ガンマンと愉快な仲間達(1)
「はぁーやっぱりここは落ち着くな……」
放課後の図書室、今はまだ明るく青い空に幾つかの白い雲がゆっくり流れている。窓から射す光が当たらないところからそんな空を特に何も考えず読書を中断して眺めていた。時間がゆっくり流れると言うのはこう言うのを言うのだろう。最近は面倒な事が多い、たまには息抜きが必要だよな……。
今の図書室には俺しか居ない。正確には図書管理人室に星野麗子と言うニコチン中ど……管理人が居るのだがこちらに出てきて仕事をする気配は感じられない……。
いつもならこの図書室に俺が単体で出現する事などあまり無いのだが今日は珍しく一人であった。別に一人では来ないわけではない。
ガラガラ――
俺が空を眺めるのを止めて読書に戻っているとゆっくりと図書室の扉が開いた。誰か来たのだろう、全く不思議な事ではない。しかし妙な事で、開いたのはいいが誰かが入ってくる気配がない。扉の前には低い本棚があって座っている俺には入ってくる人間の上半身しか見えないので、もしかしたらものすごい背のっちさい奴が入り口の本棚に気になるものでもあったのかも知れない、そんな事を考えてはみたがなんにせよ俺には大して関係ないので読書に戻ることにしよう。
「しかしこの本期待していたよりつまらんな……返してしまおうかな……」
そんな事を呟きながら俺が席を立つと同時に何やらガサガサと音が立った。一瞬そちらに目を向けるが俺には関係無いので直ぐに本棚へと歩いていく。
「ちょっとバカっちゃんなにやってんのよ! 桂にバレたらどうするのよ!」
「え! 俺なのかよ? 沙羅が一番慌ててたじゃんか! 頭本棚にぶつけるって馬鹿すぎだろ!」
「二人とも落ち着いてください、桂君にバレちゃいますよ」
「そうだった……全くこれだからカっちゃんは……バカなんだから」
「この野郎……」
本棚のあたりから聞き慣れた声がしたような気がするが、俺には関係ないし他人の会話に聞き耳立てるのもあまりよろしくないのでそのまま目的の本棚へと歩くのを止める事はしない。でもアイツら何してんのかねぇ……。斎藤はともかく沙羅や美優が遅刻とは珍しいかもしれんな。
「桂君まさか気付かなかったんですか……」
さてこの本返したらまた新しい本探さないと……。などと思っていると俺の進む方向にあるカウンターのあたりからガチャリと扉が開く音がした。これには俺も反応を示す。
「先生どうしたんですか? 仕事でもする気になりましたか?」
俺はカウンターの方を見ながらそう言い放つ。さっき言ったことは勿論冗談である。
「愚か者、私がそんな面倒な作業をすると本気で思っているのかお前は?」
そう言った声は明らかにダルそうで一見壁からスッと出てきたかの様に見える言った本人は思った通りダルそうだった。
壁に見える扉から出てきたのはいつも通りの背が高くスーツが似合いそこそこ長い綺麗な黒髪を一本に束ねスタイリッシュな眼鏡を掛けた見た目美人だが中身は仕事しない煙草大好き駄目人間の図書管理人の星野先生が前傾姿勢で現れた。
「まさか、先生がそんな事をしだした日には氷が降りますよ」
目的の本棚へと到着して本を片付ける。冗談交じりにそう言うと先生は「確かにな」と言ってこれまたダルそうにカウンターにドスリと座った。
「ところで今日は杉下一人か? 他のやつらはどうした? はぶられたか?」
本をしまって新しい本を近場から探していると先生がふとそんな事を言ってきた。
「さぁどうでしょう? もう直ぐ来るんじゃないですか? 知らないですけど」
そう言いながら本を探すのは止めない。そうすると先生は……。
「ふん、つまらんな」
短くそう呟いて椅子により一層深く腰掛けた。毎度毎度先生の暇つぶしに付き合うつもりは無いのだ。先生はしばらく天を仰いでからふと何かを気付いたようでガタっと音を立ててこちらを向いた。
「そう言えばもうそろそろブン……」
もうそろそろブン? なんだそりゃ? 気になって先生の方を向くと先生はこちらを向いて止まっていた。俺を見ている? いや、少しズレてるか……。
「どうかしましたか? なんか居ました?」
「あぁなんか居たなホレ後ろ」
先生に聞くと先生はアゴで俺の後ろを示した。後ろを振り返るのだが一見何の変哲も無い図書室の空間が広がるだけであった。
「これと言って……」
俺がそう言うと先生はおもむろに席を立ってこちらに近づいてきてホラっといいながら本棚を指差した。
「ただの本棚じゃ……あ」
「やっと気付いたか」
先生に指を指してもらいようやく気付くことが出来た。確かに変であった。本棚の上にいつもならば無いプラスチック製に見える黒い棒のようなものが飛び出していた。しかも揺れている。明らかに怪しい。
「何でしょうね、でも人でも居るんじゃないですか? 普通に」
俺は大して気にならないし多分あそこに人が居る事は知っていたので今さら反応するのも気まずいと言うものだ。
「そんな事はどうだってかまわん。私は今とても暇をしているからな、それにどうせ山本達だろう」
えっ? と思った。あいつ等だったのか? 気付かなかった……。俺が半分くらい呆然としていると先生はスタスタと俺を通りこして例の棒に向かって行った。俺も先生の後を着いて行くことにした。
「え? こっち来るの!? どうするバレたかのか! 出るか!?」
「ちょっと落ち着きなさいよ! こう言うときはアレよ! えっと死んだフリ!」
「お前が落ち着けそれは熊だ! どうにもならんから!」
「大人しく出た方が良いのではないでしょうか……」
「この状況で出たら寒いじゃない!」
「確かにな! じゃ俺も死んだフリ!」
「だからそれは熊ですよー」
近づいていくとそんなバカな会話が聞こえてきた。確かに先生が言った通りあいつ等らしい。しかし何で隠れてるんだ? 俺と先生は本棚の前に着いて二人同時に本棚の影を覗いた。そこには死んだフリを一生懸命続けるガンマンと侍とその横で正座をするドレスを着た人間と言うなんともカオスな空間が広がっていた。
先生と俺は同時に機能停止を余儀なくされたのだった……。
「いやーやばかった、まさかバレるとは思わなかったなー」
「それもこれも全部カっちゃんがしくじるからよ。あれほどもう少し短い刀にしたらって言ったのに……」
「なんだよー沙羅だって長いほうがしっくりきてるって言ったじゃんかー」
「それとこれとは別よ」
「二人とも喧嘩はダメですよ」
「分ってるわよ」
「沙羅が怒られたー」
「っな! アンタも怒られてんの!」
「そうかなー?」
「このバカっちゃん!」
「止めてくださいよー」
俺はいつもの指定席についている。先生も珍しくカウンター以外の席、俺の隣の席に座っている。そしてそんな二人の前にはガンマン、侍、ドレスかと思ったらウェイトレスの姿をした俺以外の図書室クラブの面々が立ったまま喧嘩していた。
「お前ら、喧嘩はどうだって良いけど、まず! 何が起きているのか説明しろ! タイムスリップでもしてきたのか!?」
いつまでたっても話しを進めないこいつ等に少しイラッとした。それに気付いたのかガンマンがしぶしぶと言った顔で話しを始めた。
「そうねーこれはね演劇部借りてきた衣装なのよ。ほらクラスに居るじゃないアンタも知ってるでしょ? 山田涼香さん、彼女演劇部なのよ。それでたまたま見せてもらえることになったんだけど見てたらカッコ良かったから少し借りて桂をおどろかそーって思って皆拾って着てきたの」
沙羅の話しに出てきた山田涼香さん、残念ながら知らないな。それはともかくこうなった経緯は理解する事が出来た。
「なるほど、しかし隠れる事無かったのに、堂々と出てきても驚くぞ」
俺が腕組みしながらそう言うと沙羅も腕組みしながら。
「いきなり出てきた方が面白いじゃない」
そう言い切った。俺は遠い目で沙羅を見つめた。
「それよりその服良く出来ているんだな、特に山本のガンマンなんて良く出来てるじゃないか今年も演劇部は頑張ってるな」
隣に座っていた先生が机に突っ伏しながら言った。確かに改めてみると作りが凝っている。今年もと言う事は毎年なかなかな劇でもするのだろう。
「そうなんですよーこれもすごくないっすか? ザ・侍ですよー刀まで付いてます」
先生が作りを褒めると斎藤が嬉しそうにポーズを取りながら何か言ってきた。
ここらで少しこいつらの服装といつもの様子をちょっと比較しながら見てみよう。
デレデレッテレ――
まずガンマンから行こうか。
ガンマン……普通に昔の西部劇なんかのガンマンを想像であっていると思う。頭にカウボーイハット、腰にガンベルトと銃まで付いたこれまた本格的な衣装である。
それを着ているのは図書室クラブの会長件アイドルの山本沙羅である。コイツは女にしては背が高く俺と大して変わらないと言うなんとも嫌なやつである。見た目は栗毛のセミロングの髪をそのまま流して整った顔つきの世間一般では美少女のカテゴリに入るのであろう少女である。ただ俺の中では中身がかなり危険なことを知っているのでそう言う目では見ることが出来ない。油断したら死ぬと思っている。とにかく気の強い奴だ。そんな沙羅にはお世辞無しで締まったガンマンの格好は良く似合っていた。
続いて侍だ。
侍……こちらはそこまで手の込んだ様子は無いがそれなりにしっかりしているようだ。見た目は剣道着に見えるが時代劇なんかに出てくるお侍さんの格好だと言えばそう見える。
腰には侍らしくしっかりと長い刀を挿していた。と言うかこれが無ければただの剣道部……。ちなみにこの刀の鞘が先ほど出っ張っていた。
これを着ているのは図書室クラブの雑用件いじられ役の斎藤一輝である。ちなみに“かずき”ではなく“いつき”と読むのが正しい。コイツは背が高い、男の中でも特に高い、沙羅と並ぶと沙羅の背が小さくなって普通に見えるような気がする。こいつもそれなりに良い体系で少しガッチリしている。頭は黒の短髪で上のフレームが無い眼鏡をしている。斎藤は元々運動できそうな見た目なのでそこそこ剣道部の格好は似合っていた。
続いてウェイトレス改めメイド服。先ほど沙羅にウェイトレスと言ったら本当に今時の高校生か? と怒られてしまった。
メイド服……これに関しては何の知識も無いので省く。沙羅が言うには白と黒の色が可愛いメジャーなメイド服らしい。沙羅も詳しく無いようで斎藤が教えてやると言うので聞いてみたら何やら意味不明な専門用語を使い始めたので沙羅と早々に中断させた。
何故あえてそれを着ているのは聞く事が出来なかった。と言うか演劇にこんなの使うか?
とりあえず……これを着ているのは図書室クラブの……役職まだ考えてなかったな……俺と同じ一般会員でいいのかな? 沙羅と相談だ。えっと高坂美優だ。名前からするとバリバリ日本人だが見た目はバリバリハーフだ。この子背は高くない普通サイズと言ったところだろう。ハーフなのに。髪はなんともそれらしい綺麗な金髪で癖なのかウェーブがかかった髪を腰の辺りまで長く伸ばしている。顔つきはさすがハーフと言ったところだろうか、スッとしてかなり整っている。少し目がタレ目なのが印象に残る。ちなみに沙羅は少しつり目だ。なんとも分りやすいだろう? と言う事で沙羅と違いおっとりとしていて気の弱そうな子である。が、この子はこの子でかなり曲者と言うイメージが強い。この服はやはりハーフで金髪と言う事からもこの中では一番にあっているのかもしれない。
ちなみに美優は図書室クラブの中で唯一の二年生である。先輩だ。しかしそんな威厳は全く感じられない。
こんなところかな? 戻ろうか。
「お前ら本当にバカなんだなー」
俺は改めてこいつらに感想を言った。本音だ。真顔だ。こいつ等馬鹿だ。
「桂君そんな真剣に言わないで下さいよ、私だって少し恥ずかしいんですよ」
美優は白い目で見る俺に対して苦笑いしながら言ってきた。
「少しって……まさか美優気に入ってるのか……?」
「まぁ多少」
美優は多少と言いつつなんとも満足そうに笑った。
斎藤、沙羅はまだ分る、いや、俺の理解の範疇を軽く超えているがまだ分る、だが、美優は無理だ、もし俺が女だとしてその格好を学校でさせられたらそのまま窓を突き破り自殺を図るような格好だ。それとも美優はこいつらとこう言う事をするのが好きと言う意味なのか?
「美優ちゃん! 美優ちゃん! ターン、ターンだ! 回るんだ! お願いします!」
俺と美優の会話をしているとそれを見ていた斎藤が何やら変なテンションで美優にターンをお願いした。何がしたいんだ? よく見ると斉藤は目がおかしい……。
「え? た、ターンですか? えっとこうですかね……」
美優はかなりいきなりの斎藤の注文をたじろぎながら言われた通りその場で一回くるりと綺麗なターンを決めた。しかしこれがどうしたと言うのだろうか?
「くぅー! 一輝感激! 美優ちゃん! アレだ! さっき教えた奴を頼む……これで最後だから……」
斎藤は何やら途轍も無く疲労しているようで、息を荒くし膝を着いていた。こいつの事は時々ヤバイと思うが今日ほど思ったことはない、沙羅もドン引きしている。
「は、はい……えっと何でしたっけ?」
美優がそう言うとおもむろに斉藤が美優に近づき何やら耳打ちをした。
「頼んだよ……」
「は……い……。じゃあ行きます!」
美優に耳打ちすると斎藤は元の位置へと戻っていった。美優は何やら意気込むとまたしてもくるりと一回ターンをしてピタリと止まってこう言った。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
……アレだ……俺だってこのくらい知っている、メイドと言えばこれなのだろう。斎藤はこれを聞いた後数秒天を全身で仰ぎ一言小さく。
「我が人生に一遍の悔い無し……!」
と言って床に崩れ落ちた。美優は沙羅にこう言う事はもうしなくて良い、斎藤に付き合うな、としつこく言われていた。俺もそうした方が言いと思った。
少し時間が経った。こいつ等本当に馬鹿だよな……。
「はぁーしかし楽しむにしたって何も……」
俺はこいつ等を少しバカにしようと思い言葉を言おうとした。しかし何故か沙羅の目がキラリと光ると何やら沙羅の手がものすごい勢いで動いて行く。
「こんな……」
沙羅の動きは止まらない俺の口も止まる事はまだ無い。スローモーションのように時間が過ぎる。沙羅の手は腰へと向かった。俺ももう全てを言い終わる。
「コスプ……」
バシュン――!
俺が言い終わる寸前俺の髪を何かがかすった、それと同時に後ろから何やら可笑しな音がする。俺は衝撃で動かない体を何とか首だけ後ろに向けた。顔も血の気が引いて青ざめているだろう。
「さ、沙羅ちゃん!? 何してるんですか!? 危ないですよ!?」
「沙羅うめぇ……!」
「そんな事言ってる場合ですか!?」
「いやさっき試しに撃ってみたいって言ってたし、こうなるんじゃないかなーって思ってた」
「そ、そんな……」
俺の後ろにはこれまた本棚がある、それも小さい、これはちょうど椅子に座っている俺の頭と同じくらいの高さの奴だ、その上に図書委員がダンボールで作ったお勧めを告げるマスコットがあるのだがそのマスコットの額に何やらプラスチックの弾がめり込んでいた。
「こ、こ、これは……沙羅さん?」
ギチギチと音を立てて俺が首を戻すと沙羅は腰にあったはずの銃を抜いてその銃を俺に向けていた。
「グロッグ17……アンタも名前ぐらい知ってるんじゃない? 1985年にアメリカで販売装弾数17発の自動式拳銃のモデルガン……余計な事言うと次は当てるわよ」
沙羅はそう言うと素早く銃を腰に戻した。勿論知っているさ、なんせそれを沙羅に教えたのは俺の様なものだ、何故かってこれは俺が好きな本の主人公が持っていた銃だから……まぁ途中で捨てちゃうけどね。じゃなくて!
「な、何してんだ! 何もそこまでしなくても良いじゃないか! 死ぬかと思ったぞ! なんでこうなるんだよ!? 少し馬鹿にしようとしただけで! ためし撃ちしたいってだけで!」
俺は椅子に腰かけたまま沙羅を指差して猛講義する。しかし沙羅は帽子を手で下げてポーズを決めてやがる。
「この野郎……大体何でグロッグなんだよ! おかしいだろ、何で西部劇の人間がグロッグなんだ! せめて回転式拳銃とかにしろよ! 自動式って……ミスマッチにも程があるわ!」
「すげぇ、ものすごい勢いでツッコミどころ間違ってる……」
「動揺してるんでしょうか……? 沙羅ちゃんやり過ぎです。 それにしても桂君って物知りですね……」
ぐっ……斎藤たちにツッコまれるとは……ちくしょう、これも全部沙羅のせいだ!
「何とか言いやがれ!」
「止めたまえ!」
俺が立ち上がり沙羅に向かい言い放つとポーズを決めていた沙羅が当然しゃべりだした。
「それ以上口を開くとこの優しき保安官でも容赦はせんぞ!」
沙羅は真顔でそう言った。この場の全員が凍りついた。
「はぁ? 何? え? 沙羅、お前……保安官って……」
静まり返った図書室で初めに口を開けたのは俺だった。沙羅に向けられた怒りは一瞬にして消えた。俺が言うと沙羅は顔が真っ赤になっていった。
「ごめん……謝るからこの空気止めて……いっそう私を殺して……」
沙羅はそれだけ言うとその場で蹲ってしまった。
「まぁあれだ、空気だ、あのときの空気が悪かったんだよ、気にするなって」
斎藤が必死にフォローを入れようとする。しかし雑だな……。空気って……。
「そうですよ、空気が悪いんですよ! だからね? 元気出してください沙羅ちゃん」
美優まで斎藤の空気が悪い説に乗り始めた……。もうこれで押してくか……。
「確かにあの空気は悪かったよな、その格好だもんな、やりたくなるよ」
この場は全て狂った空気が悪い事になり、かなり雑だが適当に俺も慰めておいた。沙羅が立ち直るまでしばらく掛かった。
その後しばらく格好のことで話していると斎藤が何やら話しを切り出した。
「で、ケイどうだ? カッコイイだろうー? お前も着たいか? ん?」
自分でも額に青筋が出るのが分った。こいつ……。まぁいいか、俺は落ち着いて机に頬杖をしながら。
「あぁそれなりに似合ってるよ。ガンマンにメイドに剣道部か……いいな、特に剣道部!」
「剣道じゃねぇ! 侍よ!? 侍! ラスト侍でっせ!?」
斎藤は熱くゼスチャー入りでツッコミを入れてくるが軽くスルーして沙羅を見る。何か変な予感がしたが今……。
沙羅はただ一言微笑ながらこう言った。
「着る?」
沙羅はどこかからか紙袋を取り出して俺の前で掲げて見せた。この場合沙羅は「着る?」ではなく「着なさい」の意味になるだろう。
沙羅の状態を見ると着ないとは言えなかった。沙羅は笑いながら俺に空いている手で俺に向けて例のグロッグ17を向けていた。その姿はガンマンと言うよりマフィアに近かったような気がする……。
沙羅から渡された紙袋を持って俺はそのまま図書管理人室へと追いやられた。ここを更衣室にしろと言う事だ。俺は持ってきた紙袋から中身を取り出した。中に入っていたのは……制服?
俺はなんとも腑に落ちない気分のまま着替えを済ませると汚い図書管理人室の扉を開きコスプレ集団へと進んで行った。俺が出てくるのに気付くと斎藤はすぐさま笑い出し、沙羅も笑いそうになり顔を引きつらせて腕組みしながらこちらを見ていた。美優はと言えば手を胸の前で合わせてキラキラした目でこちらを見ていた。この格好だ、せっかくだからこのままこいつ等に果たし状でも叩きつけるか……。
「なぁお前らこれは何だ? なんで俺だけこんなのなんだ? 斎藤交換しないか?」
「嫌だね、これはこれで気に入ってるんだ。それにそこまで似合ってない事無いよ。ププッ……」
こいつら全員気に入ってるんじゃないか? 斎藤は後で殺す。俺は渡された衣装を着て沙羅たちの前に立った。
「いいじゃないですか、とっても似合ってますよ。すごく強そうです」
美優が未だにとってもにこやかな顔でそんな事を言ってきた。
「いや、そんな事ないから、ふざけ感出すぎだから」
俺はキラキラした表情の美優にジト目でツッコンだ。
「いやいや美優の言うとおりよ、似合ってるわよ桂、その……番長……くっ……あははは」
沙羅は最初のうちは真顔で最後の当たりは完全に笑っていた。なんとも馬鹿にした連中だ!
「いやいや、私の知り合いにも居たよ、それ着た奴。親の時代には本当に本物が沢山居たらしいぞ。いやなかなかに懐かしいな」
なんて星野先生。
「先生の思い出話はどうでもいいんです!」
「どうでもいいとは失礼な……」
くそぅ……! そう俺が沙羅から渡された衣装はなんとも懐かしいバンカラスタイルの服だ、簡単に言うと番長だ、ボロボロの学ランと学帽に黒いマント、ご丁寧に下駄までついた完全装備だ。演劇部! 作りが本格的過ぎだ! 見なくても分る、俺にこれは似合わない。
「そうだケイ、さっきともう一つ違うんだけど何か気付かない?」
俺を見ながら思い出したかのように言ってきた。俺は斎藤の発言に少し不機嫌になりつつ図書室をぐるりと見渡した。
「顔こわばらせるとケイでも迫力出るな」
「やっぱりかっこいいですねー 桂君脱いだら私も着させてもらおうかな……」
「美優ちゃん、止めときな……」
「どこも変わってないぞ」
一回見渡しても分らない。斎藤め、適当なこと言ってるな。斎藤を軽く睨みつける。
「いやいや変わってるって……。しっくりきすぎて気付かないのも無理ないけど、俺達もビックリしたんだから。あとその格好で睨まないでくれ……」
「確かに、似合いそうだとは皆思いましたけどここまでとは……桂君次は私に……」
斎藤が苦笑いしながらそう言うと美優までもが斎藤と同じような事を言い出した。斎藤はともかく美優は嘘はつかんだろう。
沙羅に目を向けると沙羅は無言である人物に目線を向けた。その目線の先を辿ると普通に椅子に座る星野先生が……俺は全て気付いた。
「まさか……先生……本職そっちでしたっけ?」
そこには白衣を着た星野先生が無言で立っていた。それはこの中で文句なしのぶっちぎりで似合っている事は見て直ぐに理解する事が出来た。と言うかその道の人にしか見えなかった……。
その後何故か沙羅が持っていたデジカメを使い全員で記念撮影をして今回のコスプレパーティーは幕を閉じた。撮影中に図書室に入って来た女子生徒が俺達を見た瞬間小さな悲鳴を上げて出て行ったのを俺は見なかったことにした。
俺と斎藤は図書管理人室で着替えを済ませ図書室へと戻ってきた。沙羅達女子勢は俺達の先に着替えを済ましている。
「ふー以外に楽しかったなー」
「んなこと無い、無駄に疲れただけだ……」
「ケイは本当に素直じゃないよねー結構楽しんでたくせに」
斎藤とそんな事を話しながら戻って行った。先ほどまできていた衣装は斎藤も含め皆紙袋に入れている。どうやら全員着替えは持って来ていたようだ。
「よいしょ……」
戻ってくると先生と沙羅が何やら話し合っていたので床の端に服の入った紙袋を寄せておいて少し話しを聞く事にした。聞いている限り演劇部の話のようだ。斎藤は沙羅の近くで本棚を物色していた美優と話しを始めていた。
「ところで山本この衣装、借りてきていいのか? 練習とかに使わんのか?」
「あぁ大丈夫ですよ、今日は練習が休みなんだそうです。この後部室に衣装返せるように鍵も預かってます。明日あれば問題ないらしいですよ」
「そうなのか。しかしこの時期になって練習なんぞ休んで本番は大丈夫なのだろうか……」
「私もそのあたり気になって聞いてみたんですけど。衣装作るのに張り切りすぎて部員の殆どが今はダウン状態らしいです。演技はずっと練習していた物みたいなんで少しくらい休んでも全く問題レベルらしいです」
「ほぉ、じゃあ今年の演劇は期待できそうだな」
「そうですね。私は見るなら初めてだから気になりますね」
気になった事があるので俺も会話に参加してみる。
「なぁ演劇部って近いうちに劇でもするのか? いつやるんだ? 授業の一つくらい潰してくれるんだろうな?」
劇があるとは知らなかった。俺は演劇部の劇とやらにはあまり興味ないがもし全校生徒が必ず見ないといけないものなら退屈な授業の変わりに行われることも期待できる。しかし沙羅の反応は俺の想像とは違っていた。
「はぁ? 桂何言ってんのよ、公演の日に授業なんてあるわけないじゃない、大体宣伝なんてしなくても皆知ってるわよ?」
沙羅は少し眉を寄せて不思議そうな顔をした。なんだって授業がない?
「ケイもしかしてその日が何の日か知らないんじゃない? そんな訳ないか、ははは」
美優と話していると思っていた斎藤が突然会話に参加してきた。何の日? 何か特別な日でも有っただろうか?
「もしかして祝日か? だから授業が無いとか?」
俺が真顔でそう言うと皆渋い顔をしてしまった。何か変な事を言っただろうか?
「ケイって時々かなり疎いよね、と言うより頭が自動的に面倒なことを削除して行ってるとしか思えないよ」
「確かに言えてるかも……桂の気付かないは意図的としか思えないわよね」
「何がそこまでさせるんでしょうか……」
皆口々に感想を言っていくが馬鹿にされてる気しかしない。
「む……一体何があるんだよ、俺だって重要な事なら覚えてるぞ。どうせどうでもいい頃なんだろ?」
みんなの反応が気に食わないので反論してみる。俺を何も聞いていないような人間と思われたくないからな。
「じゃあ桂、聞くけど良い?」
沙羅がゆっくりと子供に話しかけるように言ってきた。こいつナメてるな……。
「あぁもちろんだ、どんと来い」
売られた喧嘩は買ってやろうじゃないか。俺は気合を入れた。
「桂、文化祭って知ってる?」
俺は沙羅から発せられた言葉を聴いて拍子抜けしてしまった。文化祭? そんなの知っているさ。高校生の夢や希望、友とはしゃぐも良し気になるあの子と過ごすも良し、空気に飲まれて参加者が好きに騒げる夢の期間、そして何より俺にとっては……。
「面倒なアレだろ?」
その一言で沙羅と斎藤の二人は全てを理解したようで。手を眉間に当てて左右に首を振った。ナイスシンクロ……。




