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星野先生とデラックス(2)


「さて行くとしようか……」

 俺は沙羅と斎藤と共に図書室への道を歩き始めた。

 俺達が教室棟から職員棟への道を通りこしてついに図書室の前へと辿りついた。

「失礼します」

 一番最初に先頭を歩いていた沙羅が軽く挨拶を済ませてそれに続けて俺と斎藤も挨拶を済ませ図書室へと足を踏み入れていく。俺が入ったその時一番は初めに入った沙羅が何かに気付いた。

「あら美優じゃないの、なんだ、先に来てたのねー」

 ふと沙羅が見ていた方向に目をやるとそこには椅子に座って読書をしている美優の姿があった。何というか、その、結構絵になりますね……。美優もこちらの登場に気付いたらしく読むのを中断してこちらに挨拶してくる。

「皆さんこんにちは。一輝君と沙羅ちゃんは今日会うのは始めてですね」

 美優は立ちこそしなかったがなんとも上品に挨拶してきた。別にどうでも良い事なんだが……。しかし沙羅はまんざらでもない様子で、うんうんっと言った様子で眺めていた。こいつも何なのだろうな、美優の姉御にでもなったつもりなのだろうか?

「おっす……。しかし美優は早いなーしかもしっかり読書してるし……偉いな」

  俺達は美優と同じ用に自分達の指定席へと付いて行く。美優もすっかり今の席が指定席となったな。

「しかしいつもの事だがカウンターに人影が無いね……。また本借りたそうな奴がどうしていいか分らずにオロオロしてるよ……」

 今度は斉藤が何かに気付いたらしく力の抜けた声を上げた。見れば俺達が席に着いたとほぼ同時に一人の男子生徒が誰も居ないカウンターの前でオロオロし始めていた。しかたないよな、誰も居ないんだから……。全く毎度の事ながら頭が痛くなる……。俺は一人深い溜息を付いた。

「斎藤、俺達は連れてくるからそれまでカウンター頼む。汚れてるようなら……戦闘も仕方無いだろう……」

「はいはい、こう言う事は俺に任せなさい、でも早めにな?」

「仕方ないわねー……行くわよ! 美優、コレも私達図書室クラブの宿命よ!」

「はい分りました!」

 俺達図書クラブ会員は一斉に立ち上がる。そのままカウンターまで全員で行き斎藤は困っている生徒さんの相手に入る。

「はいはい、すいませんねーこの本で良いですか?」

 斎藤は手際良く作業を進めていく。もう立派な従業員ですな。そんな感じでカウンターは斎藤に任せ俺達はカウンター横にポツンと存在する薄汚い扉へと俺沙羅美優が入っていく。

「先生! また仕事サボってこんな所で煙草ですか!?」

 扉を開くと同時に俺が部屋に居る人物に激を飛ばす。

「そうですよ、一応先生なんですから必要最低限の仕事くらいして下さいよ、借りる人居ましたよ!」

 沙羅も俺に続き剣幕な表情で畳み掛けるように言い放つ。いいぞ、沙羅! ガンガン行くぞ!

「皆さん慣れてますねー……私付いて行くのが精一杯ですー」

 最後尾から付いて来た美優は感心そうな顔をしながらそう言って俺と沙羅の間から図書管理人室を覗き込んだ。

図書館管理人室にはいつも道理の風景、つまり普通の図書管理人室ではなくここでしか見れないであろう光景が広がっていた。それはここの管理者である人物によりほぼ私物化した部屋である。入ると直ぐに分るのが煙草の匂いでありこの学校は校内禁煙なので普通ならば煙草の匂いがする部屋などあってはいけないのだがここだけはその匂いがそこそこな狭さの部屋にかなりキツク漂っていた。部屋の壁や天井は煙で茶色く煤けているのが見れば分るだろう。そんな学校とは思えない不思議空間となっている部屋には本来ならば表のカウンターに居るべき人間がいつもサボって座っている椅子に座っていなかった……。

「……あ?」

「……はて?」

「……どうしたんでしょう?」

 居なかった。そのまんまだが居なかった。目の前に広がるのはいつもと特に変わらない薄暗く綺麗とは言えない部屋があるだけでそこに俺達の拍子抜けした声が広がった。ただ違うのがいつもならば作業机で煙草を吹かしているはずの図書管理人が居るはずであった。しかし居るはずの椅子は何故か床にだらしなく倒れており余計に異様な空気をかもし出していた。

「先生がここに居ないなんて初めてか?」

 いつもとは少し様子の違う状況に俺は戸惑っていた。いつも先生はずっとここに居たから居ないことには驚いたな。

「うん、初めてだわ、少なくても私が知る限りでは」

 沙羅は俺の疑問の声に直ぐに反応して返事をしてくれる。沙羅も驚いているようだ。

「ここに居ないと先生は一体何処に居るのでしょうね?」

 驚く俺と沙羅を尻目に美優は居ないことには驚いた様子は無く冷静な反応を見せた。美優は入って間もないからいつも先生がここに居るとは思っていいなかったのだろう。

「考えてみれば先生はあの性格なのによくサボったりせずに毎日毎日来れてたな。あの人なら普通にサボりそうなのに」

 一瞬驚いてはいたが直ぐに持ち直して俺はふとした疑問を口に出した。

「あー確かにそうねー良く来てたわよねー。仕事はバリバリ、サボってたけど」

「それじゃあ来ている意味が無いのではないのではないでしょうか?」

 沙羅も俺に同意してくれた。美優は苦笑いをしながらツッコミを入れる。そして俺も沙羅と美優に激しく同意する。来てはいたが仕事はしていなかったな、あの人は……。そんな事で三人して立ち止まって話しをしていると俺はある事に気付いた。管理人室の奥にあるゴミの山の中に何やらいつもなら存在しない変なものがはみ出ていた。沙羅と美優も俺の様子からそれに気付いたのか三人して目を凝らしそれを見つめた。そして三人同時に気付いてしまった。

「うぉう!?」

「何よこれ!?」

「キャー!」

 俺達三人が一同に物凄い驚きの声を上げる。それもそのはずだろう、なんでたってそこで見たのはだらしなく転がる先生の椅子とその少し離れた所でうつ伏せになりぐったりとゴミにうずもれて動く気配の無い図書管理人である星野先生が倒れていたのだから……。

微かに見える顔には一切の血の気が無くなっているし先生の傍には俺が昨日使ったカッターナイフが刃を出したままゴミ袋に突き刺さっており広がった穴からは先生の吸ってきた煙草の吸殻が散乱していた。一体これはどう言う状況なんだよ!

「コレってまさか死んでるの……?」

 そんな時沙羅が途轍も無く不吉な事を口にした。この発言で場の空気が今までとは一遍して重く暗い空気に変わった。

「そんな先生が……うそ……」

 沙羅の発言を聞いた美優が急激に顔から血の気が引いていきそのまま床に座り込んでしまった。力が抜けてしまったようだ。

「ごめん美優、大丈夫? 先生もきっと無事よ。きっと寝てるだけよ」

 すぐさま座り込んだ美優に沙羅が美優のカバーに入る。口には出さないが俺も死んでいるのではないかと微かに思ってしまっている。

「そんな馬鹿な事があってたまるか……」

 しかしそんな筈は無いと自分に言い聞かせる。俺はゆっくりと倒れている先生に近づいて行く。

「皆どうしたの? でかい声出して、何かあったの? うわ! 先生どうしたんですか!? け、ケイ大丈夫なのかよコレ!?」

 騒ぎを聞きつけたのか斉藤が管理人室に慌てた様子で入って来た。斎藤も予想外の展開に混乱しているようだ。大丈夫か分らないから確認しに行くんだろうが……。

「斎藤はそこに居て二人を見ててくれ」

 倒れこむ先生に少しずつ近寄って行く。先生の横についてみると俺はすかさず先生を取り巻く空き缶やゴミ袋などのゴミをどかして行くそうして掘り出した先生を横にしてみると嬉しい事に何やら小さくうめき声が聞こえた。フッ……そんな事だろうと思っていたさ。

「皆どうやら死んではいないみたいだぞ、息もしてるし何かうなってる」

 俺は一度大きく溜息をついてから後ろでこちらの様子を伺う三人に向かって状況を報告する。

「本当に? 美優聞いた? 大丈夫よ、先生は無事よ」

「良かった……良かったよぉー」

「何がどうなってんのか全く分らんが良かったな」

 沙羅は美優と共に喜びをあらわにして喜んでいた。斎藤は二人の隣に立って不思議そうにしていた。

 美優もその後直ぐに落ち着き三人とも先生の傍に寄ってきた。

「先生! 先生! 大丈夫ですか!?」

 未だに横になる先生に俺が何度か必死に呼びかける。先生からはコレと言った反応は見れなかったが何度呼びかけをすると先生が小さく何か呟き始めた。

「ねぇ先生何か言ってるわよ」

 それに気付いたのは沙羅が最初でそれを聞いた俺は直ぐに先生の口元に耳を近づけた。一体この人に何が起きたのだろうか……。俺は唾をゴクリと飲み込んだ。

耳を傾けると先生は微かにだが確実に言葉を発した。それは信じられない言葉だった。

「た……たば……煙草……」

 煙草……先生は確実にそう言った。

「煙草って煙草がどうしたんですか!? 先生!」

 ただ一言煙草と言われても意味が分らない、もっと聞かなければ……。

「煙草が……煙草が無い……」

 しかし先生は何度聞いてもただただ煙草と繰り返すだけで一向に情報が増えなかった。その内皆なんだか冷静になってきたのか取り敢えず先生をこんな薄暗くて息が詰まったような空間から外に運び出そうと言う事になった。

 先生を俺と斎藤が肩を貸しながらカウンターではなく普通の席に座らせる。先生は今でもぐったりとしてはいるが先ほどよりは意識もはっきりしてきた様子だ。

「先生大丈夫ですか? 一体何があったんですか? 皆心配したんですよ」

 先生が落ち着いた頃を見計らい沙羅が先生に問いかける。先生は落ち着いたと言っても未だにダラリと力が抜け気っている。こんな先生初めてだ……。

「あ……あぁ……山本か……どうしたもこうしたもないよ……私のたぁー」

 先生は誰が自分に話しかけたのかと言う事すら理解するのにも時間が掛かるようだ。そんな先生は「た」と言った瞬間に机にプシューと音を立てて倒れこんだ。またか、一体この人はどうしたと言うのだろうか? いつもはもっとカッチリした人なのに。

「先生何があったか話してくれませんかね? 話してくれないと何もできませんよ」

 俺は机に倒れこむ先生にそう問いかけた。俺達に何か出来る事があるならやった方が良いだろう、図書室のためにも俺達のためにも。

「うぅーそれが話すと少し長くなるんだがないいか?」

 先生の口調はいつもと大して変わりは無いがその声はかなり震えていていつもの先生がキッリっとした大人の女性なら今の先生は普通の女の子と言ったところだろうか。うーん調子狂うな。でもコレはかなり珍しい……。

「っく……どうぞ話してください」

 なんだか力が抜けるが早くどうにかしてもらいたいので進めてもらうことにしよう。

「あれは私がこの学校に来たときに始まったんだ……今思い出すだけでも恐ろしい……」

 先生は震える肩を押さええながら事件の事を話し始めた。なんだかよくあるパターンだな……。

「私は朝ここに真っ先に来るのだよ、図書の先生だから特にここでしか用事無いし……。そうしたら毎回管理人室で一服するのが日課なのだが今回はいつでも持っているはずの……私の命よりも大切な煙草が一つも無かったんだよー!」

「……はぁ?」

 先生は一通り話し終えるとそのまま泣きながら机に伏してしまった。俺達は驚きの余り呆然と固まっていた。なんだと……煙草だけでこれなのか……?」

「あぁー! あんた達一瞬たかが煙草とか思ってんでしょー! ふざけんじゃないわよーあんた達煙草が私達喫煙者にとってどれほど大切なものか分ってんの!? 特に私のようなヘビースモカーにおっては本当に大切なんだからねー! はぐぅ……!」

先生は先ほどとは違いかなり高いテンションでの物言いで今回は口調もかなり変わっている本当に先生か疑うほどにだ。しかし先生はそれほど長い時間テンションを上げていられないらしく数秒でまたプシュゥーと煙と音を立てて沈んでしまった。本当に珍しい……。

「先生何とかならないのかな? このままじゃ色々と面倒だし不便だし気持ち悪いし良い事無いわよ」

 しかし沙羅は俺のように珍しいとだけ考えておらず当然の事ながらこれからのことを話し始めた。確かに色々面倒だな。どうにかなるならどうにかして欲しいものだ。

「良いんじゃないのかな、このままで。煙草が吸わなくなれば部屋も綺麗になるし匂いもなくなるしいい事だらけじゃ無いか。このまま禁煙を始めてもらおうよ」

 そんな中斎藤が中々良いアイディアを出した。それは良いかもしれんな、部屋が綺麗になれば俺達の苦労も一つ減ると言うものよ。

「うーんいい考えじゃないカちゃんにしては頭を働かせたわね、褒めてあげるわ」

 沙羅もその意見に大いに賛成らしく隣の斎藤の頭をポンポンと叩きながら褒めていた。

「やめいやめい痛いから」

「お二人とも仲が本当によろしいですよねー」

「まぁねーカっちゃん?」

「はいはい、そうですねー」

 美優は二人の様子をキラキラとした顔で見ていた。しかしされている方の斎藤はたまったものではないようでダルそうに沙羅の手を払っていた。沙羅は俺らにどんな事でも手加減無いからああ言うのも痛いんだよな。

「そんな事で先生、禁煙してみませんか?」

そんな沙羅と斎藤を眺めつつ俺は机に突っ伏す先生に禁煙を勧めてみる。これで治れば苦労しないのだが……。

「禁煙……? はぁ? 禁煙なんてするくらいなら……煙草が吸えないくらいなら……そんなの死んだ方がマシだ!」

 先生は突っ伏した姿勢のままいきなり顔だけこちらを向いてものすごくギラギラとした目で俺のほうを凝視した。こ、こえぇぇぇぇぇ! 俺は生まれて初めて人の目だけで恐怖を感じた。

「そ、そうですか……分りました……では他の方法を考えましょう……」

 俺はそう言うとそのまま席を立ち窓際に立ち涼しい風に当たった。その間も先生の目がこちらを向いているのが見なくても激しく分った。沙羅たちと言えば俺の状況なんてお構い無しにワイワイやっていた。なんて幸せな奴らなんだ……。とそれはともかくこれからどうするか……考えると言った手前何か良い方法を考えなければ……。

「あぁーなんかケイが考え始めたよ」

「あら本当ね、今回は何考えてんだか……」

「どうしたんでしょう桂くん……」

「美優、ああ言うときの桂は放っておくのが一番よ、聞いても耳に入らないんだから」

「そうなんですか……うーん良く分りませんが成功すると良いですね、ファイトです桂くん!」

 さてこの後どうするかなー買えには行けないし……どうしたものか……。うむ……。しかしそうだなー少し危険だが俺達が出来る事ってこのくらいかな。まぁやってみるか……。さて戻るとするかな。

「お、ケイが帰ってきたー」

「何か考えついたんでしょうね?」

「お帰りなさい、桂くん成功しましたか?」

「杉下、早く助けてくれー……」

 机に帰るとなにやらみんなして良く分らない迎え方をしてくれた。そう言うところは気にせずにいこうかな。

「えー役割分担をします」

 俺はみんなの前に立ち話し始める。みんなは何故か分っていた様子で、こちらを見ている。

「まず初めに斎藤はここに居なきゃ仕事する人間が居なくなってしまうのでここで留守番だ、これは斎藤にしか頼めないから宜しく頼む」

「おうよ!」

 俺が斎藤にそう言うと斉藤は心良くガッツポーズをして了解した。斎藤らしい応答だな。次!

「美優は先生の様子をここで見ていてくれないか? 斎藤は仕事でここにいるし、まぁ二人で先生の様子見ていれば何がおきても大丈夫だろう」

「はい分りました! 頑張らせていただきます!」

 美優も斎藤と同じように元気良く返事を返してくれる。こちらは斎藤と同じかそれ以上の気合が入っていそうな返事でビックリだ。この子はこう言うのが好きなんだろうな……。

「くれぐれもさっきみたいに煙草の吸殻なんて掘り出さないように見張っておく事」

 俺は続けて美優に先生が先ほどのようなゴミに埋もれるような事態にならないよう見張ってもらわなくては。

「げ、ばれていたか……鋭い奴めでももうそんな事は出来んよ、大体綺麗に全部吸うから探しても吸えるのは無かったよ」

 先生はちぇっと言いながら続けてあったら吸ってたのに……と呟いて口を尖らせた。ちなみに先生の髪に煙草の中身が少し付いているのでゴミに頭から突っ込んで行ったのだろうしかしゴミと言っても基本的には九割方煙草であるのでそこまで変な物は入っていない。安心してくれて良い。空の缶ビールなんかは入ってるけど……。

「先生がゴミの中に居たのってその為だったんですか……」

「汚いわね……」

「そこまでとは……ニコチン怖いな」

 先生の言葉を聴いた俺以外の三人は一同さっと先生の傍から数センチ離れた。先生は気にしてないみたいだけど。

「で、最後に沙羅……」

「何溜めてんのよ、何でも良いわよ? ドンと来なさい」

 俺は沙羅のときだけ多少の溜めを作った。こんな時だが少し沙羅をからかうとしよう、少しだけ、やりすぎるとこちらの身が危ぶまれるのでこう言うのは程々にしておくのが俺や斎藤の中での鉄則である。

「沙羅は特に仕事は無いから帰ってよし! むしろ帰るのが仕事」

「なっ! ちょっと桂なに言ってんの!?」

 俺がお決まりの冗談を言うと沙羅は半端じゃない驚きを見せた。沙羅は少し冗談が通じない所があるのでいきなりだと素の反応を見せるのだ。これだから面白い。

「と言うのは冗談で沙羅は俺と一緒に付いて来てもらうからな、すまん」

 沙羅が驚きから怒りに感情が変換される前に俺はネタをばらしてしまう。今のところ順調だな。

「な! ……そう、ならいいわ……あんまりふざけた事言うとぶっ飛ばすわよ?」

 沙羅はまたしても驚きの声を上げたが直ぐに謝ってしまったので沙羅はどうしようも無くなり怒られること無くからかう事に成功だ、こんな時に俺は最高の快感を得られるのだ。フッフッフ……。

「ところケイでこんな役割分担したのは良いけど一体何が始まるの?」

「私も気になりますーこれからどうするんですか?」

「そうだぞー早く助けろー……」

「どこに行くのよー早くしなさいよ」

 周りからは耳障りな雑音が聞こえるせいでこの清々しい気持ちが台無しじゃないか。仕方ない奴らよ……。全く。

「はいはい、分ったよと言うかやることなんて決まってんだろうが」

 俺はせっかくの気分が台無しになったせいで半ばやる気が失せているので適当に話す。

「やることって先生の禁煙か?」

 斎藤が思いも寄らない恐ろしい発言をした。俺の予想道理俺の方を星野先生が恐ろしいほどに目をどす黒く光らせて俺の様子を伺っているではないか。斎藤お前は少し黙ってろよ!

「そ、そんなわけ無いだろうが! 先生には引き続き喫煙してもらいます! ねぇ先生!?」

「あぁそうしてくれると助かる」

 は、はぁー助かった……。本当に斎藤は余計な事を……これ以上俺の危険を増やしてくれるなよな。先生は元の力が抜けた状態に戻っていた。

「何か桂がかなり焦ってるわね、何かあったんでしょう……よっぽどの事が私達の知らない所で……」

「そうみたいですね……可愛そうに……」

そんな会話が耳の端からしたがよく聞き取れなかった。

「言うのは良いがまだ上手く行くか分らんから今は言わん。期待せずに待っておけ、だから皆も出来る事が無いか考えておいてくれ」

 俺は勿体つけるようにそう言った。本当に上手く行くか分らんし本来ならば沙羅は置いて行った方がいいのかもしれないがそこは沙羅だ、待ってろなんて言ったら怒るだろうし何より沙羅が居た方が俺もやりやすいからな。すこし我が儘だろうか?

「了解行って来い、失敗しても俺がいい案出して待っててやるから安心しとけ」

「私もいいのを考えて待ってますから頑張ってきてください」

 斎藤が格好をつけながら何やら言っているがそれはそれでムカつくな。ありがたいのかもしれんが。美優も同じように入ってくれた。こっちは素直にありがたい。

「まぁいいわ、どんな事になっても入ってやるんだから、多少の危険なんてどうって事無いんだから」

 こちらも機動隊と言う事で張り切っている沙羅であった。よかったこれなら多少ならば行けるだろう。

「じゃあそれぞれ持ち場に着くように」

「はい!」

「ラジャー」

「行くわよー」

「早めに帰還プリーズ……」

 皆それぞれ気合を入れたら持ち場について仕事を始めた。俺と沙羅も斎藤達に別れを告げて図書室を後にした。


 廊下を沙羅と二人で歩いている、特に会話も無くただコツコツと廊下を歩く音だけがテンポよく二つ、静かな廊下に響いていた。

「ところで桂のその意外と思い切ったところってどうなってるの? いつもはずっとダルそうにしてるのにたまにあんたは思い切った事をやらかすんだから不思議だわ」

 歩いていると隣に居た沙羅が不思議そうな顔をして当然そんな事を聞いて来た。

「確かに自分でも不思議に思うけどな、もしかしたら俺も沙羅と同じで好奇心とかテンションが高い奴なのかもしれんな」

 沙羅に言われてふとそんな事を考えた、俺は自分でもおかしいと思ってしまうようなことを時たましてしまう事がしばしばあるのでもしかしたらそうなのかもしれない。

「なんか褒められてる気がしないんだけど、それってどうなのよ? まぁ桂がそんな人間だったら私は苦労しないんだけどねーそれに桂は時々なるから面白いし、やる気のあるハツラツとした桂なんて気持ち悪いわ」

 沙羅は自分で聞いておいて微妙な反応で終わらせてしまった。なんだか俺も褒められてる気がしないがお互いさまなのでスルーしておく。目的地まであと少しある。

「それより今回の作戦って一体何をするのかしら? 楽しめるんでしょうね?」

 お互い無言のまま歩いていると沙羅が目的地手前でそう訊ねてきた。そんなの……。

「わからん変な事をすることだけは確かなんだが、沙羅さんの期待に答えられるかどうか……。 まぁ行ってみてのお楽しみってやつだ。取り敢えず先生を治す事だと言う事だけは確かだな」

「そんな事だろうと思ってたわよ、まぁどうにでもなるでしょうけど、駄目だったら駄目で良いんじゃない? なにより楽しければそれで良いのよ」

 沙羅はへんな期待をしているようだが多分それには答えることが出来るだろう、しかしそれは沙羅のやり方次第だが沙羅なら問題ないと思われる。

「沙羅、それよりもう目的地に着いたぞ」

 図書室を出発してから程なくして俺達は目的地へと到着した。職員棟なので元々遠くは無いのだ。ほんの数分かな?

「ここって……職員室じゃないのよ!? ……あぁなるほどそう言う事なのね」

 沙羅は職員室の標識を見て一瞬驚きの表情を見せたが直ぐに俺の考えを理解したのかやるじゃないと言って俺の肩を叩いた。そう、これもそれなりに痛い。

「そう言う事だよ、沙羅も分ったようだが今回の目的は煙草の採取、煙草なんてあるところは限られているけど俺達未成年じゃ買って来ることはセキュリティーとか法律云々で不可能だ、ならば」

「既に購入されている物を貰ってしまおうってことね?」

 俺がそこまで言うと最後は沙羅が変わりに言ってしまった、少し最後まで言わせて欲しかった。話しの続きをしよう。

「……そう言うこと。で校内で煙草なんかがある場所と言えば」

「職員室になるわけね」

 またしても沙羅は最後だけ持って行ってしまった。またしても、またしても……!

「それじゃ目的もハッキリと見えたことだしこのまま突入と行きましょうか?」

「フッ……そうだな、行くとするか」

 俺と沙羅は突入の前にお互い気合を入れた。

「君達入り口の前で何をしているんだ、用事が無いなら退きなさい」

 後ろから声がした、振り向くとそこには何かの名簿を持った男性教師が立っていた。どこかで見たことがあると思ったら俺達の担任教師じゃないか。確か名前は清水……担当は英語だったかな? ヤバイ記憶が薄すぎる、先生の名前なんて星野麗子しかわかんねぇよ!

「あ、すいません」

「今退きますので……」

 俺達は清水先生に直ぐに入り口を開けて職員室への道を開けた。

「有難う、君達もやることが無いなら早めに帰りなさい。部活があるなら早く行きなさい」

 数学教師はそう言って職員室へと入っていった。全くいい所だったのに……。

「あ……」

 俺と沙羅の二つの声がタイミングよく重なった。しまった! さっきの先生に聞けばよかった! 沙羅も同じ事に気付たようだ。俺も沙羅も根が真面目だからこう言う事には本当は向かないのかもしれない……。

「ちょ! 先生! 待ってください!」

「私達用事ならあるんですよ!」

 俺と沙羅は二人して先ほどの清水先生を追って職員室へと駆け込んだ。

「こら! 君達入ってくるならもっと静かにしなさい!」

「はい、やり直し」

「すいませんでした!」

「やり直してきますぅ!」

「うるさい!」

「すいません!」

 俺達が急いで職員室に入ると中に居た先生陣に激を飛ばされた。焦っていたため全力で答えてしまった。はずかし……。その後俺と沙羅は職員室の外からやり直しを終え職員室へ侵入に成功した。……成功か? 失敗な気が……。


「で、用事ってなんなんだ? あんなに急いで大事な事なのか?」

 俺達は今先ほどの清水先生の前に二人並んで立っている。清水先生は俺達に少し呆れた様子でそう訊ねてきた。

「君達一年生よね? こんなに元気な子も珍しいですよね?」

「そうですね、三年生の守下須美程ではありませんが騒がしい子ですな」

「いやいや最近の子供は静かすぎますよ、少しくらい騒がしい方がいいと思いますけどね」

そして俺達の周りには先ほどの騒ぎのせいで職員室に居て暇でもしていた教師達が取り囲むように立って話していた。こんな状況予想外だ。……沙羅が楽しそうな表情なのが少し気になる……沙羅どうだいこれで君は楽しめてるのかい? 俺は早くも帰りたくなってきたよ……。小学生の時沙羅達とガラスを割った時以来だよ、教師数人に囲まれるのは……。あの時も沙羅は必死に説明する俺と斎藤を一人で笑ってたよね。

「そうですね、単刀直入に言いますと先生方誰か私達に煙草を数本譲ってくれませんか?」

 沙羅が途轍も無く話しをハッショって途轍もなくヤバイ言い方をした、顔が笑ってるぞ! 分ってやってんだろ! 沙羅は満面の笑みだった。それは見方によれば更に状況を悪化させる笑みだ。そして先生陣は数秒固まったのち予想道理の反応を示した。

「すいませんが忍先生、謹慎者用のファイルを持って来てくれませんか?」

「分りました、この子達のことしっかり指導お願いしますね」

「岸先生は学年主任あと生活指導の先生にも連絡してくれますか?」

「了解、お前ら一体何がしたかったんだ? まぁ別にいいけどハッハッハ」

「私はこいつらと話がありますので……田野辺先生は保護者に連絡をお願いします」

「はい、あれ? 連絡網はどこだー?」

 先生達は驚きの連携プレーでテキパキと仕事を分担している。すごいなーちゃんと仕事が出来る人ってやっぱりかっこ良いよな……。星野先生にも見習って欲しいよ。

「こら桂! この状況を早くどうにかしなさい、現実逃避してる暇は無いのよ、早くしないと私喫煙する不良生徒になっちゃうわよ?」

 パラレルワールドへエスケープしそうになっていた俺を沙羅がリアルワールドへ呼び戻す。そんなことこの状況を作った張本人が言う言葉じゃないと思うのだが……。しかしそんな事考えてる時間は無い早くしなければ俺の人生が……!

「先生違うんです! 俺達が吸うのではなくてこれには深い理由がありまして! 話しを聞いてください!」

 俺は必死に先生達を呼び止めた、しかしこの間も沙羅は震えながら笑いをこらえていて俺は先生を止めることよりもまず初めに沙羅を殴りたかった。


「で、深い理由とはなんだ? 不良にパシリでもあってんのか?」

 多分それであってるんだと思います先生……。清水先生は冗談らしくそう言った。ちなみに他の先生も何とか途中参加した沙羅と共に引き戻す事に成功した。

「それがですね、図書管理人の星野先生のニコチンが切れて倒れまして、それで治すために煙草が必要なんですが俺達未成年ですし先生に頼めばくれるんじゃないかと思いましてね、それでこうして来たわけですよ、だから本当に俺達が吸う訳じゃないんですよ」

 こんなふうに俺は先生たちに説明をした。そこまで変な説明では無いと思う。ところが星野先生の名前を出したあたりから先生達の様子に変化がみられた担任は机に肘を立てて顔を手で隠してしまった。他の先生も先ほどとは違い暗い表情になっている一体どうしたと言うのだろうか? これには沙羅も不思議そうな顔をしている。

「そうか、お前らは星野先生の使いか……どうしましょうかね?」

「そうですなーどうしようも無いんじゃないですか?」

「今度は生徒を使うとはあの人は……」

 先生達が何やら深刻な顔をして話し始めた。

「先生どうしたんですか? 何か問題でも?」

 俺はどうにも理解できないので聞いてみる事にした。一体星野先生とは何者なのか……。

「うーんそうだなーあの人ってものすごいヘビースモーカーなのはお前らなら知っているか?」

 清水先生は先生同士の会話を止め俺の問いを聞いてこちらを振り返ってそう訊ねてきた。

「えぇそのくらいは知っていますよ、よく図書管理人室にあるタバコとかの掃除とかもするんですよ」

 この問いには沙羅が答える、沙羅もこのことについては気になるようだ。

「星野先生はそんな事までさせているのか……」

 清水先生ははぁーと溜息をついた。

「先生話しが見えません結局なんなんですか?」

 沙羅が痺れを切らしたのかストレートに先生を問い詰める。ちょっと行き過ぎ感があるな。

「分ったよ、あの人は煙草を吸っているけど吸いすぎて本人が持っている分だけじゃ足りなくなる事がとても良く起きていたんだよ」

 先生は今ですら大量の煙草を吸っている人だ、今以上に吸っているとなると……駄目だ、想像できん。清水先生は話しを続ける。

「それで星野先生は煙草が切れたときどうしたかと言うと俺達の煙草を狩に来るんだよ、大量に……最近は無かったんだけどなー」

 清水先生は何かを思い出すように懐かしむようにそう言った。懐かしむ……?

「あぁー最近来てくれませんよね……」

「あのすがり付く時の表情とか態度とか……最近見てないなー」

「ちょっと先生方生徒が居る前で何言ってるんですか!?」

 あれ? だんだん雲行きがおかしい方向に行ってないか? 男性教員の態度が……。

「最近煙草値上がりしたけどあの人綺麗だからな……あげちゃおうかな……」

 ついに清水先生までもが狂い始めた。目が虚ろだ……。

「な、なんなのこいつ等……」

 隣に居た沙羅が男性教員の様子を見ながら怯えたように呟いた。沙羅の言葉には俺も激しく共感するぞ、なんだ、こいつ等?

「ほら俺の煙草を持って行きなさい、ちゃんと清水先生がくれたって言うんだぞ?」

 清水先生が何やらゴソゴソとバックの中を探り始めたと思ったら未開封の煙草を取り出して俺達の前に差し出した。

「あ、先生それはズルイじゃあありませんか!? おい君達俺の煙草も持って行くんだ清水先生なんかよりもいい煙草だぞ? 俺の持って行けそして俺のだって言うんだぞ?」

 清水先生の後ろに居た岸と呼ばれてた先生がスーツの内ポケットから真新しい煙草を差し出した。

「そんなこと言ったら俺の持って行って行くんだ今ちょうど買いに行った所だから大量にあるぞ、二つなんかじゃ星野先生は足りないだろうからなーハッハッハ」

 何故か清水先生を皮切りに次々と職員室中の先生達からの大量煙草カンパが始まり我先へと渡してくる。こいつ等やばいぞ! 俺と沙羅はただ驚異的なスペードで集まっていく煙草達を呆然と眺めていた。

「こんなに集まるとは……なぁ沙羅一体何者なのだろうか星野先生って……」

「そんなこと私に言われても分んないわよ、ただの図書の先生ではなさそうね」

 これは星野先生だけじゃなくてこいつ等にも大分問題があるようだな。こんな連中が教師でこの学校大丈夫か? 結局集まった煙草は手では持ちきれないほどに集まりビニール袋で持って行くことになった。職員室を出るときには男性教員総出で星野先生によろしくーととても暖かい見送りを貰った。

「はぁー想像以上だったわ、まさかこんな事になるとは……疲れたわ」

「本当だよな、あんなに壮絶な戦いになるとは思いもしなかった」

 俺と沙羅は二人して職員室から図書室への帰り道を歩いている。来たときと違い二つのテンポよくなる廊下を歩く音に詰り煙草の詰まった袋を運ぶためガサガサと言う音が増えて静かな廊下に響いていた。

「これだけあれば当分は煙草で困る事は無いわね……足りるかしら?」

「足りないと思う数日分だな」

「先生って月々煙草代でどれくらい掛かってるのかしら?」

「相当な金が掛かってるだろうな、何冊本が買えるか……」

 そんな話しをしながら俺達は歩いていた。そうして廊下を歩いていると俺は廊下に張ってある手作り感溢れるチラシを見つけた。

「なんだ、これ?」

 そのチラシの前で俺は一度立ち止まる。

「なぁ沙羅これって近いうちにあるのか?」

 そのチラシについて沙羅に聞いてみる。これは面倒だなー。

「ええそうね、近いうちに……もう直ぐね、直ぐそこに迫ってるわね」

「激しく面倒だ」

「そんなこと言わないものよ、楽しみにしている人たちも沢山いるんだから」

 沙羅は苦笑いをしながらそう言って直ぐに行くわよと言って歩き出す。俺も沙羅の背中を煙草がぎっしり入ったビニール袋をガサガサ言わせながら追いかけた。

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