23話 なんで宇宙は真っ黒なの? その3
〈なんで宇宙は真っ黒なの? その3〉
〔二胡 仁悟の視点〕
「〉〉や!や!や!休ませてくださいぃ!もう一歩も…足がぁ↑」
「え?このたかだか15段くらいの階段の昇り降りで?それを10回くらい繰り返しただけよ?ん〜まぁ〜運動不足だからかー?」
「〉〉まぁ〜運動不足ですからねぇ〜!(怒)」
「良いわ。じゃ、階段の前でグリちゃんと見張ってて。あたしが容器を回収するから。」
「はい。」
テキパキと、テキパキと。
これが主婦の底力なのだろうか。
息を弾ませながらも、ワイよりも速いペースでどんどんと容器を運んでいった。
そして、最終的にこの雨からの成果としては、5Lのポリバケツ半分の雨水を得た。
そのバケツを持って浜さんと401号室に戻ってきた。
部屋に入り、足をさすりながらその成果を見てしまう。
ため息が出る。
「まぁ、目下の問題はこの水が飲めるのかってことよね。」
ワイのことを見るその目の意味を探るまでもなく。
「〉〉はい。飲みますよ。喉が渇いてましたから!あー疲れた。あー筋肉痛だよこりゃ。」
バケツの水を掬う。匂いを嗅ぎ、ただの雨水なのだと認識する。
水を飲む行為は、生命力に満ち溢れるものだ。
が、今、この瞬間、思い出すのは親の顔。
そう。口では嫌がるようなことを言っても、死んでも良いと思ってしまった。
で、目を閉じて一気にコップをあおる。
「〉〉でも、この水が危ないかどうかって、どうやって確かめるんですか?そういう医療のプロの知識ってやつが必要では?」
「ニコちゃん、ミズ…オイしかった?」
「まぁ。うん。真水だったけれど。」
「じゃ!ダイジョウブ!」
そうか。大丈夫か。
とはならない。
毒味役としてちゃんと役割を全うさせて欲しい。
「まぁ…1日くらいは経過観察をさせてもらうわ。見た感じ、大丈夫そうではあるけど。この部屋にこのバケツは置いておくから。」
「はい。」
まぁでも、この水も浜家のものになるだろう。
良いさ。
だって子育てに勝てるような生活の営みなどないだろう?
「ニコちゃん、ワラって?」
「ハハハ。」
元気はないけど、水を飲んだせいか乾いた笑いという感じではなかった。
腹が鳴る。
そうだ!電気は今、もう通っていないだろう…
冷蔵庫の作り置きは!?
冷蔵庫の中には、マッマのカレーとパッパのこだわりカレーが仕送りであった。
「〉〉あぁ。もう置いておけないか。浜さん。ハマグリちゃんも。カレー食べます?1人じゃ全部は食べきれないですし。」
「それは…多分、思い出の…」
「ええ。だからこそ、腐らせてはいけない。」
「座って。ガスは点くわ。あたためて美味しく食べましょう。」
「ありがとうございます。」
火でゴポコポと音を立てている鍋。
カレーの香り。
2種類のカレーの香り。
市販と、砕いたスパイスの香り。
「いいニオい!」
「そう。どっちも美味いよ。美味いんだよ。」
皿の左右で違う色の、盛られたカレー。湯気が出ている。
スプーンで掬って一口。
目を閉じる。
学校に行かなくなって、引きこもる。
たまにくるのは、最悪な気分のベッドで乗り切るしかない時間。
それでも、カレーは旨い。
「ねぇねぇ、ニコちゃん。このカレーさ、フタつマぜたらもっとカレイなアジになるよぉ!」
「うん。知ってる。」
「うん。ほんとに美味しいわ。」
「親のことについての色々なことは多分、失ってから初めて気づきました。このカレーも多分こうしてみんなで食べて、失ったあと色々気がつくと思います。」
「レシピとかは?」
「〉〉この世界じゃ…再現できないですって。ありがとうございます。気持ちだけで。それに、浜さんもまた、同じく辛いことだと思いますから。」
「ニコちゃん、ワラって。」
「笑うよ。だから、ハマグリちゃんも笑ってくれよ。この味を覚えてくれよ。」
「ゴチソーサマ!」
「ニコちゃん!オクジョウいこーよ。」
「どうして?」
「アメがあるなら、アメのたくさんフるジキについてシラべるの!」
「ダメよ。危ないから。部屋で出来ることは、グリちゃん。部屋でやって。」
「ウン。」
「でも、ニコちゃんとシラべる。」
「それは別に良いわ。…友達を大切に。」
「〉〉雨って、グレーの雲がなきゃ降らないから、もうしばらくは降らないと思うな。」
「〉〉あれ?空の話なら。」
「〉〉そういえば…これって夕飯じゃないですか?でも、外はあの起きたときと全く同じ色の全く同じ空。綺麗な青。」
「そうね。時計の類は使えなくなって久しいわね。」
「〉〉いや…あの…自分でも言ってて怖いんですけど、空の移り変わりとか、あとは…時間がちゃんと過ぎているのかとか。」
「人や文明が消えただけですか?もっと酷いような…この世界って、ちゃんと機能してます?」
「それは……」
「ワタチ、シッてるよ!」
「シッてる?何を?」
「シリたかったことを!イマについてもちょっと。」
「グリちゃん、困らせちゃダメよ。」
「いや!困りません。教えてください。」
「アメのナゾがトけたなら。」
「分かった。約束を。」
浜さんは少し困った顔をした。が、ハマグリちゃんのことを制御できないことは、浜さんが1番良く分かっているようだった。
だから、グリちゃんと梅雨を見つける観察を始めることにした。




