時、その言葉を聞いた瞬間に無性に私は泣き叫びたくなった。

 どうして、どうして、と。ずっとその言葉だけが私の頭を占めた。

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