文化際とバックナンバー(2)
「さてと、美優はこれからどうするんだ? どっか行かなきゃいかんのか?」
俺はみんなと特に何をするわけでもなく廊下を歩きながらどうするかを話していた。
「そうですね実行委員の仕事がありますが私は末端ですから模擬店の視察や学校内のパトロールが主な仕事となります。副会長さんや会長さんクラスになると忙しいようですが私たちは定期連絡をすればほとんど自由でも大丈夫なんですよ」
「そっかぁーじゃあ意外と暇なのね私たち……」
「そんなこと言うなよ大事な仕事だし遊べるんだからいいじゃないか。せっかくだ、楽しもうよ。お化け屋敷とかバンド演奏とかのイベントも多いみたいだよ」
沙羅は少々がっかりとした様子だったが俺も内心そんなものかと思っていた。うーんこうなってくると特にすることもないんだよな……。斉藤と美優はやりたいことあるようだしそれに付き合うのも悪くないかな……。そんなことを考えながら俺たちは歩くのをやめ人通りの少なめな渡り廊下から賑わう文化祭を先ほど模擬店で買った綿アメをかじりながら眺めていた。これと言ってしたいことがあるわけでもないので困ってしまったな。
「ちょっとお前たち! 暇してるみたいだな! だったら僕に付き合えよ!」
俺はぼうっとしながら主に斉藤と美優の何をするかという議論に耳を傾けていたが突然背後から声がしたので俺たちはゆっくりと背後を振り返った。
そこには一枚パンダのパネルと中よさそうにあるく老夫婦が居ただけだった。
「最近のパネルはしゃべるのか。ずいぶん進化したんだな……」
「そうね。だけど何もパンダのパネルにしゃべらせなくてもいいわよね」
「でもかわいらしいです。私は好きですよ」
「そうかな……このパンダ妙に怖いと思うけど、なんで八頭身で二足歩行してるパンダなの? 着ぐるみだよねこう言うのって」
確かに……パンダにしてはでかいな、着ぐるみのパネル? しかしなぜ普通のパンダではないのだろうか……俺たちの前にあるパンダは両手を広げて『さぁこの胸に飛び込んでおいで』と言わんばかりの立ち姿だった。悪いが美優には賛成しかねる。
「ちょっとどこ見てんだよ! こっちだよこっち! さっきから無礼な奴らだな! このやろう!」
またパンダがしゃべった。高性能パンダはやっぱりすごいなっと感心しているとスネに衝撃が走った。しかし特に痛いわけでもなくただ衝撃が走っただけ。
「うわ! いた! 何だよこいつスネになんか入れてやがるのか……」
ようやく気づいたのだが俺の目の前、脚の前にはなぜか足を押さえて涙目で足に息を吹きかけて蹲っている少女がいる。こいつかさっきから話しかけていたのは……。しかし蹴られたのは俺なんだけどなー。
「くそう、さっきから僕のことを馬鹿にしやがって! 変な態度だと許さないからな!」
現れた謎の少女は立ち上がっていまだ涙目で俺をだいぶしたから見上げていた。それと同時になぜこの少女に気がつかなかったのか理解した。この少女恐ろしく小さい。視界にも入らんわけだ。
「あれ、君新聞部の部長さんだよね、こんなところでどうしたのさ」
「いつの間に現れたんでしょう?」
声を出したのは斉藤だった、美優も驚いている。新聞部部長? うーんと俺は繭を顰めてうなってみて思い出した。確かに新聞部部長だ。先ほど副会長と喧嘩をしていた小柄な少女か……いや、少女は間違っているのだろうか、一応年上なわけだしお姉さんか? これも違う気がする。しかし小さいな。同じ年の美優と比べるとずいぶん発育に問題があるのではないか? そんなことどうでもいいか、俺の気にすることではない。
「そうだ、僕こそが偉大な新聞部の部長である! さぁ分かったなら崇めたまえ!」
そう言って小娘はまったく無い胸を張った。ずいぶんとえらそうな態度だな……。ここはひとつ懲らしめないとだな……。
「こら! 大人に向かってその態度はなんだ! しっかりしないと駄目だろう」
俺は目の前に居る少女に副会長とまでは行かないがチョップをビッシっとお見舞いしてやった。これで少しは身の丈を知るだろう。おぉ効果的面涙目だ、心が痛むがこれも君のため……。
「桂、見えないけど私たちの先輩よ……」
「まぁ遠慮とか尊敬とかしにくい容姿だよねむしろ逆」
「とってもかわいらしいですよね」
まったくもって沙羅の言う通りなのだが斉藤と美優の言うこともその通りで、なんだか先輩とか目上の人物としての雰囲気がまったくない人だ。どちらかと言えば後輩とか子供にしか見えない。
「そろいも揃って僕のこと馬鹿にしやがって! お前らのこと散々に書きまくってやるぞ!」
新聞部はそういいながらも涙目だった。この子はそんなに背のことを気にしているのだろうか? しかしこんな小さな子を泣かせるようではいかんよなぁ。
「ほらこれやるから泣きやみな」
俺は半分くらい残っている綿アメを目の前で泣く少女に手渡した。出来る限りに笑顔で小動物に接するように……。大丈夫こわくない。
「綿アメくれるのか?」
「あぁお食べ」
「ありがとう……」
少女はぐすんとしならしかししっかりと綿アメを受け取った。うんこれでいい……。今日も一ついいことをしたなぁー……。
「って誰が綿アメでごまかされるかぁ! 僕は先輩だぞいい加減にしろよ! 子供じゃないんだ!」
「子供だろ!?」
「ふざけんな!」
ちっ! 駄目だったか。まぁ当然といえば当然。しかしこいつしっかり俺の綿アメ食べてるし……。
「ほへほひほはへはひほは?」
「食ってから話せ」
綿アメを口いっぱいにほおばりながらもごもごと話す新聞部。綿アメでここまでなるって逆にすごいな。新聞部はガツガツと綿アメをものすごい勢いで食べきり残った棒を俺に投げつけてきた。それを頭だけよけてかわす俺……ではなく顔面に直撃を受け先ほどより一層沈んだ気分になる。その間に新聞部は最後の綿アメをごくりと飲み込んだ。
「あーおいしかった」
新聞部は口を拭いながら満足そうにしている。本当幸せそうだな。
「それより大谷先輩、私たちに何か用ですか?」
満足そうな新聞部を見ていた沙羅が尋ねる。そう言えばそうだな何でこいつはここに居るんだ?
「ん、そうだな。危うく本題を忘れるところだった」
忘れんなよ。俺も忘れていたので心の中だけでツッコンだ。
「山本たちさっきから見てたけど暇そうじゃないか、そこで最初にも言ったけど僕につきえよ」
何言ってんだこの小動物は……付き合え? 命令? 元気よく言ってもイラっとくるな。
「ケイ駄目だよ」
「分かってる……」
「表情に出てるよ」
斉藤に止められなければまたチョップしてやるのに……。付き合いというのは時たま厄介だな。
「先輩事情がよく分かりません、少し詳しくお願いできますか?」
こういった対応には沙羅はむいている。先生はこれに驚いていて初めて会った時のやさしい山本に戻ってくれないかとたびたび頼んでいるほどだ。もちろん今や先生にそんな態度をとる必要も無いのだからやるわけが無い。
「うん、良いだろう。君たちには文化際中僕と一緒に新聞部の活動に協力してもらいたいのだ!」
元気よくても今イチ分からないなぁ。新聞部の活動? なんだそれ。
「手伝えとはどう言うことですか? 具体的には何をしろと?」
沙羅は斉藤に右手をつかまれ動きを封じられている俺などを尻目に淡々と話を進めていく。美優はニコニコしながら新聞部を見つめている。
「そうだなしっかり話すと話が長くなっちまうな……まぁここでもいいか」
「だったら移動しましょうや。俺もこんなところで立ってるのも疲れますし。いいところがありますよ」
俺はそう言って図書室の方向を指差した。俺たちの居る渡り廊下はさっきより人通りが多くなってきていた、一般客が入ってきたため職員棟と学生棟をつなぐ渡り廊下は人が混むのだ。そして人ごみの中で長話が出来るほど俺は頑丈じゃない。
「そうなの? じゃあそこに行こうか案内せい!」
またまた偉そうに新聞部は俺を指差した。ちなみに当たり前だが指差しなどされて何も感じない俺ではない。ここらでもう一発行っとくか……と思ったら今度は沙羅に手首を掴まれて何か悟ったように首を横に振った。分かったよ……みんなには敵わんな。
あいにく俺らの向かう図書室はここから近いし何より人が居ない。ゆっくり話をするならあそこ以上に適したところは無いだろう。
「出発進行!」
俺の気苦労など知らずに新聞部はこれまた元気よく指差した方向とは逆方向に歩き出した。こいつもしや馬鹿か……?
「うーん、やっぱりここは良いわねー落ち着けるし静かだしそして何より人が居ない!」
沙羅は図書室に入るなりそう言って気持ちよさそうに伸びをした。俺も同感だ、本のにおいが心地いい……。
「そうだね、やっぱり落ち着くねー」
斉藤も足早に自分の指定席について机に突っ伏しため息をついた。
「ちょっと待っててくださいね。私飲み物持ってきますね」
美優はそう言って図書管理人室の方へ歩いていく。
「助かるわ美優。熱めの紅茶ね」
「はい、いつものですね」
「俺はコーヒー。ミルクと砂糖も入れてねー」
「わかってますよ」
「桂君は何にします?」
「俺も斉藤と同じコーヒーでブラック」
「了解です」
「夏姫ちゃんは紅茶でいいですか?」
「え? あ? いいぞ?」
美優は注文を聞くとにこやかに図書管理人室へと消えて行った。美優が自前のティーセットを持ってきたのは数日前のことである。放課後図書室に来たら先生と美優がおいしそうにカウンターで紅茶を飲んでいたのが始まりなのだ。はじめは本が大量に保存してある図書室で飲み物を飲むのはかなりどうかと思ったがこぼれたことは無いし何よりおいしいからな、皆すぐにとりこになった。ちなみにティーセットは図書管理人室で常時稼動である。主に先生がコーヒーをがぶ飲みする。
しかしこれにはさすがの新聞部も驚いたようだ。俺もはじめは驚いた。
「先輩、お話ってなんですか? 手伝えって言ってましたけど」
準備中の美優以外全員が椅子に座ったところで沙羅が話を切り出す。
「そうだね、はじめに僕の目的なんだけど。僕たち新聞部は今回の文化祭を機会に部活動への昇進を狙っている!」
ドーンと効果音がついて俺は固まった。
「新聞部って部活じゃないの?」
俺は向かいに居る沙羅に尋ねた。部って言うくらいだからなぁー。
「話聞いてなかったの? 新聞部は今はねゲリラ部扱いよ」
沙羅にため息をつかれてしまった。忘れてたんだから仕方ないじゃないか……。
「そうなんだ僕の新聞部は残念ながら今はゲリラ部という不毛な扱いなんだよ……僕は僕の新聞部が非公式のゲリラ部なんていわれて終わるなんてやなんだ!」
新聞部は悔しそうな顔で立ちあがり机に両手をついた。奥歯をかみ締めるのが下の角度から見える。こいつ頭空っぽの元気で馬鹿なだけじゃないのかもしれんな……。
「あんたの気持ちは分かったが俺が手伝う義理はない」
「そんな……」
「ちょっとケイ少しひどいんじゃない?」
斉藤の言うこともそうだ、こんな奴でも大変なのは分かったがそれで俺らが面倒な事をするわけじゃない。悪いがさっき会った見ず知らずの奴につきあうほど俺はお人よしではないのだ。
「義理ならあるわよ。とってもおっきなのが」
そういったのは腕をくんで椅子に深く座った沙羅だった。義理だと……?
「一体何があるってんだ? こいつとは初めて会ったんだぞ」
「そうね、だけど美優とは毎日会ってるでしょ」
美優? なんのことだ? 俺は図書管理人室でうれしそうにコーヒーと紅茶を入れる美優を想像する。においを嗅げばほのかにコーヒーのいい匂いが漂ってくる。今や図書室クラブの一員俺たちの生活の一部に入る人物。それとこれとが何の関係があるのだろう。
「それがなんだってんだ、そんなもん義理でも何でも無いだろ」
「それがなっちゃうのね、美優が今ここに居るのは大谷先輩のおかげなのよ? 立派な借りじゃない」
沙羅が何を言っているのか分からん。美優がここに居るのが新聞部のおかげ? どう言うことだ。
「美優とあった肝試しをした日あの時色々な情報をくれたのは大谷先輩よそれが無かったら美優とはあえなかったかも知れないじゃない。美優と出会う直接のきっかけにならなくても後押しをした一つであるのは確かよ」
そうか、胡散臭い会談話や教室に出る幽霊ってのはこいつが教えたのか……。確かにこいつなら夜の学校に居ても不思議じゃいな……。俺は少しの間考えざるをえなかった。数秒の間を置き俺は覚悟を決めた。
「……わかったよ。付き合えばいいんだろ。借りは返す。それだけだからな」
「素直じゃないんだから」
借りを作りっぱなしは趣味ではないし、ちょうど退屈してたところだ。暇つぶしにちょうどいいかなって思っただけだからな!
「あぁありがとう本当に助かる! お前って意外といい奴なんだな! 山本も助かった!」
「それほどでもないですよ。桂はめんどくさがりやですが雑用程度には使えますよ」
以外とは余計だ新聞部……。そして沙羅もな!
「うわさをすればなんとやらね」
沙羅がそう言うと図書管理人室の扉が開き中から美優の姿が現れた。
「はーい、皆さんお茶が入りましたよー」
きりのいいところで美優がお盆に人数分のカップを乗せて歩いてくる。本当にタイミング良いよな……。俺たちはそれぞれ注文したものを受け取って行く相変わらずおいしそうだな。
「どうも、ありがとさん」
「いえいえ、ゆっくり召し上がってくださいね」
俺も美優からコーヒーを受け取りお礼を言う。一口飲むとすっきりとした苦味が口に広がり香ばしい匂いが鼻を抜けた。
「うまい……」
カップの中を見ながら思わずつぶやく。美優にも聞こえたらしくお盆を両手で胸の位置に抱えながらこちらを見てニコリと笑った。
「桂はほんと素直じゃないわねー」
沙羅に笑われたがあえて聞こえない振りをした。うーん、本格的に義理だな……。
「で、お前の目的も分かったが一体どうやるつもりだ? 何か方法でもあるのか?」
うれしそうにするのは良いがそれがなければどんなにがんばったって人が集まったってどうしようも無い。
「それは……一応あるんだけどね、ちょっと問題なのはそこなんだ、みんなに手伝いを願いたい理由……」
深刻な話は尽きないようだな……。俺も少し心しないといけないようだ。
「部活に昇進する方法はもうあってそれ自体はなんら分かりにくいことではないんだよ。たった一つだけなんだけどね……」
それが厄介事というわけか……。しかし一体どんな条件を出されたのだろうか? 部活を一つ作ってしまうようなことだ、やはりそれなりに難しいのではないだろうか。元気と行動力だけがとりえのような新聞部が人の助けを必要とする事とは一体なんなのだろうか。
「やることは簡単さ、この文化祭開催期間中の学校新聞を僕たちが合法集団として作り続ける事。ただそれだけだ。それだけで僕の新聞部は列記とした公認部活動へと昇進できる」
新聞部はそれだけをきっぱりと言い切った。
「それは一体どう言うことになるんだ? 文化祭期間中作り続けるのがどうして大変なんだ? いつもやってるんだろうが」
「そう言うわけにも行かないんだよ。確かにやることはいつもと大して変わりはしないが動きが違ってくるんだよ。今までの僕たちの活動じゃ決して合格することはかなわないだろうからな」
そう簡単にもいかないということか……。しかしそのくらい新聞部ならお茶の子さいさいと言うやつではないだろうか?
「むうー開催したから早速一枚目を持っていったのだがな渡したら『この調子じゃ合格へは遠いいぞ』って言われてな心底二枚目に困っていたところだ。一応出来てはいるのだがな……」
そういいながら新聞部は懐から二枚の紙を取り出した。どうやらこれが例のブツらしいな……。フッフッフ。
「あっケイが燃えてきた」
斉藤黙れよな。駄目超能力者め。
「これなんだけど……お前らどう思う? 僕は完璧だと思うのだが……どうも駄目なところがわからないんだよ」
そう言って新聞部が広げた紙には子供の落書きにしか見えないものが書いてあった。いや、もしかしたらこれは途轍もなく高度なもので凡人の俺には理解できないものなだけかもしれんない……。
「これはなんだ……何かの暗号か?」
紙の上にはこれでもかと散りばめられた文字や記号の後。それが一体何を意味するのかは俺には分からない。
「暗号? 何を言っているこれのどこが暗号だ。まったく失礼な奴だなお前は」
「え? あ、はぁ……」
やはり常人には理解できないレベルというころだろうか……。
「大丈夫よ私も分からないから。しかし字汚いわね……どうやったらこんなのになるのかしら……」
おろかにも一瞬納得してしまった自分が馬鹿だった……。沙羅も読めないとなるとこれは本格的に汚すぎる文字か……。これでは没をくらうのはあまりにも必然だぁー……。
「そうですねー目の付け所は面白いかも知れませんが少し内容がぐちゃぐちゃですね……あ、ここの漢字間違ってますよ」
「本当か? あ、本当だ。助かったよ」
これ読める人なんて居るのだろうか……と考えていた時だ。汚く俺には全く読み取ることの出来ない新聞を見ながら俺たちの反応とは全く違う反応を見せたのは美優だった。新聞部の反応からしても美優はデマカセを言っているわけではないようだ……。一体どんな暗号解読能力だよ……。
「まさか……信じられない。これを読んだって言うの?」
「意外な才能だねー」
沙羅も驚きの表情を隠そうともしない。斉藤はなぜかうんうんっとうなずきながら美優を見ていた。俺も美優と新聞部の話を半ば呆然としながら見ていた。
美優の解読技術によりなんとか新聞の内容は把握することが出来た。解読と言ってもただ美優が読み上げていくだけなので見ている限り解読とは思えないのだが確実に解読だった。俺たちはそれを聞いて少しばかり首をかしげていた。なぜならそれははっきり言って大して面白い作品ではなかったからだ。内容は支離滅裂のまさに自由。己のためのみの書かれた一品だ。
「よくこんなものでやってこれたな……こんなの読む奴の思考が分からん……」
俺は美優の解読を聞きおえてこめかみを押さえてそうつぶやいた。こんなの書いてよく平気で居られるよ……。
「いや、時々俺も読んでたけどこんなんじゃなかったよ、確実に」
そうか、一体何が起きたというのだろうか……斉藤も分かってないみたいだし……。
「これは、誰が書いたんですか? もしかして先輩ですか?」
沙羅がおそるおそる新聞部に尋ねる。沙羅も信じられないのだろう。
「いいや、もちろん僕が書いたぞ。新聞部の部長として最前線で戦わなくてはならないからな!」
なにと戦ってんだよ……。せいぜいお前が戦ってるのはこれを解読する物好きとだよ。新聞部はなんだか自慢げだし何にたいして自身を持っているのかもわからん。
「そっとしとくか……」
「それがいいんじゃない?」
「どうしようもないわよ……」
俺たちは早くもあきらめた。
「とりあえずこれを作りなおして再提出すればいいってわけだな?」
「そう言うことだ」
困ったな。新聞なんて何年ぶりだ? 部で作るような新聞が俺たちにどうにかなるのだろうか?。というか新聞部はこんなんで作り方知ってるのか? 激しく不安になる俺だった……。とりあえず美優とで新しい紙にでも書いてみるか……。
「えっとこれか……うーんどうなんだろうなこれは」
俺たちは美優に数分で新しく作ってもらった文化祭用新聞第二部を眺めていた。新しく書き換えて改めて思ったがこれはつまらないな……。これが二部か……と考えていたらふとした疑問に突き当たる。
「ちょっと新聞部、これを直すのは分かったが第一回は大丈夫だったのか?」
二回目がこれじゃ一回目はどうしたのだろう?
「これだが、一応通ったんだぞ。だから二部目も大丈夫だ」
「え!」
きっぱりとこれまた当然のように新聞部は答えた。俺は通ったという第一部にすぐに手を伸ばした。
確かにきれいな電子書体で内容もかなり改善されている。これは一体……。
「これは一体誰が書いたんだ? 駄目だって言われたんじゃなかったか?」
俺は第二部と第一部をすばやく両手に持ち見比べながら新聞部に尋ねた。どうしてこの二つを書いた人間が同じと思えようか!
「なに言ってんだ? 僕が書いたに決まってるだろうが」
「うぉう!」
今こいつに俺馬鹿にされなかったか? この変人に。びっくりだ……。
「とりあえずこれを直してまた提出してOKもらえばいいんでしょ?」
俺と新聞部の様子に見かねてか斉藤がため息をついて話を進める。まぁこんないつまでも不毛な会話を続けるのもばからしいしな……。
「その通りだメガネ、分かったらはじめるぞ!」
新聞部も斉藤の意見に賛成らしく斉藤を元気よく指差した。メガネって斉藤のこと覚えてないのだろうか?
「メガネって……」
斉藤も少ししょんぼりしていた。もしかして俺も変な風に言われてしまうのだろうか?
「ま、そ言うことなんだったらさっさと終わらせるわよ」
「わかりましたー」
「よーしやるぞー!」
沙羅はそう言うと女子たちで新しく新聞を書き始めた。斉藤は新聞を横から覗き。たいして俺はこれには興味もないので目の前のコーヒーをぐいっと飲み干した。そんな今のところ見せ場のない男子は着々と仕事を進める女子たちを見守ることにした。こう言うことは俺には向いとらんからな。こんなこと言ったら沙羅には『そんなんだったら桂に向いてることは一つも無いわ』くらい言われてしまうだろうな……。
「できたわ」
「はや!」
俺がコーヒー二杯目を持ってきて斉藤と少し雑談したらこれか!
「いくらなんでも早いというか本当に出来たのか? 手抜きか?」
沙羅たちに限ってそんなことは無いと思ったが沙羅も俺と同じで面倒だったとか?
「してないわよ、馬鹿にしないで。桂とかカッちゃんみたいに仕事の遅いグウタラ駄目人間じゃないの」
「俺までとばっちりだよ。ケイの馬鹿」
沙羅と斉藤に睨まれた! しかし沙羅の言葉には反論できな……るが余計なことはしなくてもよいだろう。
「元気出してください桂君。桂君も一輝君もグウタラ駄目人間なんかじゃないですよ。いいところいっぱいありますよ」
沙羅とは正反対に慰めてくれる美優。沙羅もこのくらい丸くなってくれたらなー……気持ち悪いな。変な妄想はするもんじゃない。
「美優ちゃんは優しいねーそれに比べてあの娘は一体いつからあんな口の悪く育ってしまったのか……俺は悲しいよ、おーいおいおい……」
「はいはいそうですねー大丈夫ですよー。沙羅ちゃん、ちょっと言いすぎですよー」
斉藤は泣き真似をしながら美優にすがりついている。美優も子供をあやすように斉藤の頭をなでる。おい斉藤お前分かってやってるな……。いつからお前はそこまで変体に成り下がってしまったんだ……。
「ってカッちゃん美優のどこにしがみついてるのよ! 馬鹿じゃないの! 早く離れなさいよ! この変体!」
「おふ! 沙羅ごめん冗談だから!」
「冗談じゃすまないでしょうがー!」
「沙羅ちゃーん一輝くーんやめえくださーい仲良くですよー!」
おー斉藤が馬鹿するからまたまた面倒な追いかけっこが始まってしまったじゃないか。まぁがんばれ。俺には関係ないからな。俺は二杯目のコーヒーを半分ほど飲んだ。
「お前らいつもこんなんなのか……?」
一人取り残されている新聞部が俺に困った顔で尋ねてきた。
「こんなんです」
「そうなのか」
「よかったら混ざってきたらどうです?」
「それじゃそうするかな……おーい僕をほっとくなー! しーごーとー!」
なんだ、やりたかったんじゃん。俺は残ったコーヒーを今度こそ飲み干した。
「でこれが完成したものですか」
椅子に座って完成した新聞を眺める俺たち。
「まぁそうね私たちは今のところ情報が不足すぎるのよ。先輩の手帳見せてもらっても読めないし美優に解読してもらってもたいしたもんでてこないし。今出来るのはこの程度よ」
「失礼だな僕が悪いんじゃなくて山本が悪いんだ!」
「どこがですか……」
「知らない!」
沙羅も苦労してるんだなー。しかしこの小娘は子供かよ……。
「ま、まぁ完成したならもう一度出さなきゃ駄目なんでしょ? 早く行こうよ。まだまだ次もあるんだし」
そう言ったのは一人だけ戦場でもくぐりぬけたかのような顔をした斉藤だ。こちらもこちらで大変だな。こちらは自業自得か……。
「そうだな……ところで新聞部これってどこに出してんだ? やっぱ職員室」
完成してもどこにもっていくのか分からないのでは話にならい。確認とると言っていたし誰かにとってもらうのだろう。
「いや、生徒会室だ」
そうか生徒会室なのかてっきり先生に見せるのかと思ってしまった。そうか生徒会に見せるのか……。
「ってなにぃぃぃ!? 生徒会に見せるんかいな! あえて生徒会かよ!」
「へぇーあの生徒会にね……」
「ずいぶん意外なとこだね……。さっき喧嘩してなかった?」
「実は中良いんですねー」
美優違うだろ! なんで!? さっき副会長『あんなゴミども神に誓ってつぶしてやる!』て言っていたじゃないか!
「な、なんだよ。べつに良いだろう。それが条件なんだから……」
新聞部はなにやらバツの悪そうな顔をした。
「それよりさっさと行くぞ! 僕は忙しいんだ!」
顔を少し赤くした新聞部は怒りながら立って歩き出してしまった。
「ちょっと先輩!」
「変わった人ですねー」
「ずいぶんね……」
「ただの変人だ」
「こらー! 早くきやがれー!」
翻弄されっぱなしな俺たちは入り口で怒鳴る新聞部の後にしぶしぶ続いて行った。
俺たちは新聞部の後に続き生徒会室の前へと来ていた。職員棟最上階に生徒会資質はある。生徒会室専用に作られたのだろうか扉に生徒会室と書かれたプレートが埋めこめられている。
「しかし俺がこんなところに来る羽目になろうとは……」
俺は入り口に立ちしみじみとつぶやいた。出来れば学校生活で来たくないところなのだ。あと校長室とか怒られそうなめんどくさそうなところには大体行きたくない。
「別にお前が必要なわけじゃないから外で待っててもいいんだぞ。僕は行ってくるから」
一番前に居る新聞部が睨む。そうですかぁー。
「俺は面倒だしまたあの人たちにも会いたくないのでここに残ってまってます」
俺はそう言って後ろに下がり窓に背を預けた。また変な会長とかなんかに会いたくないからな。
「またケイはーせっかく生徒会室に入るいい機会なのにーあんまり入れないと思うよ」
斉藤、俺は珍しいからと言って藪なんて突きたくないんだよ。
「こんな奴ほっといて行きましょどうせ何言っても無駄だわ」
「それもそうだね」
「では少々お待を」
そう言って俺以外のメンバーは次々に生徒会室に足を踏み入れていった。俺は外でも眺めて待つかな……。窓を開けて人で賑わう校庭を見下ろしていた。
「せっかくの文化祭だって言うのに君は楽しもうとは思わないのかい?」
「面倒なんですよ。人ごみも苦手だし……」
「まぁ人それぞれだな……それよりあの子達は中に誰も居ないと考えなかったのかな? 会長だっていつでも居るわけじゃないのにね。まだ探してるかな?」
先ほどから何を言っているんだこいつは……俺はふと隣に視線を送った。
「よう、やっと気づいたか?」
そこには気持ちよさそうに風を浴びる生徒会長がにこやかに立っていた。
「カイチョウ……?」
「君はずいぶんロボットの真似が上手いんだね。こんど校内ロボットコンテストでも開いてみるか、優勝できるよ」
そんなくだらない大会はどうでもいい……何で会長が? なかに居るはずじゃ……。あぁ駄目だったか……。
「あきらめたようだね。じゃ、仲良く入ろうか。生徒会室。なにより俺に会えてうれしいだろ?」
会長はすべておみとうしだったのだろうか? ……どこから見てた?
「会長」
「なんだい?」
「手、どけてもらっていいっすか」
会長は無言で俺の肩に回した左手を下げた。
「あら、外出中だったんですね」
「これから物色するところだったのに……残念ですね一輝くん」
「全くだ。これからと言うのに……。ケイも少しくらい時間稼ぎしてくれてもいいのにね」
「……」
中に入れば偉そうなでかい椅子に座った斉藤とそのよこで偉そうな机を物色している美優。何をしているんだ……これからって言いつつもうすでに物色してるじゃん。窓際に立ってる沙羅も何もしないでいるし。止めろよな……。しかし新聞部の様子おかしくないか? 俯いて上目遣いでこちらをチラチラと見ている。
「うーんやっぱり君たちとは縁があるようだね。生徒会室へようこそ」
会長は部屋に当たり前のように並ぶ馬鹿たちを見てなんとも爽やかに挨拶をした。
「そこ大事な書類とかあるからあんまりいじらないでほしいかな」
そう言うと会長は斉藤のほうに歩いていって『俺の席だから』と斉藤をどかしてため息をつきながら深く座った。斉藤たちが物色していた机はやはり会長のものだったか……配置的にそうだと思ったよ。そのあと俺たちは会長と適当な話を繰り広げた。
「君たちとの運命的な再会を喜んでいたいところだけど。やっぱり夏姫が居るってことはアレがらみなのかな?」
「会長がおっしゃるアレが何なのか分かりませんがたぶんソレです」
「アレとかソレとかわけわかんねぇよ」
斉藤のツッコミはほうっておいて会長は話が早いな。さすがなのだろうか?
「どうした夏姫、一丁前に緊張かい? そんなことより次の原稿は出来たんだろうね?」
「う、うん……」
俺たちを見る会長の目とは違う、何か鋭いような目つき。そんな意外な目つきだからさっきから新聞部もこんなにしおらしいのか……。
「やっぱり見るのって会長だったんですね」
「ん、そうだね。俺以外見るやつなんて居ないから」
沙羅と話す会長が笑う。それにしたって会長が見ることじゃないような気がするが。ほうっておくか。
「ふー」
「ど、どうだった?」
沙羅たちが修正した新聞を見終えたのか会長は目を閉じて息を吐き出した。新聞部もさすがに不安そうだ。漫画家と編集者ってこんなんなのかなって思った。
「なかなかよくなっているね。これはこのまま預からせてもらうよ」
「よっしゃー! やったね!」
満足そうな会長の顔、それを見て新聞部もうれしそうだ。よかったな新聞部。
「これで終わりじゃないぞ、まだまだ文化祭は続くだからお前は早く取材に行って来い! あとのことは俺がやっとくから遅刻なんてことはしてくれるなよ」
「うん分かった! じゃ行ってくる!」
会長がキツイ事を言うがそれでも新聞部はうれしそうに生徒会室を走りながら出て行った。新聞部も会長もやけにうれしそうだな。しかしあんなに喜ぶなんて新聞部もまだまだ子供よな。俺たちも新聞部の後に続き帰ろうとして出口へ歩き出した。
「あ、君たちはちょっと待ってくれないか。少し話があるんだ」
呼び止めたのは会長だ、一体なんだと言うのだろう?
「暇つぶしでしたら帰りますよ」
「いやいやそんなんじゃないから……。頼みごとだよ君たちにしか出来ないんでね」
会長の顔には先ほどのうれしそうな表情はなく真剣な顔つきだった。この会長なんとも読めない奴だ……。
「頼みごとですか?」
沙羅が不思議そうに尋ねる。それもそうだ生徒会長殿なんかから頼みごとをされるような者ではないしなにより俺たちでなければならない理由を聞きたい。面倒ごとは嫌だとはさすがに言い出せなかったが……。
「なぁにちょっとした事なんだがね君たちはもう片足突っ込んでるけど改めて頼みたいのよ」
頭に腕を回し先ほどより深く座り俺たちを見つめる会長。大きな椅子がギシギシと音を立てる。
「これ君たちがやってくれたんでしょ?」
そう言って会長は俺たちが持ってきた原稿を指でつまんでヒラヒラと振る。
「そうですけど……全部じゃないですよ」
俺の肯定。確かにこれは沙羅たちが手伝ったものだ。
「やっぱりね、あいつがこんなの作れる訳無いもんな……」
会長は一度深いため息をついた。
「よく知ってるんですね夏姫ちゃんの事」
「あぁ、よーく知ってるよ。ところであいつの字誰が読めたの? 苦労したでしょ?」
「それは私ですよ。そこまで苦労しなかったですけど。変わった字ですよね」
「……ありがとう」
美優がそんな会長を見てほほえむ。美優の言うとおりこれはなんと言うか呆れと言うかもっと優しさを感じる。一体こいつと新聞部は何だというのだろう。
「そんで本題だけど、これからもあいつの新聞の手伝いを頼まれてくれないだろうか? 気づいてると思うけどあいつだけじゃどうにもならないんだよ。この通り頼む!」
会長は拝むようにして俺たちに頭を下げた。その様子から必死さが伝わってくる。俺たちは話も理解できないので顔を合わせてアイコンタクトをして全員うなずいた。
「会長、話が読めません、詳しくお聞かせください。話はその後です」
俺はきっぱりと答えてやった。
「あいつの新聞いや、行動や態度からも分かってくれたと思うけどあいつ何にも出来んのだ……せいぜい周囲を疲れさせるくらいで……」
苦しそうな表情で会長は話し始めた。俺はこのあたりから理解した。この人は苦労人だと。
「ただやる気はあるんだ。空回ってるけど……がんばってるんだ、そこは分かってくれ!」
「はいはい分かりましたから話ずれてますよ」
なんであんたが熱くなるんだよ……。
「うむ、あいつと俺の約束は知っているか?」
会長の言う約束とはなんのことだろうか……。
「会長とのことかは分かりませんが文化際中まともに活動したら部活にしてやるって奴ですか?」
「そうそうそれそれ」
どうやらあっていたようだ。約束というとこれくらいしか分からん。しかし会長との約束だったのか。確かこれのせいで新聞部は張り切ってるんだっけ?
「それを君たちに手伝ってもらいたい。理由としてはあいつの夢をかなえてやりたいからだ。新聞部を公式にしたいんだ」
会長の顔が一層真剣みをます。聞くだけだと馬鹿らしい理由かも知れないがそれを信じられるくらいの眼差しだった。俺はそれを馬鹿らしいが信じることにした。
「わけは分かりましたが会長、ちょっと回りくどくないですか? 新聞部を公式にしたいならそうすれば良いじゃないですか。手伝うなら会長が。わざわざこんなことしなくてもいいんじゃないですか?」
俺の問いに会長は少し黙って唸った。数秒たった。
「今回の件で俺はあいつを手伝うわけには行かないんだよ。まぁこうして手伝ってるけど……。でもおおっぴらに手伝えない。それは俺が新聞部をつぶすべき生徒会長だからであり。そして何より手伝ったら意味が無いからだ。今回はどうしてもあいつにやらせたい……。新聞部は前部長が去ってあいつが部長になってからどんどん落ちている。言わずとも分かるかもしれないがあいつの手際が悪いせいだ。部員たちもやる気をなくし始めている。だから部員たちにも助けを求められない……あいつ一人なんだ。これは部になるための試練なんかじゃない、あいつの実力をつけ、部長としての尊厳も取り戻すためのあいつのための免許皆伝試験なんだ! そのためにどうしても外部である君たちの力が必要なんだ!」
会長はなんとも苦しそうな顔で言い終えそして自嘲気味に笑った。事は思ったより大事なのかもしれん……。駄目だ実感わかねぇ。後ろからみた美優の姿が泣いていたが俺はそこまで感情的になれんな。沙羅と斉藤もなんだか感慨深そうな顔をしている。
「分かりました。私たちが全力で手伝わせてもらいます。もともと先輩には借りもあるのでやり遂げますよ」
沙羅がはっきりと言い切った。
「俺も手伝いますよ。出来る限りのことはしてみます!」
「私も力になれるか分かりませんががんばってみたいと思います。やってやりますよ!」
なんだか斉藤と美優もやる気満々だし……わかってたよお前らのお人よしが発動することくらい……。あぁ分かってたさ……。結局こうなるんだよね。全く面倒だ。
「分かりましたよ、やりますよ。ただそんなに期待されても嫌ですからね」
仕方ないこいつらがやると言ったんだ俺も付き合うさ。俺も人のこと言えないな。
「……みんなありがとう」
会長は改めて俺たちに頭を下げた。しかしおかしくないか?
「会長、最後に一つ聞きたいことがあります」
「なんだい? 何でも答えよう」
俺が聞くと会長は爽やかな笑みをうかべる。
「なんで新聞部ごときに生徒会長のあなたがそこまで肩入れするんですか? つぶすべき対象じゃないんですか?」
俺の発言に会長は少し驚いた表情になった。俺は先ほどからこれが気になっていた。なぜ新聞部にここまで固執するのか、それが分からなければ俺は心から信用して働くことが出来ない。もちろん会長が真剣なのは分かるのだが……。
「それはね……」
会長が俯く。そしてすぐに顔を上げてにこやかに笑った。
「あいつが俺の妹だからだよ」
俺たちは先ほど生徒会室を出て廊下を歩いていた。
「いやーしかし意外だったね。あの正義の生徒会長とゲリラ部の新聞部の部長が兄妹とはねー」
斉藤が腕組みをして笑っている。
「そうですねー今思えばなんとなく似てますよね」
美優の言葉を聴いて頭の中で新聞部と会長を並べる。……目とかかな?
「考えてみれば苗字同じよね」
大谷孝平と大谷夏姫か……並んでみれば親子にも見える……。
「ところでさ、新聞部ってどこ行った?」
さっきから考えていた。俺たちより先に出て行った新聞部は一体どこに行ってしまったのだろうか? ずいぶん元気よく出て行ったけど大丈夫だろうか……。
「……」
「わかんないねぇ……」
「迷子でしょうか?」
無言で目をそらす沙羅。笑顔が引きつっている斉藤。美優、迷子はないだろう?
ピンポンパンポーン―
どうしようか考えていると頭上のスピーカーからどこかで聞いたことのある音が流れてきた。
『迷子のお知らせです……』
俺たちは騒然とした。今さっきの美優の発言があたまをよぎる。
「まさかな……」
「まさかだよ」
「あんたたち馬鹿にしすぎよ」
「そうですよ。子供でもありませんし」
美優の言葉を聴いて俺たちはお互いの顔を見て笑いあった。
『杉下桂君、16歳が迷子になっています。見かけたら迷子センターまでご連絡ください。大谷夏姫さんがお待ちです。あとメガネも来い』
ピンポンパンポーン―
みんな笑顔が凍った。あの放送なんて言った? 俺が迷子? ……。
「なんで俺が迷子になってんだよ! 自分の失敗人に押し付けんじゃねぇー! この年で迷子なんてしたかねぇんだよ!」
「なんで俺まで!? しかもメガネって名前覚えてないのかよ! なんでケイが覚えられて俺がメガネなんだよ! あと放送係俺にも言葉遣い気を使えよ! メガネだからって馬鹿にしてんのか!?」
「場所は分かったわ、さっさと行きましょ美優。桂とカッちゃんは恥ずかしいから離れてね」
「桂君一輝君。あんまり遠くに行っちゃ駄目ですよ」
頭上のスピーカに向かって激怒する俺と斉藤を置いて沙羅と美優は歩いて行ってしまった。くそ! こんな恥ずかしい思いをしたのは久しぶりだ!
「斉藤行くぞ!」
「おう! メガネの力思い知らせてやる!」
俺たちも走り出し沙羅たちをあっという間に通り過ぎ迷子が迷子を待つ迷子センターに向かった。メガネがどんな力を持っているのか全く分からないが。
「ちょっとあんたたち変なことしないでよね!」
後ろで沙羅が何か行ってきたがお構いなしだ! 行くぜ相棒!
「ふはははは! どうだ、痛いだろぅ?」
悪そうに笑う斉藤。
「あだだだだだだ……」
新聞部が痛みでうめき声を上げる。
「一輝君もうやめてください! 夏姫ちゃんがかわいそうですよ!」
「あだだだだ……」
そんな新聞部の様子を見るに耐えかねたのか美優が止めに入ってくる。だがそんなくらいでとまる俺たちではないわ!
「美優よ、甘いな。これは大人になるための試練なのだよ」
斉藤と同じように俺も悪そうに笑ってみる。以外に楽しい。
「そ、そんな……あんまりです!」
美優にはつらいかも知れないが俺だって心を鬼にしてるんだ……。
「ねぇ馬鹿なことしてないで早く次の新聞作りましょうよ。無限じゃないのよ、時間」
図書室の指定席で俺たちを冷めた目で見ていた沙羅がついに口を開いた。同時に俺たちの動きも止まる。
「美優も頭ぐりぐりされたくらいじゃどうにもならないから落ち着きなさいよ。カッちゃん全然力入れてないみたいだし。先輩も乗らないでください」
全員がスッと席に座る。さっきまで新聞部のこめかみをぐりぐりして悪そうに笑っていた斉藤も普通に笑っている。
「では、はじめましょ」
沙羅の合図と共に誰にでもなく全員が頭を下げた。
「これから第三部を作るけどあんた達一体何をすればいいと思う?」
どうするか……沙羅には悪いが面倒なことに積極的にはなれないの様子見させてもらうよ。
「そうですね。やっぱり書くことが無いことが問題だと思うのでとりあえずいろいろ回ってみるのがいいと思いますよ」
「そうだね。ちょっと情報が足りないよね。リアルタイムで書くんだからいやでも足で稼がないとなのかな?」
まぁそうなるよな。いまある情報、新聞部の手帳ははっきり言って使い物にならない。ならば斉藤や美優の言うとおり新しいものを持ってこなければな……。俺たちはこんな感じで話し合ってほかにもどこを取材するかとかどんな風に動けば良いのかなどを新聞部から教わったりした。
「そろそろ行かないか? 山本の言う通り時間そんなにあるわけじゃないぞ」
そう言って立ち上がろうとする新聞部。まだ話は終わってないのだが……。まぁいいか。
「とりあえず全員で集材してみて時間になったらここに集合でいいかしら?」
沙羅も何か言いたそうな表情だったがすぐに戻った。こいつもいい感じに適当な人間だからな。
「異議なし」
「わかりました」
斉藤と美優も了解した。俺も軽くうなずいておいた。
「じゃあいくぞ!」
新聞部はそう言って颯爽と図書室をあとにしていった。元気がいいのも困りものだな。
「まぁ俺たちも行くか、斉藤」
「やっぱり来たか。俺も同じ事を考えていたよ」
「話が早いな……」
新聞部は一人でも大丈夫だろうが俺は一人でこの人ごみの中に入るなんていやなので斉藤と行くとするかな。斉藤も同じ事を考えていたようでよかった。
「桂は美優とよ。カッちゃんは私」
ガクガク―ここにも話の早い奴が! 斉藤と俺はびっくりした顔で沙羅を見て停止する。
「な、何やってんのよ……当たり前でしょ? あんたち二人にしたらなにしでかすか分からないじゃないの。力分担するわよ」
「二人の顔面白いですね。どうやってるんですか?」
「ほうっておきなさい……」
顔を引きつらせながらもしっかり言う事を言ってくるところはさすが沙羅。美優にも後で伝授しようかな。斉藤と俺の驚愕ハリケーン。
沙羅が言うには文化際にやる気があり、なおかつ人ごみにも抵抗のある美優と斉藤。基本的に人ごみが駄目な沙羅と俺。斉藤と俺が駄目となると俺と美優、沙羅と斉藤の組み合わせになるそうだ。はぁ面倒だ……。
「わかったよ……沙羅にはお見通しか。そんじゃ美優行こうか」
「はい! 桂君よろしくお願いしますね」
「はいよ。よろしく」
たぶんお願いするのは俺のほうだと思うのだが……美優は楽しそうだな。
「仲良くやりなさいよ。それじゃカッちゃん行くわよ」
「えー沙羅となのかよー美優ちゃんがよかったなー」
「うれしいこと言ってくれますね」
! 斉藤やめろ! 死ぬぞ! にこやかななのは美優と斉藤だけだ。斉藤はすぐに歪むだろうな……。俺はちらりと沙羅を見る。顔が黒くなって見えない唯一赤く光る目が印象的だ。
「さーいーとー?」
「うっ!」
沙羅がゆらりと動いた。斉藤が一歩後退した。……逃げるか。
「美優行くぞ!」
「え? きゃ!」
俺は美優の手をとって走り出す。こんなところに居たら死んでしまう。美優も初めは戸惑っていたがすぐに走ってくれた。その後廊下に出ても斉藤の叫び声がしばらく聞こえていた。
「さてどこから行こうか?」
俺たちは図書室をでて人で賑わう学生棟の中を歩いていた。ただでさいだだっぴろい学校だ無駄に広すぎて困ってしまう。第一俺にはしたいこともないのだ。
「そうですね色々ありますよ。パンフレット見ます?」
そう言って美優はどこからか大量のパンフレットをとりだした。い、一体どこからその量が! 周りの人が一瞬ぎょっとした顔をした。
「い、いや、俺はいいや……美優が行きたいところで良いよ。
早くしまってくれないかな……。
「そうですか、じゃ夏姫ちゃんがくれた取材順に沿って行ってみましょか」
そんな便利なものがあるのか!? 一体いつの間にもらっていたんだ?
「桂君聞いてませんでしたから」
「……あ、そう」
最近の俺はぼうっとしていることが多いようだ。それもこれも全部文化際のせいだ。そんで美優にも心をよまれはじめたな……。
「まぁ、行こうか」
「はい!」
そうして俺と美優は取材の第一歩を踏み出した。
「すいませーん。新聞部です!」
俺は三年生の教室にいる男に声をかけた。別に誰でもよかったのだが近かったからな……。
「んーやっぱり来たな? あれ会長妹じゃないのか?」
近づいてきた男は不思議そうに俺と美優を見た。新聞部は会長妹なんて呼ばれてるぞ。三年生には会長のほうが印象強いのだろう。
「夏姫ちゃんは別行動です。取材のアポがとってあったと思うのですがお時間大丈夫でしょうか?」
美優なんでなれた様子なんだ?
「うん大丈夫よ、なんでも聞いちゃって。ここじゃ何だし中入りなよ。面白いのやってんだ見て行ってくれよな」
男がそう言うと中から人が驚く声が聞こえた。それも一人などではない。もっとたくさんだ。その声を聞いた男は俺のほうを見てにやりと笑った。額に汗が流れた。
「ようこそ我がダンス部へ」
男はそう言って俺たちを中に招きいれた。中に入ると度派手な装飾が施された部屋だった。入るとまた大きな歓声が聞こえる。教壇の方向を向くと目の前に炎が舞っていた。
「な、なんだこれは……」
俺はびっくりして呆然とする。教壇では上半身裸の男が火のついた棒を振り回していた。
「うわぁ! ファイヤーダンスですか!?」
そんな俺を置いて美優は子供ものように目を輝かせた。おいおい、そんなんで良いのかよ実行委員会さんよ……火使ってるぜ?
「その通り! 我がダンス部ではファイヤーダンスを始め世界のダンスを披露しているのだ!」
男は美優の反応がよほどうれしかったのか『ふん』と鼻をならして自慢げに胸を張った。
「先輩こんなことして平気なんですか? パンフレットには休憩所って書いてありますけど……大体ここクラス展示のスペースですよね? ダンス部の部屋は別にあるはずじゃ……」
そう言うと男はいかにもな様子で戸惑った。そして十秒ほど経ってから。
「まぁ……気にするな。ほかでもやってることだ。部活発表のほうは時間おかなきゃいけないし待ち時間暇なんだよ。これも客寄せの手段だよ」
はぁ……まぁいか……。馬鹿が多いのは知ってたことだ。
「それじゃ取材始めましょうか」
「そうだね」
「うぁ……」
取材を始めようとする俺と男のことなどお構いなしに美優は教壇で繰り広げられるリンボーダンスに釘付けになっていた。しばらく見せといてあげるか……。男と苦笑いした。
「美優、俺は夢でもみているのだろうか?」
目の前にある光景が異様なものなので夢に居るのではないかと思ってしまう。
「違うと思いますよ。なんならつねってあげますよ?」
「いや遠慮しとく……」
「そうですか、残念です」
なにが残念なのか分からないが放っておく。
この光景に出会ったのはダンス部の取材を終えてから二つほど仕事をこなしてそろそろ図書室に帰る時だった。俺たちは今校庭にある特設ステージの前に居る。その特設ステージには大きく書かれた第七回大食い競争と書かれた看板があった。
『おーと! これは早い早い! 斉藤選手猛スピードでチャンピオンを追い上げて行くぞー!』
特設ステージに居るヘンテコな服を着た男が司会者のようだ。出場者は六名。その中の三人がもうすでにリタイア同然のペースだ。残りの三人はチャンピオンと呼ばれた大柄で見るからに大食いな男子生徒。そして体は小さいながらも必死に獲物にかぶりつく女子生徒。その中間に位置しチャンピオンとほぼ同列に居るのが斉藤だった。事実女子生徒もがんばってはいるが斉藤とチャンピオンの一騎打ちと言って良いだろう。
唖然だ。なぜ斉藤はこんなところで何を食ってるんだ?
「カッちゃーん! ガンバレー! もうちょっとよー!」
「あ、あれ沙羅ちゃんじゃないですか?」
……あいつはあいつで何をしとるんだ? 美優が沙羅を指差す。俺たちは後ろのほうに居るけど沙羅は最前列で斉藤を大声で応援していた。大勢居る人の仲でも異様な存在感だ。回りもそこそこ活気付いてうるさいがそれでも目立つんだから相当だ。
「私たちも行ってあげましょうよ!」
「……ここでいいんじゃないか?」
美優がうれしそうにピョコピョコ跳ねるがこの人ごみの中に入っていく勇気は俺には無いよ。
「もう、これだから桂君は……仲間ががんばってるんです、励ますのが仲間ってもんですよ!?」
美優君は少し本の読みすぎだ……。斉藤を思いやってくれるのはありがたいが。
「美優、人には向き不向きというのがあってだな……」
「桂君は腰が重すぎますよ! ほら行きましょ? 沙羅ちゃんもがんばってます!」
「あ、ちょっと! うげ!」
美優が俺の手をとると群集に向かって臆することなく突き進んでいった。どっかの誰かさんの腕がわき腹に刺さる。いてぇな!
「沙羅ちゃーん!」
「あ、美優!? こっちこっち!」
美優が沙羅まで近づくと大声を上げる。それに沙羅も気づいて俺たちに手を振ってきた。お前すっかり文化際に馴染んでるな……。う! 気持ち悪い……。
「美優たちも来たのね。だけどよくこの人ごみで私のこと分かったわね。あら桂、顔色悪いわよ? どうしたのよ」
「沙羅ちゃんだったらすぐ分かりますよ。目はいいんですよ?」
沙羅の隣に来ると俺は大きなため息をついた。美優と沙羅はうれしそうに会話を続けたが俺はそれどころではない。人人人の大海原の中に身をおいているのだ。気が気ではない。
「桂、本当に大丈夫?」
「大丈夫だ、少し放っておいてくれ……」
沙羅が心配そうに顔を覗き込んできたが強がってしまう。本当は肩でも掴みたい気分だ。だがそんなことこんなところで出来るわけ無いだろう!?
「桂、近い……」
「くっ……」
少し近づきすぎたか……。
「でも沙羅ちゃん一輝くんはなんでご飯なんて食べてるのですか?」
俺たちは特設ステージで死にもの狂いで食品に食らいつく斉藤に目をやる。お、チャンピオンと同じ量じゃないか。しかも表情から見るに斉藤方に分があるんじゃないか?
「一樹くーん! がんばってくださーい! 後少しですよ!」
「そうよカッちゃん! そんな奴さっさと抜かしちゃいなさーい! 勝たないと許さないんだからー!」
隣を見れば周りの目など全く気にしてない沙羅と美優が居た。沙羅は一体何を許さないと言うのだろうか? 斉藤も先ほどからこちらの様子に気づいているようで、沙羅と美優の激しい声援に苦しそうな顔をしながら一瞬顔を上げて答えた。
「こらーカッちゃん! こっち向いてないでさっさと食えー!」
斉藤も報われないな……。あぁーあ溢したよ。
『おーとここでついに金子選手が脱落かぁー!? 残るは二人! 斉藤選手とチャンピオンだけです! 若干チャンピオンが有利ですが表情は大変つらそうです! 量もほぼ同じのすさまじいデットヒートが続きます! これは熱い! 今までに無い展開です! おーっと調理班から連絡です! ここにきてこちらの材料が底をつきかけています! えぇいそんなこと関係ねぇぜ! 野郎共綺麗に皿まで食いつくしやがれー!』
三番手だった女子生徒がついに皿に顔面から突っ伏して動かなくなった。見ただけでも半端じゃない量だ、一体あの華奢な体のどこに入っているのか分からないが、健闘なのは確実だろう。そして司会者の言う通りそろそろ決着がつく様だ。観客たちの誰しもが熱く立ち上がり斉藤たちの勝負に釘付けになり大きな声援が巻き上がっていた。しかし司会者のテンションが一番高い気がする。
「ぐおおおおおお!」
「があああああああああ!」
斉藤とチャンピオンが亜互い一歩も譲らず雄たけびを上げる。その声と共に会場も一気に沸き立つ。おいおいお互い馬鹿野郎だな。
『おーっとここにきて両者まったく動かない! これはどう言うことだぁー! 二人とも食べた量は全く同じです! 最後の一口が入らないー! これを食べたほうが勝者です! 今決めました!』
タイムアップ間じかになって二人の動きが止まる。全身から汗が噴出して今にも倒れそうだ。誰もが息を呑む。時間が止まったかなような静かな戦場に二人の戦士が立ち尽くす。この後動いたほうが勝つ! 全く本当に馬鹿(最高)な奴だぜ……。
「斉藤! まけんじゃねぇぞ! みんな見てんだ気張りやがれぇ!」
「ケイ……」
身を乗り出して声を張り上げる。静かな会場に俺の声だけが響きわたる。呆然と立ち尽くす斉藤が驚いた顔で俺を見つめる。
「そうよカッちゃん! 最後はかっこよく終わりにしなさよ! 男でしょ!」
沙羅も俺に続いて声を上げる。斉藤がのどを鳴らすのがここからでも分かる。斉藤の腕がゆっくりと動き出す。その調子だ斉藤!
「一輝君がんばってください! 勝ったらメイドでも何でもやってあげますよ!」
え? なにそれ……。美優何を言ってるんだ? あれ!? 斉藤の目がものすごい光ってるけど!
「うぉぉぉおおおおおお!」
斉藤の腕が天高く突き上げられる。それと同時にチャンピオンが崩れ落ちた。
「がは! し、死ぬ!」
勝手に死にやがれ、馬鹿が。
「カッちゃんうるさいわよ。静かにしてよご飯が不味くなるわ」
沙羅は黙々と弁当を食べている。
「そんな沙羅ちゃんひどいですよー一輝くん宣伝のために体張ってくれたのに。はい、薬茶です」
美優はお盆に乗せてもってきたお茶にしてはやけに黒い液体を斉藤に手渡す。薬茶なんてものまであったのか……。一体どこで買ってくるんだ?
斉藤は今回大食い大会の取材をしに行ったらしい。そこで参加者の不足を聞き参加を決意したらしい。そこまでは斉藤の勝手なのだが斉藤の行動に感謝した司会者が新聞部の宣伝を引き受けてくれたと言うその人もずいぶんと暇人なんだな。しかし全くこいつは役に立つのかただ馬鹿なだけなのか……いや、本当に馬鹿でそれに同調してしまう馬鹿が多いだけのことか……。
「うげぇ美優ちゃん苦いよ……」
斉藤がしかめっ面をする。全く贅沢な奴だ。
「斉藤良薬は口に苦しだ。しっかり看病してもらえ」
「そうですよ、桂君の言う通りです。おとなしくしてくださいね」
「うへぇー……」
俺の発言に斉藤がこれまた苦虫を噛み潰したような顔をする。俺も沙羅と同様弁当を突きながら苦しそうな斉藤を見ていた。斉藤はあの勝負に見事勝利したのだ。激しい戦いの末手にした勝利は大量の観客により祝福された。だが当の斉藤はその後すぐにぶっ倒れて表彰式もままならなかった。そして今もこの調子だ。床に仰向けで寝転んでやがる。
「でもメガネ、なかなか面白いことしてくれたじゃないか。あの大会はチャンピヨンが強すぎて参加人数もギリギリであんまり人気の無かったイベントだからな。あんなに盛り上げてくれるなんて取材よりいい仕事だぞ! 何より新聞部の宣伝までやってくれたらしいじゃないか。お前らも昼食ったら手伝えよ」
そう言ったのは新聞部だ。新聞部はパンを片手に原稿にかじりついている。横から覗いてみれば相変わらず汚すぎて読めたもんじゃない。ふーこいつは勢いだけだな。
「はいはい。飯はゆっくり食うもんですよ」
「うるさいやい」
この小娘は口が悪いな……。もう時刻はお昼時にもなり午後のスケジュールにかわりつつある。そんなもんで俺たちも当たり前のことだがお昼ご飯を食べていた。今日は文化際のせいで購買がないので弁当だ。もちろん中身は美優と母さんが作ったものだ。なので、そこそこのおいしさを誇る。沙羅はいつもどおりの弁当。美優は女の子らしくほんの少しサンドウィッチを食べて今は大食い大会で食べ過ぎて床で寝ている斉藤の看病をしている。新聞部はなんかパンかじりながら原稿作業……。
「えぇーこんなんなの俺のがんばり?」
顔色の戻った斉藤が出来た新聞を見て落胆の声を上げる。俺たちの取材したメモを合わせて作り上げた原稿は沙羅をはじめた女子メンバーで完成されたものだ。若干一名ほど男みたいな奴が居たけど……。でもよく出来てると思うがな。
「なにか文句あるの?」
沙羅が不機嫌そうに斉藤を睨む。斉藤は臆する様子もなく。
「いやさ、出来としては良いと思うんだけど。今イチ地味じゃない? せっかく文化際なんだしもう少し派手じゃないと目に止まんないかと」
出来た原稿を手に取り唸りながらそれを見る斉藤。そう言われてみると確かに色は黒の単色でいかにも普通の校内新聞だ。少し地味かもしれんな。新聞部は抜きにして沙羅と美優の性格を考えるとこうなってしまうのは当たり前のことかもしれない。
「そんなこと……うーん、そうかしら?」
沙羅もどこか分かるところがあるらしく。頭をかしげる。
「僕もそれは思ってたぞ。でも派手に決めようとすると山本が怒るんだ」
「先輩は飛躍しすぎて派手とかそう言う領域じゃないんですよ……」
沙羅があきれてため息をついた。確かに沙羅の言う通りなのかもしれないな。新聞部は少しぶっ飛びすぎだ。
「まぁ堅物沙羅には派手に面白くしろなんて度台無理な話さ。このくらいが及第点ってとこでしょ」
「ぐぬぬー! このメガネ……」
あぁ沙羅が怒る、怒ってしまう……。斉藤も恐れ知らずだな。もう少し言い方ってもんを考えろよな。なにより俺もむかつくし。
「でもそれじゃあどうすればいいんでしょうか? 一輝君はなにか手でもあるんですか?」
「そうよ! 何も無いのに偉そうにしちゃって失礼なのよ! そこまで言うなら面白くしてみなさいよ!」
美優が斉藤に不安げな表情を向ける。沙羅の方の言い分は全くだが言い方がザコだ……。
「沙羅たちじゃ少しばかり地味だ。でも部長さんまで行くとぶっ飛びすぎだ。ならば誰が適任か……それは俺の他ならない! あとケイ!」
斉藤が立ち上がる。自信満々のマジな顔だ。こいつは馬鹿か?
「ってなんで俺まで混ぜるんだよ! お前一人でも良いだろ!?」
「ふん! そこまで自信たっぷりに言うならやって見なさいよ。桂も手なんか抜いたらただじゃおかないんだからね!」
えぇー! なんでそうなるんだよ……。斉藤本当にお前って奴は……。
「美優行きましょ! 綿アメ買ってあげる」
「本当ですか!? 行きます行きます! あ、一輝君たちはがんばってくださいね」
沙羅は機嫌が悪くなったようで美優をつれて屋台散策に行ってしまった。しかしなぜ綿アメなんだ? さっき食ったろ。
「僕の分の綿アメは? はぁ……」
新聞部、綿アメ好きなのか?
「それより斉藤。なぜ俺を巻き込む。面倒だぞ」
沙羅たちが消えてった扉を見つめながら背後の斉藤に話かける。
「だって一人じゃ寂しいじゃん? 人肌が恋しいのよ」
「気持ち悪いこと言うんじゃねぇ」
「ははは。実際ケイにはこう言うの向いてると思うんだけどな。ほら覚えてる? 小学生のときクラスで新聞書いて発表するやつ。アレケイめんどくさがって適当にこなしてたけどなかなか面白かったよ」
「忘れた。昔の面倒ごとなんて覚えてる価値など無いからな。……最優秀者に言われてもうれしかないわ」
「それは沙羅が風邪で発表の日休んだから取れたの。五十嵐は別のクラスだったし。そんじゃはじめますかね……」
そう言うと斉藤は新しい紙を取りだしてさらさらと下書きを書いていく。
「山本とかは分かるんだがお前らに出来んの? さっきの話も小学生のときだろ?」
新聞部が疑わしそうな顔で俺たちを見てくる。
「出来ますよ。確かにまじめな完成度の高い作品を作るなら沙羅のほうがむいてるでしょうけど。ふざけた文なら俺たちの右にでる奴はいませんよ」
斉藤は不思議なくらい揺るがない。括弧たる自身があるのだろう。新聞部はどうでもよさそうに
「なにカッコつけてんだよ。お前はただのラノベ読みで作る文も影響受けまくってるだけだろ。 なにがふざけた文ならだよ、ふざけた文しか書けないだけだろうが」
「あ、ラノベ馬鹿にしたな!? 変なのも多いけど完成度の高い面白いのだってあるんだぞ! ラノベといって本を分けるのはよくないぞ! ケイにも前貸したのがあったでしょ? ちゃんと読んだよね?」
まだ読みきってない……。しまったな地雷を踏んでしまったな……分かってたのに。
「そんなことより早くやっちまうぞ」
「……まぁいいけど。ちゃんと後で感想聞かせてよね」
「分かった分かった」
俺もこの話題から逃げるように目の前にある紙に集中していく。
「こんなもんか……」
「そうだね。いやー結構よくなったと思うよ」
「いやいや本当によくなってるじゃないか。お前ら見かけによらずって奴だな」
最後のは余計だ。俺と斉藤は完成した原稿を前に大きくため息をつく。俺たちの作った原稿は基本的に沙羅たちの書いたものをほぼ内容は同じだがコマ割や言葉遣いはだいぶ修正されている。一見別物だ。
「ただいまー。はぁー疲れた……」
「ただいまです!」
ちょうどいいタイミングで沙羅たちが帰ってきた。元気な美優と対照的な沙羅。やはり大食い大会はマグレか……。
「沙羅ー出来たよー。むぐ!」
手を振る斉藤の顔面にビニール袋がヒットした。なぜか沙羅が投げた。
「痛いなー何するんだよ。ってこれ!」
「あげる。ホットドック食べたいって言ってたでしょ……」
どうやら中身はホットドックらしい。んーそんなことこいつ言ってたか? 沙羅もまめな奴だ。
「おう! 食べたかった! ありがとね! 文化際と言ったらホットドックだよねーあとカキ氷とかーりんごアメとか!」
祭りと勘違いしてないか? お前が思っているようなところでは決してないぞ。ここは甘い考えが通用するようなところじゃいからな……。
「はいはい後で買え。で、どれなのよ」
愚かな夢を見ている斉藤を放っておいて美優に出来た新聞を手渡す。沙羅はそれをまじまじと読んでいく。その隣でも美優が覗き込むようにして読んでいる。
「……はぁ、負けた……」
読み終えたのか沙羅がため息をつく。素直でよろしい! いいものはいいとハッキリと認める。沙羅の高く評価できる数少ないところだ。
「一輝君すごいですねー面白いですよこれ。意外な才能ですね」
美優も驚いている。やっぱりそうか斉藤にこんなもんできると思わないよな普通。
「以外は余計だよ……でも沙羅たちが書いてくれたのが無かったら出来ない代物だよ。感謝してるよ」
「当たり前よ、使われなかったら私たちの努力を返してもらうわ」
斉藤は苦笑いで頭をかいていた。奴なりに照れているのだ。
「じゃあさっさと持ってくか。出来るだけ早く作ったほうが良いだろう」
「そうねさっさと終わらせて次の書くわよ」
沙羅がやる気になってしまった……いいことなのだろうが俺の理想のノンビリ文化際が崩壊して行く……。
「あははは、面白いよ。斉藤君の話は聞いてるよ。ずいぶんがんばったらしいじゃないか」
会長は出来た原稿を見てもらっていた。この反応なら良いんじゃないか?
「もう大変でしたよ。取材に行ったら人数たりないから出てくれって。いきなりですよ?」
「そうかい、それは大変だったね。アレはチャンピヨンが強すぎて出る人が年々減っていてね。君が勝ってくれたから来年からまた盛り上がるといいのだけど。そんなことよりこれは良く出来ているよ、このまま預からせてもらうから。校内に張るのは俺のほうに任せてくれればいいから」
さすが会長と言ったところか、良く目を通している。原稿のほうも許可下りたしまた振り出しか……。
「それから夏姫」
それじゃあ帰ろうか。っと言うときに会長が新聞部を呼び止める。それは斉藤と話していた時の顔ではなく新聞部のときに見せる鋭いソレだった。
「な、なんだよ」
新聞部も強がっているようだがとまでっているのが良く分かる。
「これお前どのくらい関わった?」
会長は鋭い目線を新聞部に向ける。
「ぜ、全部に関わってるよ……僕だってちゃんとやってる……」
おびえた様子の新聞部の声は徐々に小さくなっていく。こんなくらい話は俺たちの居ないところで兄妹二人でやってくれりゃいいのにな。俺以外はみんなお人よしで感情移入しちゃうんだから簡便してくれよ。ほら沙羅の目が燃えてるよ。
「そうか? 確かにみんなは想像以上の働きをしてくれたみたいだけど。彼らはあくまでも夏姫のサポートで言い方悪いかも知れないけど部外者なんだよ。今は良いかも知れないけどずっとは無理なんだぞ。今回は良いけど次からはもっと活躍してくれ」
「……うん」
会長きつい事言うなぁー。確かに今回は俺らがやりすぎたかもしれん。新聞部も完全に俯いちゃったよ。泣きそうだよ。シリアスだよ。
「まぁお前がやったって言うのは信じてるよ。記事の傾向とか根本的な癖が残ってるからな。ちゃんと見ててやるからしっかり働け。いいな?」
おぉっとここにきてまさかのフォローだ! 見事なまでのアメとムチだぁ! その笑顔が眩しい! そしてなにより……馬鹿らしい。
「うん……がんばる……」
新聞部が顔を下げたまま返事をする。横に居ると上目遣いで会長を見ているのがわかる。こいつ子供だな。会長も異様に扱い上手いなー。
「どうした何か言ったか?」
「な、なんでもない! 僕次行ってこなくちゃ!」
照れ隠しなのか新聞部は半分くらいパニックを起こしながら生徒会室をあわただしく出て行った。なんて分かりやすいやつだ。
「あんた全部分かってやったでしょ……面倒ですよできればやめていただきたい」
「……いいじゃん別に人前で言ったほうが効果的かと思ったんだよ」
確かにその通りだろう。実際沙羅たちも燃えてたし。まぁいいけど。
「そんじゃ話も終わったことですし俺たちも失礼しますよ。行こう」
「そうね。会長さん。言い方悪いけど優しいのね」
「いけるとこまで行ってみますよ。任せてくだせぇ」
「私もがんばります!」
そういい残して会長に背を向けて生徒会室を後にした。さて次の仕事が待ってるな……。面倒だ。
「全く本当に面白い子達だな」
さぁーて次はどこに行こうか。斉藤のアイディアはそこそこ面白いかも知れないな……。どんな風に書いてやろうか。
「ケイがニヤけてるー気持ちわるーい」
「放っておきなさいカッちゃん。どうせたいしたことなんか考えてないわよ。ミジンコとゾウリムシの違いくらいどうでもいいことだわ」
あんまりだぁ……。




