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ガンマンと愉快な仲間達(2)


「分ったお前らの言いたいことは大体分った、俺がバカと、俺がバカと言いたいんだな? そうだな? それで文化祭がなんだって言うんだ」

 沙羅と斎藤のシンクロがカンに触る……。

「ここまで言っても理解できないの!? アンタどんだけよ?」

「違うよ、沙羅、理解できないんじゃない、理解しないんだ。面倒だから」

「そうね……」

 なんだか分らんがこいつらに失望されてしまったらしい。沙羅は普段から良く斎藤や俺に呆れてるけど。沙羅は一度深呼吸してから俺と対峙した。

「いい? 私達の通うこの学校で文化祭があるの、それももう直ぐそこまで迫ってるの、桂以外の全校生徒が認知してるの! 大体この間廊下で文化祭のポスター見てたじゃないの! 見っけたのアンタよ!?」

 沙羅は徐々に声が大きくなって行って驚愕の発言をした。

「な、なんだと……文化祭が……開催されるのか……?」

 信じられん、俺が文化祭を体験する日がこようとは……。

「本当よ、嘘言ってなんになるって言うのかしら。他にも使うでしょうけど文化祭があるから演劇部もこんな変に凝った衣装用意してるんじゃない。それにここで生活してて様子の変化に気付かない? 大分変わってきたわよ? 生活しづらいくらいよ、全く……」

 沙羅は少し疲れたような表情で一度軽い溜息をついた。沙羅も文化祭を面倒だと思う人間だろう。つまり俺側。

「文化祭か……その日は近いんだよな?」

 沙羅の言うように今思うと学校の様子も変わったような気がする。確認のため皆に問いかける。

「そうよ……」

「そうなんだぜ」

「そうですよ」

 うむ、やはり終焉の日は近いようだ。……だるいな。

「あー休んじゃ駄目かなー」

 椅子に深くもたれかかり一言呟く。

「私もそうしたいわ……」

 すっかり面倒モードに入ってしまった沙羅もポツリと呟く。

「うぁ、君達二人は楽しもうとか思わないのか? せっかく初めての文化祭だって言うのに、高校生として文化祭ではしゃぐのは義務だよ。もう少しやる気だしなよ」

 俺と沙羅を近くで見ていた斎藤が苦笑をしながら説教たれてきた。斎藤は俺や沙羅と違いこう言うイベント物が好きな人間だったな。昔からコイツも祭りやらプールやらによく付き合わされたものだ。

「沙羅ちゃん達文化祭はお嫌いですか?」

 斎藤の隣で話を聞いていた美優が何やら訊ねてきた。少し寂しそうに見えるのは気のせいか……。その様子に沙羅は気付く様子はない。

「そうね、私って文化祭とか人が沢山いるところ好きじゃないのよ、息苦しいったらありゃしないわ。図書室クラブ少人数ですることなら好きなんだけどねーだから肝試しなんかは楽しくてしょうが無かったんだけど」

 目を閉じて少し考えながら美優の質問に答える沙羅、うーんと唸っている。沙羅のこの発言には俺もとても賛成だ。

「やっぱそだよなーせっかくだから文化祭の日は二人で駅の近くに新しく出来たって言う本屋にでも行くか?」

 俺は笑いながら冗談を言った。軽い冗談だ。

「そうね、でも文化祭は二日間だから普通に町の図書館でも良いと思うわ」

 沙羅も軽く笑いながら冗談に乗ってきた。

「おいおい、それでも現役高……」

「駄目です! 沙羅ちゃんも桂君も文化祭出なくちゃ駄目です!」

 ふざける俺と沙羅に斎藤がツッコミを入れようとした瞬間突然美優が大声を上げた。俺達は驚いて一斉に美優のほうを見る。先生も珍しく口を開けてポカンとしている。地雷でも踏んだか?

「ど、どうしたのよ美優突然……」

「なんかあったのか?」

「美優ちゃん大丈夫?」

 みんな突然の事態に状況が飲み込めないもの美優に何か起きたことは確かだ。本当にビックリだ。

「私今年の文化祭はとても楽しみにしてたんです……」

 美優が話しを始めた。その表情はとても切なげだ。今になって美優を真剣に見つめる。

「ただの文化祭よ……?」

 ここで沙羅がポツリと呟いた。普通に考えればその通りだ。しかし相手は美優である事を忘れてはいけない。

「ただの文化祭じゃありません! 私にとっては友達と過ごせる初めての文化祭なんです! だから……だから皆出なくちゃ駄目なんです!」

 美優は目にうっすらと涙を浮かべていた。これは美優の本当の気持ちだろう。美優が何故こんなにも必死なのかは俺達と出会う前の美優の生活と美優の性格から考えれば当然かもしれない。そしてそれは俺だけではなく図書室クラブ全員が容易に考えられるだろう。まぁ誰にでも地雷は幾つか存在するものだ、特に気にする事じゃない。

「美優、分ってる。悪いが俺と沙羅の話は冗談だ。全員文化祭には参加するさ。だからそんなに気に病まないでくれ」

 少し笑いを含めて俺は美優に事情を説明する。笑いを入れたのはこの場を少しでも和やかなものにしたいと言う俺の不器用な配慮だ。

「そうよ、軽い冗談だわ。けど悪い冗談だったわね。ごめん美優だから元気出して」

 沙羅も俺と続き美優を慰める。うーん少し空気が重いなーでも大丈夫だろう。

「二人の言うとおりだよ、元気出しなってせっかくの可愛い顔が台無しだよ? ほら笑った笑った!」

 斎藤の性格上こう言うのは斉藤が一番うまい。ただ軽いだけなんだけど。

「えぇそうですね……取り乱してすいませんでした!」

 目の端の涙を指で拭った美優がニッコって背景が似合いそうな笑みを見せた。どうやら元気は出してくれたようだ。

「第一文化祭ごときのために欠席日数増やしたくないし……」

 本音でポツリと呟く。

「そうね……」

 沙羅もポツリ。

「えぇー沙羅ちゃん桂君また沈んじゃうんですかー!? 元気出しましょうよー楽しみましょうよー」

 先ほどの俺達との立場が逆になってしまった……。

「てか俺達は何もしなくていいのか? クラス展示とか」

 ふと気になったので訊ねてみる。ことによっては面倒な事が沢山あると言う事だ。

「本当に先生とかの話し聞いてないんだね、まぁ文化祭あるとこ知らなかったし当然か」

 斎藤に溜息をつかれてしまった。当然だがイラッとくる。

「それについても安心よ、この学校の発表は大体部活動だから、ほらこの学校無駄に部活多いじゃない。でも希望があればクラスでも出来るそうよ。したい?」

 机に頬杖突いた沙羅がダルそうに答えてくれた。

「御免被る」

「でしょうね」

「そのやる気の無さ何とかなんねぇのか? いいじゃん皆で出店とか回ろうぜ」

「そうです。皆で行けばきっと楽しいですよ」

 いつまでもやる気の無い俺と沙羅に対象的な斎藤と美優、綺麗に2対2になったもんだ。

「なんか乗れないんだよなぁーなんか楽しみがあればいいんだけど……」

 俺が発言すると沙羅ではなく珍しく美優の目が光った! 沙羅は今の状態で目を光らせるのは無理だろう。

「私こんな物持ってます!」

 その声はやけに弾んでいる。嫌な予感しかしないんだけど……。まぁ良いや。

「鞄が…えっと……ここからだから……えい! これです!」

 美優がもたつきながら鞄から引っ張りだしたのは大量のプリント……?

 俺は机に置かれたときに俺のほうに滑ってきた一枚の紙を手に取り始めの文を音読した。

「期末英語テスト、高坂美優100点……」

「きゃぁぁぁ! それは違うんです! そっちじゃなくてこっちですこっちを見てください! 待ってみないで下さい!」

 美優は顔を真っ赤にして半泣きで取り返しに来たが先ほどまでグッタリしていた人間とは思えない速さで素早く沙羅が止める。

「……」

「……」

斎藤が固まっていた。ついでに俺も夢なのか現実なのか疑っていた。沙羅は至って冷静で「なになにー美優100点取ったの?」なんて言っていた。ゆっくりと斎藤が俺からプリントを奪い取りワナワナと震えながら見つめていた。

「う、うそだぁぁぁあああああ!!!!!」

 斎藤が現実を受け止めきれずに大声を上げて崩れ落ちていった。斎藤が手放したプリントを次に沙羅が拾う。

「へーすごい美優って頭良いんだー。んーさすがに2年生のはよく分らないわ」

 沙羅は全体を眺めてからホイっと言って美優に返した。

「そんな事無いですよー。たまたま山が当たったんです」

 沙羅に褒められて嬉しそうな美優。山が当たってもそこまで取れないぞ……元が良いのか?

「でもこの学校で100点なんて取れるもんなんだな。この前のテストも結構難しかったろ? 何個も赤点とって泣いてる奴いたし」

「俺の事か!」

 斎藤が叫んだ。美優には素直に感心する。中学でも100点は珍しかったなよな……。

「そう? 結構簡単よ、100点なら私も取った事あるわよ? あんたらが勉強し無さ過ぎるだけじゃない?」

「ばかなぁ!」

 崩れて固まりになっていた斎藤が跡形も無く爆散した……。俺にも衝撃が走る。

「な! ……それは本当か?」

 額に汗をかく。

「本当よ、言わなかっただけで」

 沙羅は真顔で言い返してきた。嘘じゃなさそうだ……。

「テストなら斎藤いじりのために大体見せ合ったはずじゃ!」

「おい!」

 確かに沙羅は俺達の中じゃダントツトップだが100点は見たことがない……。

「大体でしょ? 見せなかったのが全部100点よ」

 さらっと恐ろしい事を言ってきた。

「お前が見せなかったのって結構あるぞ……」

「俺は赤点取ったのかと思って密かに笑ってたのに……とんだピエロだ……」

 俺と斎藤がさらに衝撃を受ける。

「あんた達が傷つくと思って黙ってあげてたのよ」

 気遣いだと……!? 低レベルな戦いをする俺達に気を使っただと……!

「沙羅ちゃん優しいんですねー」

「そうよ、当たり前じゃない、大切な友達を傷つけるようなこと私がするわけないじゃない」

「そうですよねー」

 自慢げな沙羅とそれをキラキラした目で見つめる美優。イラッ……。

「美優、気づけそいつは優しくなんて無いぞ」

「今言ってるんだから駄目だろ! 優しいなら墓まで持ってけよ! こんな所で暴露すんな!」

 俺と斎藤が猛反発するが沙羅は華麗にスルー。

「で、テストのことはどうでも良いけど美優は何を持ってきたの? 優しい沙羅ちゃんに見せてよ」

「ぐあ、沙羅ちゃんって似合ねー」

 斎藤の発言にも沙羅はスルー……俺が何か言ってもスルーだろうな……。

「はい、沢山あるので好きなものをどうぞ」

 机にある大量のプリントの半分くらいを美優が沙羅に近づける。テストはさっきの一枚きりらしい。俺達は思い思いに差し出された紙を手にとっていく。その隙に美優は慌ててテスト用紙を鞄にしまった。

 そんな美優を横目で一瞬確認した後何となく手に取った紙に目を移す。

 燃えろ青春! 文化祭恒例バレー部招待試合! 是非ごらん下さい!

 と言う文字が火をモチーフにして力強くその下のバレーボールのイラストとともに書いてあった。どうやら文化祭の交流試合の宣伝らしい。

「何だこれは? 俺達にバレーをしろと言いたいのか?」

 不思議に思った俺は美優にピラピラと紙の頭を摘んで先ほどの紙を見せた。

「あぁそれは毎年恒例の招待試合のビラですね、それにはバレーって書いてありますがバレーが毎年あるんじゃなくて運動系の部活が交代でやってるんですよ。ちなみに去年は野球部でボロ負けでした、それよりそれだけじゃないので幾つか見てくださいよ」

 俺が摘んだビラを確認した美優が適当に説明してくれる。運動系の招待試合か……俺は全く興味ないな。あ、でもしばらく前に図書室でルールブック読んだ覚えが……

「俺のはクイズ研究部だってさ。こんな部活存在したっけ?」

 斎藤も手に取った紙を見ながら不思議そうな声を上げた。

クイズ研なら知っていた、この間放課後一人で廊下を歩いていたら突如クイズ研と名乗る変な格好をした三人組みにクイズを仕掛けられた事がある。結構本格的な地理クイズだったがちょうど図書室で読んでいた地理の本に出てきた問題だったので即答する事が出来た。あの三人、特にリーダの悔しがりかたは面白かった。

「こっちは華道部の無料体験だわ、ちょっと面白そう……これは……」

 斎藤と同じように紙をまじまじと見つめる沙羅。コイツは華道にも興味があるのか……。そういえば以前華道部らしき連中が薔薇とかユリを相手に投げたりしてバトルしてたな……人だけじゃなくて地面にまで刺さって驚いたものだ。

「沙羅ちゃんは華道に興味がおありですか? 私も一度やってみたいですねーどうですか? 一緒に行きません? あ、茶道部さんの体験もありましたよ」

 こっちも必死だな……。美優、グイグイ行くな……。沙羅も分ってても少し顔引きつってるぞ。茶道部か……何時だったか何故か武将姿の先生が和服姿の部長に切腹命じてたな。

「そうね、考えておくわ……あ、違うのも見ようかしら!」

「はいどうぞ! 沢山ありますからじっくり見てくださいね」

 美優から逃げるような形で沙羅は華道の紙を置き違う紙に手を伸ばした。美優は沙羅の態度など気付かずとてもにこやかだ。この子少し面倒なのが欠点だな……。

 俺ももう一度近くのプリントを取ってみるそれには演劇部のチラシらしくその紙には「昨年の大好評につき今年も衣装新調でやります! ガンマン、侍、メイド、番長に研究者が地球の存亡を掛けて謎の宇宙人と戦う超感動ストーリーです! 是非ご覧下さい!」

 俺はその紙を無言で丸めてゴミ箱に投げ捨てた。感動じゃなくてコメディーだろ……。てか去年は成功したのか?

「しかし美優ちゃん良くこれだけのチラシを集めたもんだねー結構な量だよ」

 しばらくチラシをあさっていると斎藤が数枚のチラシを両手に持ちながら独り言のように美優に話しかけた。

「そうですねー確かに大変な量ですよね。始めた見たとき驚いちゃいましたよー」

「そりゃそうでしょうね、この学校無駄な部活動多すぎなのよねーなによ五身合体ロボット研究部って無駄でしかないわ、なんで五体にこだわるのよ」

 五身合体ロボット研究部か……そう言えば何時だったか校庭で巨大なロボットが怪獣と……。

「図書室クラブがそれを言えるの?」

「部活じゃないわ」

「認めた……」

 沙羅は図書室クラブがクラブである事にそこまで不満が無い事が分った。斎藤もそう言うつもりで言ったわけじゃないと思うけど……。まぁ確かに無駄な部活も多いな。

「だがまぁこの資料の量に関しては俺も驚きだな」

 溜息交じりで若干量の多さに呆れながら演劇部からの気分転換に新しくチラシの山から他とは形の違う一枚引っ張りだす。おっ今回は文化祭実行委員のパンフレットのようだ。読んでみるとどうやら当日の開催期間や学校の地図などを書いた案内のもののようだ。

なんてことないどこの文化祭でもありそうなパンフレットである、その全く興味の無い中身をほぼ全て飛ばして行き見開きの最後の所に執行部メンバーの名前が書かれているのを見つけた。

部長や書記、会計、観察などの役職の横に何人かの名前が書かれている。それの全て知らない人間だと言いたいが何故か一つだけ見覚えのある名前が見えた。委員長、書記、会計は全く記憶に無いが監察の覧に何名か書いてある一番最後にその名前を見つけた。

 不思議に思っていたら自然と声が出てしまっていた。

「もしかして美優実行委員なのか? 監察のとこに名前出てるけど」

 普通に聞いたと思う自分で思うけどもう少し驚きたまえよ。

「あれ、もうばれちゃいました? そろそろ言おうと思ったんですけど、あっそれがあったのかー」

 美優は全然残念そうじゃない、むしろ嬉しそう。声弾んでるぞ……なかなか面倒なんだよなー。

「あれ美優実行委員だったの? なんでまたそんな面倒な役職やってんのよ」

 沙羅も意外に落ち着いた様子、面倒な役職って……ストレートすぎだろう。

「そうなんですよ、別にしたかったわけじゃないんですけどね、私だって面倒とは思ってるんです、本当に……本当に……面倒な……役職で……私も……したくなんて……いえ! 今は今回のお役目は喜ぶべきものです! 私は運が良かったです!」

 面倒な奴を押し付けられたんだろうな……一時はテンション落ちすぎてどうしようかと思ったけど何とか持ち直してくれてよかった。その一瞬見えた涙は見なかったことにしよう。

「そうね……運がよかったわね」

「羨ましいくらいだよ」

「まったくだ」

「そうですよね!」

 みんなの反応で少し笑いそうになった。これが噂に聞くカラ元気ってやつか……俺はしたくないなー。なんて、のんきに考えてた。

「これもその実行委員の権力であつめたのか?」

 少し気になったので聞いてみた。これも全部管理しているのだろうか?

「権力って……まぁそうなりますかね、いい方変ですけど。基本的に委員長と先生方で相談して管理しているようですが一応私達も見ていますよ、今日は集まったチラシのサンプルを借りてきました、ちなみにまだ増えるみたいですよ」

 美優は苦笑いして説明してくれる。まだ増えるのか……一体この学校いくつ部活があるんだ? 関係ないが予算とか本気で心配になる……。

 斎藤がおもむろに俺からパンフレットを奪取する。別に用も無いので素直に取られる。

「委員長さんは大変そうだね、ところで美優ちゃんはどんな事するの? えっとなんだっけ管理だっけ? ケイどこ? あっ監察か」

 机に乗り出して広げて見ていた斎藤に尋ねられるがまま美優の名前が書かれた位置を指さす。監察の役目? 

「なんだろう、警備みたいなことでもするのか?」

「いやいやなんで警備? 出し物の見回りとかじゃないの?」

 沙羅のツッコミ、別に意識したわけじゃないので沙羅を黒い目で見て固まる。

「な、なによ……なんかした?」

「いや……」

「そうですね、沙羅ちゃんが正解ですかね。勿論桂君も間違いでは無いですよ。不審者がいないかとか当日の会場見回りや展示者が変な事しないか監視するのも仕事です。勿論他のこともしますが。委員会では一番楽な役職なんですよ、他の役職はもっと忙しそうです」

 俺と沙羅の様子を見てクスリと笑って美優はそう話してくれた。いっけねあんまり聞いてなかった。

「普通の監察委員の人はお友達なんかと回って行くそうです……このままだと私は一人で……いえわがままは言いませんよ? 私のために無理はさせられませんから……それに私は一人には」

「はいはいー! ストーップ! ストップ! 行くよ行こうか今すぐ行こうか!? 皆で回ろう! なぁいいだろお前ら!?」

 斎藤が必死になった……文句無いしいいフォローだと思うけど、美優まだ根が暗いな……。

「今すぐは無理だと思うけど……そうねー私はいいわよ。なんか監察の仕事手伝うの楽しそうだし美優と文化祭回るのも楽しそうだしね、桂は?」

 何で文化祭じゃなくて監察の仕事に惹かれてるのかは謎だが俺も観察の仕事の方が楽しそうと思ってしまったので黙っておく。本当理由はわかんないんだけどね。

「俺か……そうだな……行ってもいいぞ、当日図書室から会場をボーっとって言うのも良かったけど。いい暇つぶしになるだろ。その辺は展示者に期待だがな」

 沙羅に聞かれて一瞬本気で図書室で過ごすことを考えたがそこは合わせようじゃないか素晴らしき高校生活に……。

「そう言う事で……」

 俺が言い終わると斎藤が立ち上がり溜めながら俺達を見渡す。おいおい面倒だからそう言うのはいいよ……。

「図書室クラブ全員出撃よ!」

「おー!」

 二人とも勢い良く立ち上がり沙羅が察したらしくタイミングよく斎藤から引き継ぐ。本当にこいつ等無駄シンクロだな。美優も元気良く天に拳を突きたてた。

「桂君も! はい!」

元気な奴らだと思っていたら俺も参加しなければいけないようだ……。沙羅と斎藤もこちらを見ている。しょうがないから立ち上がる。

「おぉー」

 自分でも驚くくらいやる気の無い掛け声だと思った棒読みってこういうのかな、なんて思ったら皆も同じことを思ったらしくつめたい眼で俺を見ていた。

「何も美優ほどとまでとは言わないけどそれは……あまりにも酷すぎよ……」

 と、呆れた沙羅。

「いや俺は嫌いじゃないね、ザ・ケイって感じ、でも普通に考えれば底辺の返事だね」

 斎藤に褒めてもらっても全く嬉しくないしそもそも褒められてない。

「桂くん……やっぱり……」

 美優にいたっては泣きそうになってる……えぇい! 俺が悪かったよ!

「もう一回だ! テイク2!」

 俺は俯いて目を瞑り繭をよせ半ば怒鳴るように言い放つ。

「はい、テイク2入りまーす!」

 沙羅が手を二回叩いて誰に言っているのか分らないが手をメガホンにして宣言する。

「分りました、次は気をつけるように」

 次は斎藤がありもしないヒゲを摩りやけに声を低くして偉そうにしていた。何んだこれとんだ茶番だな……。これあれだろ? テレビとかの……俺が変にテイク2とか言うからボケ始めちゃったよ……。

「桂くん次は成功させましょう! あんまり間違えちゃ監督にしかられますよ?」

 美優も乗ってきた。すっかり図書室クラブのノリになれたようだ。喜ばしことだよ……。

「じゃあ、あ、おっほん! ……それじゃ……」

 本日二回目の斎藤のため。俺も少しは気合入れるかな。

「図書室クラブ全員出撃よ!」

 今回もタイミングよく斎藤を引き継ぐ。美優を横目で確認する。しっかり構えて準備万端と言ったところか……俺も沙羅に合わせて勢い良く立ち上がる。美優も動きだした。

しかし勢い良くしたのがまずかった……立つときに右足を捻った。

「おー!」

「おぉーっ痛! ぐわぁぁ~」

美優と息をそろえて叫ぶはずの俺はなんとも情けない声を上げた。視界が傾いて床にしりもちついた。あー倒れながら美優が不思議そうにこっちを見ているのがわかった。沙羅と斎藤が覗きこんでくる。

「ちが……違う! わざとじゃない! 足を捻ったんだ!」

 数秒の沈黙を置いて俺は叫んだ本当にわざとじゃないんだ! 信じてくれよ! 沙羅達一度顔を見合わせてから俺に視線を返した。最初に口を開けたのは沙羅だった。

「わかってるわよ。そして分ったわ、桂はこう言う事は出来ないって事が……」

 かなり深い溜息をついて沙羅は冷たい声で言った。

「そんなぁー」

 俺の声は静かに図書室に消えていった。


「はぁー……もう帰ろうかな……」

 あれから数日経ったある日俺は放課後一人渡り廊下に寄りかかり何となく下を見ていた。

 あれからと言うもの俺の生活は変化していた。

文化祭が近いと認知してから学校中が文化祭色に変わっていくのが分ったからだ。テンションなど上がるわけがない。日に日に俺はゲッソリしていった。

「とりあえず顔だけでも出してくか……」

 ひと時の休憩を終え俺はまた歩きだした。

「今日もハリッキってやるぞー!」

「急げ! このままじゃ当日までに仕上がらんぞ! 気合入れろ!」

「オッス!」

「おい! そんなんで大丈夫なのかよ!?」

「大丈夫だ! 問題ない!」

 ガクっと一瞬膝が緩むが何とか持ちこたえる。今日も学校のあちらこちらから威勢の良い声が飛び交っている。

「ちょっとそこどいてもらえますかー!?」

「あぶないですよー!」

 よたよたと歩いている俺の後ろから声がする。振り向くと何やらデカイ木板を持った数名の生徒が廊下を渡ろうとしていた。

「あーはいはい」

 俺はそれを見てまたそさくさと先を急いだ。

「やっとついた……」

 ようやく立ち止まった俺は図書室とプレートの横を通り扉へ入っていった。

「はぁ……が!」

 やっと一息つけると思ったら入った瞬間足を何かに取られて俺は転倒する。

「いった! 誰だ! こんな所に荷物置いた奴は!」

「なんだ杉下か」

「先生……? 先生ですか!? こんな所に変なもの置いたのは!?」

 俺が店頭して顔を上げると何故か目の前に先生のがいた。こんな所に物を置くとは酷いぞ!

「いや私じゃないな。それよりもそれを運ぶの手伝ってくれんか? 一人では面倒だ」

 先生は訳の分らないことを言いながら俺の後ろを指差した。

「……はっ! さ、ささ、沙羅!」

 俺は先生の指差す先を見て衝撃を受けた。俺が躓いたものそれは沙羅だったのだ! 沙羅はいつもの元気な姿の面影は微塵も無くゲッソリとした顔で体が白く脱色された状態で入り口に放置されていたのだ。

「さ、沙羅……誰がこんな惨いことを……沙羅ぁ……」

 俺は直ぐに沙羅へよりだらしなく脱色された体を支える。うぅ……可愛そうに……首ブランブランしてる……。

「いやいや落ち着けよ死んでないから……」

 先生が珍しくツッコンだ。


「いやーほんと疲れたわーやっぱり空気が合わないのよねー入ったのはいいけどそこで力つきたわ、あはははは」

 結局先生は何もせず俺が席に運ぶと沙羅はなんとも無かったかのように元気で今も肩と首をグルグルと回している。人騒がせな奴だ。

「確かに空気があわねぇよ……なんかさずっと毒きりの中でHP削られてる感じ……」

 図書室の辺境からオランダの風景と言う本を持って来て読みながら沙羅と話していた。風に揺れるチューリップと風車の写真……はぁー癒される……。

「桂良くそのシリーズ見てるわよね……この間はスイスだっけ?」

 癒されている俺に沙羅が水を差す。ん、これか……。

「そうだな、スイスもいいが俺はアラスカの自然写真集が一番お勧めだ」

 俺は暇なとき、沙羅たちに付き合って精神が削れたとき世界の風景シリーズを見ることにしている。アラスカはとってもお勧めだ。

「へーアラスカねーあれでしょクマとか鹿がいる寒い所」

「そうそう、大自然だ、すげぇ癒される」

「私も見てみようかしら……」

「おうそうしろあっちに沢山ある」

 俺は本から眼を話さずに図書室の辺境を指差した。沙羅にも見てもらえるとは良かったな、世界の風景シリーズ……貸し出し履歴ゼロの世界の風景シリーズ……。ちなみに俺も借りる気は無い。

「あーなかなかいいわねー」

 オランダの都市の写真を見ていると俺が言った通りアラスカの写真集を見ながら沙羅が歩いてきた。やっぱりそうだろ?


 斎藤と美優が揃って図書室に入って来たのはあれから十分後くらいだった。俺と沙羅がそれぞれの写真で癒されバックにお花が出ていた時だった。ガラガラと扉が開く音と同時に聞き慣れた声が耳に入ってきた。

「そうそうそれでケイが無理して沙羅追いかけるもんだからバカみたいに転んでさー沙羅と二人で大爆笑だよ」

「うふふふふ……沙羅ちゃんは昔からそんなんだったんですか? 桂君も元気だったんですねー」

「ケイは捻くれたね。おー二人とも来てたの? なんだ……花畑が見える……って良く来れたね、途中で行き倒れてるかと思ったよ」

 うるせぇ……てか何の話しだよ。俺のどこがひねくれてるって? お前らと過ごせば普通の人ならこうなるんだよ。おい美優笑ってるんじゃないぞ!

「うるさいわねー私達は今癒されるのに忙しいの! それとそれは転んだんじゃなくて転ばせたの! 空き缶置いて踏ませたのは私よ!」

「へぇー沙羅ちゃん以外と策士なんですね」

「そのくらいちょろいわよ」

 そうだ沙羅の言うとおり俺達は今癒されるのに忙しい……。

「えっ? あれって沙羅がおいたの?」

 俺は思わず凄いアホみたいな声を出した。いやあれはだって……。

「なに言ってるのよあんな所に普通カンなんて落ちてないわよ、あれは私が飲んでた奴じゃない」

 一瞬考える記憶のそこを思い出す……あぁ確かに沙羅が飲んでた奴だ……。なんだか一気にテンション落ちた……。そうだよこうやって俺はこいつらに性格改造されたんだよ……。

「まぁいいわ、美優これ桂の勧めなんだけどなかなか面白いわ、一緒に見る?」

「はい! 喜んで! どんなのですかー? わー綺麗ですねー一度でいいから行ってみたいですね」

「そうねーカッちゃんと桂が連れて行ってくれないかしらねー」

「そうですねー」

「おいおい無茶言うなよ……」

 そんな事を楽しそうに話していたが俺にはそんな余裕は無い。俺はただひたすらにオランダの風景を見ることだけに全神経を注いだ……。

「そう言えばついに明日からだねー文化祭」

「そうだったわ……」

「楽しみです、ところで来たばかりで悪いのですが私は委員会がありますのでそろそろ行かせてもらいますね。本番に備えて色々準備があるのですよ」

「へぇーがんばってねー」

「がんばりなさいよー」

「はい! それではさようならー」

「「さようならー」」

 オランダオランダオランダ……。わぁ風車綺麗だなぁー。

「ケイが怖いんだけど……目がキレイすぎる……」

「精神が崩壊したようね……」


「おいこら! 大丈夫か! 杉下!」

 俺が眺めの良いテラス席でコーヒーを啜っているとどこかから先生の声が……。

「先生止めてくださいよ……俺は今アムステルダムの喫茶店で午後のひと時を……」

 こんなに優雅な時に叫ぶなんて先生も無粋な人だなー。

「何言ってんだ!? ここはオランダの首都じゃないぞ! 図書室だ!」

 先生……図書室……?

「ここは……」

 気がつくと俺は何故か図書室にいた。どう言う事だ……?

「やっと気がついたか……そろそろ締まる時間だぞ、それより何やってんだ、山本も斉藤ももう帰ったぞ」

 先生が訳の分らないことを……。

「ここはアムステルダムじゃ……」

「ない」

 そうなのか……じゃ俺がさっきまでいたところは……? 不思議に思っていると俺の目の前に紙が一枚置いてあった。それには沙羅の文字で「私達は帰るわ、一応声は掛けたわよ」とのこと……。俺はどうしたのろう……。

「気がついたのならさっさと帰れ、閉めるぞ」

「はぁ……」

 俺は半分も状況が理解できないまま先生とともに図書室を出た。

「先生……ここは……」

「アムステルダムじゃない、なんど言ったら分るんだ!」

 先生に怒られてしまった……。

「じゃあな、気をつけて帰れよ……」

 図書室の前で先生がそんな事を言った。

「何を言っているんですか自分が生まれたこのオランダの地で危ない事なんて無いですよー目をつぶっても帰れます」

 実際に俺はやってみせる。どうだすごいだろー。

「いて……」

 何故か通いなれた道で俺は直ぐ壁に当たってしまった……。

「もういい……そのまま帰ったら間違いなく死ぬな……」

 先生の心底呆れた表情と声。

「そんな事ないですよ。今回はたまたまです、そうだこの近くにゴッホの家があるんですよ、見に行きますか?」

「少し黙れ……」

 俺が提案すると先生にものすごい形相で睨まれた。もうやになっちゃうなー。

「杉下ついて来い……」

 先生は俺の首根っこをつかんでズカズカと歩きだした。どこに行く気ですか? そっちにはロッテルダム湾ですよ?

「さぁ乗れ」

「はぁ……」

 俺の目の前には黒い軽自動車があった。俺は先生にその黒い軽自動車の助手席に押し込まれる。

「杉下自分の家は分るか?」

 運転席に乗り込んだ先生がシートベルトをしながら訊ねてきた。

「そりゃもちろん俺の家はドレンテ州にあります」

 俺は胸を張って答える。どこの世界に自分の家の場所を忘れる人が居る?

「はぁ……杉下すまんが目をつぶって歯を食いしばれ……」

 先生が溜息をついてそんなことを言った。なんだ?

「……こうですか?」

 俺は先生に言われたとおり目をつぶって歯を食いしばった。これから何が始まるのだろぅ?

「すまん!」

「ぐぁあ!」

 先生の突然の懺悔とともに右頬に強い衝撃が来た。目を開けると先生がなんとも気持ち良さそうな顔をしているのが目に入ったそして俺は少しずつ意識が消えて行った。

「どうだ? 治ったか?」

 気付くと先生の顔が驚くほど近かった、一瞬心臓が止まりかける。

「うぅ……何で先生が? 俺図書室に居たはずなんですけど……車の中に……頭いたっ……」

 駄目だ思い出せない……一体何があったんだ? それよりも頭が痛いんだけど……。

「杉下体は大丈夫か?」

 先生が俺のまぶたを指で開いて眉を寄せながら聞いて来た。いたた……痛いし近いです……。

「そうですねなんででしょう体中がだるいです、所どころ外国の風景見えるし……特に頭が痛いです」

 俺は先生に目を開かれながら答える。

「……だろうな。ところでそのまま歩いて帰れそうか? ここまで来たのはいいが面倒になってきた」

 先生の目が一瞬遠くなった……。面倒って先生が何してんのか分らんのだが……。

「そうですね……大丈夫……」

 です、と言いかけたら急に目眩がして先生の顔が歪む。

「な、なんだここは……なんで俺美術館なんて……ってあれ? 先生……」

歪みが取れると何故か俺はクレラー・ミュラー美術館にいた。と思ったら元の車の中に戻っていた。一体俺はどうしたと言うのだろうか……? 先生は一度大きな溜息をついてから。

「もう一度聞こう、お前の家はどこだ?」

 半分くらい睨みながら言ってきた。もう一度って俺聞かれた覚えないぞ……。

「えっと……」

「ふむ、そうかそこならここからも近いな……」

 俺が戸惑いながらも何とか答えると先生は黙って車を発進させた。えっ? 何してんの? 俺のことなどお構い無しに先生は車をセントラルシティーに走らせた。


 家に帰ると俺はそのまま自分の部屋に引っ込んだ、俺の事情はあらかた先生から車で聞かされて、聞いている限り俺はだいぶ参っていたようだ。車の中で何度もオランダの風景画見えたときはどうなるかと思った。先生は帰り際「明日はがんばれ」なんて言ってたけどそんなのは頭痛とダルさでどうでも良かった。俺は着替えもままならぬままベッドに仰向けに横たわり晩御飯までしばし寝ることにした。

 その後俺は何とかきちんと正気に戻ることも出来たので俺は満足してそのまま一日を終えることにした。


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