ガンジーと掃除用具入れ(2)
ジリリリリリリリリ――!
眠い……いつもより眠い……。
ジリリリリリリリリ――!
「うるさい!!」
いつもよりうるさく感じる……。
「くそ!」
昨日は読んでいた本がクライマックスに入り夢中で読んでいたところかなり遅くになってしまったのだ。
「畜生……アイツが犯人だとはずるいだろ……。それにあのトリックは……」
生憎その本は俺の想像を覆す終わりだったのだがかなり面白く起きても読み終えた時のままだった。
「後であいつらにも勧めようかな」
斉藤はダメだろうが沙羅なら行けるかな。
そんな事を考えながらさっさと着替えを済ませリビングへと降りていく。ちなみにただ今の時間は余裕の七時半である。
「おはよう、母さん父さん」
キッチンでご飯を作る母とリビングで朝のニュースを見る父に軽く挨拶をする。
「おはよう桂」
まったりとした声の母と、朝には強い父が返してくる。
「今日は仕事で遅くなるからご飯は食べていて良いぞ。じゃ行くからな」
と、話もせずに出勤して行く。
「行ってらっしゃい」
母が送り出して行く。
「俺も行くかな……」
テーブルの上のパンやスープなどを食べながらニュースを見て家を出て行く。まぁ、いつもの事だ。家から出るとまだ普通の登校の時間であるため結構学生が歩いている。俺もそんな日常に入っていく……。
しばらく歩くともう学校に着いていた。今日は静かだが何故だろう……? 教室に入るとクラスメイトたちと挨拶を交わし席に着いた。ふとそう言えば今日はまだ斉藤にも沙羅にも会っていない事に気付いた。
「アイツらに合わないとスッキリしないんだな、俺は……」
なんて甘い事を思っていたんだ、この時は……。
その後斉藤が遅刻になり驚いた事に沙羅も今日は遅刻していた。沙羅の顔には見て直ぐに疲れが溜まっているのが見て取れた。そして沙羅が遅刻した事に俺は何か底知れぬ恐怖を感じていた……。
その後の沙羅は大体の授業は寝て過ごし昼も特に何をするでもなくぼぉーっとしていたので話を聞く事も出来なかった。それが一日続いた。
そんなこんなで時間は過ぎて行き退屈な授業も終わり学校での唯一? の楽しみであるクラブ活動の時間になりついにその時になった。しかし、その頃には朝の出来事なんか俺も斉藤もこの時には忘れついにその時が来たのだった。
俺と斉藤が何時からか指定席となった席に座り話している時だった。斉藤が今もぼぉーっとしていている沙羅にあの話を振ってしまったのだ。
「沙羅、昨日貸した本読んだ?」
奴なりにこのおかしな空気をどうにかしたかったのだろう、沙羅に昨日帰りに貸した本の話題を振ったのだ。すると突然寝ていた沙羅が起き上がり。
「えっ! あの本って神宮寺の新作の事!?」
テンションが異常に高い……。そのテンションに訊ねた本人の斉藤はキョトンとしていた。
「あのね! 昨日全部読んだんだけど、すごく面白かったのよ! カちゃんは読んでないのか! じゃあ教えてあげるわ!」
先ほどのぼぉーっとしたのとは大違いである。そしてその言葉を聴いて俺は立ち上がっていた。
「ちょっと待て! あの本を一日で読んだだと!?」
あの本は文庫本なんかとは違いきちんとしたハードカバーでその中に文字がビッシリと書かれている様な本であり、人からすれば読むのが早いであろう俺でも普通に読んだら四日ほど掛かった本である。あのジャンルの本にしては異様な多さであった。それを一日だと? どれだけ読んだんだ……。そして。
「そうよ、借りた帰りに少し読んだらとても面白くてお風呂以外ずっと読んでたのよ。そしたら読み終えた頃には外が明るくなってて、そのまま来たものだから一日もう本当に眠くて、眠くて大変だったのよ。遅刻もしちゃうしね。あら? 何か文句でも?」
無いです……。
「で、私思ったのよ! 私もあぁゆうの、してみたいなって!」
未だにテンションが高い……。今なら何しても怒らなそうだ……いや! そんな事考えている場合ではないのだ! 今発言は場合によっては大分危険である。
「あぁゆうのってどうゆうの?」
恐る恐る聞いてみる。
「どうゆうのってそんなのもちろん……」
沙羅の声を聞きながら、あぁ……終わったって思ったんだ……。斉藤は理解できていないし沙羅は言うのを止める気配は無い……。
「肝試しに決まってるじゃない!」
沙羅の声が図書室に轟いていた。
やっぱり、その言葉を聴いてしまった……。
「しかし、何故だ?」
理解出来ていない斉藤が質問する。
「そんなの、本で書いてあって楽しそうだからじゃない!」
「なんじゃそりゃ!?」
沙羅の意味不明な回答に笑いながら突っ込む斉藤。
沙羅が突如言い出した「肝試しをしよう」発言には、斉藤が貸した本が大きく関わっているのだ。今回ちょくちょく出てくる神宮時と言う作家の新しいジャンルに進出した新作本であるが、これは何を隠そうサスペンスホラーなのである! サスペンスホラー……人が死んだり推理をしたり幽霊が出たりと色々詰め込まれていて急がしそうで聞くと面白いのか疑いたくなるが、読むと全てバランス良く整えられていて引きつけられる作品になっているのである。この物語の始まりは主人公達が廃校に肝試しに行くところから始まるのだが沙羅はどうやらその肝試しがしたくなったようである。文章を読むと決して楽しそうには見えないのだが……。
さて、このようなバカな事な早めに考え直させた方が良いだろう。
「何変な事言ってるんだよ、寝言は寝て言え」
そんな変な事俺はしたくないのだ。しかしこの後斉藤が……。
「へぇー何処でやるの?」
えっ……。お前今なんて言った?
「ちょ、ちょっと何言ってるんだ、斉藤?」
もしかして乗る気なのか?
「えっ? 何ってやる場所だけど?」
不思議そうに聞き返してきやがった……。
「さすがカッちゃん! 桂と違ってノリ良いね! 場所はね、この学校が良いと思うのよ」
何故か俺以外は乗り気のようだ……。
「まぁ、ケイよりはね」
俺と違ってってなんだよ……何で斉藤は俺を見下しているんだよ……。
「でも日時はどうするの?」
まぁ、そうなるよな。
「うーん、今すぐにでもやりたいけど、時間はなるべく遅くにしてね」
やはり思いつきなのだろう。
「じゃあ今日でいいんじゃない?」
斉藤までもがノリで考えだした。
「そんなポンポン決めてるけど大丈夫なのかよ」
そんな当たり前の事を聞いてみる。返事は何となく想像は付くけど……。
「私は問題ないわよ、今から楽しみだわ」
と完全に今日行く気の沙羅。
「俺も特にすることないし付き合うよ」
こちらも完全に行く気である。
「じゃあお前ら二人で行って来い」
二人なら本当に行きそうだが俺は遠慮させてもらおう。肝試しなんて面倒だしな。
「えぇー桂来ないの? つまんないでしょ」
残念がる沙羅、だがこのまま無しになってくれると嬉しいのだが……。
「行かないよ」
ここはきっぱり言おう。そんな時俺後ろから忍び寄る人影があった。
「ほう、杉下は何に行かないんだ?」
俺のちょうど真後ろに星野先生が居た。
「先生こそ何しているんですか? 仕事はどうしたんですか?」
本来先生はカウンターに居るべき人である。
「いや、さっきからお前達が話してるんで暇だし聞いてみようと思ってな」
見れば図書室には俺達と少女が一人になっていた。確かにこれでは暇だろう。
「あっ先生、聞いてくださいよ……」
沙羅がこれまでの事を話してしまった。
「成程杉下は怖くて行けないのか……」
話を聞き終えた先生はそんな事を言った。
「別に怖くなんてありませんよ」
何でそうなるんだろうか?
「じゃあ行けよ」
先生は笑っている。がそんな古典的な手には掛からないのだ。
「じゃあ怖くて良いので行きません」
これで良い。
「帰って読みたい本もあるので」
買ったのは良いがまだ読んでいない本がまだ俺にはあるのだ。しかしこの発言が仇となった……。
「新しい本か……」
先生が何か考えだした。
「そういえば杉下、お前この前リクエストボックスに九冊位リクエスト入れただろ?」
嫌な予感がした。
「えぇ、そうですよ。それが何か?」
俺の声は少し震えている……。一方、先生の口は微妙に笑っていた。
「その本どれもマイナーな作家だし、どうせ来ても杉下くらいしか読まないだろうし……。入れるの止めるか」
嫌な予感的中!
「ちょっと待ってください! それは幾らなんでもずる過ぎます! どこ探しても無いからリクエストしたのに! 幾らなんでも!」
リクエストした本はどれも珍しく俺が探しても見つからないものだし、金銭的にも学生には難しいのだ。そこを突くとは卑怯なり!
「ほう、見つからないのか。何かなおさら入れたくなくなったな。皆もそうだろ?」
ここに来てさらに斉藤沙羅の同意を求める星野先生。そんなの分りきっているじゃないか……。
「えぇ、全く先生の言う通りですわね。一人しか読まない本をわざわざ何冊も買う必要はありませんわ。そんなの無駄でしかありませんものね」
なんだその口調は! お前はお嬢様か!
「そうですわね、こんなチキンの為に買う本なんてこの地球上にはありませんわ」
何故か斉藤まで沙羅と同じ口調で言ってくる。かなりウザイな……殴りたいよ。
「じゃあ満場一致で買わないでいいな?」
最後の意志を求める星野先生。
「はーい!」
「了解!」
それに元気よく返事をする沙羅斉藤。
「ど……」
俺の口が動いていく。
「お? どうした杉下? 何か言いたい事でもあるのか?
わざとらしく聞いてくる星野先生。
「ど、どうすれば良いんですか……」
俺はついに聞いてしまった。
「そんなの……」
斉藤の声。
「分っているんじゃないか?」
星野先生の声。
「杉下君!」
最後に沙羅の声。
「分ったよ……。行こう……行けばいいんだろ」
俺はこの瞬間悪魔達に魂を売ってしまった……。
「おっしゃー!」
喜ぶ斉藤。
「先生ナイス!」
喜び親玉に感謝する沙羅。
「まぁ、杉下なんてこんなもんよ。ふははは!」
沙羅に答えて高笑いする星野先生。
今この図書室と言う空間には俺の敵しか居ないのだろか? 何時までも三人が笑う声は図書室になり響いていた。というか今更だが、先生はこれでよかったんだろうか。俺たちは学校で肝試しをするのに……。その疑問はそっと胸の内にしまっておくことにした。
その後、あっと言う間に時は過ぎその日の夜になっていた。皆は一度解散したのだが、家があまりにも遠い斉藤は家に連絡だけして俺と行動していた。沙羅はと言えばあの後一人楽しそうに「遅れんじゃぁないわよー!」と帰って行った。時刻はもう十一時になろうかと言う時間である。斉藤は俺の家で食事を済ませ今は肝試しの会場である学校に二人並んで寒空の下歩いている。
「斉藤よ、本当にするのだな」
もう観念しているが、再度確認する。
「杉下よ、本当にするんだよ。」
斉藤は微かに笑いながら改めて現実を再確認させる。家を出てからしばらくそんな会話しか出来ていない。
「しかし斉藤。何故沙羅の完全な思いつきの肝試しなんかに乗ったんだ?」
ずっと考えていた疑問をぶつける。斉藤は。
「何でかね? 楽しそうだったからじゃない?」
斉藤はそれが当たり前の様に言う。
「はぁー、やっぱりそれだけか」
まぁ、想像はしていたんだけどね。
「でもこんなの初めてだよね。単純に楽しみだよ」
そう言って微笑む斉藤。
「そうか? 俺は全く楽しみじゃないのだが」
内心ここまで来れば少し楽しみになっているがそれは黙っている。
「本当に? まぁケイがどう思おうが良いけど」
俺の考えているのが分るのか斉藤はニヤついていて一発小突いてやりたいが抑えておこう。
「まぁ、沙羅の思いつきも程々にして欲しいものだよ」
ため息交じりの俺に斉藤は。
「そうだね」
と静かに同意してくれた。そんな風に斉藤とキモイ会話をするうちにもう直ぐ学校に着く頃になっていた。
「ふぅーこれからは始まるのか」
校門の前になり俺が呟き。次に斉藤が。
「よっし! 行くか!」
と気合を入れた。そしてそれとほぼ同時に暗くなった校庭のちょうど中央あたりから。
「二人とも遅いわよ! 全く何してんのよ。早く来なさい!」
と夜になっても元気の良い沙羅が俺達二人を呼んでいる。
「あらら、俺らのお姫様はお待ちかねのようだね」
斉藤のふざけた冗談と共に歩き出した。
「お姫様じゃなくてただのじゃじゃ馬娘だろ?」
歩きながら俺の苦笑い気味の突っ込み。
「ははは、確かにその方が似合うかもだね」
そこそこ星の綺麗な寒空を歩きながら斉藤は静かに笑った。
「じゃあ全員揃ったか?」
暗くなった校庭で沙羅と合流し俺が全員いるか確かめる。
「えぇそうね。 全員居るわ」
俺の問いに答える沙羅。
「じゃあさっさと初めてさっさと帰るか」
確認を済ませて俺が言って歩きだす。
「ってちょっと何でさっきから何で桂が仕切るのよ! 仕切るのは私の仕事よ!」
なんて言いながら元気良く付いてくる沙羅。
「レッツゴー!」
テンションの上がってきている斉藤も付いてくる。
「おい、お前たち、私を置いて行ってくれるなよ」
その時聞こえないはずの人間の声が校舎に向かう俺達の背後からした。
「えっ……?」
突然の声に驚く沙羅。
「さっそく出たか」
と笑いながら振り向く斉藤。
「何で貴方が居るのですかね?」
暗く姿の見えない声の主に尋ねる俺。
「なんだ、驚いたのは山本だけか」
と少し残念がる声の主。
「そんなの驚きませんよ。よく聞く声ですから」
なんて言う斉藤。
「えっ誰?」
未だにパニックで分らないのか素で分らないのか取り敢えず理解出来ていない沙羅が呟いた。
「いい加減そんな暗いところに居ないで出てきてくださいよ、星野先生」
と何時までも見えない所に居る声の主に言い放つ俺。
「杉下と斉藤はつまらないな。山本は良いぞ」
なんて言いながら出てきた星野先生。
「星野先生居たんですか!?」
沙羅の驚きの声本当に気付いていなかったようだ。
「居たんですかってまぁ、一応な。可愛い生徒たちを学校で肝試しするんだから安全面に関して一応大人が居た方が良いと思っていな。それに私が居た方が何かあった時直ぐにどうにか出来るからな」
先生は少しダルそうにそんな事を言っている。しかし俺はこの先生が始めてカッコイイと思った。先生はその後にも言葉を続ける。
「それに何かあった時私の責任になっても困るのでな、見える所に居たいのだよ」
先生の言う責任とは最終的に肝試しを成立させた事について言っているのだろう。
「しかしせっかくの肝試しに大人が居てはつまらないだろうから私は図書室にでも居る事にするよ」
先生はそう言って図書室の方へ歩き始めたが直ぐに止まって後ろを振り向いた。
「あぁそうそうコレ貸してやるよ。ほれ」
そう言って星野先生は暗闇の中沙羅に何かを投げた。
「きゃ!」
それを戸惑いながらなんとかキャッチする沙羅。
「何コレ?」
不思議がる沙羅の手の中には何かの鍵が入っていた。
「先生コレは?」
俺の質問。
「それはな、この学校の鍵だ。ところでお前らどうやって入るつもりだったんだ?」
質問の答えとその後の言葉を聞いて俺達三人はほぼ同時に。
「あっ……」
と間抜けな声を上げていた。特に沙羅は。
「はぁ……やっぱりどうしようも無い奴らだな……」
星野先生は手を頭に当てて完全に呆れられている。
「じゃぁ私は本当に行くからな」
そう言って星野先生はまた歩き出していた。
「先生!」
俺が後ろから歩いていく先生を呼び止める。先生は何も言わずに立ち止まった。
「ありがとうございます」
そう俺が言うと先生はただ右手を軽く上げてまた歩き出した。自然と俺の口は笑っている。そして何故か先生はもう一度振り返り。
「山本は怪我させるなよ。無茶はするな。じゃ。」
先生の顔は暗闇で良く見えなかったけどいつもより真剣に言っている気がした。そして聞いた後、後ろで驚いた様子の沙羅と斉藤の声。
「あ、あれって何?」
何かを見つけて先生と同様理解できていない様子の沙羅。
「おかしいね……」
斉藤の考えこむ声。
「何かあったか二人とも?」
気になって聞いてみる。
「桂、あそこ見て変だよ」
そう言って指を指しているのはここからでも見える学生棟の三階にかすかに見える薄ぼんやりとした光だった。
「何だ、アレは……」
明らかにおかしかった一つだけ明かりがついている。
俺はその時何故か星野先生の言い残した言葉が引っ掛かり直ぐに先生が居た所を振り向くがそこにはもう誰の姿も無かった。
「ちっ……気付いていたな」
三人しか居ない広い暗くなった校庭で軽く舌打ちした。
「さて、行こうか沙羅斉藤」
俺がまだ光を見つめる二人に問いかける。
「あ、あぁそうだな」
と光からこちらに意識を戻す斉藤。
「えぇ行きましょう」
と完全にやる気に入った沙羅。さすが沙羅だ、顔が「面白くなってきたわ」って顔をしている。俺達は無言で会場である学校に入って行った。
ガチャリ――。
俺達は先生から貸してもらった鍵を使い先生の向かった職員棟ではなく学生棟から入って行く事にした。校内に入ると流石に夜遅いだけあって真っ暗だった。
「さて、どこから行こうかね?」
玄関でリーダーである沙羅に尋ねる。
「ちょっと待って」
突然沙羅が俺の言葉を遮る。
「どうしたんだ?」
「あのね、どうせ暗くて良く見えないだろうからコレ持ってきたの」
そう言うと沙羅は唯一腰から掛けていたポーチから三本の小型懐中電灯を取り出した。
「はいコレ」
そしてそれを俺と斉藤に投げ渡す。俺は余裕でキャッチ。斉藤は一回落としてから再度拾っている。
「ありがとよ」
沙羅の思わぬ配慮に感謝する。
「サンキュー」
続いて斉藤も礼を言う。
「さて、改めてどこから行こうか?」
俺が二回目の質問をする。
「そうねぇ……」
沙羅は少し考えた後。
「やっぱり明かりが点いてた教室じゃない?」
暗い廊下でも分るくらい明るい表情で言ってきた。
「あれ? いきなりボスでいいの?」
と不思議がる斉藤。
「沙羅は何か調べてないのか? 怪談みたいなことは」
あの教室は俺的にも気になるがいきなり本命とは飛びすぎかと思う。
「そうなんだけどね、気になるじゃない。あの教室」
まぁそうだな。心の中で同意する。
「まぁいいじゃない、調べたのは歩きながらでも話すわよ」
と急にだるそうになる。面倒なんだな……。
「分った、歩きながらで」
そう言うと満足したのか。
「じゃあ、こんな所で立ち止まってないで行くわよ」
そう言って暗く静まり返った学校をスタスタと歩き出して行く。
歩きながら沙羅が言うにはこの学校には最近出来たと言うことで残念ながら七不思議なんてベタなモノは無かったらしい。しかしそんな事ではつまらないので沙羅は頑張っていくつか探したのだと言う。ところがそれは妖怪だのなんだのとゆうモノで胡散臭いものでどれも沙羅の期待に沿えるモノは無かったらしい。そして最後に沙羅が少しそれっぽかったと言う話をし始めたところだった。
「でね、最後に聞いたんだけど、何か夜にどっかの教室から女の子の泣く声が聞こえるんだってさー」
何でそんな事を知っている人間が居るのか気になるがそれが噂と言うものだろう。
「でも何かそれだけ内容薄いね」
聞き終えてから斉藤が俺も思った観想を言った。
「まぁ確かにね。でも何か薄すぎてありそうじゃない?」
なんて言うが謎の明かりを見つけたのでどうでもよさげである。
「まぁ取り敢えず教室に行くか。でもあれどこのだ?」
俺は情け無いがそんなに見ていなかったため薄ぼんやりとしか見ていなかった。
「えぇーと確か三年の教室だったのは覚えてるわ」
気になっているくせにうろ覚えの沙羅。全くなんだコイツは……。
「じゃあ三階だな」
今回何故かいつもよりも冷静な斉藤が言う。
「あぁそうだな」
二人の回答で理解し終えた俺が言う。
「分かてるんならさっさと行くわよ!」
またも機嫌が悪くなった沙羅が少しペースを上げて歩いていく。その後を俺と斉藤が追って行った。
しばらく歩き今は二階から三階へと続く階段へ来ていた。
「ついに来たなこの上にさっきの部屋があるのか」
ここに来て俺は声が小さくなっている。
「そうだな、何かあるといいけど」
斉藤も声が小さくなっている。
「いや、絶対何かあるわ」
沙羅は声が小さくてもわかる気合に満ちていた。
「じゃ、ついに行くぞ」
何時しか俺が仕切っても沙羅はなにも言わなくなっていた。
「えぇ」
「おっし」
沙羅斉藤が気合を入れて俺達は三階へと続く階段を上って行った。階段を上り終えると端の教室から光が漏れていた。そしてこの頃から俺達の中で少しの疑問も出始めていた……。
最初に気付いたのは斉藤だった。
「う……っ」
斉藤が顔を歪めて突然不思議な声を上げる。
「どうした斉藤? 怖気付いたか?」
俺が冗談交じりで半笑いに聞く。
「いや、ちょっとね……。二人とも変な匂いしない?」
斉藤が俺と沙羅に変な事を聞いてくる。
「ちょっと何言ってんのよ。変な事言わないでよね」
沙羅が斉藤を睨みながら急に不安な表情を見せる。コイツさっきまで楽しそうにしてたのにな……。
「そうだぞ斉藤、変な事言うと沙羅が怖がっちまうだろ?」
「べ、べつに怖がってなんて無いわよ! 何でそうなるのよ!」
俺の言葉に動揺しながらも平気なふりをしようとして怒ってくる沙羅。
「はいはい、分りましたよ」
笑いながらあくまでも沙羅をからかう。こんな所に連れて来た仕返しをしてやろう。
「何が分かったのよ! 分ってないでしょ!?」
なんて予想どおり反発してくる沙羅。
「分ってるさ。沙羅は怖がってないんだろ?」
するりと抜けるように逃げる。
「キィー! コイツむかつくー! ぶっ飛ばしてやろうかしら!」
ふ……っ! 勝ったな。
「沙羅うるさいぞ、静かにしろ」
「う、うるさいわねー分ってるわよ……。ふん!」
更に追い討ちをかけると少し落ち込む沙羅。だけど沙羅はこの位では挫けないだろう。
「ところで斉藤、さっきの話は本当か?」
ある程度沙羅をいじくり本題に戻る。
「ちょっと! 逃げるな杉下!」
隣からまたブイブイ訴えてくる沙羅。コレでこそ沙羅だ。しかしそれは今は放って置く。
「いや、本当だよ。多分あの教室からだと思う。何の匂いか分んないけどあんまり好きじゃないな……」
斉藤はバツが悪そうな顔をしながら例の教室を見つめている。
「斉藤しか分らない匂いか……。うーん、なんだろうな……」
斉藤は嘘を付いてないようだ。俺は何も感じなかったが……。
「カッちゃんの気のせいよ、そんなのする訳ないじゃない。おかしなカッちゃんだ事! おほほ!」
あからさまに怖がっているのを隠そうとする沙羅。ダメだ、コイツはしばらく放置だな……。
「まぁ、行けば分るだろ」
考えても分らないので先に進む事にした。
「うん、そうだな。乗り気しないけど……」
斉藤は相当その匂いが嫌いらしい。
「お化け退治の開始だ」
そう言って暗いくここから一番離れた教室へと斉藤と歩きだす。
「ちょっと置いてかないでよぉー……」
その後を情けない声を上げながら沙羅が付いてきた。
教室に近づくにつれ斉藤の感じる匂いも強くなり、ついには俺と沙羅にも分るくらいになっていた。
「もう直ぐだな……」
声を潜めて教室に近づいて行く。
「やっぱり臭いなーコレ……」
未だに匂いを気にしてグダグダと付いて来る斉藤。コイツはもう明かりよりも匂いの方が嫌らしいな……。
斉藤はまだマシで問題は斉藤と俺の間に居る沙羅である。さっきから俺と斉藤の手を取って顔真っ青にしながら付いて来ていている。それで手をかなり強く掴んでくるため歩きにくいったらありゃしないのだった。
「沙羅ー歩き難いよー。離してくれない?」
斉藤も歩きにくくなったのか沙羅を離そうとする。
「何言ってんのよ、私はあんた達の為を思って繋いであげているんじゃない」
沙羅は相変わらずに青い顔である。良くその状態で強がれるものだな……逆に感心するよ。
「斉藤、離したら沙羅が死ぬだろが」
ここに来ても少し沙羅をからかう。
「杉下後で殺す……」
沙羅はもう怒る元気は無いようで地味に怖い事を言ってきた。これ以上は止めよう本当にやられそうだ……。
「二人ともふざけてないで行くよ。ケイもあんまりからかうなよ。大体なケイは……」
「わはははは」
斉藤が何か言おうとすると教室から大声で笑う男の声が聞こえてきた。俺達三人はあまりにも突然だったので初めにビクリとして、そのまま三人揃って機能停止まってしまった。
「それマジでー? ありえなーい」
男のそれに続いて女のそんな声が聞こえて、それからまた何も聞こえなくなった。
「な……何だ、さっきの声は……」
謎の二つの声を聞いて少した経った後あまりにも状況が飲み込めずに俺はガラにも無く動揺している。しかし今の声は……。
「か、かなり人間らしい声だったね……」
俺が思ったことを斎藤が代弁してくれた。
「あぁ、アレはお世辞にも幽霊とは言えない気がする……」
あの声は確実に人間だろう。いや、幽霊は結構ラフなのか……? そんな事無いだろう……。
「あ! ちょ、ちょっと沙羅しっかり!」
俺がそんな事を考えていると横で斉藤が小声だが強く沙羅の名前を呼んでいる。
「うぁ! 沙羅大丈夫か!?」
俺もかなり驚いたが何とか小声にする事が出来た。横を見ると廊下にヘタリと女の子座りをしながら死んだような目をして斉藤に肩を揺さぶられながら放心している沙羅が居た。見ただけでも大丈夫でない事が分る。
「沙羅しっかりしろ! アレは幽霊じゃないだろう。人間だからしっかりしろ! 起きろ!」
俺も斉藤を手伝う。なんだか怖さは無くなり笑えてくる空気になっていた。しばらく声を掛けると沙羅はハッとように意識を取り戻した。
「沙羅大丈夫か?」
もう心配しながら笑っている俺。
「アレは……?」
沙羅がオドオドしながらそんな事を聞いてくる。
「人間だろうよ。幽霊じゃあ無いだろうな」
簡潔に答える。
「人間……?」
まだボケている沙羅。
「あぁ、多分そうだよ」
今度は斉藤が答える。
「多分って何よ……。じゃあ私はあの教室に居る変な奴らに驚かされたって事!?」
おぉ沙羅が調子を取り戻して来たな。しかし『驚かされた』か……。怖がらせられたとは言わないんだな。さすが。
「そう言う事になるな」
「許せないわねぇ……! 大体何でこんな夜に学校に来てる奴が居んのよ! バカなの!?」
沙羅がついに大声で自分はバカです発言をした。すごいな……相当混乱してるのかな?
「沙羅! 声でかいよ!」
俺がそんな事を思っていると斉藤が慌てている。そうだ!沙羅は大声を出したんだ!
「おい! 声がしたぞ!」
沙羅の声に気が付いたのか教室が騒がしくなる。
「あぁー! 気付かれた! このバカ沙羅!」
俺はヘタリ込みながら拳を握り閉め闘志に燃える沙羅の頭をペチっとたたく。
沙羅は叩かれて頭を傾けたが、直ぐに立ち上がりそのまま騒ぐ教室へと猛スピードで駆け行く。さっきまでヘタリ込んでいた人間とは思えない立ち直りだ。
「沙羅!どこ行くのさ!」
駆けて行く沙羅を斉藤がすかさず追いかける。
「お、おい!」
それを見て俺も数テンポ遅れて必死で後を追う。最も早く駆け出した沙羅が教室の前へと到着するのが見える。沙羅はそのまま教室のドアを勢い良く開け放った。その後ろから斉藤が教室に到着。すると教室を見て斉藤の顔が変わる。どうやら沙羅に帰るように説得し始めたようだ。
直ぐに俺も二人に駆けつけようとする。沙羅は斉藤を振り切った様子だ。
「貴方たちこんな夜中に何してんのよ! バカなの!? 死ぬの!? こっちはあんたらのせいで散々だったんだから! どうしてくれんのよ! 桂に馬鹿にされるし他にもとんだ恥かいたわよ! もう謝っても許さないんだからね!」
沙羅は開け放つとそのままそう言い放った。うぁー信じらんねぇ……普通言えねぇよ。てか俺の事なんて分んないだろ。
沙羅が言い終える時には俺も追いついていた。教室の中を覗くと五人ほどの制服を着た男女が呆然としていた。制服を見ればどうやらウチの生徒らしい。しかしそのほとんどが髪を染めピアスをしたりしている言わば不良と言う部類の者だった。その不良達は先ほどの沙羅の言葉を喰らってまだ止まっているらしい。
結構ヤバイな……。不良達は段々と平静を取り戻し徐々にその表情が強張っていく。今にも殴りかかってきそうだ。
「ちっ! 斉藤、沙羅! 逃げんぞ!」
こう言う時は逃げるに限る。
「お、おう!」
「何でこんな奴らから私が逃げなきゃいけないのよ!」
しかしそう言って沙羅が逃げようとしなかった。どんだけ怒ってんだコイツは……。そこまで怖かったと言う事か……。
「くそ、ダメだ! 斉藤、沙羅持って逃げるぞ!」
俺は沙羅の右腕をしっかりと掴む。
「分った!」
斉藤も続けて左腕を掴む。
「おっし! さっさと行くぞ!」
俺達は声を上げると同時に来た道を全力で駆け戻る。
「てめぇら逃げてんじゃねぇぞ! こらぁ!」
こちらが逃げた事で完全に動きを取り戻した不良達が一斉に追いかけて来る。
「ちょっとアンタ達、放しなさいよ! 何で逃げんのよ!?」
俺と斉藤に両腕を掴まれて状態としては進行方向とは逆を向いて宙に浮くような形で運ばれている沙羅が文句を言ってくる。
「バカが! 冷静に考えろ! あんな事言って何もしない連中な訳無いだろ!」
俺は走りながら未だにキーキーうるさい沙羅に言い放つ。
「何よ! やってみないと分んないでしょうが!」
それでも暴れる沙羅。俺達の後ろには今も罵声を飛ばしながら追いかけて来る不良が居る。それがまた沙羅の闘志を掻き立てるのだろう。
「ぶべ!」
暴れる沙羅の足が斉藤の足を蹴飛ばした。斉藤は変な声を上げる。
「沙羅分った、あいつらをやっつければ良いんだな!?」
こうなったらひとまず沙羅を落ち着かせる事を考えよう。
「そうよ! だから早く降ろしなさいよ!」
沙羅はやれば勝てると思っているようだが、斉藤と俺なまだしもこちらには沙羅が居る。今はこんなに元気が良いが、いざとなれば沙羅が一番危険だ。しかも沙羅を掴んだままじゃろくに行動できやしない。
「沙羅も何とかしたいなら今は静かにして自分で走ってくれ!」
「わ、分ったわよ……。でも絶対だからね!」
俺の気合に負けたのか沙羅は少し冷静を取り戻し自分の足で走りだしてくれた。
「取り敢えずどこかの教室に隠れよう。」
そのためには後ろの奴らを何とかしなければ……。




