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ガンジーと掃除用具入れ(3)

 初めに二階への階段を下りる。この学校の階段は二階から三階へだけではなく更に二階に降りてから直ぐ隣に一階へと続く階段がある。しかも階段は下りる途中で一回曲がる構造である。三階から降りる時点で不良達の視界から一瞬消える事が出来る。二階に付いたらそのまま直ぐ横にあるゴミ箱を一階の階段へと蹴り落とす。

 ガコーン――! ガコガコ――!

 ゴミ箱が勢い良く落ちて行く。そうしたら音にまぎれて近くの教室へと身を隠すのだ。ここは二年の教室になる訳だが、やはり自分達以外の教室は違和感があるな……。

 教室の様子は薄暗く全体は分らなかった。来る時は出ていた星達も曇り空へと変わり果てて消えついには雨がぽつぽつと降り始めている。

「下に行ったぞ!」

「おう!」

 と降りてきた不良達が威勢よくゴミ箱に釣られて更に一階へと降りて行く。

「ふぅー、一応まいたか……」

「シクシク……」

 足音が消えるのを待ち、一息ついてから話し出す。

「な、何とかなったね」

「グスン……」

「これからどうするのよ?」

 ガタガタ――。

「沙羅はもう落ち着いたか?」

 コイツが落ち着かなきゃ話にならん。

「そうね、大分落ち着いたわ……って、ずっと冷静だったけどね」

「シクシク……」

 沙羅は自分で言うように大分落ち着きを取り戻した様子だった。

「じゃあこの後どうすれば良いか分るか?」

「うぇーん」

 沙羅に確かめる事も含めて訊ねる。

「そうねぇ、図書室の星野先生の所まで行けば良いんじゃない?」

 きちんと考える事が出来ているようだ。これで少しはマシか。

「そうだな、取り敢えず星野先生の所まで行こう。何とかなるだろう」

 次の予定も決まった。直ぐに移動を開始しようと言う事で立ち上がる。

「じゃあ二人とも行くか」

 俺は教室から出ようとする。しかし斉藤が動こうとしない。

「おい斉藤、どうした?」

 見れば斉藤の顔は放心した沙羅と同じかそれ以上の青さだった。

「カっちゃん大丈夫?」

 沙羅も心配している。

「なぁ、アレ何だ……?」

 顔を青くした斉藤が教室の端を指差す。

「アレってただの掃除用具入れだろ……」

 俺達は後ろの扉から入ったので外側に掃除用具入れが暗闇の中薄ぼんやりと見える。

「さっきから泣き声聞こえない? 多分あそこからなんだけど……」

 斉藤がまたおかしな事を言い始めたな……。なんだコイツ霊能力でもあんのか? しかしそう言われれば俺にも聞こえた気がした。さっきから逃げる事しか考えてなかったから気にならなかったが。

「あぁー、気のせいじゃないのかー……! 実は私も聞こえてた……」

 また沙羅の顔から元気が無くなっている。沙羅は右手を頭に当ててヤレヤレと頭を振った。さっきよりも冷静だ、大分耐性が付いたようだ。

「シクシク……」

 ギク――!

 俺達の動きが止まる。一度意識してしまうと無視は出来ない。今日は良く動けなくなる日だな……・。

「……そこに誰か居るの?」

 掃除用具入れから女と思われる声がした。その声は泣いて少し霞んでいる。

「うおぅ!?」

「うあ!?」

「ひっ!?」

 その声にほぼ同時に三人とも驚きの声を上げた。コレはかなり怖い……。

「何でこんな事するの……!? 早くここから出してよ!」

 ドンドン――!

 鉄製の用具入れが大きく音を立てる。俺達は何もしていません!

「はは、は、早く出ましょう……」

 沙羅が後ずさりながら提案する。

「あ、あぁそうだな……」

 俺も一歩後退する。本物なんてまっぴらだ。

「あいつ等どこだぁー! ゆるさねぇぞ! 出て来い!」

 その時直ぐ近くから不良の声がした。コレは近いな……。そんなに怒る事したかな? まあ、したんだろうな。

「くそ、これじゃあ出られねぇぞ……!」

 小声で悪態をついた。なんて間の悪い……。

「貴方達由香里さん達じゃないの?」

 俺達がどうしようか考えていると、後ろの掃除用具入れから嗚咽と共に女性の声が訊ねてきた。由香里さんって誰だぁぁぁー!

「うおぉー……!」

 俺は話しかけられて恐怖で言葉を失う。どうなってんだ? 俺以外も呆然としている。

「ここから出して! 出られないの! 閉じ込められてるの!」

 ドンドン――!

 女の声はさっきの不良達と比べると随分幽霊らしいが、それでも冷静に聞けば人間らしい物だと思う。

「あ、見てアレ! ロープで縛られてる!」

 斉藤が掃除用具入れを指差している。そう言われてもう一度良く見ると、掃除用具入れはロープでグルグルと縛られ開かないようにされていた。幽霊ならこんな事、しないよな……多分。ここも普通は使われてる教室だし一日中こんなのが入っていたら授業にならないだろうな……。

「君は生きてるのか?」

 声の主に恐る恐る訊ねてみる。実際かなり頑張っていると思う。

「勝手に殺さないで……」

 声の主にはさっきの元気は無い、生きているなら元々気が強くないのだろう。

「うえぇーん」

 声はまた泣き始めた。大分子供っぽい泣き方だな。

「何か可愛そうね……」

 沙羅の表情からはもう不安の色は消えて心配の色が見える。

「そうだね。出してあげようよ」

 斉藤も沙羅に賛成する。別に良いけどお前らいい奴過ぎないか? 幽霊だったらどうする気なんだ。

「出してくれるの?」

 女の声は泣きながら聞いてくる。

「しょうがない、出してやるよ。その代わり暴れたりするなよ」

 そう言いながら俺は人が入っているで、あろう掃除用具入れへと近づいていく。沙羅と斉藤も俺に続く。

「くぅー! コレ硬いわね……」

 沙羅が愚痴る。縛ってあるロープは頑丈で簡単には解けない。しかも一本で無く三本という何とも俺達用のやり方だ……。仕込んでんのか?

「早く出してよぉ」

 中から急かしてくる声はまだ泣いている。

「少し黙っていろ、今出してやるから……」

「よし! 解けた!」

 斉藤のロープが解ける。

「やった! 解けた!」

 続いて沙羅も。こうして俺が一番遅くなった。いや、勝負じゃないんだけどね……。

「おら、解除ぉー! さっさと出な!」

 俺は閉ざされた扉を勢い良く開け放った。次の瞬間!

 ドサ――!

「うげ!」

 ガツン――!

 開けると突然視界が勢い良く回転し、気付くと俺は床に仰向けに倒れている。しかも倒れる時に後ろの椅子に頭を思いっきりぶつけた。激痛で意識が飛びそうになる。悶えたいのだが身体が何故か動かない。

「うあーん! 怖かったよー!」

 かなり近くから声が聞こえた。どうなったんだ……?

「うわ。大胆」

 斉藤の声が聞こえるがどう言う意味か理解できない。

「ちょ、ちょっとアンタ! 離れなさいよ!」

 沙羅も声を上げている。俺は何とか痛みに耐え、立ち上がるのはキツイので、頭を上げた。

「うえぇーん」

 なんだコレは? 見れば奇妙な光景が存在した。仰向けで倒れる俺の身体の上になにやら少女が抱きついて泣いているではないか。それもかなり強く掴まれているため身動きが取れなかったのである。少女はその後沙羅の頑張りにより俺から剥がされた。

「……で、君は誰なんだ?」

 俺は頭をぶつけた椅子に腰を下ろしぶつけた所を押さえて座りながら訊ねる。当たった所は瘤になっている。まだ痛みが引かない。コレは当分続く……。

「えっと、私は高坂美優です……」

 高坂美優と名乗った少女は今は沙羅の横に立ち俺と斉藤に向き合っている。

 改めてその姿を見ると背は沙羅よりも少し低いくらいで、まぁ女にしては背の高い沙羅より少し低いのだから平均だろう。髪は長くウェーブしていて驚いた事に色は金だった。整った顔つきや色などからして染めたのではなく地毛だろう。とするとハーフかな? 名前はモロ日本だけど……。

「高坂さんねぇ……」

 聞きたい事はまだあるが頭が痛くて手を抜いてしまう。

「あ、あの……」

 高坂さんは俺のほうを申し訳無さそうに見つめてくる。

「先ほどは取り乱して抱きついたりしてすいませんでした……」

 高坂さんは顔を赤くしながら本当に申し訳なそうに謝って来た。

「あぁ大丈夫だ、この位。気にすんな」

 まだ痛みはかなりあるが初めより収まったしな。

「何となく分るんだけどさ、美優ちゃんは何で掃除用具入れに?」

 俺の後ろで窓に寄りかかる斉藤が痛みで怠ける俺に代わって質問を続ける。っていきなり『美優ちゃん』か……。

「実は私、由香里さん達に閉じ込められてたんです。由香里さんって言うのは今あなた達を追いかけてる人の事です」

 と高坂さんは説明してくれた。

「閉じ込めるなんて酷い! 何でそんな事すんのよ! やっぱりあいつ等許せないわ!」

 沙羅が怒りに拳を握り振るわせる。驚かされた恨みもあって怒りは大きいのだろう。

「私の髪の色が気に入らないからだって言われました……。昔からなんです……」

 高坂さんは俯いてそう呟いた。

「何よそれ、そんなのとんだ言いがかりだわ! 高坂さんが綺麗だから嫉妬でもしてんじゃないの!?」

「そんな事無いですよ……」

 高坂さんは沙羅に綺麗と言われて顔を赤くした。

「そんな事あるの、高坂さんはもっと自分に自信を持つべきだわ」

 熱くなった沙羅がまだ褒める。こんな時に何してんだか……。

「取り敢えず俺達はこれから図書室に移動するけど、高坂さんも来るか? 一人より安全だと思うし、あいつらに見つかったら何されるか分からんしな」

 本心から高坂さんを誘う。やましい意味はない。くれぐれも。

「良いんですか? 私迷惑じゃ……」

 高坂さんは少し驚いた様子だ。迷惑ならもうかけられているので、気にしないのだが。

「当たり前じゃない。一緒に行きましょ」

 沙羅が後押しする。俺も無言で小さく頷いた。

「あ、ありがとうございます!」

「うん、普通もいいけど笑った方がやっぱり可愛いわ」

 沙羅が微笑みながら言う。高坂さんはまた恥ずかしそうに下を向いた。全く女子どもはコレだから困る、面倒な奴らだ。

「何時までも話してないで行くぞ」

 椅子から立ち上がる。その時……。

「そこに居るのは分ってんのよー! 早く出てきなさい!」

 廊下からこちらに向かう足音と女の声が聞こえた。

「しまった!」

 俺達はさっきから大声で話し過ぎたのだ。不良達に居場所がばれるのは当たり前の結果と言えるだろう。

「出ないんだったらこっちから行くわね……!」

 廊下の声がそう言い終えると、いきなり教室の扉がバン! と音を立てて開けられた。

「よくも逃げてくれたわね。それに美優まで逃がしちゃって……どうしてくれようかしら?」

 多分由香里さんであろう人が教室へと入って来る。その後ろには三人の男子生徒と一人の女子生徒が不気味な笑みを浮かべて立っている。

「由香里さん……」

 後ろに沙羅と共に非難した高坂さんが呟く。やっぱり由香里さんか……。ああ、確かに由香里さんっぽいな……。由香里さんって感じだ。

「このまま帰してくれないかな? あんたらの事は黙っておくからさ」

 無理だと分っているけど一応聞いてみる。

「そんなのダメに決まってんじゃない。私達さっきそこの女に馬鹿にされて気が立ってんのよ。あんた達がどう言おうが少し痛い目にあってもらうわよ。もちろん美優、あんたもね」

 由香里さんは笑顔でそう言った。その女と言うのは沙羅だろう。馬鹿にしてたね、確かに……。

「そんな……」

 高坂さんはそう言って黙りこんでしまった。

「あんた達ね! 高坂さんをこんな所に閉じこめたのは!」

 沙羅が由香里さんを指差し声を上げる。

「そうよ、だってウザいんだもん。あははは!」

 沙羅の問いに悪びれも無く笑いながら答える由香里さん。俺は広げていた手を拳へと変えた。高坂さんはさっきから一言も俯いたまま話さない。

「あんた達本当に許せない……! 最低ね!」

「許せないからなによ、アンタ達にこの状況で何が出来るの?」

 沙羅が怒りに震えながら呟くが、由香里さんは余裕の表情だ。

「あんた達、やりな!」

 由香里さんが後ろに居る男子生徒へと顎で合図する。すると三人の男子生徒達が一斉に俺達の方へ動きだした。なんだ、お前ら子分なのか……?

「桂! カちゃん!」

 後ろで沙羅が叫ぶ。

「大丈夫だ! 斉藤行くぞ、二人に怪我させんなよ!」

 俺は沙羅に返事をして隣で俺と同じく拳を作っていた斉藤に声をかける。

「分った! こいつら許せねぇ!」

 斉藤はそう言って俺ともに相手へと歩き出す。

「二人とも止めないと危ないですよ、沙羅さん!」

 後ろから高坂さんの声がする。

「高坂さん大丈夫だよ。二人とも強いんだから……!」

 その声は少し震えている。気のせいか……?

「そんな……」

 高坂さんが何を言ったのかもう聞こえなかった。まず一人目が俺に向かって来る。

「おら!」

 相手は攻撃範囲内に来るといきなり殴りつけて来た。しかしその拳はあまりに大振りで見切りやすい。その拳を完全に見切り左へと避ける。

「甘い!」

 俺は避けた相手の手首を右手で掴み取り手前に一気に引く。相手の身体は引っ張られて俺の方へ抵抗無く引き寄せられる。

「墜ちろ!」

 そしてそのまま引いた勢いをつけたまま空いている左手で相手の右頬をカウンターで本気で殴り抜ける。

「ぐえ!」

 殴られた相手はそのまま俺の腕から離れ来た方へと飛んで戻って行き、倒れて動かなくなった。

「斉藤、そっちにも行ったぞ!」

 二人目が斉藤の方へと向かっている。

「分っている!」

 斉藤が返事をする。

「桂危ない!」

「避けてください!」

 斉藤の方を見ていると後ろから沙羅と高坂さんの声がした。そう言って右を見た瞬間、こちらに来ていた三人目に左頬を殴られた。

「ぐっ!」

 体勢が崩れるが何とか踏みとどまる。次に俺の腹へと拳が入る。

「がっ!」

 可笑しな声が漏れる。だがコレも踏ん張ってやる。こんなんじゃ倒れられねぇよ!

「畜生!」

 俺は余裕の表情になった相手に体勢を整え、腹に重たいフックをお見舞いする。

「うっぐ!」

 相手も変な声を上げるが倒れるには遠い。

「まだまだ!」

 腹を押さえる相手の頭を持って無理やり体勢を立て直させてそのまま後ろへと押し返し、ここで体勢を崩させる。

「どうりゃぁぁー!」

 バランスが治らずにバックする相手に俺は開いた距離を最大限に利用してこれまた本気で肋骨あたりにドロップキックを叩き込んだ。

「ぶぅえ!」

 くらった相手は先ほど同様来た方向へと戻って止まった。

「おら!」

 声がして斉藤の方を見ればちょうど背負い投げでフィニッシュを決めている所だった。

 斉藤の相手は受身を取れずに地面に叩きつけられて動けなくなっている。その後斉藤に抱えて投げられて無事入り口へと戻って行った。無事全員帰宅。

「ちょっとあんた達、何やられてんのよ! 早く立ちなさいよ!」

 由香里さんは足元で蹲ってうめき声を上げる男子生徒達を立たせるが、このまま続けられそうな奴は居ないだろう。

「くそぉ……いてぇ……」

 俺にドロップキックをくらった奴がうめき声と共に言う。

「まだやんのか? 来るなら来いよ」

 なるべくドスを利かせて言う。こちらもいっぱいいっぱいだが、こういうのは言ったもん勝ちだ。

「ひぃ!」

 そいつは一瞬怯えた表情を見せた後、悪態をついてから立ち上がり教室から出て行った。

「おい待て!」

「一人で逃げんな!」

 と最初の奴をきっかけとして残りの二人も逃げて行った。由香里さんじゃない方の女子生徒は男子が逃げる前から消えていた……と言う事で、残りは由香里さんだけである。

「さぁ、アンタはどうするんだ?」

「畜生! 覚えてろよ!」

 なんて少し前の時代の悪者みたいな台詞を吐いて帰って行った。ずっと思ってたんだが、古くないか?

「ふぅー……。くそぉー、マジでいてぇ……」

 一段落付いて一気に力が抜ける。

「桂! 大丈夫!?」

「あぁ何とかな」

 駆け寄ってきた沙羅に俺は殴られた腹を押さえながら答える。

「何で喧嘩してる時に余所見するんだか……。はぁー」

 と斉藤もため息を付きながら近寄って来た。

「うるせぇ……」

 本当にその通りだと自分でも思う。やはり慣れない事はするもんじゃないな。

「お二人とも怪我はありませんか……?」

 最後に高坂さんが斉藤と俺を心配そうに見つめて来る。

「全然平気だよ、ノーダメージさ!」

 斉藤は爽やかに答える。

「別にないよ」

 俺も所処痛いが特に問題が無いのでそう答えた。

「そうですか、良かった……。でもお二人とも強いんですね。その……失礼ですが、良くやるんですか?」

 高坂さんはよほど驚いたのだろう、そんな事を聞いてきた。

「あはは! そんな事無いよ、二人ともほぼ初めてだよ」

 斉藤が笑いながら答える。

「でも出来るとは思ったけどあんなに上手くいくなんて思わなかったわね。始まった時はどうなるかと思って心配したんだから。本当やっぱり何でも読んでみるのもね」

 隣で沙羅も微笑みながら言う。

「えっ? やった事ないのにあんなに強いんですか? それに読むって……?」

 高坂さんは俺達の会話に着いていけず混乱している。そこへ沙羅が笑顔で簡潔に説明してくれた。

「あのね、少し前に暇な時があって、その時桂とカッちゃん二人でずうっと格闘技の本読んでたのよ。実際にやったりしながら……。結構使えるのね、驚いちゃった」

「へぇー、すごいんですね!」

 さっきから高坂さんは明るい。だけど……。

「高坂さん、そんな事より……すいませんでした」

「はぁ? あんた何言ってんのよ?」

 沙羅が不思議そうに聞いてくる。だがやはり高坂さんの顔からはさっきまでの元気は無くなり、暗い表情になっていた。

「沙羅、考えてみなよ。あの人達は何もしていない高坂さんを閉じ込めるような人たちだよ? さっきみたいにやられて何もしてこない訳ないでしょ。しかも仕返しをするなら俺達じゃなくて確実に高坂さんに行くだろうね……。それを分ってて俺達は喧嘩したんだ、謝らないと……」

 斉藤も分っているようだ。俺の代わりに説明してくれる。斉藤の説明を聞いて沙羅もようやく理解したようだ。

「良いんですよ、別に……。あの時はああするしかありませんでしたし……私なら大丈夫です。慣れてますし……」

「でも……」

 高坂さんは暗い顔で言った。沙羅は何か言おうとするが言葉が無いらしい。

「もし俺達に何か出来る事があったら何でも言って下さい」

 なんとしてもこの責任は果たそう。そう思った。

「ありがとう……」

 高坂さんは少し笑ってそう言った。何だかその笑顔が逆にきつかった。

「へぇー、きちんと責任取りますなんて偉くなったもんだなあ……杉下よ」

「星野先生!?」

 聞きなれた声に驚いて振り向くと、入り口の壁に寄りかかり煙草を吹かしている星野先生がいた。

「杉下の気持ちは立派な事だが、その心配は無いよ」

 ふぅーっと煙を出しながら良く分からない事を先生は言う。俺の隣では斉藤が嫌そうに服の袖で鼻を覆っていた。

「どういう意味でしょうか?」

「こんな暗い場所じゃ話す気にならん。図書室に行くぞ」

 そう言って星野先生は図書室の方向へと歩き出す。俺達も先生の言葉が気になり付いて行く事にした。




 図書室に着くと星野先生はカウンターに座り、俺達もその近くである普段の定位置に付いていた。今は先生が『あった事を全部話せ』と言うので説明を終えたところである。全てを聞き終えると先生は……。

「高坂が居たのは予想外だが、大丈夫だぞ。杉下の心配は直ぐになくなる」

 先生は落ち着いて煙草を吹かす。

「先生、さっきから気になってるんですが、何で大丈夫なんですか?」

「そうだな……」

  斉藤が今の最大の疑問を尋ね、先生が何か話しだそうとしたその時、突然先生の携帯が鳴った。

「全く、遅いぞ……」

 そう呟いてから先生は電話に出た。

「私だ、連絡するのが遅いぞ。仕事はしたのか?」

 電話の相手となにやら話し込む先生。

「分かった、助かったよ。お仕事ご苦労さん」

 先生はそう言うと携帯を切った。一体何がどうなってるんだ?

「先生さっきから何なんですか!? 突然電話し始めるし、話す気あるんですか!?」

 沙羅が少しイラつきながら訊ねる。

「答える気ならあるさ。電話もそれに必要な事だ。まぁ、初めに外を見てくれ」

 そう言いながら先生は窓際に行きカーテンを開く。

 俺達は言われた通り窓際に来た。空を見ると雨は止み、来た時よりも綺麗な星空が広がっている。そうすると先生が下を指差しているので一同視線を下へ。すると下には六つの人影が見えた。その中の五人にはしっかりとした見覚えがある。後の一人は思い出せない。

「何であいつらが……?」

 見覚えのある五人組は先ほどで逃げて行った由香里さん達だった。しかしどうも様子がおかしい。皆なんか暗くないか? そしてうろ覚えしかない人影がこちらに向かって手を振っている。見た目からして男らしいが、背はかなり低い。髪は無くてスキンヘッドと言う奴だ。ぶっちゃけ怖いオッサンにしか見えんぞ……。

「あれってもしかして……」

 沙羅が何か気付いたようだが俺は全く分からない。

「あぁそうだ。ガンジーだ」

 先生は当たり前のように謎の言葉を発する。何だ、坊主か?

「はぁ? 誰だ、そりゃ?」

「えっ!? ガンジーってあの?」

 斉藤が意味不明な事を発する。この学園では常識なのか、ガンジー……? そんな俺の疑問にクスリと笑いながら高坂さんが答えてくれた。

「あのですね……。ガンジーと言うのはお坊さんではなくて、この学校の用務技師さんのあだ名ですよ。『身体がムキムキでとても頑丈なジジイだから』ってガンジーなんですって。変ですよね」

「ガンジーね……。でもどうしてそんな人が居るんだ?」

「ガンジーとは先生考えましたね……。確かにあの人なら大丈夫かもしれませんね……」

 沙羅は少しニヤけながら頑丈すぎるジジイことガンジーを見下ろす。

「まぁ腐れ縁で、こんな事もあろうかと呼んでおいたのさ」

「全くわからんぞ……誰か説明しろ」

 俺以外分かっているようだが皆俺を無視してくる。頑丈なジジイがどうしたってんだ。

「あ、ああ……そうね。桂聞いて、あそこに居るガンジーにはもう一つ呼び名があるの」

 沙羅が話を始めてくれる。もう一つの呼び名だと? もう既にヘンテコあだ名が有るのにまだあるのか……。

「ガンジー、又の名を仏の剛田と言って、彼に掛かればどんな札付きの悪でも直ぐに更生させると言われる不良達から恐れられる男よ。あいつらも仏に捕まったからには数日後には頭丸くして念仏とか唱え始めるんじゃないかしら……」

 沙羅が恐ろしそうに説明してくれる。それはそれで大丈夫なのか? 別に何も恐れなくとも普通にいい人のようだが……剛田って本名なのか?

「なるほど、だからあんなにあいつ等表情暗いのか」

 やっと理解した俺が呟く。

「そう言う事だ。だからこの後の事は心配するな」

 後ろで腕組をしながら俺達の方を見る星野先生。そんな星野先生にお礼を言う。

「そうですか、ありがとうございます」

「なに、どうって事無いさ」

 俺の言葉を聴いて煙草を吹かしながらそれだけ呟いた。

「あ、そうだ。私気になってた事があるんだけど」

 一息つく間も無く沙羅が何か言い出した。まだ何かあるのか。

「気になってる事ってなんですか?」

 沙羅の隣で先ほどまでの不安な表情が消えている高坂さんが逆に沙羅に聞き返す。

「あ、高坂さんは居なかったんだけど……。あいつ等に会う前に私達が感じた匂いって何だったのかな? って思って」

「ああ~、アレは煙草の匂いでしょ」

 斉藤が沙羅の疑問に答える。

「俺もそう思うな、俺と沙羅は普段から先生の煙草の匂いを嗅いでいるから慣れていて分からなかったんだろうよ。だから煙草の匂いに敏感な斉藤だけが感じたって事だろ」

 斉藤よりも少し詳しく説明すると、沙羅は納得した様子で手を叩いた。

「なるほどー、そう言う事……」

「沙羅に続き、俺も実は気になってる事があるんだけど……」

 一つ疑問が解決したので、次は俺が話しだす。

「まだなんか有ったっけ?」

「いや、もう終わった事だから良いんだが……ちょっとな」

「ふぅーん、そうなんだ。何でも良いけど早くしてね」

 沙羅はとても興味無さげに口を押さえて、ふあぁーと欠伸をする。お前は自分の疑問が解決したらそれで良いのか!? そんな沙羅は無視して話を切り出した。

「俺が気になっているのは先生、貴方の事です」

 俺が本題へと入る。俺の言葉を聴いた先生はピクリと肩を動かした。

「何だ、私が何かしたか?」

「どうしたんですか? 先生はすごく良くしてくれましたよ?」

 高坂さんが不安そうに尋ねてくる。

「あ、別に星野先生が悪者だって話じゃないから心配しないでくれ」

 俺がそう言うと高坂さんは、『そうですか』と言って静かにしてくれた。その会話を聞いていた星野先生はクッっと小さく笑った。

「えっと、だな……。さっき高坂さんが言った通り先生は良くしてくれた。先生のおかげで助かった部分も多いと思う。でも何だか準備が良すぎると思わないか? 先生は今回俺達だけで肝試しをするのは危険だからって事で来ただけなのに、普通にしていたら必要の無い剛田を呼んでいたり、さっき『高坂が居たのは予想外だ』って言ったりして……まるで不良が居るのは分かってたみたいな言い方ですよね? 後考えてみれば、そもそもこんなバカみたいな肝試しに先生が来るとは思えないんですよ」

 疑問に思ったことを全部一気に言ってみる。

「ちょっとバカみたいって何よ!」

 沙羅が文句を言ってくるが無視だ。

「うーん、確かにそう言われればそうですね……」

「って事で俺が言いたい事は、先生は最初から高坂さん以外の事を知っていたんじゃないですか? って事です。あくまで俺の想像ですけど」

「……私がそうした動機は何だ?」

 俺が言いたい事を言い終えると、先生は少し黙ってからそう言った。

「動機ですか……。コレも俺の想像ですけど、多分単なる先生の暇つぶしじゃないですかね。何故かは分からないけど先生は前から夜中の学校で不良の生徒達が屯しているのを知っていた。そしてある時図書室で屯している三人の生徒が夜中の学校で肝試しをしようとしているのを知った先生は、何を思ったかその生徒達と不良の生徒達をぶつけてみようと考えた。面白半分に。ただぶつけるだけじゃ何が起きるか分からないので予め何が起きても良い様に、事を止められる剛田を呼んでいた。そんな所じゃないですかね?」

 俺が長台詞を言い切ると先生の顔は明らかに笑っていた。星野先生を初め皆俺が話している間は静かにしてくれていた。ところで斉藤、さっきからお前椅子に座ってうつ伏せになっているけど寝てないだろうな?

「くっくっく……」

「先生、どうでしょうか? 外れてると俺、かなり恥ずかしいんですけど……」

 多分当たってると思う……。済ました顔してるけど結構緊張してるんだぞ。

「いや合ってるよ。正解だ、驚いたよ。さすがに推理小説ばかり読んでいるだけはあるな」

 先生はそう言って笑った。良かった、これで間違っていたらひどい事になっていた所だ。

「こんなの全然推理だなんて言えませんよ。ただの想像でしかありません」

 確かに多少考えはしたが、こんなの推理なんて言えない……とはいえ、肩に入っていた力が一気に抜ける。ふぅー、緊張した……。

「杉下の言う通り、確かに私は前から不良がいるのを知っていたよ。こんな事をしている理由も大体当たってる」

 先生が当たっていると言ってくれて良かった。この人は当たっていても白を切ってきそうで怖かったからな。

「えぇー! 本当なんですかー!?」

 沙羅が驚きの声を上げる。

「本当だ」

 先生がそう言いながら煙草を吹かし笑った。

「でも何で? 言ってくれれば良いのに」

「悪かったな、山本。でも言っちゃたら覚悟してるからつまらないだろ? こうゆうのは自然なのが良いんだよ」

 『悪かった』なんて言ってるけどその表情には悪びれている様子は無い。

「でもどうして先生は夜に不良が居るなんて知ってたんですか? 図書の先生なんて普通の先生より帰るの早いですし、良く分かりましたね」

 何時の間にか起き上がっていた斉藤が急に動き出す。

「あ、カっちゃん起きてたんだ」

 沙羅が軽くそのことに触れた。俺も寝ていたと思ったが……。

「あぁそれについては単なる偶然で知ったんだよ」

 先生が斉藤の問いに答える。偶然って何だ?

「数日前に夜家で図書管理人室に書類を忘れたのに気付いて取りに行ったんだ。その時今日と同じように三階に明かりがついていてな、気になったんで書類を取った帰りに寄ったんだよ。そしたらあいつ等の声がしたんでな、それで分かったんだよ」

 先生は不良が居た理由を簡単に説明してくれた。

「ちょっと待ってください、先生気付いた後どうしたんですか?」

 ふと聞いてみる。嫌な予感がした。

「そうだな、面倒なんでそのまま何もせず帰った」

 先生は豪快に笑いながらそう言った。まぁ俺の予感が当たった訳だ……。

「そんなの先生だったら止めるのが普通でしょう!? てか先生じゃなくても止めるべきですよ!」

 沙羅がダメ人間に突っ込む。はぁー、聞かなきゃ良かった……。

「いや、どうせ私だけじゃ何も出来ないし、その内言おうとは思ってたのだが……これまた面倒でな。杉下達が肝試しするって言うもんだから、ついでに片付けようと思ったのさ」

 先生はまたしてもダメぶりを見せてくる。星野先生らしいと言えばらしいけどさ……。

「じゃあ何ですか? 今日の事は全部星野先生の掌の上だったって事ですか?」

 斉藤が結局の結論を口にすると、さらっと先生はそれを肯定した。

「まあそういう事になるな。ご苦労さん」

「うぁーひでぇー! そんなのありかよ……。何か一気に疲れた……」

 斉藤がそう言ってまたも机に伏せて撃沈してしまった。

「私も何だか疲れちゃったわ……」

 今回は沙羅も撃沈する。

「はぁー本当だよ……」

 そしてこの俺も肩を落として撃沈する。先生には敵わん……。

「ふふふふ……!」

 その時、沙羅の隣に居てずっと静かにしていた高坂さんが明るい笑顔で笑っていた。

「え……? どうした?」

 楽しそうに笑う高坂さんに尋ねる。

「いえ、皆さんとても楽しそうなので……つい。皆さん仲が良いんですね。羨ましいくらいですよ」

 そう高坂さんは言った。嘘を言っている様には見えないな……。楽しそうか?

「そうかな? なんか恥ずかしいわね……」

 沙羅が照れ臭そうにしている。

「私には皆さんのような一緒に色んな事をする友人は居ませんので、羨ましいです」

 高坂さんは少し寂しそうに微笑みながらそう言った。

「暗い……暗すぎる……」

 先ほどの高坂さんの言葉を聴いて沙羅が下を向いて小さくそう呟いた。まぁ俺もそう思っていた所だ。どこまで不幸オーラを漂わせれば気が済むのか。

「高坂さん……」

 続けて沙羅が高坂さんに話しかけた。

「な、なんでしょう?」

 高坂さんはトーンの下がった沙羅に気付いて少し緊張している様子。そのままのトーンで話を続ける今の沙羅が、一番幽霊らしいかも……。

「高坂さん……本好き?」

「ほ、本ですか……? はい好きですよ……結構」

 沙羅に怯えながらも質問に答えていく高坂さん。俺は二人のやり取りを見て笑いそうになるのを我慢する。斉藤と星野先生の二人も会話に笑わずに静かに耳を傾けている。

「良かった! じゃあ高坂さん!」

「なんでしょう……?」

 沙羅の上がり下がりに着いて行けずさっきよりも表情が硬い。

「いえ! 高坂さん改め美優! 貴方図書室クラブに入りなさい! その歪んだ考えを叩き直して上げるわ! コレは命令です!」

 沙羅は大声で歪んだ笑顔を見せる高坂さん改め美優にそう命令した。

「くっくっく……」

 まずい笑いが……。

「と、図書室クラブですか?」

 押されっぱなしの高坂さん。がおどおど訊ねる。

「そう、図書室クラブよ! 読書好きなんでしょ!? だったら入りなさい!」

 完全に沙羅のペースだ。それにしてもうるさいな……気合入りすぎだろ。

「えっと図書室クラブってなんでしょう……?」

 戸惑いながらも何とか把握しようと努力する高坂さん。まぁ気になるよね。何なんだよ、図書室クラブって。

「うるさい、そんな事はどうでも良いのよ! ハイかイイエで答えなさい!」

 どうでもよくは無いだろ! そこ一番大事な所だろうが! 無茶苦茶だろ……。

「え……え……っ?」

 高坂さんが目をグルグルさせながらフリーズした。可愛そうに……。

「え、じゃない! どっち!?」

 そんな高坂さんに沙羅が追い討ちをかける。

「は……はい……」

 ついに高坂さんがフリーズしながら言ってしまった。コレって脅迫なのかな?

「そう来なくちゃ! 期待通りの答えよ!」

 沙羅、アレは誰も断れないと思うんだが。というか結局脅迫だよな?

「あ、あの一体図書室クラブって言うのは何なのでしょうか? そんなの聞いた事無いんですが……」

 フリーズを終えて高坂さんが当たり前の質問をしてくる。

「桂! 言ってあげなさい!」

 突然の沙羅からのご氏名だ。予想もしなかった飛び火だ!

「はぁ? 何故俺なのだ? 斉藤でもいいじゃん」

「うるさい! 口答えするな!」

 反論したら沙羅に怒られた……。こいつは何をどうしたいんだ。しょうが無いな……。

「はいはい、えーとだね。図書室クラブって言うのは、ここ図書室で俺達クラブ会員が好きな本を読んだり話したりしてるクラブの事。実際はそんなクラブ無いから。ただ屯してるだけ」

 適当に説明する。『そんなクラブ無い』って言った時から沙羅がすごく睨んで来てるけど気付かない振りをする。視線が痛い!

「要するに、本を読めば良いんですか?」

「うーん大体合ってるね。それもだけどもっと簡単に言うと、結論は『俺達とお友達になりましょう』って事だよ」

 一言で言い切る。考えてみると薄っぺらいクラブだな……。なんか悲しいな……何故だろう? 俺は気付くと自然に上を向いていた

「友達に……」

 高坂さんが何か言っていたな。聞いてなかった……なんて言った?

「まぁさっきは沙羅に無理矢理だったけど高坂さんが嫌なら入らなくても問題無いから」

 気持ちを立て直してさらっと言い放つ。

「ちょと、桂! アンタ何言ってんのよ! せっかく私が……!」

 沙羅が俺の発言に反発しまくるが適当に無視する。

「高坂さんの好きにして良いよ」

 俺が高坂さんから目をそらさずに言う。どうなるんだろう……結構不安だったりする。

「私なんかが入って良いんですか?」

 高坂さんが小さい声でそう呟いた。

「俺は良いと思うぞ、沙羅に賛成だ」

 呆然とする高坂さんにぶっきらぼうに言う。

「俺も賛成だなー入ってくれたら嬉しいなー」

 机でくたばる斉藤も同意してくれる。

「勝手にしろ、今更三人だろうと四人だろうと変わらん」

 腕組みする星野先生はだるそうにそう言った。ははは……この人らしいな。

「もちろん私は入って欲しいわ。て言うか入りなさい!」

 沙羅も改めて入る事を勧める。

「皆さん……」

 何故か高坂さんは涙目になっていた。可笑しな人だ。

「私……私!」

 高坂さんが今までに無い大きな声と泣きそうな笑顔で叫んだ。




 薄暗い道を歩いている。隣には斉藤が眠そうに両腕を頭に組んでいる。斉藤の反対側にはニコニコとしながら楽しそうに歩く高坂さんが。ちなみにこのメンバーの中に沙羅は居ない。なぜかと言うと俺達は俺の家がある方向に歩いているため、家の方向が違う沙羅とは学校を出た後しばらくしたら別れてしまったのだった。斉藤は眠そうに、高坂さんは楽しそうにそして俺はいつも通りボーっとしながら歩いていた。

「高坂さん、あのさぁ……」

「あっ!」

 俺が隣で楽しそうに歩く高坂さんに話かける。すると高坂さんが急に声を上げた。

「ど、どうした?」

「その高坂さんって言うの、止めません? 何か他人みたいですし。私の事は美優とかで良いですよ、桂君」

 高坂さんは歩きながらこちらを向いて笑顔のまま言ってきた。

「う、うむー……。じゃあ、美優で……」

 沙羅と違ってなんか言いづらいな……。俺らしくも無いし。

「よし! おっけー」

 なんて益々楽しそうな高坂さん改め美優。俺の話は……?

「そう言えば桂君、何か言いたい事が有ったのでは?」

 と美優は俺に聞いてきた。分かってやったのか……。何か調子狂うんだよな……。

「あぁ。美優さ、本当に良かったのか?」

「良かったって何が、ですか?」

 分かっているだろうに。はぁーっと溜息をつきながら続ける。

「図書室クラブの事だよ」

「そうですねー。良かったんですよ、アレで」

 本当に楽しそうだ。

「じゃあ良いけど」

 なんて言いながら前を向く。疲れる、何故か。

「ところでもう直ぐ美優ちゃんの家じゃない?」

 今までただ眠そうな斉藤が突然動き出して話出す。

「あ、そうですね。もうそろそろ曲がらないとです」

 気付いたように美優は曲がり角で止まった。

「じゃあこの辺でさよならです」

 美優は止まったまま言う。

「いや暗いし遅いから家まで送るぞ」

 時間を見ればもう三時を過ぎたところである。女の子が一人で出歩く時間じゃあ無い。

「いえ、大丈夫です。家は直ぐそこですから。三分かかりませんよ」

 美優はそう自慢げに胸を張った。いや自慢じゃないぞ? 斉藤くらいしか悔しがらないぞ?

「そう言う事なら良いか。ま、気を付けろよ」

「はい!」

 俺の心配に元気良く答える美優。何か逆に不安だなー。

「じゃあねー」

「またな」

 隣で斉藤が眠そうに手を振った。俺も手は振らないが別れの挨拶を済ませる。

「はい! さよならです!」

 こいつはアレからずっと元気が良いな。

「明日からよろしくお願いしますね、先輩! じゃ!」

 金色の髪の少女は元気良くそう言って俺達に一礼してから駆け足で帰って行った。

「あれ? 美優って後輩だっけ?」

 斉藤が少ししてからそう呟いた。

「図書室クラブの先輩だろ。学年は俺達より上だぞ、同学年にあんなハーフいないだろ? だからやりづらいんだろうが。大体俺達に後輩は居ないだろ、一年だぞ」

 はぁーっとまた自然とため息が出る。実際はそれだけでは無いが。

「そうか、確かに居ないよね。どうしよか? まぁ俺はあんな綺麗な子が図書室クラブに入ってくれて嬉しいから良いけど」

 斉藤はどうでもよさそうである。コイツらしい……。

「まぁ取り敢えず俺らも帰るぞ」

 俺はそう言ってまた歩き出す。

「了解」

 斎藤も俺の後を着いて来た。

「じゃあな」

 俺の家に着き斎藤とも別れる。

「おう、また明日」

 斎藤は自転車に跨り直ぐに遠く消えていった。

「さて今日は本当に疲れたな……」

 俺は一回大きな欠伸をしてから家に入って行った。




 ジリリリリリ――!

「うるさい!」

 俺は耳元で激しく鳴り響く目覚まし時計を止める。また朝が始まった。昨日はあの後直ぐに寝たのだが疲れが取れている様子はあまり無い。いくらなんでも遅くなりすぎたんだろう。

「うぅー……。眠い……」

 時間を見れば7時半で余裕だが、しかしそんなことも言っていられない。さっさと起きて着替えを済ませる。

「おはよー」

 キッチンで料理を作る母に挨拶をする。どうやらおかずを作っている様子。

「あら、おはよう」

 相変わらず母はのんびりしているなーなんて思いながらいつものようにパンを食べながらテレビを見た。

「さて時間だな」

 家を出る時間になり準備を済ませる。

「行って来ます」

 なんて簡単に言って家を出た。外に出れば昨日と同じく人がたくさん歩いていた。俺もその中に入って行く。

 しばらく歩くと前のほうに遠くからでも直ぐに分かる人物が歩いていた。俺は特に迷いも無く近づいて行く。

「おはよう美優」

 俺は後ろから話しかける。話しかけられた方は一瞬ビクリとしてからこちらを振り返り、俺を確認した。

「あ、桂君。おはようございます」

 美優は直ぐに明るい表情になり挨拶を返してきた。

「昨日は帰れたみたいだな」

 何事も無いようなので一安心する。

「えぇおかげ様で無事ですよ」

 美優はニコリと笑って答えた。

「じゃあ行くか」

「はいそうですね」

 いつまでも立ち止まっていては遅刻してしまうので歩き出す。美優も後を着いて来る。

「おーい! ケイに美優―!」

 歩き出すと直ぐに後ろからこれまた聞き覚えのある声がする。

「斎藤お前、今日はやけに早いな。何かあったか?」

 自転車で直ぐに追いついた斎藤に対して俺が問いかける。

「おう、今日は殆ど寝ていないから早いのだ!」

 そう言われて斉藤を見ると目の下に隈らしき物が……。まあ……時間が時間だったからな。

「そうか……。お前、大変なんだな」

 コイツ今日は授業中ずっと寝てるだろう……なんて思いながら歩いていく。

「この調子だとまだ来るのかな?」

 俺は話しをしている二人の横で小さく呟いた。

「もうそろそろだね」

 斎藤が学校の近くに来てからそう言った。出てくるならこの辺だな……あ、いた。

「あれ? みんなお揃いとは偶然ね。さすが図書室クラブ」

 校門に着く頃になり前に沙羅が歩いていた。

「おはよう美優」

 俺達は一度立ち止まった。沙羅は美優に挨拶をする。

「おはようございます、沙羅ちゃん」

 美優も笑顔で返す。

「あれ? 美優だけなの?」

 斎藤が美優にだけ挨拶をした沙羅に聞く。

「分かってるわよ。二人ともおはよう」

 沙羅がヤレヤレと言った風に挨拶する。

「そうそう! おはよう沙羅!」

「……おっす」

 俺も斉藤に続けて適当に済ませる。

「桂あんたやる気無いわねー……」

「ほっとけ」

 沙羅がため息をつきながら言う。それに対して適当に返した。俺だって斎藤ほどじゃないが眠いんだ。

「まぁ良いわ。そんな事よりあんた達!」

「な、なんだよ……」

 沙羅が唐突に大声を上げた。無防備すぎた俺の頭はその声を聞いてキーンとしてしまう。

「今日は来るんでしょうね?」

 沙羅は普通の声の大きさに戻ってそう言った。

「どこかに行くんですか?」

 美優が不思議そうに俺に聞いてくる。

「図書室の事だよ。こう言うのは大体図書室だから」

 俺は沙羅に聞こえないように美優に言った。

「その事ですか。じゃあ」

 美優は俺の話しを聞き終えると沙羅の方に向き直し、元気良く言った。

「はい! もちろんです!」

「俺も行くよー」

「俺も大丈夫だ」

 続けて斎藤と俺もOKの返事をする。ま、これで全員ってわけだ。

「まあ、当然ね!」

 沙羅は気分が良さそうだ。その後もしばらく話しは続いたのだが……。そんな時俺達の耳に恐ろしい音が聞こえてきた。冷静に考えるに、学校のチャイムの音だ。

「え! 桂、今何時?」

 沙羅が時間を聞いてくる。俺も見てる所だよ!

「今は八時二十分だ! ヤバイ、話しすぎた! 遅刻するぞ!」

 俺はそれだけ言うと学校へダッシュを開始した。

「ちょっと、待ちなさいよ、桂!」

 沙羅が俺の後を追ってくる。

「待って下さいよー……!」

 その後ろから美優が走ってくる。あの子足遅いな……。

「ちくしょー!」

 斎藤は自転車に乗って追ってくる。自転車は流石に速いなおい!

 こうしてそんな風に、いつもと同じでしかしいつもとは少し違う日が始まるのであった――。

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