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文化際とバックナンバー(4)

「あれ……? ほかの人たちは? 君たちはいつも一緒だと思ってたよ」

 意外な人物の驚いた顔を見た気がする。

「ほかのやつらは遊んでますよ。 会長は忙しいとか言っておきながら一人が多いですよね」

「まぁ書類が多いしねー……でも君のタイミングがいいだけだよ、俺もずっと一人でここにいるわけじゃない」

 事実斉藤は一度先ほど先輩にもらったケーキとは別の種類を持ってきて常時爆笑しながら一瞬のうちに帰って行った。俺と新聞部は呆然とするしかなかった。そしてそのまま斉藤をはじめ沙羅も美優も帰ってきていない。そうしていつも間にか新聞が完成して俺と新聞部の二人で生徒会室に出向くことになってしまった。

「うーん、まあ文化際だしね、そうしてもらってもかまわないけど……新聞が出来なかったらどうしてくれる……」

 最後のほうはなぜか会長がつぶやくように言ったため俺は聞くことが出来なかった。なに言ったんだ? まぁいいや。

「会長それでコレが次の新聞です」

 俺は結局俺と新聞部と二人で作った新聞を会長に手渡した。

「ありがとね。どれどれ……」

 会長はまじまじと新聞を見つめる。俺が半分作っているからなのか結構緊張する。

「アレだよね、アレ」

 会長が新聞を読みながら意味不明な言葉をつぶやいてくる。アレってなんだ? そして会長はふと顔を上げる。

「毎回書く人の癖がすごい出てるよね。一回目はまじめで二回目はふざけてて今回は夏姫の癖が強く出てる。コレってアレだろ一回目はあの女の子たちで二回目は斉藤君で三回目は多分夏姫の文そのまんま使った君の作品だよね?」

「おぉー良く見てますね、その通りですよ」

「いやぁほめてもらって光栄だよ。しかし見てて面白いねコレ」

 会長はそう言ってまた新聞に目を向けた。会長の言ったことは完全に合っている。俺は面倒だったので美優が訳した新聞部の文をほぼそのまま使って仕上げた。

「……毎回違う感じが味わえてそこが注目点にもなるしね」

 会長それって安定してなくて駄目なんじゃ? 会長はずっとそれに気づいていたのだろう。俺はいま気づいた。

「まぁ出来は良いし、コレのほとんどが夏姫がやったって言うなら……夏姫、ずいぶんはじめたころから上達したないい感じだよ」

「うひゃ!」

 俺の後ろでなぜか隠れるように立っていた新聞部の顔から蒸気が上がり一瞬で真っ赤になった。振り返らなければよかった……。そんなにうれしいか新聞部。

「それで上達したって言うと初めはどれだけヘタだったんですか?」

 言った瞬間後ろに立っていた新聞部が俺の足を思いっきり踏んできているが大して痛くない。

「あははー見る?」

「ぜひ」

 会長が自分の机をあけようとする。

「やめろ! 出すな!」

 会長が引き抜く仕草をしたところでようやく新聞部が止めに入る。少し遅いぞ。

「……まぁ後が怖いから止めとくか」

 会長は何もなかったかの様に椅子に座りなおす。一体何が怖いのかは聞かないでおこう。しかし会長はずいぶんとしっかり新聞を管理しているらしい。バックナンバーまで迷いなく引き抜くとは。

「今日の分はあと一枚だよね。まぁイベントスケジュールの復唱みたいなもんだから労も少ないか。じゃ適当に頑張ってくれたまえ。な、夏姫?」

「うるさいな! 言われなくてもやってやるよ! 僕をなめるなよ! フン!」

 照れ隠しなのだろう、新聞部は生徒会室を出て行ってしまった。

「まったくまだまだ子供だな……」

「会長の言い方が悪いんじゃないですかね」

「そうかなー?」

 十中八九そうだろうが。イマイチ会長と新聞部の関係が分からん……。

「じゃあ俺も行きますね。まだすることもあるみたいですから」

「まだまだ未熟なやつだけどよろしく頼むよ」

「まぁ出来るだけの事はしますよ」

 俺は文化際が始まったときより少しだけ静かになった校庭を眺めながら図書室へ向かう廊下を歩いた。




「えへへへへへー」

 気まずい。と言うよりうざったい。

「新聞部、その変なにやけを止めろ。読書に集中できん」

 俺は呼んでいた本を下げて正面で最後の新聞を書いている新聞部に目を向ける。先ほどの会長の言葉がそれほどうれしかったのかそれとも帰りに買ってやった綿アメがそんなにうまかったのか、とりあえず理由はどんなものでもかまわないが目の前でずっと薄ら笑いをされていると気が散って仕方ないのだ。

「あぁ悪い悪い。気をつけるよ……えへへへ」

 駄目だこりゃ……。俺は自分で淹れたそんなにおいしくないコーヒーを一口飲んで読書をあきらめた。俺は集中できないのならなるべく本は読まない主義だ。

「ところで新聞部」

「あ? なんだ?」

 俺はここで読書をあきらめた代わりにふとした疑問をぶつけることにした。

「新聞部はなんで新聞部なんだ?」

「はぁ? そんなの知るかよ。お前が勝手にそう呼んでるだけだろ」

 ……いやそうじゃなくて……。あきれて一度ため息を吐く。

「先輩は何で新聞部をやってるんですか? て聞いてんだよ」

 本気で馬鹿にしてきている新聞部の顔に紛らわしいことを言った自分が悪いと分かりつつイッラっとした。

「あぁそっちか、紛らわしい言い方するなよなー」

「失礼しました」

 反省なんか絶対にしないけどとりあえず頭を下げた。

「うーん……あんまり言いたくないなー……」

 そう言った新聞部の顔は本当に気まずそうだ。しかしそんなに深い理由でもあることなのだろうか? 部活なんて好きだからとか知り合いがいるからだとかその程度の理由しか俺には思いつかないが……。

「まぁ言いたくないなら無理して教えてくれる必要もないさ、誰にでもそう言うのは一つや二つあるもんだ」

 どうして新聞部がこんなことをしているのか多少の興味があったことは本当だが人の心に土足で入って行くほど俺は無神経ではないのだ。

「言えないことでもないが……お前は知りたいのか?」

 新聞部は俺を見ないで新聞を書いている。下を向いてしまったのでその表情は読み取れない。声だけならいつもと変わらないのだが……。

「俺は気になったことは全部知りたいと思う人間だ」

 教えてくれるならそれに越したことはない。分からないことでムズムズとした感覚に陥るのは苦手だ。

「知らないことを知る努力の出来るやつには見えないけどなー」

確かにそれも当たっている。俺は知らないことは知りたいが知ることに多大な労力が伴うと気にならなくなってしまうのだ。多大な労力とは……まぁ人それぞれではないだろうか? とりあえず笑ってごまかした。

「そうだなーお前や山本たちには今回世話になったしな……まぁ教えてやらんこともない……」

 言葉は偉そうだがしゃべり方にはいつもの覇気はあまり見えない。言いたくなきゃ言わなけりゃいいものを……。まぁ自分の秘密を誰かに話して少し楽になりたいと思うのは人として当たり前のことかもしれん。俺はないが、分からなくはないと言うことだ。

「そうだな……」

 新聞部は頭の中で整理でもしているのか黙ってしまった。ここは気長に待つとしようではないか。時間はたっぷりあるのだから……。

「別に昔から新聞が書きたかった訳でも新聞部に知り合いが居たからでもないんだがな。ただ自分だけの力で何かしてみたかったんだ……」

 新聞部は照れ隠しなのかそれともただ器用なのか分からないが新聞部はサラサラとペンを進めながら話し出した。

「僕がこの学校に入学した時の新聞部はもちろん部活としてなんて認められてなくて今と同じゲリラ部としての活動だったよ。人数も今と違って三年生がたった二人と二年生が一人でやってたんだ。でもな、その人たちが作る新聞がとっても面白くて、『新聞部を公式に部活にする』って言ってたその人たちが魅力的だった……」

 紅茶を飲むために一瞬あげた新聞部の目はどこか昔を懐かしむような遠いところを見ていた。

「書いてある内容なんてたいしたことはないんだ。学校でその日起きた出来事が書いてあったりしただけのやつなんだけど、すっごく自由で僕もその先輩たちみたいにやってみたいと思って入部したんだ」

 紅茶のカップを一口飲んでおいた新聞部は出会ってから今までの馬鹿みたいな新聞部の面影はない。あるのはあの新聞部とは思えないような大人びた雰囲気。

「お前は兄妹いるか?」

 兄妹? 話が急にそれたので少しびっくりした。兄妹が話しに関係してくるのだろうか? 新聞部が兄妹と言うと会長の話なのだろうか。会長と新聞部は実の兄妹らしいからな、似てないけど。

「いや、俺は一人っ子だ。上にも下にも兄妹は居ない」

 新聞部の表情は分からない、一体この質問に何の意味があるのかも俺にはまだ理解することが出来ない。

「出来の悪い兄貴を持つのは辛いと言っていたやつが居たが僕は出来のよすぎる兄を持つのも辛いと思うぞ……」

 出来のいい兄……やはり新聞部が言っているのは会長のことだろう。てかほかに兄貴なんて浮かばないからな。

「あの人は昔から何でも出来たよ。そりゃ生徒会長なんて中学からで二回目だ、ほかにも勉強もトップクラスでスポーツも色々教えてもらったもんだ。でもそんな完璧超人みたいなあの人と違って僕は何にも出来なかった……。会長なんてもちろんやったことはないし、なりそうになったこともない。勉強なんて下から数えたほうが早いし唯一運動神経は平均よりチョイ高めだ。あの人に勝てるものなんて何一つありはしなかったんだよ。それのせいで周りの人からは良く比べられたよ、『なんで兄貴は出来るのに妹は出来ないんだ』……ってね。特に大人は酷かった」

 兄妹故のコンプレックスと言うやつか……。真の意味で理解することは出来ないが俺もいくつか思い当たる節がある。だけど新聞部のように密接ではない。そんな差別を受けたから新聞部は過激な内容のものばかり作るのだろうか?

「僕も色々頑張ってはみてはみたんだけど、どれも駄目だった。兄貴の後ろ姿ばっかり追って切羽詰まってたし、今考えればあんな状態で何かが出来るわけないんだよ。そんな時に見た自由で何にも囚われない新聞部が魅力的に見えて、それに入ろうと思うのは必然かもね。生き方変えるって言うのに不思議とためらいはなかったよ」

 新聞部は小さくクスリと笑ってまた新聞を書き始める。

「周りからは結構反対されたけど先輩たちが守ってくれてね、なんとかこうして新聞部の部長なんて偉そうな役職についてるわけさ。僕の年は僕しか入部希望者は居なかったから。僕以外に入部希望者がいたら、きっとその人が部長だっただろうね……」

 その時新聞部が当時の新聞部に出会ってなければ今の新聞部は居ないのだろうか? そう考えると少々沙羅たちが悲しむな……。

「でもなー、問題は二年の先輩が卒業して僕が新部長になった時だったよ。活動の甲斐あって新入部員も増えてきて、昔先輩たちと話した新聞部が公式に部活動になれる条件を満たしたんだ。だけど情けないことに僕がミスを連発したり部の連中とすれ違って……部になる機会を逃しちまった。今じゃ部長だって言うのに情けないったらありゃしない。でもさ、そんな時だよ。またなんだ……」

 今までの新聞部はなんだか何かを懐かしむような感じだったが今の新聞部には何か怒りにも悲しみにも近い感情がこめられているように思えた。

「ある日僕が部室に行くとな、あの人が居たんだ。その日はじめたばかりなのにもう僕よりも上手くてほかの部員からもちやほやされて僕を見て笑ったんだ。『手伝いに来てやったぞ』……って!」

 俺はその時の様子を想像してみた。新聞部はどんな気持ちだったろうか……。

「初めてあの人と喧嘩をしたよ……。その時まで溜まってたものが堰を切ったようにあふれだした、今では悪いことをしたって後悔してるよ。あの人はただ僕のことを考えてくれてただけだったのに……あぁでも今は仲良くやってるよちゃんと謝ったしね、雨降って地固まるってやつだな! 僕はいい子だからな! あの人も話し合ってあまり目立って手伝わないって言ってくれたし、でも絶対何か手伝うって聞かないところがすごいよな。それからさ、僕の目標は自分の力で新聞部を部にすることになったのは……まぁお前らに手伝ってもらってる時点でまだまだ未熟だけどな。僕は好きに生きてる、今は満足してるよ」

 笑った新聞部の顔が下手糞で少しは沙羅を見習ったらどうだ? って思った。ずっと前から分かってたことだ、こいつには嘘はつけないしつけば分かるのだ。

「無理して笑わなくてもいいんじゃないか……」

 俺にいくら嘘をついたってかまわない。だけどこいつには……いや、俺の友人には自分に嘘なんてついてほしくない。

「……別に無理なんかしてないさ、僕は今の状況で満足してるし目標だってあるんだから」

 新聞部は嫌そうに目線をそらす。

「いや、お前は新聞部が部活になればそれでいいのか?」

 逃がしはしない。これは新聞部のことなで今やらなければならないことだと思うから。

「なに言ってるんだよ……いいに決まってるだろ、それが先輩たちとの夢なんだから」

「それは単なる言い訳だろう? お前はただ……誰かに認められたかったんじゃないのか? 新聞部にいるのも派手なものばかり作るのも会長と違うことばかりするのも会長と違うんだ、私は私なんだって言いたかったからだろう」

 俺からすればそれは沙羅や斉藤、美優に先生。誰かに認められるから人は胸を張って生きていける。新聞部にはそういった存在が居なかったのだろうか? いや、居たはずである。少なくても一人は。

「部になることは確かに大切な先輩たちとの夢かもしれんが俺には部活でなかったとしても大して問題はないんじゃないかと思うぞ。問題なのはいかに新聞部らしく活動しているのか、じゃないだろうか。俺は新聞部が変な考えで大切なことを見失っているように思える」

例えいくら新聞部が正規の部になったってそれが新聞部らしくなかったら、それでも先輩たちは喜ぶだろうか? それこそ先輩たちは悲しむんじゃないか?

「新聞書いてるとき思わなかったか? こんな周りを考えた新聞書いてそれが新聞部らしいのか? 新聞部言ってたな。『僕が書くのは山本たちが駄目って言うんだ』ってさ、新聞を書くにあたって技術を学ぶのは結構なことさ。でも新聞部が書きたいことを書かないで誰かが書いたのを作る……それって本当に新聞部の新聞なのか?」

 確かに新聞部の記者としても技術はまだまだ未熟で直すところも多いだろう。しかし新聞部らしい新聞を書くのが駄目なわけではない。それは立派な個性なのだから。

「こんな新聞部が本当に書きたいことを書いてない新聞を書いて、それで部になって本当に新聞部はいいのか? 満足なのか? 会長がさっきの新聞見て言ってたよな。『コレは夏姫の癖が出てていい感じだ』って。会長は全部分かってたんじゃないのか?」

 会長は全部お見通しだったのかもな。あの人はなんだか全部知っていて、だけどあの人だから動けなかったような気がする。だから部外者の俺たちなんかを頼ったんではないだろうか?

「本当に必要なのは出来のいい上手に作った新聞なんかじゃない。お前の書きたいものを書きたいように書いた新聞部の新聞だろ。少なくとも斉藤や鹿沼先輩は今の新聞ではなくて昔の、新聞部の新聞が好きだって言ってたじゃないか。ついでに言えば俺もコレより噂に聞くド派手な新聞のほうが読んでみたい。お前は一人で認められてない人間なんかじゃない。みんな見てる少なくとも絶対に俺たちは見てる……。なんかこんなの俺の柄じゃねぇんだけどな。沙羅が居たら馬鹿にされそうだ」

 言いたいことは言ったつもりだ。何度も言うがこんなの俺の柄じゃないな……。背中がムズムズしてやがる。

「馬鹿になんかしないさ……なんか見透かされたみたいでむかつくけどな」

 それでも新聞部の顔は先ほどより少しばかりスッキリとして見えた。

「まぁお前はお前らしく書けばいいのじゃないのか……ってだけだ。なんか自分で言ってこそばゆいんだが」

 俺は照れ隠しに頭をかいて姿勢を変える振りをして顔を背けた。

「誰だってそうなるだろうね、良く言えたもんだ。それに言うならちゃんと最後まで決めて欲しいね」

 笑いの入った新聞部の声。

「わ、笑うなよな……」

 笑いたいのはこっちの方だが。多分今俺は顔が赤くなっているだろう。

「スマンスマン。でもありがとな、なんだか大切なことに気づけた気がしたよ。なんだ僕はまだ昔から切羽詰まって自分が見えなかったようだね……」

「……なぁに気にすることはないだろうよ。まだ初日が終わっただけだ、まだ一日あるし明日また頑張ればいい。明日駄目でもまたどっかで頑張ればいい」

 俺からすれば新聞部が部活になろうがゲリラのままだろうが関係ないのだから気長に待つことにしよう。

「そうだな……その通りだな……」

 新聞部も分かってくれたみたいだし。良かった良かった。

「じゃ、頑張るためにも綿アメが食いたいな! 僕に恥をかかせた罪で綿アメ買って来い!」

「はぁ!? そんなの自分で買って来いよ、俺は本が読みたいの!」

「そんなこと知らないよ、僕が食べたいの! さっさと買って来い! さもないとお前のこと好き勝手に書きまくってやるからな!」

「それは困ったなぁー……しゃーない買って来てやるからちゃんと新聞進めておけよ」

「当たり前だ馬鹿野郎」

「じゃ行ってくらぁ……」

 はっきり言えばこっぱずかしくってこの空間に居たくなかったから新聞部の発言はとってもナイスだった。俺は重い腰を上げてどこにあるのかも知れない綿アメの屋台を探して屋台が集まる校庭に繰り出した。




「げっ!」

「げってなんですかげって……」

綿アメを買って図書室に帰る途中なぜか用事があって沙羅たちに仕事を任せているはずの鹿沼先輩とその友人と見られる女子生徒数人とであった。出会ったとたん失礼極まりないが先輩は何かゴキブリでも見るような目を俺に向けてきた。

「い、いやー……こんなところで会うなんて奇遇だねー」

 目線を泳がせ額に汗をたらして見るからに怪しげな先輩。

「なにか隠し事でもあるんですか?」

「うっ!」

 何もそこまで分かりやすい反応しなくてもいいものを……。

「何かやましいことがあるんですね?」

 先輩の顔をジッと見つめる。先輩はさらに目を泳がせる。

「ねぇねぇこの子ってもしかしてさっきの子の知り合いなの?」

「えっ? そうだけど……」

 先輩の友人と見られる生徒が先輩に聞いている。さっきの子? それは沙羅と美優のことだろうか?

「沙羅と美優がどうかしたんですか? ……まさか迷惑でもかけてるんじゃないですか?」

 あまり想像できないが沙羅と美優が失敗して怒られているところを想像してしまった。沙羅はいいけど美優はほどほどにして欲しい……。

「うんん、ちゃんと仕事してくれてるよあの子達。今じゃお店のナンバーツーとナンバーワンだもんね」

 先輩ではなくほかの人が答えてくれる。なんだナンバーワンツーって……ランキングか? まぁ上位なのはいいことだ。しかし沙羅たちは一体何をしているのだ?

「……先輩、沙羅たちは今……っていねぇ……」

 先ほどまで先輩が居たところを見ると一人分のスペースを空けたまま綺麗に姿を消していた。恐るべき先輩。

「まぁ沙羅たちなら心配いらないだろう……先輩も居ないですし俺もこれで失礼します」

「うん、じゃねー」

 俺はそうして二人分の綿アメを手にぶら下げながらその場を後にした。かえる途中三年生の窓からお盆が飛んでいたが特に気にすることなく帰った。




「あーもうやってらんないわ!」

「まぁまぁ楽しかったじゃないですか」

「そりゃ美優はかわいいしよく働けてたけどもう私は絶対にやりたくないわ」

「沙羅も結構さまになってたよ。ほかのお客さんから人気もあったし。しかし沙羅のツンうが!」

「黙りなさい!」

 沙羅たちが帰って来たのは数分前で言ってしまえば今さっきだ。入ってきたとたんにこの調子。なにがなんだか分からない。

「お前ら少し落ち着けよ……斉藤何かあったのか?」

 沙羅に顔面を強打され鼻を押さえている斉藤に尋ねる。斉藤くらいしかまともなやつが居ないのが問題だ。

「うん、何かあったんだウベシ!」

「カッちゃんうっさいわよ!」

「わぁーすばらしいコークスクリューですね」

 美優関心してる場合か? 斉藤もさすがに死んでしまう。

「ま、まぁ……あれだな、わざわざ言いたくないことを言う必要もないよな……」

 斉藤だけならまだいいが、いつ俺にまで飛び火してくるか分からないので早々にこの話は打ち上げたほうがいいだろう。なんでここまで沙羅が怒るのか気になるがそれは美優にでも聞くとしよう。

「ところで桂君、夏姫ちゃんはどこに行ったんですか? 取材ですかね」

 まだギャーギャーと喚いている沙羅と斉藤を無視して美優が尋ねてくる。

「新聞部は会長のところに最後の新聞届けに行ったよ。そのうち帰ってくるんじゃないか? 帰ってこなくても問題ないだろうし」

「えー帰ってこないのは駄目ですよーまた綿アメ一緒に食べたいですよー」

 机に突っ伏して残念そうな美優。この子は新聞部をずいぶんと気に入ったようだ。

「夏姫ちゃん小さくてかわいいですよねー……子供みたいで」

 子供として見てたのか。

「それじゃあ俺たちもどっか行くか?」

 沙羅と戦闘中の斉藤の提案だが……うーむ、どうしたものか。しかし斉藤はよく沙羅の攻撃をかわしてるなー半分かわして半分ヒットか。

「ぐはっ!」

「私はもうここから出たくないわ。それにそろそろ終わる時間じゃないかしら?」

 斉藤の顔面に上靴の跡をしっかりと刻みこんだ沙羅が乱れた髪を手で直しながら近寄ってくる。もちろん斉藤はゴキブリのような頑丈さでもう立ち上がろうとしている。

「でもさ、せっかく終わりに近づいて人も減ってきたんだから今がチャンスじゃない?」

 斉藤も負けてはいない。たしかに斉藤の言う通り終了に近づくにつれ会場内はだんだんと空いてきている。

「でも、どうせ出店なんかも終わり始めてるんじゃないかしら? どうせだったら明日行くことにするわ。それに私は何より疲れたの。それなのにまた外で遊ぶなんて面倒だわ」

 だったら斉藤なんかとじゃれてないで椅子にでも座ってろよ……それが一番無駄な動きだったろ。

「明日とか絶対嘘だろ……それで明日は別の言い訳するんだからひでぇよな」

 それについては斉藤に同意する。俺もこいつは明日またこんな風に言って逃げるだろう。

「まぁ俺もそう思うけど、俺も今は疲れたから休みたい。沙羅が嘘でなければ俺も明日じゃ駄目か?」

 沙羅とは違って俺は本心だ。

「私も桂君と沙羅ちゃんがそうしたいならそれでもかまいませんよ。今日は十分楽しめましたから。それに何事も無理はいけません」

「美優ちゃんまでー……まぁいっか。俺も疲れた、今日一日だけでどれだけ走り回ったことか」

 満足そうに笑う美優を見て斉藤もあきらめたようだ。

「ですから沙羅ちゃん、桂君……」

「なぁに?」

「なんだ」

「明日は今日よりみんなでたくさん回りましょね!」

 はぁーまだまだ俺たちの旅は先は長そうだ……。

「分かったよ、明日はみんなでどっか行くとしようか」

「さすがケイ、分かってるねー」

「楽しみにしてますね!」

「ちょっとなんで桂が決めてるのよ、会長は私なんだからね!?」

 そうして俺たちは外にいたほうが静かなんじゃないかと思うくらい騒がしくすごした。まぁ結局はここで終わるのだな……。いや、終わりはしないのだったな、まだまだ先は長いのだから、今はまだ始まったばかりなのかも知れない……。


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