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文化際とバックナンバー(1)

「おい……おき……はやく……ぶんか……ちこ……」

 なんだろう、耳元でなにやらうるさい音がする。目覚まし時計じゃない、母さんでもない、でもどこか聞き覚えのある声……。

 俺はただ暖かいまどろみの中でぼんやりとそんなことを考えていた。

「ったく何考えてるんだこいつは……」

 声があきれた様子でつぶやく、一体何が起こっているのかわからない、わからないまま俺ははっきりとしない頭で返事をする。

「あと少し……少しでいいから……」

 俺はまだ暖かい布団の中でゆっくりしたいのだ。

「何だこいつゴニョゴニョ言ってるけどなんだろう」

 声はかすかに笑いながらつぶやいた。俺の言葉はそいつには届かなかったようだ。だがそんなことはどうでもいいのだ。俺はこのままもう一眠りさせてもらおう。俺はもう一度意識を深い闇に落としていく。

「だぁー寝るな! おきろよ!」

 近くで新たに奇声を上げる声の主。少し静かにしてもらえないだろうか?

「ちっ……いい加減にしろぉ!」

 声がそう叫ぶと同時に俺の体から布団と言う最強の鎧が剥がされた……。俺は急激な温度の変化に身を縮めた。

「さぁ! おきろケイ!」

 声がうるさい、ゆさゆさと俺の体を揺さぶってくる。ふざけるな俺の眠りを妨げるものは誰だ! 俺の寝起きが鈍いと思ったら大間違いだ!

「うがぁ! うるせぇ! 一体誰だこの野郎!」

 俺は勢いよベットの上に立ち上がりまわりを見渡した。シンプルで一見殺風景に見えるが大好きな本で囲まれた俺の部屋、どこも不思議なところはない、ただひとつ目の前に見知った男が立っていること以外は……。

「わからないんだがなぜ斉藤が俺の部屋にいるんだ? 一体何をしている?」

 俺はすっきりとしたはずの頭がまだ夢の中にいるんじゃないかと思ってしまった。

「はぁ? なに言ってんだ。昨日沙羅から連絡あったんじゃないのかよ」

 こいつは一体何を言っているのだろう? 腕組みして頭傾げてるし嘘言っているようには見えんが、どうなっている?

「知らんのか? メールで伝えとくって言ってたのに……。沙羅が忘れたのかな?」

 斉藤は俺の様子からなにか察したらしい。メールなんてきていただろうか?不思議に思いながらも俺は机の上に無造作に放置されている携帯電話に手を伸ばした。

 俺は普段使わないで買った当時のままのきれいな携帯電話に手を伸ばしメール覧を確認する。自分で言うのもなんだが相変わらず登録人数も受信ボックスもすっからかんだな……。これを見るとどうしようもなく切なくなってしまう。くるのは沙羅と美優とクーポンばかり……。せめて斉藤も持っていればな……。

 おっと、そんなことを考えている時じゃないか。あくびで出てきた涙をぬぐって沙羅からのメールを探す。お、これか? 俺は見覚えのない沙羅からのメールを見つけた。早速中身を確認してみる。『明日は文化祭よ、どうせあんたは文化祭のこともこのメールさえも体が忘れるでしょうからカッちゃんに迎えに行ってもらうから』なんだこれ? 

「今日は文化祭なのか?」

「はぁなに言ってんだ? 当たり前だろう。どうかしたのか?」

「いや、何でもない……」

 沙羅の読み道理さ、読んだけど忘れたよ。開いてあったからおかしいと思ったんだ。俺はそのまま携帯を閉じた。

「それじゃケイもおきたことだしさっさと下いくか……って何してるんだお前は?」

「何ってお前は見てわからんのか? 見たままだ。二度寝だよ」

 斉藤がうるさいが俺は眠いんだ、文化祭だが分解際だか知らんが俺にはどうでもいいんだよ……。ただ眠いそれだけだ。

「そんなこと俺が認めると思ってんのかよ! おい、さっさと起きろよ!」

「だぁー……うるせぇよ……友達が親切心でいってやってんだからお前こそさっさと分解際とやらに行ってこいよ」

「どこが親切だ! 完全にお前の勝手だろうが! 大体なんだ分解際って……何を分解してんだよ!」

「そんなの文化祭を分解する祭りだろ……」

「それただの文化祭嫌いのテロだから!」

 斉藤も朝から元気だ……。

「大体起きないと大変だぞ? 俺が起こしにこなかったらどうなっていたか……。お前びっくりして死ぬぞ?」

 斉藤はなにやら神妙な言葉遣いで、耳元でささやく。なんだ……大変なことって?

「下で何が起きている……」

 俺は薄目で斉藤を見る。なんだろう嬉しそうとも困ってそうにも見える。

「自分でたしかめな」

 うむ、不安だ。こいつや沙羅が関わっていると言う事は何が起きても不思議ではない……。俺はしぶしぶ斉藤と共に制服に着替え一階へと降りて行った。




「あ、桂君おはようございます。一輝君もお疲れ様です。もうそろそろ朝ごはんが出来ますから待っていくださいね」

「こら桂、友達にあんまり迷惑かけるんじゃありませんよ。今日は文化祭なんでしょ? しっかりしないと駄目でしょ」

「いやいや別に疲れるような事じゃないよ。それと俺なら別に迷惑でもないので気にしないでください」

 呆然とはこのことだ。何だこの状況は? 斉藤は分かる、いや全然分からないけど、まだ分かる。だが何だこれは? なぜ俺の家に美優がいて朝飯を母さんと一緒に作っているのだろうか?

「おいちょっと待てや……」

「うわ、ちょっ、ちょっとなにするんだよ……」

 笑顔で食卓に着こうとする斉藤の首根っこをつかむ俺。聞きたい事が山ほどあるんだが?

「何だよいきなり、びっくりするじゃないか」

 斉藤はそういって襟を正している。

「どこが不思議なんだ? 捕まれても当然だろう?」

「やっぱり?」

 俺の戸惑いも関係ないかのように斉藤はおどけた。しばくぞ……。

「一体全体この家で何がおきているんだ? ここはパラレルワールドなのか?」

 整ったばかりの斉藤の襟に掴みかかる。『やっぱりぃ?』じゃねぇよ!

「さぁ? 俺に聞かれてもなぁー俺も今朝会ったんだし。ケイ家の前で待ってたんだよ、俺が来たときにはもう居たから見たときは驚いたよ」

 はぁ? なんじゃそりゃ?

「まぁどうせ俺もこれも沙羅だろうさ」

 斉藤はそう言って俺の手を払いまた襟を直し始める。沙羅か……納得いったぞ。

「ま、本人に聞いてみましょうや。あそうそう、俺が起こしに行かなかったら当然美優ちゃんが起こしに行ってくれたから」

 ……そうか、それは確かに大変だ。斉藤お前が来てくれてよかったよ。俺は一人で深いため息をついた。

 斉藤はそれだけ言って今度はしっかり椅子に座った。俺も斉藤の後に続いて自分の指定席へと腰を下ろす。斉藤と沙羅は昔からよく家には来ているのですでに指定席が存在していたりする。逆に斉藤と沙羅の家にも俺の指定席が存在している。

「さて、ご飯が出来ましたよー桂君どうぞー」

 席に座ってすぐに料理が完成したらしく出来たての料理を俺の前に置いてくれる。

「あ、あぁありがとう……」

 美優は微笑みながら満足そうにして斉藤にも料理を渡した。

「それじゃみんなもお料理も揃ったことですし、いただきましょうか」

 美優と母さんが自分たちの分を持ってきて椅子に座る。美優は知ってか知らずか誰の指定席でもない場所に座った。隣なら沙羅なのに。

「うわーこりゃすごいな! おばさん相変わらず料理上手いですねー」

 斉藤が出てきた料理を見て歓喜の声を上げる。確かにいつもより確実に力が入ってるなこれは。

「そんなほめてもらえるなんてうれしいわー一輝君のお母さんも料理上手だから勝てるか分からないけどたくさん食べてね」

「いやいや、お袋と比べてるなんておばさんに失礼ですよ。こっちのほうが全然おいしいですって」

「いや、おばさんのほうが上手いだろ、母さんの料理なんて少しやれば出来る」

「桂、ひどいこと言うのね……」

 母さんが少ししょんぼりとする。母さんも上手いけど斉藤の親ほどじゃないと思うがな。一番は沙羅のおばさんかな……。母さんもともと料理なんて向いてないんだから。




 美優はそんな俺たちの日常会話をにこやかな顔で聞いていた。

「ところで美優、どうして君が俺の家に居るんだ? 俺の家じゃ学校の真逆じゃないか」

 途轍もなくいまさらな質問だがちょうどいいタイミングだと思ったので出来るだけ自然に聞いてみる。会ったときから考えていたことなので態度がおかしくならなければいいのだが。

「あ、私ですか? 私はですね、なんだか楽しそうなので来ちゃいました」

 なんとも答えになっていないような……。何だろうとても足りない説明だ……。

「えっと、もう少し詳しく教えてもらえないだろうか?」

 少々困惑気味の俺だが相手が美優なのでしょうがない。最近分かったことだが美優は少し溜める癖があるようだ。だからこんなこともしばしばだ。

「そうですねー昨日沙羅ちゃんに一輝君が桂君の家に迎えに行くって事を聞きましてね。それで沙羅ちゃんと話して私も行くって話しになったんです。それで私もはるばる桂君を迎えに来たわけですよ」

 はるばるご苦労さまです……。何がどうなって迎えに来る話になるのかまったくのなぞだが大体の話は理解した。当然のように沙羅絡みか……。

「なんで俺は知らなかったの? 連絡くれればよかったのに、そうすれば俺いろいろ準備してきたよ? バズーカとか」

 寝起きドッキリでもするつもりか!? なんでバズーカなんか持ってるんだよ!

「それは見たかったですねー今度ぜひやりましょうよ!」

 美優、少しやられる俺の身にもなってくれやしないだろうか? 美優はこいつらに影響受けすぎだな……。

「もちろんやろうか。あと水風船とかもいいよね」

「それもいいですねー」

「話がそれてるぞ」

 こいつらはほうっておくと何時までもこんな話して悪知恵ばかり溜めるから気が抜けないな。修正修正っと。

「あ、すいません。『カッちゃんは携帯もってないから連絡がめんどくさいししなくていわよ。行けば分かる』とのことです」

 美優ちゃん沙羅のまね上手いなー本物みたいだ……。ってそんな理由で話されなかった斉藤は哀れだな。

「そうか……あんにゃろー」

 斉藤もご立腹だな。俺は心の中でざまぁみろとほくそ笑んだ。




 その後俺たちは沙羅の愚痴や今日の意気込みを話しながら食事をして、いつもより少し時間に余裕を持って家を出た。

 学校に着くまでに俺は明らかに登校風景が違うことに気がついた。いつもよりにぎやかだ、歩く学生はテンションが高く皆今日を楽しみにしているようだ。美優と斉藤もいつもにまして元気だし……。今からこんなんじゃ学校はどうなっているのやら……。俺のこの不安は見事的中するのであった。

「う、うぁ……」

 驚愕! 俺はあんぐりと開いた口をふさぐことが出来なかった。なんだろうこれは? いつものシンプルな校門のアーチは赤白緑に色取られ変な怪獣の絵とかが描いてあったり風船がついてたり広い校庭には無数の出店やでかい置物が大量に放置されているではないか! ここはどこだ? トマトでも投げ始める気か!?

 自然と変な声が出た。この学校ってこんなに生徒いたのか? 影分身でもしたのではないだろうか? そんなアホな事をかんがえてしまうような人人人の海! お前ら虫かよ! なんだか途轍もなく先が思いやられる……。

「おーもう結構盛り上がってるなー」

「そうですねー今から楽しみです!」

 俺とは対照的でこのヒューマンパラダイスを満喫できる二人がうらやましかった。

「な、なんでだ……。なぜだ斉藤! 開会式はまだだろう!? なのに! なぜこんな早くから人が集まってるんだ! よ、酔ってしまう!」

 なんだこの恐ろしい光景は! 人とはここまで増えるものなのか?

「落着きなさい……なんでこのくらいで慌てるかなーまだ準備で本番の一般客は入ってないって言うのに……」

 な、なんだと! まだ増えるのか!? それでは人口密度が! 飽和量が! 地盤沈下が!

「とりあえず沙羅のところに行くぞ。ケイもそこで休め」

 斉藤がため息をついて歩いていってしまう。

「ま、待てそんなスタスタ行ってしまうな! は、早い……」

 斉藤はあっという間に人ごみの中に姿を消してしまった。どうすればいいんだ……。

「桂君大丈夫ですか? 一輝君もちょっと酷いですねー」

 戸惑っていると美優が顔を覗き込んできた。……そうだ美優がいるじゃないか!

「美優! 一緒に行こう! さぁさぁ! あ、でも先に行ってくれよ? 俺は後に続くから。おっと肩は掴ませてくれよな、はぐれたらどうなるか分からないから」

「分かりました、でも桂君は本当に人ごみが苦手なんですね」

 美優のすべて理解したうえでのきれいな応答。あぁそうだよ! 俺はインドア派なんだ! なんたって図書室クラブだぞ! どう考えてもアウトドア派にはならん! しかしこうも動揺するとさすがに恥ずかしい……。

「ぐぬぬ……そんなことないぞ……」

「それととっても強がりです。ほら早くつかまらないと一輝君みたいに置いて行っちゃいますよ」

 精一杯いきがったがそれもたやすく美優に見破られてしまった。美優は悪戯っぽく笑って俺の前を歩き出した。いつか必ずこの屈辱は!

 俺は美優の肩を掴みオドオドしながら歩くというなんとも恥ずかしい格好で人ごみを突破した。

 その後なんとか俺と美優は先に行っていた斉藤に学校玄関で追いつき、俺は頭突きをして美優は説教をした。




「ケイそっちじゃないよ、こっち」

 斉藤にそう呼び止められたのは俺が自分たちの教室に向かおうとしたところだった。

「なんでだ? 教室いかねぇのかよ」

「桂君は聞いていませんか? 沙羅ちゃんは教室ではなくて図書室に居ますよ」

 美優が説明してくれたので俺たちは図書室へと向かうことに、が俺はひとつ引っかかることがあった。でもすぐ分かるからいいや。




図書室に入ると当然だが沙羅が居た。やつの指定席である椅子に座りのんきに本を読んでいた。

「おはよう沙羅ちゃん」

「おはよう沙羅蔵」

「おはよう美優」

「おはようカッちゃん、沙羅蔵って誰?」

 斉藤と美優が挨拶をすると沙羅も挨拶を返す。 俺は言葉には出さず右手を軽く上げての挨拶。沙羅も軽くうなずく。よくそんなに元気でいられるな。俺は人ごみで疲れたんだ、とっとと椅子で休ませてもらうよ。

 俺たちは次々に自分の指定席へと納まって行く。

「なぁ沙羅質問なんだが」

 俺は椅子を出して座りながら沙羅に尋ねる。

「なによ、好きな食べ物ならお寿司で嫌いなものなら杉下桂よ」

「そんなことはいまさら聞かなくても分かっているから安心しろ。ちなみにお前は寿司の中でも海老が好きだ。俺が聞きたいのはそんなどうでもいいことではなく何で今日図書室が開いているかだ。休みのはずだろう?」

 そのはずである。今日は文化祭で図書室は開いていないはずだ。先生がこの前言ってたはず。はず……さっきから知らないことが多すぎる。

「そうよー今日は図書室閉館の日です。でも開いています。これがあるから」

 そう言って沙羅はポケットから鍵をひとつ取り出した。それは俺たちならすぐに分かる場所の鍵。そう図書室の鍵だ。

「……お前何時の間に合鍵なんて作ったんだ? しかも本物そっくりじゃないか、俺にも作ってくれよ」

 合鍵まで作れるとはなかなかやるな。しかしよく出来ている。あれがあればいつでもと図書室に入り放題だ。授業もサボり放題……普通に開いてるか……。

「んなわけないでしょ、本物よ本物! 星野先生に文化祭期間中借りたのよ。桂は知らないでしょうけど!」

 あぁ知らない。なんで俺ばっかり知らされないのだ? 

「桂君ねてましたから」

 合点!

「あ、そうそう私は実行委員会の集会があるので一回このあたりで失礼しますね」

 図書室に来てそんなに時間はたっていないが美優はそう言って立ち上がった。

「あら、そうなの? 意外と大変なのね」

「残念だな。それじゃあ美優ちゃんいつ終わるの?」

 沙羅は少し失礼だと思う。意外とって、そりゃ大変だろ。斉藤は当然といえば当然な質問。

「そうですね開会式が終わってからも視聴覚室に集合ですからその後ですね」

 そういい残し美優は図書室を後にした。俺なら絶対実行委員なんてしない。

「それじゃ開会式までゆっくりするか」

 俺はそう言って大あくびをした。沙羅に『汚い』とか言われたがそんなことかまわない。これからの戦いに備えて休息だ。

「先生は来ないの?」

 俺が机に突っ伏し身近な本を読んでいると斉藤がそんなことをつぶやいた。俺は知らんし沙羅が答えるだろう。俺も気になるので耳を傾ける。

「先生は私もよく分からないけどなんか暇で気が向いたら、来てやるって言ってたわよ。とりあえず午前は来ないでしょうね」

「先生らしいな……どうせ寝てるんだろうな」

 俺もそう思うよ。しかし先生来るのかもしれんのか。楽しみなような迷惑なような……。そんなことをだらだらと話していると時間になり俺たちは開会式が行われる体育館へと向かった。




「えー今日は皆さん楽しみにしていたでしょう。文化祭です。えーしかし皆さんはえー学生であると言う事をしっかり頭に入れてえー節度ある行動を、えー……」

 体育館では禿げた頭を隠す気もなく大々的に披露しているなんか偉い人がどこでも聞いたことがありそうな話しを延々としていた。く、苦痛だ……。必殺の以下略!

 お偉いさん方のつまらない話も終わり続いて生徒会長や実行委員会長などが挨拶をして、その後ダンス部などが芸を披露して開会式は意外と長かった。

ガキでもあるまいし何度も言われなくてもわかっとるわ。さっさと始めたまえよ。俺は先ほどから何度も聞いている言葉に飽き飽きだ……。

「えーそれでは皆さんしっかりとした意識の下で今日の文化祭を楽しんでください」

 やっと終わったかと思うと俺は突如として動きだした人の濁流に飲み込まれた。な、なんだこれは!? 人が波のようだ!

「ぐわ! やっば! これ死ぬぞ!」

 俺は流されずその場で踏ん張るのがやっとだった。こいつらそこまで楽しみなのかぁぁぁ! あ、やばい流される!

「ケイ! つかまれ!」

 俺が死を覚悟した瞬間目の前に目の前に手が現れた、それに俺は飛びついた。まさに藁にもすがる思いだ。

「大丈夫かよ……死にそうな顔してたぞ」

 はぁーっと息を吐くと目の前に巨大な男……。

「斉藤か……こういう時ばかりは役に立つなその巨体」

「うるさいな、別になりたくてなったんじゃないよ。変なこと言うと流すよ?」

 すぐに黙った。流すって言葉のあやじゃないからな……。

「まぁこの流れだ、すぐに引くだろう」

「それもそうだね。ケイは近かったからいいけど沙羅は大丈夫かな? 遠くて見つからなかったんだよね……」

 斉藤と杉下、確かに近いが沙羅は山本だ、後ろのほうなんだよなぁ……まぁ死にはしないか。

 俺と斉藤は沙羅を探しあたりを捜索した。沙羅を見つけたのは人が疎らになったときだった。結構時間がたっていた。

「さ、沙羅! 大丈夫かよ!」

 第一発見者は俺、沙羅は列から遠く離れた入り口付近で瀕死の状態で発見された。一体どこまで流されてんだよ!

「くっ! あいつら絶対許さないんだから……何回踏まれたことか!」

 沙羅は服についた汚れを払っていた。結構白いな。

「まぁまぁこれが文化祭の洗礼ってやつだよ」

 そんな沙羅を見て斉藤が笑っていたがこんな洗礼いらねぇよ。沙羅以外にもだいぶ負傷者が出てたな。

「さてこれからどうするんだ? このまま帰ってもばれないんじゃないか?」

「そうよ、ここに居たらいくつ命があっても足りないわ……」

「馬鹿なこと言ってないですることないならとりあえず美優ちゃん迎えに行くか」

 結構本心なのだがまぁいいや。

「それもそうだなどこだっけ?」

「視聴覚室だよ! 本当にケイは少し人の話を聞きなよ!」

 斉藤に怒られてしまった……。

「だるいカッちゃん連れてって……」

 沙羅はそう言って斉藤の背中に納まってしまった。

「沙羅場所変われ俺も楽したい」

「だめよ。早いもの勝ちよ」

 くそう……。

「お前らいい加減にしろ!」

 斉藤の怒号が人気のうせた体育館に轟いた。




 結局沙羅は俺の妨害と斉藤が拒否し自力で歩き晴れて全員徒歩になり職員棟一階にある視聴覚室へと向かった。

 視聴覚室は体育館から意外と近いので意外とすぐに到着した。まだ終わってないのだろうか美優の姿は廊下になかった。その代わり不思議な光景があった。それは文化祭色に度派手に色とられている事ではなく、はたまた謎の着ぐるみが歩いていることでもない。

「こら! それは僕の手帳だ! カメラも返しやがれ!」

「いいや、これは証拠品として我々が没収させてもらう。貴様も文化祭くらいおとなしくしておれんのか」

「文化祭だから張り切るんだろうが!」

「そうやって根も葉もない嘘ばかり書いて、大変な時に迷惑なんだ!」

「嘘だと!? 僕は本当のことしか書かない主義だ!」

「ならばその言葉も偽りなのだな!」

「なにおう!」

 俺たちの注目を集めたのはここの学生だと思われる人物が視聴覚室のまえで言い争いをしている光景だった。

「何だろうなこれは?」

 ポツリとそんな言葉がでた。無視したいけど扉の前なんだもんなー……。

「結構な修羅場」

 斉藤君的確な説明ありがとう。

「しかし面白い組み合わせね」

 ぽかんとしていた沙羅が腕組みをしてそんなことを言った。

「なんだこいつらが珍しいのか? 確かに珍しいな、晴れの日に喧嘩とは」

「違うわよそれ組み合わせ関係ないじゃない、確かに珍しいけど」

「もしかして知り合いか?」

 俺は今なお言い争いをする二人組みを見る。だめだ見覚えなんかないな。クラスメイトも怪しいのにこんなやつら知らんわ。

「知り合いねーうーん一方的に俺らが知ってるだけだよ」

「私は片方話したことあるわよ」

 沙羅の交友関係はなぞが多いからな、誰とどこで知り合っていても不思議ではないが。有名な人物なのだろうか?

「へー沙羅知り合いなんだ、どっち?」

「あっちよ」

 こいつらはこいつらで話を進めるし……。

「で! 誰だこいつらは?」

 俺は面倒なことに関わるのは嫌いだが置いていかれるのも嫌いだ。

「そうだねー知らない? さっきも見たのに?」

「知らん」

「即答だね」

 斉藤の質問に自身を持って答える。即答だが考えて分かるようなら俺も苦労しないのだ。

「そうだと思った。説明しましょう」

 斉藤が一刺し指を立てて学者のようなポーズを取る。なんの真似だよ……。

「この二人組みは、ぐわ!」

 隣に居た斉藤が突如視界から消えた。実際は後ろにさがっただけなのだが……。しかし斉藤はどうしたのだろう? 俺も不思議に思い後ろを振り返った。

「一輝君その先は私がしますよー?」

 美優か……。しかしなぜ視聴覚室の中に居るはずの美優が俺たちの後ろに居るのだろうか? 斉藤は後ろから美優に目隠しをされたのだ。しかし美優は斉藤より小さいため斉藤はえびぞりになって後退したと言うわけか。

「あら、美優早いのね」

「そうですね今終わったところですよ」

 あぁそうか、もう片方の出入り口から来たのか。俺は美優の後ろを見て気づく。教室には二つドアがあるものだしな、俺たちが二つのドアの間に居ただけのことだ。中に居る人からしたら扉の外で喧嘩しているほうからは出たくないのは当たり前だよな。

「美優ちゃんなのか? ちょっともういいでしょ、離してよ腰が折れる!」

 斉藤はいまだにエビゾリだ。つま先立ちの足はプルプルだな。面白い……。

「あ、そうでしたね、すいません」

 美優は本当に今気づいた様子だ。ほんとかぁ? しかも離さないってね。

「美優ちゃん積極的……がは!」

 斉藤が変体でよかった。

「わざわざ迎えに来てくれなくてもこっちから行きましたよ」

「そうかもしれないけど私たちもすることないのよ」

「そうなんですかー」

 沙羅と美優はたのしそーにしている。こいつらは話が進まなくて困る。

「で、美優でも斉藤でもいいけど説明は?」

 聞かないと答えやしない。

「そうですね話がそれましたね。説明しましょう!」

「ぐは!」

 美優は『説明』で斉藤を床に落とした。腰を抑えてもだえる斉藤はほうって置いて美優の説明でも聞くか。ところでその仕草は斉藤の真似か?

「皆さんから見て扉側、右側に立つ男の人は何を隠そうこの学校の副会長さんで実行委員会の会長さんであります! 名前は大原雅織さんっていいます」

 わーっと手でパタパタする美優、楽しそう。

ふーむ、あの丸眼鏡がこの学校の副会長とはねーそういわれれば見たことないようなあるような……。

「結構朝礼とかで見てるわよ。開会式でも話してたし」

 沙羅の余計な言葉に少し不愉快だ。

「副会長さんは入学してから連続学校で彼氏にしたい人トップスリー以内に入り続けるすごい人です。ちなみに『頼もしく引っ張ってくれそう』『誠実だから』『命令されたい』などの理由が多いようです」

 結構どうでもいい情報だな。しかし最後の理由はどんな理由だ……。とりあえず有名人のようだ。ちなみに沙羅の知り合いじゃないほう。

「そうなのか、確かに偉そうな雰囲気だな」

「そうですね、雰囲気出てますよね。でも偉そうですけどいい人なんですよ? いろいろ親切ですし」

 そうか美優は実行委員会であっているのか。だから知ってるのか、納得。

「当たり前だけど実効委員だから知ってるわけじゃないわよ」

「心を読むな……」

「読みやすいのが悪い。さっきも言ったでしょうが」

 沙羅め……いつか懲らしめてやる……。俺は沙羅の横顔を見ながら誓うのであった。

「そしてその副会長さんと喧嘩している小柄の女性は謎多き人物自称スーパージャーナリストさんです」

 本日二回目の美優のパタパタである。はぁ? すーぱーじゃーなりすとぉ? なんだそれは一気に胡散臭くなったもんだ。俺は副会長と言い争う高校生にしては小柄でピーピーわめく少女に怪訝な目を向けた。

「ちなみに名前は大谷夏姫さんです。私もよくは分かりませんが私と同じ二年生ですよ。でもなにぶん掴みどころのないお方でしてね。神出鬼没、大胆不敵な不思議な人で『どこにでも湧いて散らかして去る』が座右の名らしいです。知ってる人は知っている新聞部の若き部長さんです。図書室クラブと同じで認可は受けていませんが活動を続けるゲリラ部の一つです。図書室クラブとは違い認可規定は満たしているのに部活にならないのは、その活動が過激な内容だったりするかららしいです」

 こちらはとりあえずろくな人物ではないようだな。 えたいの知れない人物とかかわるのはごめんなんだよなぁ……。

「活動を認められないくらい過激な内容ってなんだよ」

 俺は目の前で喧嘩を続ける二人組を見て、あきれてため息をついた。まったくろくなやつが居ないんだなこの学校って。少なくとも数名スーパージャーナリストがはびっこてるんだろ? 真っ当な人間とはおもえんなぁ。

「基本的には学校新聞の作成、掲示板などへの展示ですが。内容はそのとき学校内での騒動や教員の秘密、テストの前には問題用紙などの過激なものをはじめ新入生への案内とか部活動紹介なんかも。あ、誰かと誰かが付き合ったとか、その日の購買お勧めメニューなんかも載ってますよ」

 ずいぶんと最初と最後の落差が大きいな……。なんでそんなの載せるんだよ、テストなんて大丈夫なのか? それに誰々が付き合ったって中学生じゃあるまいし……。

「特に先生の秘密と購買メニューが人気です。購買はその日だけではなく先まで書いてあるので何がいいのかも一目両全なんですよ。でもどこがソースなんでしょうね? 普通分かりませんよ」

 美優がうれしそうに話し終える。美優もなかなかいろいろなことを知っているんだな……。俺なんか一個も知らんぞ。この学校の学生もこういうのが好きなんだな。いろいろ問題ありそうだけど。

「な、これでケイでも分かったろ? 二人ともお偉いさんだ。しかも敵同士」

 斉藤が腰をゴキゴキ鳴らしながら話し出す。

「だから珍しいのか……でも今は副会長が有利みたいだな」

 見ている限り副会長が優勢、カメラとか手帳を奪ったようだ。

「ジャーナリストがカメラと手帳取られるなんてうかつにもほどがあるだろ。しかも天敵の生徒会にだ。哀れだか間抜けだか……」

「そうなんだよね! いつもはその辺抜かりなく行動しているはずなのにねぇ! たまにこう言うミスするんだよねーほら馬鹿だから」

「うぁ!」

 なんだこの突然俺の目と鼻の先に現れた男は! 下から! 下から出てきた! 

「だだ、誰だあんた! いきなり出てきやがって!」

 驚いた俺は自分でも驚きの週敏なバックステップを披露した。いかん汗が……。俺以外のみんなも突然のことにぽかんっとしている。

「うんうんいい反応だ。だけど君、僕のことを知らないのはちょっといただけないなぁ」

 突然現れた謎の男、長身で見た目から爽やかな雰囲気があふれ出しているこの男はそうか! ……分からん。考えてみたものの分かりそうにないな。

「すげぇー……こりゃまたびっくりだな」

「えぇ本当にびっくりね。登場もびっくりしたけどこんな人なの?」

「いつもとはだいぶ違うんですねー」

 俺以外が驚きの声を上げる。みんな理解しているようだが俺にはまったくこいつのすごさがわからんが。

「うーん、こっちは分かってくれたみたいだね。分かってないのは君だけか……」

 突如現れた男はそう言って俺を軽く指差した。初対面の人間に指をさすなど失礼だと思ったが今は簡便してやる。

「君、さっきから聞いてたけど色々俺たちのことに詳しいみたいだね。せっかくだから俺のこともこの子に説明してあげてよ。俺も一般生徒にどんな情報が行ってるのか知りたいし」

「え? 私ですか?」

「まぁいいじゃない二人が三人になっただけだよ、なぁに気兼ねなく言ってくれてかまわないよ」

「はぁそうですか」

 男は俺の次に美優を指名した。多少驚いた様子の美優だがすぐに男の指名を引き受けた。一体この無駄に陽気な男は誰なのだろう?

「えぇっとこちらのお方は副会長さんと同じくこの学校の生徒会でありそこでの一番の重役である生徒会長を務めてらっしゃる大谷孝平さんです。そしてまたまた入学してから彼氏にしたい人ランキングで常に一位か二位です。副会長さんに負けず劣らずすごい人で主な理由は『かっこいい』『一緒にいて飽きない』『副会長以上に頼れる』『笑顔が素敵』『たまに台詞をかむのがたまらない』などの理由が挙げられます。普段は完璧なところが多くてまじめな理想の生徒会長としても教員たちからも信頼の厚いかたです……ですがこのような一面もあるようです」

 序盤、中盤は調子いいのに終盤だけ言葉が詰まる美優。俺も完璧まじめ人間が実はお茶目でしたーって言われたら驚くな。

「噛むのはほめられてもうれしくないんだけどなぁ……」

 美優の話を聞いていた会長は苦笑いになった。

「まぁおおむねそのとおりだね。いいかい? 俺は誰にでも本性で話しかけるわけじゃないんだからなるべく言わないでくれよ」

 会長は人差し指を唇に当てて秘密のゼスチャー。こいつ訳分からん。

「だったらいつもみたいにしてりゃいいじゃないですか。わざわざ俺たちにいわんでもいいでしょうに結構迷惑です」

 何を考えているのか知らんが勝手に秘密をばらされてそれを言うなとはずいぶん勝手な人だな。

「ちょっと桂!」

 沙羅が止めてくるが、先ほど驚かされたしずっとこいつのペースだ。正直気に食わん。

「うーん、その反応もいいねぇ自分で言うのもなんだけど俺はこれでも人を見る目はあるつもりだ。やり取りを先ほどから見ていて君たちに興味が湧いたね」

「そりゃどうもですね」

 これはほめられているのだろうか? 先ほどのやり取りを思い返すと馬鹿にされている気もする……。俺はぶっきら棒に返事を返した。

「まぁいいですよあなたがいくら興味を持とうと俺たちはもう行きますから。安心してください、あなたの性格については言いませんから」

 俺はそう言ってその場を立ち去ろうとする、こんなわけの分からんやつに付き合っている暇はあるけど無い。大体俺たちはこいつらのことを知りに来たんじゃなくて美優を迎えにきたのだ。その美優が居るのだからもうここに居る必要もないと言う理屈だ。

「そう簡単に生徒会長たる俺が君たちを逃がすとでも?」

 生徒会長はなにやら意味深な笑みを浮かべている。何か考えがあるとでもいいたたげな表情だな……。いやいやながらだが何が起こるのかわからない、振り向くしかないじゃないか……。

「おや? どうやら観念したようだね。それがいい、なんたって俺はその気になれば国だって動かせる力を! うげ!」

 生徒会長が両腕を天に広げた瞬間その頭に天罰が下った。いや、実際にはどこからか湧いた副会長が脳天チョップを繰り出しただけなのだが……。なかなか鋭い、音もいいな。

「お前にそんな権力あるわけ無いだろうが、大体さっきから後輩からかってなにをしている?」

 一体いつの間に来たんですか? と問いたくなるのが今は現状維持に限るな。勝手に話が進んでくれるのはありがたい。

「なんだ雅織、夏姫はどうしたんだい?」

 たたかれた頭をさすりながら会長はたたかれたことなんて無かったかのように副会長に尋ねる。もしかしたら結構頻繁に叩かれてるのかもな。

「逃げられた、あいつ俺の顔引掻いてきやがった。カメラも手帳も取られた……くそ! 今度見つけたらとっちめてやる!」

 そう握りこぶしを作り言う副会長の顔には無数の引掻き傷が出来て赤くなっていた。あの小娘は猫か? 沙羅でも引掻くなんて事しないぞ。と思ったら沙羅に睨まれた……。

「まぁまぁお手柔らかにね……」

「いいや! あんなことばかりされると我々の仕事、もとい生徒たちにも迷惑がかかるだろう。何時までも好き勝手にさせるわけにはいかん」

 会長はなぜか苦笑いで副会長をなだめる。別に敵なんだからつぶすのに燃えて悪いのだろうか? 

そんなやり取りをぽかんと見ていた俺たちに副会長が話しかけてきた。

「まぁいいそれより孝平こいつらは誰だ? お前の友人か」

副会長はその鋭い目つきで俺たちを見渡した。これは敵意なのだろうか? 一瞬ドキリとする。

「彼らは俺のお友達だよ」

「はぁ!」

「あれ? どうかした?」

「『どうかした?』じゃないだろ! 誰がどこでいつお前とお友達になった!?」

「誰って君たちと、どこでってここで、いつってついさっきじゃないか君熱でもあるのか」

 熱があるのはお前のほうだ! だめだ本当に不思議そうにしてやがる……。

「ところで君たち名前はなんて言うの? 俺たちだけ知られてて俺らが知らないのは不公平ってもんだろ? いいじゃないか減るもんじゃあるまいし」

 その理屈だとほとんどの生徒を覚えなくてはならないような気がするのだが……。

「まぁ名前くらいなら、俺は……」

 俺たちは各々自己紹介をしていく。完結に言うつもりが沙羅たちの妨害により予想外の情報を与えてしまった。俺にとっては言いたくない図書室クラブのことも話してしまった。

「桂君、沙羅君、一輝君、美優君だね。インプットしたよ。これからよろしく。しかし図書室クラブね、面白そうじゃないか今度覗かせてもらうよ」

「こちらこそよろしくです。が、こなくて結構です。出来れば一生結構です」

「つれないねぇー」

 会長は笑いながら俺の肩をバシバシ叩いた。くっ! 痛い……。

「終わったか? 君たちもこんなやつと居てもろくなことにならん。それより文化祭を楽しんだらどうだ?」

「こんな奴とはずいぶんないい様だね俺だって傷つくぞ」

 不服そうな会長を尻目に副会長は引掻かれた顔をさすりながら俺たちを見渡してくるその目は先ほどからか鋭く光っている。

「俺はこの子たちと遊んでくるから雅織は仕事がんばってね」

 え!? こいつまさかついてくるつもりなのか?

「何を馬鹿なことを言っている駄目に決まってるだろう、お前が誰をからかおうと知ったことではないが、今日はだめだ。俺にもお前にも仕事が山のようにあるんだ。いくらお前でも遊んでいる暇なんて無いぞ」

「そんなぁー後輩たちと親睦を深められるまたとない機会なんだぞ?」

「そんなの後でやればいいだろう。とにかく今日はおとなしくしておけ兄妹そろいに揃って騒がしいのではたまらんからな」

 さすが副会長。会長の補佐が決まってるじゃないか。しかし会長には兄妹が居るのか……。こんな男だ兄妹も想像できるな。

「いやだ! 俺は遊ぶ!」

「うあ! なにすんだ! 離れやがれ!」

「ケイなんか知らない人によく抱きつかれるよね」

「それ私のことですか?」

 何を思ったのか会長は俺に……俺に! 抱きついてきやがった……。あんたそこまで遊びたいのか? 斉藤と美優も話してないで助けてくれよ!

「……一体何をしている。幼児でもあるまいしお前は一応それでも生徒会長なんだぞ……もう少し自覚を持ってもらいたいものだ……」

 うお! 副会長怒ってるし! 目がさっきよりも鋭いって!

「わ、分かった、分かったよ……」

 会長もそれを察したようで俺から慌てて離れた。副会長も苦労してるんだな……。もしかしたら会長が普段しっかりしてるというのはこの人のおかげなんじゃ……。

「では我々はこのあたりで失礼しよう。高坂君仕事はしたまえよ。ほら行くぞ」

「いで! あででで……」

「はい分かりましたー」

 副会長は逃げようとした会長を肘うちで止めそのまま引きずって消えていった。その時も会長は終始俺たちに助けを求めてきたが全員が無視という虚しい結果に終わった。

「あんな奴と関わるのはごめんだな」

「そうかな? 思ってたのとだいぶ違う人だったけどずいぶん楽しそうな人だと思ったけど」

「そうですよ。悪い人ではありませんよ。きっといい人です」

「いい人とかの問題かしら……騒がしいのは苦手だわ。まぁ面白そうな人物ではあるけどね」

 斉藤や美優の考えより沙羅の方がしっくりくるがそれでも俺はあの手の人物は苦手だった……。

「じー……あいつら使えそうだな……」

 俺たちはこの時逃げたはずの人間が窓の外、距離にして三四メートルの地点でこちらを伺う影に気づくことはもちろん無かった。気づいたとしてもどうすることも出来なかったろうけど……。

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