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ディストピア世界のポツンと団地子育て  作者: ビチンタ


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8話 ママも赤ちゃんだったの? 解決編

〈ママも赤ちゃんだったの? 解決編〉


グリちゃんは、はじめの質問でパパのことを、次の質問であたしとパパのことを、多分この質問であたしのことを知りたいんだと、そう思う。


グリちゃんからヒントを貰った気がする。

あたしの倒し方も縁緑さんのことと同じく分からなかったそうだ。


ならば、グリちゃんはあたしの倒し方も知れるような、そして母親とはどういう存在なのかと知れるような答えを望んでいるのだ。

もちろん、質問にも答えていることが前提である。


あたし自身は、ちゃんと母親として成立しているのだろうか。

ただ、グリちゃんにママと呼んでもらっているだけなんじゃないだろうか。


親として生きるのは、愛情だけで乗り切れないのだ。

さっきの今で痛感してしまった。


“ママも赤ちゃんだったの?”か。

あたしだったら、もう少し歳をとって、例えば小学生の頃とかに、あたしの母親に「ママも子供の頃があったの?」なんて訊いて。

あたしの母親に「当たり前でしょ。」なんて言われて。

それで会話が終わってしまう。


相手は、あたしの娘であたしは質問されている側なのだ。

素っ気ないような返答をするわけにはいかない。


だが、あたしの母親を考えてみるのは、この質問に、グリちゃんが納得してくれる答えを導き出すのには効果があるのかもしれない。


あたしの母親は…良くも悪くも特別なことは何一つやってなかったように思う。

世のお母さんならこうするだろうという行動をとり続けていた。


たまに、何気なく家事をやらせたり、ぶっきらぼうな言葉を投げかけてきたりすれば、たまに、優しく包み込むような言葉をくれたりする。


多分、この世界じゃ2度と会えない。

2度と会えないという事実は、もっと後の、とにかく自分の母親に会いたくなるそのときに、あたしに大きくのしかかるだろう。


そうだ。

あたしにとっての母親は、生まれたばかりや子供のときには普遍的で、絶対的な存在だった。


が、時が経つにつれて、あたしの母親はある時はものすごい存在感を放ち、ある時は(かすみ)(もや)がかかったような、靄に霞がかかったようなぼやけた感じになった。


大きくなったあたしは、母親のことを猛烈に考えたり全く考えなかったりするようになっていった。


グリちゃんが大きく育ったとき、今のあたしと同じ感覚でいて欲しい。


母親としてあたしは、足枷(あしかせ)にもならず、遠い記憶にもならず、ふと、グリちゃんが必要なときに背中を押してあげられる。

表現するならなんだろう?まぁ、グリちゃんの質問の答えを探すうちに思いつくだろう。


次は、あたしの倒し方か。

グリちゃんの口から、あたしは最強だと今日だけでさんざん聞かされた。

グリちゃんがあたしを倒すのも、それ以外の何もかもがあたしを倒すのも不可能だと、グリちゃんは言っているのだろう。


ずーっと深く考えるのなら、それはありえない。

何者にも負けない存在などあるはずがない。

グリちゃんの表現のしかたに間違いがあるのだろうか?


母親の強さについてグリちゃんは知りたいのかもしれない。

あたし個人が強いわけではなくて、グリちゃん自身が母親に対して、ものすごい期待をしているのかも。


あたしのもつ素養、技術に特別なことは何一つなかった。

あたしは特別な人間じゃないと思う。

縁緑さんとグリちゃんのどちらも、あたし個人の考えでなく、ほんっとうに、世界的にみて特別な存在だと思う。


最強って、特別なことだと思うのだけど。

グリちゃんのいう最強は、特別と特別の二重構造じゃないのかな?

あたし絶対に追いつけないけど。


「ねぇ、グリちゃん。ママは赤ちゃんじゃないって思うの?」


「ママわ、アカちゃんだったのおオボえてる?」


「あたしは…っていうか、誰も覚えてないと思うけど…。」


「そうなの。タブンだけど、ダレもオボえてないはずなの。ワタチイガイはね。」


「あ〜。うん。」

あたしはグリちゃんに抱きついていた。 

「そういうことだったの。」


「ワタチは、キョウからワからないことばかりになっちゃって。それで、それで…ママに」

「ワタチは、コワかったの。ゼンブをワかっちゃうことも、ワからないことにアフれたセカイも。でも、そのナカで…ワタチは…」


「ママは最強なんだから。今はまだ、ママに寄っ掛かって。グリちゃんの願うあたしに、今のあたしは絶対に追いつくから。だってママは、“捩じ込み捩子”って呼ばれてたの。」

グリちゃんの言葉が、全部正しいなんて誰が保証できるのだろう。

あたしも、信じてあげることの美徳で片付けていた。


グリちゃんは、あたしのことを本気で最強だと思ってはいなかったのだ。

グリちゃんは、今日で全く新しい自分になったのだ。

それは、まさに生まれたての状態に等しい。


今朝から、ものすごいストレスを抱えていたのだ。

すがりたくて、頼りたくてたまらなかったのだ。

生まれたての時には、母親は世界の全てに等しいのだから。


「あたし。答えを見つけるから。突き放さないから。グリちゃんはママを最強だと信じて。ママも特別になるわ。あたしは、今のままじゃいらんないからね。」

「ママも、あなたと一緒に生まれ変わるわ。1人にさせない。」


グリちゃんは特別から、普通へ。

あたしは普通から、特別へ。


この質問は私たち2人の門出である。


“ママも赤ちゃんだったの?”には、グリちゃんがあたしに生まれ変わるきっかけを与えてくれたんだ。


さて、そろそろ質問をもとに答えを考えていこう。


グリちゃんにとって、今の自分が子供であることを、他の子供たちとは比較にならない程に理解しているんだ。

この質問は、本来なら少し成長したときに、自分の親も子供の頃があったのかも…なんて気になって訊いてくる内容なのだ。


グリちゃんは、気になるタイミングが早かったのだ。

だから、あたしが赤ちゃんだったのか聞いてるんだろう。


あたしは、まずはじめにあたしが赤ちゃんだったことを証明することにした。



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