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文化際とバックナンバー(3)

 場所は図書室。全員が入って椅子に座ったところだ。一度座ったのになぜか斉藤が立ち上がり二三回咳払いをする。なんだこいつ。

「第二百五十三回新聞制作会議開催です!」

 そんなにやってねぇ……。って言いたいけど言うとまた付け上がるからな……。

「そんなにやってませんよー一輝君面白いですねー」

 美優……。

「そこはスルーよ」

 沙羅も分かってたみたい。

「いやいや。さすが美優ちゃん。いい反応だ。こいつらもうかまってくれないんだ」

 似たようなことがあると毎回やるからだろ。今も思い出したようにやりだすし。

「そんなことよりはじめましょ。時間は無限じゃないわよ!」

 張り切る沙羅により会議は幕を開けてた。まぁ会議と言ってもこれからする取材にかんしてくらいなんだけど。あとは基本的に雑談だな……。

「あぁそうだケイ言い忘れてた大事なことがあるんだ」

 会議も終わりに近づいたころ斉藤がこれまた思い出したかの様に俺を見る。面倒ごとは簡便してほしいなー。

「なんだよ。いいことか? 悪いことか?」

「俺からしたらいいこと。ケイからしたら面倒事かも」

「じゃ遠慮しとく」

「そう言うなよ」

 斉藤も分かってるならやめてくれりゃいいのにな。

「別に俺一人でもいいならケイにも頼まないんだけど。一人じゃ足りないんだよね。もう一人くらいほしいのよ」

 俺じゃなくてもいいんじゃないか?

「ケイしか頼めるような奴がいないんだ! 頼む!」

 斉藤に拝まれてしまった。うーん困ったな……。

「桂君とりあえず話だけでも聞いてあげたらどうですか?」

「美優ちゃんナイス!」

 こいつの話ねぇ……どうせろくでもないことだろうな。

「まぁ話してみろよ。どうせろくでもないことなんだろうけどな」

「あはは……ひどいなぁ」

 そう言いつつも冗談だと分かっている斉藤は笑っていた。ろくでもないことは確かだろうが。

「さっきの新聞で宣伝してたけどこの後のイベントで学生バンドの発表があるの知ってるよね、それで……」

 ん? こいつなんの話をしてるんだ? 学生バンド?

「ちょっと待て。なんだ学生バンドって俺はそんなの知らんぞ。宣伝なんてしたか?」

「なに言ってんだよ。さっきまで書いてたじゃないか? ……俺の分担だったけど知らないわけ無いよね?」

 ならば知らんのだろう。

「うふふ。桂君は忘れん坊さんですね」

 美優よ恥ずかしいから変なたとえはやめてくれ。

「はぁ……全く美優ちゃんの言う通りだよ。ケイは関心の無いこととか全然覚えようとしないから困っちゃうよ」

「余計なお世話だ。別にいいだろ面倒なんだから……」

「ほらまた面倒が始まったよ。そんなんだと本当に大切なことも見逃しちゃうよ?」

 それこそ大きなお世話だ。俺にそんなに大切なことは無いからな。

「……まぁそんな下らんことはどうでもいいんだが話はなんだよ」

 奴の話なんかに付き合っていたら日が暮れてしまう。とっとと話を進めよう。

「あぁそうだったね」

 こいつ忘れてたのか?

「話はね、えっとコレのことなんだけど……」

 そう言って斉藤は先ほど作った新聞のコピーを取り出して一箇所をトントンと指で叩く。そこには確かにバンドのことが宣伝されている。一応ほかのものより大きく宣伝されているようんだな。

「これから始まるイベントでこの学校の軽音楽部が何組か演奏するんだけどその裏方がなんか足りないらしい。大道芸部の後にやるんだけど何かの手違いで今日運ばれてくるはずの機材が遅れてたり飾りやらがまだ整ってないらしいのよ。それに前日苦労しすぎて今日休んじゃった人も何人かいるらしいから本当に大変な状況らしいよ。今から準備したくても大道芸部の発表があるから大した動きも出来ないんだってさ。そこで取材をさせてもらう交換条件でその手伝いを買って出たのさ。最近の高校生バンドなんかは人気があるからね、これを取材しない手は無いんだよ」

 もっともらしいことを言ってはいるが多分こいつが一枚噛みたかっただけだ。交換条件なんて言ってはいるがこいつはむしろ自分から提案していったに違いない。馬鹿なのだろうか? いや馬鹿なのだ。そんな風に考えていると顔にでも出ていたのだろうけど斉藤はそんなこと気にする様子もなくヘラヘラとした態度だ。

「そこでいくら俺が働き者で頑張り屋さんだといっても所詮一人なのよ、人数は多いほうがいいってもんだろう? ってことでケイ手伝ってよー。なんかおごるからさ!」

 おごられるくらいでそんな面倒な事をしたいいとは思わないな……。第一一人がいやならそんなこと引き受けんなよな。

「それは困りましたねー私も実行委員会の一員としてここは助力させてもらえませんか?」

 ……教室で火気を使うのを黙認した実行委員がいまさらそれらしい顔をしたところで……。いや、あれは本当に分かってなかったんだろうな。しかしなにはともあれ美優がやる気になってしまった。

「美優、新聞の取材のほうはどうするつもりだ? 俺たちがいなくなったら沙羅と新聞部しかいなくなっちゃうじゃないか」

「そ、それは……」

 コレには美優もたじろぐ。それでいい。この調子で俺も離脱を心見るかな。

「美優、何も桂はやらないなんて言ってる訳じゃないのよ」

と思ったら動いたのは沙羅だった。

「は?」

 沙羅は何を言っているのだ? もちろんそのつもりで言ったのだが……。

「では一体どう言うつもりで言ったんですか?」

 美優は沙羅の言葉に不思議そううに頭をかしげる。どう言う意味も何もそのまんま止めようって意味だよ?

「桂はね美優は忙しいから俺たちに任せてくれ、って言ってるのよ。ほらよく本でもあるじゃない『ここでお前が死んでもらっては困る! ここは俺に任せて先に行け!』とかって奴よ。桂はそれをやってるの」

 一瞬沙羅が何を言っているのか分からなかった。俺の性格からしてそんなカッコイイ脇役みたいなことを言う俺ではないことは沙羅なら知っているはずだし明らかな罠だと分かったときにはもう遅かった。美優の瞳は子供のように輝いている。

「本当ですか!? そんなこと言ってくれるなんて桂君カッコイイです!」

 いやいやいや! 俺はそんなこと言ったつもりは断じてないぞ! 俺のそんな気持ちなどお構いなしに美優はきらきらとした目を向けてくる。

「み、美優、ちがう、ちがうから!」

「まさか現実に言われることがあるなんて夢にも思いませんでした」

 駄目だ聞く耳もたってねぇ……。両手を胸の前で組みキラキラと目を輝かせる美優の背後で斉藤と沙羅が悪そうな顔で親指を立てていたのが印象的だ。こいつらしばき倒してやろうか!

「わかりました! 私も桂君と一輝君が抜けた穴を補えるよう不肖高坂美優! これまでよりもがんばらせてもらいます!」

 美優、君は全く分かってないよ……。

「いやね、美優。俺が言いたいのは……」

 しかしここで折れてしまったら沙羅の思い通りの結果になってしまう。ここはなんとしても譲るわけにはいかない!

「桂君! 言わなくても分かります。桂君はあくまでもライバルとして素直じゃないんですよね!」

 あぁもうめんどくせぇ……。

「……その通りだ我が宿敵よ。分かっているなら早く行け!」

「はい! 行ってきます! かならず……必ず生きてくださいね!」

 俺は目頭を押さえて搾り出すように声をだした。それと対照的に美優は驚くほどにテンション高く図書室を後にした。あんな美優を見るのはとても珍しいな。ほほえましいけどツライ。

「桂はあきらめ早いからね」

「そうね、楽ね」

「斉藤、本気でなんかおごれよ……」

「そりゃー何なりと。資金なら結構持ってますから」

「暇らな見に行ってあげるわ」

「そのときは美優ちゃんもよろしくね」

「うーん勝手に来ると思うけど言っておくわ」

「……面倒だな……」




「こんな服を着なくちゃならない時点でめんどくさい」

「そんなこと言わないの。一応コレ着てれば関係者として入れるんだからつべこべ言わずについて来い」

 体育館に行くにあたって俺たちは関係者であることを示す文化際Tシャツを着ている。クラス別にも作っているところもあるが今回来ているのは発表関係者を示すための服だ。もちろん本来俺が持っているはずの無いものでこれは斉藤がきっちり二着もってきていた。なんて目ざとい奴だ。服のデザインとしては女子が作ったのだろうかピンクの生地に英語でなんか書いてあるシャツだ。こっぱずかしいったらありゃしない。しかし斉藤は全く気にした様子はない。だから俺も気にした様子は出来ない。気ぐるみだっているんだ変なんかじゃないさ。

「こんにちわーっす! 先輩援軍呼んで来ましたー!」

 体育館に入ると近場にいた俺たちと同じ服を着ている女の人を発見した。どうやら関係者らしい。斉藤はその人に元気良くはなしかけた。

「ん? おぉ斉藤か。良く来たな。援軍ってそいつか?」

 女の先輩は美優より長い髪を揺らしながらくるりと振り返る。目つきは沙羅よりきついかもしれない。先輩は鹿沼美江と名乗った。三年生らしい。それに合わせて俺も軽い自己紹介をする。

「まぁ専門的な知識なんていらないけど一応丁寧に扱ってくれればいいから。君たちが思っているより忙しいからな。がんばってくれ」

 一応軽音楽部の発表なのでこの人も楽器が出来るのだろうがそれは聞くに値しないと思った。

「ところで俺たちは何をすればいいんですか? 手違いで機材が来てないとかって聞きましたけど」

 することが分からなければただの邪魔だ。聞くこと聞いてさっさと終わらせてしまいたいところだ。

「そうなんだよ、話が早いな。困ったことにウチにもアホが一人いてね間違えやがったんだ。機材はまだ来てなんだ。でもそろそろつくころだからそれを持ってきてほしい。私も含めて発表する奴等にはギリギリまで練習させたいから、そんなに人員は裂けない。なにぶんでかいからね、人手がほしいのさ」

 そう言うことか。周りを見ればまだ準備が出来てないのか俺と同じ服を着た数名があわただしく動いている。何があったらこんなにギリギリまで準備する羽目になってしまったのだろう。アホと言われて一瞬美優を思い出したことは墓まで持っていこう。

「今大道芸部の連中が準備してるからまだ大丈夫なんだけど、それでも準備が完了するのは早いに越したことはないからな。さっき連絡があってそろそろつくころだと思うんだけど……」

 午後のしょっぱなが大道芸なので特設ステージの幕は閉められたままだ、幕の後ろから人の声が聞こえるから準備でもしているのだろう。

「機材は裏玄関に運ばれてくるはずだからその辺まで行ってもらうよ」

「了解っす」

 裏玄関か……ここが正面玄関側だから間逆だな。しかもこの人ごみのなかでかい機材運べってか。面倒だな。

「なんだ、いやそうな顔してるな。斉藤こいつ大丈夫か?」

 む、顔に出てしまったか。しかし面と向かって失礼だな。先輩は俺の顔を見て全くの真顔でそう言った。一二年早く生まれたからって偉そうにすんじゃねぇーぞ! ……馬鹿なことを考えてしまった。

「大丈夫っすよ。こいつはコレがデフォルトですから。仕事はきっちりこなしますよ」

「まぁそうで無くては困るけどね。悪気はないから気にするなよ」

 斉藤がフォローしてくれる。先輩はずいぶんスッキリとした性格らしい。好きなタイプではある。

「別に気になんかしませんよ。それよりさっさと済ましちゃいましょう。時間もそこまであるわけじゃないんですよね? なんてったって華の文化際ですからやることは山ほどあります」

「そうだな、その通りだ。なかなか面白い奴だな。気に入った」

 先輩はそう言うとケラケラと笑った。

「それはどうも」

 さて行くとしようか。コレが終わったら少し休みたいな。

この後先輩から先に裏玄関に一人行っていること、その人にわからないことは聞けば良いこと、あとは短い雑談などをして斉藤とその場を後にした。




「しかしケイが華の文化際なんて言うと思わなかったよ。やっぱり楽しくなってきたの?」

 隣を歩く斉藤がニヤニヤとした笑みを浮かべながら聞いてくる。

「そんなんじゃいぞ。あそこはああ言ったほうが良いと思っただけだ」

「そうですかーざんねんです」

 どうでもいいように斉藤はそう言うと頭の後ろで腕を組み屋台を眺め始めた。実際斉藤の言っていることもあっているのだがそんなの言うもんじゃない。

 いくら裏玄関が間逆だといっても所詮学校ないだそろそろ近づいてきた。

「えっと機材はまだ来てないみたいだね……」

 斉藤は裏玄関についてあたりを見渡した。このあたりはさすがに出店も出ていないがちらほらと休んでいる人が見える。

「んまぁいいんじゃね。ずっとここにいるべぇよ」

「さすがにそれは先輩に殺されるだろ……」

 殺されるかどうかは知らないが、怒られはするだろうな。

「ふと思ったんだが誰かいるんだよな? 軽音楽の人」

「あーそうだったね。どこだろね。名前も知らないや」

「それじゃだめじゃん」

「まったくですね」

「めんどくさいな……」

 俺と斉藤は一度多いなため息をついて明後日の方向を向いた。

「あー来ちまった」

「ほら、仕事だよ頑張らないと」

 裏玄関に入ってきた軽トラックに斉藤はほとんど無いシャツの袖をさらにまくりやる気十分だ。俺は袖をまくらず斉藤の後ろをノロノロとついていった。軽トラックには……結構荷物乗ってるな。

「ん? あれってもしかしたら係りの人かな?」

 数歩歩いた斉藤の動きがぴたりと止まる。斉藤の目線には軽トラックに向かってフラフラと一人の女子生徒が近寄っていった。斉藤が関係者ではないかといったのはなかなか優秀な解釈だ。俺には不審者にしか見えない。

「まぁ一応関係者かもしれんし不審者ならそれはそれで話さなきゃならないだろうな」

「そうだね。行ってみようか」

 俺と斉藤が話している間に例の女子生徒はトラックから降りてきた一般人にしか見えないおっさんと話していた。いい加減本物なのか疑いたくなってきた。

「すいませーん。軽音楽部のかたですかね」

 斉藤がスタスタと近づいていき背後から女子生徒に話しかける。こう言うとき本当に斉藤はらくだ。

「ひゃあ! なな、なんですか!?」

 うぉう! びっくりしたー……。斉藤も思いもよらない反応に戸惑っている様子で『なにかしたかな?』みたいな視線を俺に送ってくる。そんなこと知るかよと返しておいた。

「い、いやいきなりすいませんね、俺たち軽音楽部の手伝いできた斉藤とこっちが杉下ってもんです。軽音楽部の方でいいですか?」

 斉藤は戸惑いながらも自分と俺を指差して自己紹介をした。斉藤らしくないほどの丁寧さだ。予想外な相手に多少緊張しているのだろう。

「あ、はいそうです。先輩から聞いてます。大塚っていいますよろしくお願いします」

 メガネをかけた大塚と名乗った生徒はどうやら俺たちと同じ一年らしい。なにがそんなに怖いのか分からないが常時何かにおびえているような感じだ。俺たちは適当に話をした。

「それじゃコレに乗ってるアンプとか持ってもらっても良いですかね」

 大塚さんはそう言うと印象通りにもたもたした感じでトラックにかかったブルーシートを剥がし始めた。俺と斉藤は見るに見かねて手伝ことにした。剥がしてるときに斉藤にアンプってなんだって聞いたら『スピーカみたいなもんだ』って教えてくれた。

「でも思ってたほどでもなかったね。大きくはあるけどそこまでじゃないし」

「そうだな、でも結構量はあるぞ。スピーカー以外にも色々あるみたいだし」

「でも三人もいるから大丈夫だよ」

 俺たちは人で賑わう会場をでかいスピーカーを台車に乗せて横断していた。大塚も俺たちが同い年だと分かるといくらか砕けた話し方になった。

「あ、先輩! もって来ましたよー」

 特設ステージに近づくと何やら書類を手にしている鹿沼先輩を発見し声をかけた。先輩のほうも気づいていたらしくこちらに向かって早く来いのゼスチャーをした。

「お疲れさん、どうやら大塚とも会えたみたいだね。斉藤たちが行った後教えるの忘れてたの思い出して心配だったんだ」

 先輩は本当に安堵した様子だ。俺たちはそこまで信用無いのだろうか? まぁ見ず知らずの俺たちにあっても気持ち悪いが。

「別に俺たちは平気ですよー後二往復くらいすれば全部運べるんじゃないですかね」

 俺が考えていたことを斉藤がすんなりと言ってしまう。別に良いだろなくったって。

「いや、斉藤たちじゃなくて大塚が、だ。一人じゃなにしでかすか不安で仕方ない。お前らがいて本当に助かったんだ」

 大塚のことでしたか……ってそんなにいやならほかの人にやらせりゃ良いんじゃないかな?

「ひどいですよ私だって荷物運びくらい出来ます!」

 先輩との会話を横で聞いていた大塚が反論する。

「なに? お前は荷物もろくに運べなかったじゃないか。転んで壊すわどこ運んだか分からなくなるわでまともに出来たためしが無いだろう。今回だって『ミスは取り戻します』とか言って一人でやろうとしやがって。運ばれるこっちの身にもなれってんだ!」

 先輩はなにやらスイッチが入ってしまったらしく大塚に説教を始めてしまった。あぁコレが遅れたのって大塚のせいなんだ。なんかすごい納得。横を見ると斉藤も俺と同じ様な表情をしていた。説教をされる大塚は放っておいて俺と斉藤はほかの係りの人に聞いてスピーカーを運び一回目を完了した。

「はぁー私って本当に何しても駄目なんだよね……何をやっても失敗ばかりで先輩たちに迷惑かけっぱなし……」

 この中に俺たちも入っているのか気になる。俺たちは二週目の運搬中。今度は垂れ幕や衣装。なんか良く分からない飾りみたいのが多い。斉藤に聞いたら『知らん』って言われた。そんな斉藤と大塚は運びながらおしゃべりばかりだ。

「そんな気にすること無いって、誰だって失敗くらいするし。やる気はあるんでしょ? だったらどうにかなるよ」

 俺は黙って運ぶことにしているが斉藤と大塚は意気投合したのか斉藤が大塚の愚痴を聞いていた。斉藤の部屋って所か……違うか。

「そりゃやる気はあるけど……やっぱりなかなか上手くいかないんだよね」

 大塚はそれなりに悩んでいるようだ。斉藤もいやな顔せずに聞いている。俺は……面倒だ露天観察モードに移項します。あ、沙羅発見。なんだろう美優の姿が見えないけど。あぁーいた。なんて買い物の量だよ……。あれを一人で

「それでー今度獅子舞でもやってみようかと思ってるんだよね」

「そりゃいい案だね。ぜひとも俺も呼んでほしい」

 お前らはお前らで全体の想像できない会話をするんじゃない。

「そろそろ着くぞ」

 斉藤の馬鹿話を聞いてるうちにあっという間に会場についてしまった。少し聞いてたけど全く分からない内容だった。野外に設置されている特設会場にはもう大道芸部の司会者が上っていてオープニングが始まっているようだ。会場の前には人だかりが出来ている。

「ありゃりゃ。じゃコレどこに置くの?」

 斉藤は会場前で止まる。前回は先輩がいたけど今回はどこかに行ってしまったのだろうあたりには見当たらない。

「そうだね、衣装も多いからそっちは部室かな。杉下君のはここでいいよ」

 俺はそう言われて持っていた荷物をどさりと床に置く。そこまで重くは無いが持っているのも面倒な重さだ。

「そっか、じゃ俺が部室まで運ぶよ、箱は二個でいいんでしょ。このくらい軽い軽い」

 斉藤はそう言うと大塚が持っていた衣装や小道具の入った箱と自分の箱を合わせて抱えるようにして持ち上げた。重くは無いだろうがかさばるから動きにくそう。

「まぁ後は小物だったしケイと大塚さんでどうにかなるっしょ。一度軽音楽部の部室って入ってみたかったんだよね」

 こいつはそれが本心だな。良くそこまでなんにでも興味を持てるものだ。疲れないのだろうか? 疲れないんだな。

「分かったけど無理しちゃ駄目だよ。こんな人の多いところで転んだら迷惑になるからね」

「おいおい俺はどうでも良いのかよ……」

「二人とも馬鹿やってないでさっさと行くぞ」

 コントは置いといて今は仕事だ。大道芸部の発表が始まってしまったからには重要度の高いものは運んでしまっているとしても早く準備が整うのはいいことだろう。

「はいはい、じゃ置いたらこの辺にいるから探してね」

「分かったよ、さっさと行け」

 斉藤はそうして校舎のほうに消えて行った。

「では杉下君行きますか」

「行きましょうか」

 残された俺と大塚はそんな感じでまた来た道を戻って行った。早くおわんねーかな……。

 二人で沈黙というのはやはりきついものがあって俺たちは特に運ぶ最中はすることが無いので適当に軽音楽部のことを肴にしていた。

「それで今回は三年生と上手い二年生の発表なんだよね。私たち一年生は裏方で準備とか来年のために見学するってわけ。楽しいですよ?」

 まぁ楽しくなきゃ部活なんてやってらんないけどな。

「へーそうなんだ。てっきり大塚さんも演奏するのかと思った。来年大変そうだな」

 最初は間を保つために適当に話していたけど話してるうちになんだか面白くなってきたので俺は普通に会話している。バンドの裏話とか面白いぞ。

「まぁがんばりますよーそろそろですね」

 話しているとあっという間だったが俺たちはもう会場の前についていた。舞台では二人組みの大道芸部がディアブロ危なっかしく披露していた。本当に危なっかしいなぁー……あっ! 落とした!

「あ、あぁそうだな、じゃコレで最後だ任せるぞ」

「はいコレで任務完了ですよ。私は出ませんけど軽音楽部の演奏聴いてね!」

 大塚はなぜか敬礼をして舞台裏へ荷物を持って消えていった。斉藤も待たなきゃいけないし大道芸には少々興味がある。演奏もついでに聴いてやらないこともない。

「全くあいつは何してるんだ? 持ってくところ逆だぞ……」

 そう言ったのはいつの間にか俺の背後に立って頭をかいている先輩。服装が変わっているからこの後発表でもするのだろう。先輩の隣にはこれまたヘンテコな服装をした男子生徒や女子生徒の姿が見えるがその人たちは俺なんかに目もくれずにスタスタとステージ裏に入っていく。

「そうなんですか? それってやばいんじゃないですかね」

 もって行くところが違うなら俺の努力も水の泡って奴だ。中身は大したことなさそうな小物だったけど……それは先輩も思っていることなのか大して焦った様子はない。

「まだまだ出来の悪い奴さ、音楽の筋は良いけどほかのことが点で駄目でね。私はもうステージに入るよそろそろ出番なんでね」

「そうですか。では頑張ってくださいね」

「なんて適当な応援かね」

 先輩はケラケラと笑いながらステージ裏へと入っていった。先輩は最後に振り返らずに『会場の最前列、特等席を用意しておいたから暇なら見てけ』と言って姿を消した。荷物を間違えた大塚は怒られるのかな?




「ケイここにいたのかー準備万端だね席とっておいてくれたの?」

「あら本当だわ、桂にしては気がきくじゃない」

「まぁな」

 俺が最前列で突っ立っていると横から沙羅と斉藤がやってきた。俺一人なのに数人分のスペースを取っていると周りの視線が痛かったから来てくれてホッとした。このままこなかったら帰ろうかと思ったよ。

「桂君一輝君私も仕事頑張りましたよ! 約束通り応援に来ましたよ」

 この子は一体いつまで勘違いしてるんだ? 

「そうかご苦労さま。しかし美優、その荷物はなんだ?」

 俺は美優をねぎらいながらその手に持つ袋に注目した。先ほど見かけたときより増えているではないか……もしかしたら。

「これですか? これはですねー私は手伝えなかったので沙羅ちゃんと一緒に桂君と一輝君がすきそうなものを選んできたんですよーどれも美味しいですよ」

 やっぱりか……別にいやなわけではなくむしろうれしいのだがそんなに食べるきはしない。なんてったってさっき昼食ったから。

「ありがとう、もらっていいかな? おぉ綿アメあんじゃん」

「もう綿アメははずせませんから」

 主に新聞部がな。俺はそこまで好きではないが新聞部が美味しそうに食べていたところを思い出すと無性に食べたくなる。これなら大して腹も膨れんしいいか。

「じゃ綿アメもらうわ。ほら斉藤、お好み焼きだぞ」

 俺は綿アメを受け取り斉藤に善意でお好み焼きを渡した。善意だ。

「はぁ? なんでお好み焼きなんだよ、食えねぇよそんなもの……」

 斉藤気づいたか。

「一輝君嫌ですか……? 私変なもの買ってきちゃいましたか……」

 美優が斉藤をウルウルと見つめる。斉藤の喉がゴクリと音を立てた。

「い、いや! いやだな美優ちゃん! 冗談だよ冗談! ちょうどお好み焼きが食べたかったところだよ、ありがとう」

「本当ですか? ならたくさんありますからいっぱい食べてくださいね」

「う、うん!」

 斉藤もうれしそうにお好み焼きを受け取った。やっぱりいいことした後は気分がいいな。

「桂も酷いわね……」

 隣にいた沙羅が俺を冷たい目で見てきた。まぁ冗談だよ。

「ケイ……何の恨みがあってこんなことを……」

「斉藤、手伝い楽しかったよ」

「その程度でコレかよ……」

 斉藤は今日大食い大会の分、沙羅からもらった分、屋台で買い食いした分。良く食べる奴だ。このくらいいけるだろうよ。

「さて皆さんそろそろ演奏のほうが始まるみたいですよ」

 斉藤の苦労など知らず美優は開いていく幕を指さしてうれしそうに声を上げた。斉藤がその横で涙を浮かべながらお好み焼きを食べ始めたのを確認してから俺も

綿アメの袋を開けてステージに現れた四人組のバンドマンたちに目を向けた。やっぱり綿アメはこんなもんか。俺は口の中に広がる甘ったるい味に顔をしかめた。




「うーんやっぱりいいね文化際。バンドも見なきゃ損だよね」

「最初の人たちは酷かったわね、最後の人たちは良く出来てたと思うけど」

「最後のって鹿沼先輩たちのやつだね、確かに初めはどうなるかと思ったけど最後はしっかり締めてくれてよかったよ」

「へーあの人は鹿沼さんって言うんですか。上手でしたねー手とか不思議な動きをしてましたよ」

「そんなのいいから手伝ってくれよな」

 俺たちは今度もいつも通り図書室で新聞を書く作業をしていた。と言ってもまだまだ完成はしていないし、出すにも前回との間隔が早すぎる。時間に余裕があるわけではないがやばい時間でもない。何より俺たちは今題材不足に悩んでいるのだ。しかしそんな最中だが俺たちは特に焦る気配もなく図書室でいつものように話をしていた。どこからか湧いた新聞部が今新聞の形を考えている。主にどう配置するかとか。俺はといえば美優の入れてくれたコーヒーと屋台ものでノンビリとしていた。あぁもうずっとこうしていたい……。

コンコン―

「失礼するよ」

 ノンビリとした空間に突然ノックの音がして誰かが図書室へ入ってくる。唯一の入り口である扉には閉館の札が下げてあるはずだし俺たち以外に入ろうとする者はいないはずである。それでも入ってくるのだから大したものだ、開いてなかったら変な人だぞ。

「あれ? 誰でしょう……」

 美優が不思議そうに頭をかしげる。俺もほかのやつもみんな扉の方向を向いた。

「おーいたいた、やっぱり斉藤ここにいたのか」

 図書室にはあまり来ないのだろう。入ると入り口のあたりでキョロキョロとあたりを見渡して数秒後席に座っている俺たちに気づいた。その人物は右手にビニール袋を持ってこちらに向かって歩いてきた。まぁこっちに来なかったらどこに行くんだって話だ。

「あれ鹿沼先輩じゃないですか、良く分かりましたね」

 斉藤がなぜか俺の隣に座った先輩にさほど驚いた様子もなく話かける。

「そうだな、どこにいるか分からなかったが人に聞いたのでな、そこまでかからなかった」

 先輩はそう言うと一息ついて椅子に深く腰掛けた。姿勢はあまりよくないようだ。

「鹿沼さん、何か飲みますか? コーヒーと紅茶くらいならご用意しますけど。どちらがよろしいですかね」

 そんな先輩を見て美優が立ち上がる。しかし本当に気が効く子だな。

「ん? ここはそんなものが出るのか。そうだな……紅茶でもいただこうか。頼めるかな?」

「はい、紅茶ですね、一生懸命淹れますよ。少々待ってくださいね。みなさんにも新しいものを持ってきますね」

「ありがとね、美優」

「ありがとー美優ちゃん」

「頼んだぞ!」

「助かる……」

 先輩は少し驚いた様子だったけどすぐににこやかになった。美優のことも気にならずこの場にすっかりじんでしまっている。俺は空いてしまったカップを美優に渡して椅子にもたれかかった。人数分のカップを持った美優は管理人室へと入っていった。新聞部は鹿沼先輩などどうでもいいようで一人新聞の構成を考えている。

「だけど先輩、こんなところまで何の用事ですか? あ、別に嫌がってるわけじゃないっすよ?」

「分かってるさ、ちょいと野暮用でね、まぁそれは後回しにしてさっきは助かったよ、お前らのおかげでいい演奏ができた。初めは見苦しいものを見せたけどな」

 先輩も分かってましたか。

「でも先輩は素敵でしたよ」

 あ、沙羅が外面だよ。なんか完璧ににこやかなのが逆に不自然なんだよな。普通の人にはわからないらしいけど。

「そう言ってもらえると頑張ったかいがあったな、私は今年卒業で文化際ではもう出来ないけど来年も見てやってくれ。それとこれ」

 先輩は尋ねてきたときから持っていたビニール袋を机においてそのなかから何かを取り出した。どうやら食べもらしい。

「これは挨拶程度だ、食ってくれ。私が言うのもなんだが旨いぞ。きっと紅茶にも合う」

 先輩が取り出したのはどうやらケーキのようだ。たしかに旨そうだ。

「みなさんお茶が入りましたよー」

「お、噂をすればなんとやらだ」

 先輩の目線の先には美優がいる美優もちょうどいいタイミングで準備が出来たようだ。各々自分のものを取っていく。配り終わると美優も席についた。

「うわーこれケーキですか? 鹿沼さんが持ってきてくれたんですか?」

「うん、うん、そうだよ、喜んでくれてこっちも持ってきたかいがあったよ」

 机のものに気づいた美優がうれしそうな声を上げる。先輩もその反応がうれしそうだ。

「さぁ人数は分からなかったから多めに持ってきた。余裕はあるぞ、食べてくれ」

 先輩は気を良くしたのかケーキを勧めてくる。人の好意は黙って受け取れってね。屋台のベトベトと濃いものばかり食べていたから甘いものが欲しいし。俺もタッパーに入ったケーキに手を伸ばす。

「そんじゃいただきますわ」

「甘いものは疲れたときに良いんだよね」

「カッちゃんも先輩も欲張りすぎよ、もうちょっと落ち着いて食べなさいよ」

「そうですよ二人とも、せっかくのケーキです味わいましょうよ」

 斉藤は馬鹿だからしょうがないんだ。俺は心の中でため息をつきながらも目の前のケーキにフォークを突き立てた。鹿沼先輩はそれを先ほどと変わらない顔で見ていた。いいなぁこのノンビリとした空気。

「うん、うまいな……」

 俺は一口食べてつぶやいた。今日はオーソドックスなものからゲテモノまで色々食べたけどやっぱりこういったものはよいものだ。それは俺だけじゃないようで沙羅たちも一口食べて満足そうに笑顔を浮かべた。

「ところで先輩」

「ん? なんだ?」

 斉藤の問いに新聞部が反応する。いやお前じゃないだろ。

「いえ、大谷先輩じゃなくて鹿沼先輩ですよ……」

「あ、そう」

 新聞部はそれっきりまたケーキを食うのに集中してしまった。ケーキを食べる新聞部の様子はお子様と言うにふさわしいな。ガツガツとそんな感じだ。

「で、私になんのようだ?」

 先輩は苦笑いで斉藤に尋ねる。

「まぁケーキももらって落ち着きましたし、そろそろ先輩が来た理由を教えてもらいたいんですけど。こんなところまで来てなんかありました?」

斉藤はそういいながらもケーキを食べていた。どこも落ち着いてないだろう。しかし俺もこの人がわざわざこんなところまで手土産を持ってきた理由が聞きた。先輩は何のためにここまで来たのだろう?

「いやね、さきの演奏のときとっても助かったからね、悪いんだけどまた手伝って欲しいんだ」

 なんだそう言うことか、俺はてっきりまた手伝いでも……。

「えっ?」

 今なんて言った? 手伝い?

「だから手伝いだよ手伝い」

 先輩は俺の反応を見てもう一度復唱する。やっぱり聞き間違いではないようだ。うーんなんだろう……。

「へー手伝いですか、それならそうと早く言ってくれればいいのにですよ。手伝いって何ですか?」

 俺とは正反対な斉藤の反応、まったく動揺してないそれが当然かのようだ。俺には驚きだというのに……。

「それがな私のクラスの展示でカフェをしているんだが、ちょいと私は用事があって行けないんだ、だから少しの間私の代わりにそこで働いて欲しいんだよ。なぁに別に難しいことじゃないさ。客から注文とってケーキ運ぶだけさ。な、いいだろ? 頼むよ!」

 先輩は手を合わせて頭を下げてしまった。うーん部活のほうも忙しいのだろう少しくらいなら手伝ってもいいかもしれんが……。

「うーん、それは私たちもかまいませんけど、やることがあるんですよね……ねぇ先輩?」

 沙羅も俺と同じ用に思ったのだろう手伝う気でいるようだが様子が変だ。こいつ何かたくらんでやがるな……。

「ん? あぁあるね仕事。ネタがなくて困ってる」

 新聞部が何も分かってないような顔で返事をする。こいつに探り合いとかは絶対に向いてないと思った。

「鹿沼先輩、私たち今校内新聞作ってるのはカッちゃんから聞いてますよね? それで今回もそこの出店を取材させてもらいたいんですよ。そのくらいいいでしょう?」

 あぁそう言う事か……つまり沙羅は仕事をする条件に新聞のねたにさせろと、まぁいい考えだと思う。そのくらいなら別にいいなじゃないかな。

「んー……まぁいいかな?」

 なんだろう一瞬先輩の顔が歪んだような……。

「おーやったーこれで埋まるぞー!」

 新聞部はそんなことおかまいなしで子供のようにはしゃいでいる。いや子供か。

「あんただね、この学校で新聞作ってるのは?」

 先輩は喜ぶ新聞部を見なつめる。

「ん? そうだけどなんだ?」

 こいつは俺たち後輩だけならず先輩にもこんな態度なのか……。しかし先輩はそんなこと待ったく気にした様子はなく続ける。

「新聞読んでるよ、ずいぶんと頑張ってるじゃないか、私たちのこともちゃんと書けていてよかったよ。でも意外だな、ああ言うのも書けたんだな、私は普段のやつが好きだったがこう言うのも悪くはないな」

「そうだろー? 僕は何でも出来るぞ」

 新聞部お前は一つのことしか出来ないと思われてたんだぞ?

「ウェイターかー一回やってみたかったんだよねー」

 斉藤も乗り気のようだし。ウェイターか……少々の興味はなくはない。

「いや、お前らはいらん。男子じゃなくて女子が欲しいのだ。ウェイターなんているかよ、欲しいのはウェイトレスだ」

 な……そうですか……なんか一気にテンション下がった……。先輩は手を真顔で横に振って違うのゼスチャー。斉藤も固まってる。

「えっ? 私たちですか? カッちゃんたちでもいいじゃないですか」

 おいおい沙羅その反応はもとから自分はやる気なかったってことか? 俺たちにやらせる気だったのかぁ?

「そうですね私は一向に構いませんよ? 人生で一度くらいウェイトレスをやってみたいですし。一緒にやりましょうよ沙羅ちゃん!」

 沙羅とは対照的に美優はどうもやる気になっているようだ。なんにでも興味を持てるのは才能だよな。

「うーん、美優もいるならいいけど……私は多分そう言うの向いてないと思うわよ?」

 何をおっしゃいますかこの人は……。

「全然無理じゃないだろ、むしろスゲー向いてると思うけど? なぁ斉藤」

「そうだねー沙羅は出来ると思ううよ。美優ちゃんなんか今でも出来てるし確実に戦力になるでしょ」

 確かに美優は今でも俺たちのウェイトレスみたいなもんだよな……。おっといけない沙羅の説得だった。

「あんまり知らない人と話したりするの苦手だし……」

「だからそんなこと気にするなよ、いつもやってるだろ? 外面良くするのは得意だろ」

「あんた外面って失礼なこと言ってくれんじゃない……。まぁいいわ適当にやってみるわよ」

「やったー! 頑張りましょうね沙羅ちゃん!」

 俺の言葉に少々不機嫌な沙羅だが何とか仕事を引き受けてくれた。美優もうれしそうで何よりだ。

「ところで新聞部はどうするんだ。やるか?」

 よろこぶ沙羅と美優を見ていた新聞部に尋ねる。こいつも一応は女子だからな。

「いや、僕は仕事あるし、お前らだけに任せるのも不安だ。でも一緒に行って取材はしてくるよ」

「そうか、じゃそっちは任せた」

 新聞部はそう言うと取材のための支度を始める。カメラとか手帳とか、別に大したものじゃないけど。手帳に関しては俺たちからしたらただのゴミだし……。

「よしきまり! じゃ早速だけど案内するよ、こっちだ!」

 先輩はそう言うと沙羅と美優を連れて図書室から出て行ってしまった。

「あぁーいいなぁー美優ちゃんと沙羅。俺もしてみたかったなー」

 まぁそう言うなよ。今思ったけど俺が一番接客なんて向いてないんじゃないのだろうか?

「俺たちには仕事があるだろう? そっちを終わらせなくちゃいけないし全員は元々いけないだろ」

「そうなんだけどね……暇になったら覗きにでも行くか?」

「そうだなそのくらいしてもいいだろう」

 斉藤はため息をつきながらだが出かける支度を始めた。さて俺もいつまでもノンビリしていられないな……そろそろ文化際の初日も終わりを告げるはずだ。俺は腕のデジタル時計がそろそろ二時半になりそうなことに気づいた。文化際は四時半までだから確実に時間は進んでいる。俺が働く新聞も今回が最後だろう。実際はあと二部作るのだが最後は明日の宣伝なので大して書くことは無いのだ。

「さて今日の最後のお仕事だ……」

 俺はそうつぶやいてカップに少しだけ残っていたコーヒーを飲みほした。




「ふーやっと落ち着いて動けるってもんだよな」

 俺からしたら動いていることがすでに落ち着いていないのだがそれでも今日の運動量からすれば落ち着いていた。場所は職員棟で体育館で明日行われる演劇部の講演への取材。そう俺たちが少し前に借りて着た衣装を使った演劇だ。今回の劇は長いらしく二日間の連続講演は出来なかったらしい。そのため講演としては二日目の目玉にもなっているそうだ。今日講演がないので演劇部の人たちは遊びほうけているらしい。

「うん、そうだねー俺も沙羅といるときは大して遊べなくて困ったよ」

 斉藤も斉藤で苦労しているようだ。俺も美優と……楽しかったよ。

「あいつは面倒なやつだからなー将来はうるさい母親にでもなりそうだよな」

「あはは、俺あいつの子供だけにはなりたくねー」

 だよなー怖い教育ママとかになりそう。

「んー? ここかな?」

 俺と斉藤は一つの教室の前で止まった。どうやらこの中に取材相手がいるようだ。演劇部だからファイアーダンスはしてないだろうな。

「失礼しますよーあが!」

「どした!?」

 俺はしまっていたドアを開いた。それと同時にとても強い光に目をそらす。後ろにいた斉藤には分からなかったのか俺を心配する声が聞こえる。い、一体何が起きたんだ?

「あーごめん! 邪魔が入っちゃったからもう一回撮らせてもらえるかな。そうそうそのまま動かないでねー君たち入るならさっさと入ってくれないか?」

 どこかからか男の声が聞こえた。誰かと話しているようだ。俺と斉藤は何がなんだか分からないまま教室に入って行く。ドアを閉じて入って行くと何度か強い光が瞬いた。うん、分かったけど何してんだ?

「はい、ありがとね。後で現像して渡すから待っててねー」

 男がそう言うと二人組みの男女が更衣室と思われるカーテンの奥に姿を消した。ほかの部屋も改造は酷かったがここもそこそこ改造してあるらしい。




「どうもこんにちは新聞部です。今回は演劇部の明日行う講演の取材に来ました……なんで撮影会なんかやってるんですか?」

「衣装の数も半端ないですねーアニメとかのもあるじゃないですか」

 そうなのか斉藤? 俺にはどれも普通の衣装に見えるのだが……。

「なんでって言われると暇だったからアニメ研究会と合同で衣装の貸し出しをしてたまでだよ。今までのもあるし今回のために作った物も多いから量には自信あるよ、もちろん質にもこだわってる」

 そうなのか……。俺と斉藤が踏み入れた教室には衣装かけに大量の衣装がかけられ撮影用なのか白い背景なんかも用意してあって明るくするための証明まである。とても手が込んでいるようだ。この学校暇人多すぎだろ……。

「なんたって趣味で作ってるだけのにそれで着せたり貸し出したりするだけで儲けるんだからたまらないよね」

「え? 先輩金取ってるんですか……? 飲食以外で金取るのは確か……」

 演劇部の人間が単なる趣味であったことにも驚きだが。文化際での飲食以外での営業は禁止されているはずである。なんでこの学校の馬鹿どもはそんなに規則を守らないのだろうか? 教室で平気で火とか使うし……。

「まぁほかでもやってることだよ。演劇部は部費が少ないからねこういった場所で稼がないとやっていけないんだよ。服の材料も買えないんだ」

 服が作れなくて困るのはあんたぐらいだろう……。しかし全く動じないな。

「でも、このことを生徒会にでもしゃべったら……考えておけよ」

 動じないばかりか釘までさすかこの先輩は。副会長にでも抜き打ちされて捕まってしまえ。

「それもそうですねほかもやってますから、別に俺たちが言うことはありませんよ。一応ですから気にしないでください。それより取材させてもらってもいいですかね」

 実際は言うのもめんどくさいだけだがこう言っておけばいいだろう。

「ところで先輩、一回いくらっすかね?」

「お? そうだな、一回五百円でやってるんだが君たちは特別に四百円でいいよ」

 馬鹿か斉藤……まさかやるつもりなのか? しかも五百円って高すぎだろ……まけてもたけぇ。

「じゃ終わったら二人分お願いしますー!」

 馬鹿だった……しかも俺まで勝手に入ってるし……。

「はい毎度ありー!」

 さっさと帰りたい……。

「取材はじめますよ……」

 俺はなんでこんな役回りばかりなんだ?




「はい、撮れたぞー」

「ありがとうございまーす」

 一瞬光が出たと思ったらすでに終わっていたようだ。俺が入ったときに眩しかったのもコレだ。だけど照明あるのにフラッシュ必要なのかな? いらないじゃないのか? この人写真は本業じゃないみたいだし……まぁいいけど。

「それじゃまた着替えたところと同じところで着替えちゃって」

「はーい」

「わかりました……」




「取材ありがとうございました、俺たちはそろそろ失礼しますね」

「ん、しっかりしたやつ書いてくれないと現像してやらねぇからな。まぁ記事はどうでもいいが明日は暇なら友達連れて見に来いや、俺の小道具が見所よ。きっと満足できる。それとお前らの部長さんにもよろしく言っといてくれよ」

「そりゃ行きますよー楽しみにしてますよ、先輩!」

「はっはっは! これは役者連中には頑張ってもらわんとこまるな」

 こんな感じで俺は疲れて、斉藤は元気になって演劇部への取材を終えた。今回何個か取材したけどまともなほうを数えたほうが早いな……。みんなはしゃぎすぎ……。

「斉藤、あとはどこだっけ?」

 演劇部を後にした俺は次の仕事のことを考えていた。あるなら早めに終わらせたいからだ。ないならないで休みたい。

「うーん、コレで終わりかな? あとは部長さんがやってくれてるみたいだから俺たちはこれからフリーだよ」

 そうか……やっと俺は自由の身になったのだな。今まで辛かったが良く頑張ってきたものだ。

「じゃあ俺たちはそろそろ図書室に帰るか」

 俺はそう言って図書室がある方向に歩き出す。

「え? ケイ沙羅達のところ行かなくていいの?」

 そういえばそんなこともあったな……。

「あー……どうしようか……」

 沙羅と美優をからかいに行くのはいいのだが俺はそろそろエネルギー切れなんだよなー。

「俺はパス。図書室で寝る。それに……」

 そっちのほうが楽そうだしな。そして何より……。

「俺あいつらがどこにいるか知らないし」

 カフェなので多分この校舎内のどこかにいるのだろうが探すのが面倒だ。その理由で俺はパス。

「……あ、そうだったね。先輩教えてくれなかったね」

 斉藤も今気づいたらしい。

「でも、俺面白そうだしいろんなところ覗きながら探してみるよ。美優ちゃんのウェイトレス姿は見たいし、沙羅のウェイトレスはレアでしょ」

 まぁ斉藤の言うことももっともだが俺はそんなことするなら寝かせてもらうよ。図書室にいれば新聞部も来るだろうし、手伝いをしてもいいな。

「そうか、じゃ頑張ってくれ。面白かったら後で教えてくれ」

「りょーかい。じゃまたねー」

 俺と斉藤はそうして分かれた。帰ってる途中に遊んでいる鹿沼先輩を見かけたけど仕事はどうしたのだろう?




「俺も行けばよかったかな……」

 後悔先に立たずとは良く言ったものだ。俺は図書室で新聞部と二人きり。はっきり言って暇だった。もちろん暇つぶしで読書してもいいが残念ながら今はその気分ではない。

「暇なら手伝えよー」

「手伝ってるだろ……」

 読書するでもないなら俺は暇つぶしとして新聞部の手伝いをするさ。だって暇なんだもん。

「美優に訳してもらったって事は新聞部も店に行って来たんだろ? 取材もしたんだよな」

「したぞー?」

 俺と新聞部は二人きりの空間で作業しながら話始める。ちなみに俺は新聞部が書いたメモではなく美優が訳したメモを見ている。新聞部の文字など読めたものではない。

「どんな感じだったんだ。二人とも出来てた?」

 美優はもうすでにウェイトレスのようなことはやっているから心配ないのだが沙羅はああ見えてかなり人見知りするので心配だ。沙羅は知らない人にはかなり壁作るからなーよそよそしいのもそのそいなんだが……。

「高坂は良く出来てたぞ、完璧だとか客が喜んでた。山本はなんかずっと怒ってた。たまにミスしてたらしいし。でも客は喜んでた」

 そうかーやっぱり美優は心配要らないなー沙羅が怒ってたって事は……なんだろうそんなに酷い店なのか? もしくは照れ隠しか……いやわからんな……。

「店はななんか明るくていい雰囲気だったぞ」

 店はいいのか……だったら心配要らないな……ってなんで俺はあいつらの心配なんかしてるんだ。

「まぁこれは俺たちで仕上げちまうか」

「そうしないと困っちゃうぞ」

 俺たちは再び制作作業へと戻って行った。斉藤はどこ行ったんだろうなー遊んでるのか……。


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