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ディストピア世界のポツンと団地子育て  作者: ビチンタ


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22話 なんで宇宙は真っ黒なの? その2

〈なんで宇宙は真っ黒なの? その2〉


〔二胡 仁悟の視点〕


あまりのことに呆然としたまま雨の音を聴いていた。

確かに笑顔を粉々にされた。

なぜに笑顔を作らせた?


あ!それより!

「〉〉あぁ!ケガ……ケガしてない?」


半分くらい本気で心配して、もう半分は自分の心配をしていた。

ハマグリちゃんになにかあったら、浜さんに殺される。

確実で確信の持てる確定事項だ。


「ニコちゃん!ワラって!」


「笑えるかぁ!もう…バット返して…」


「あ!オオケガしてる!」


脳みそが波打つ感覚がした。

顔が熱くなる。失敗なんてレベルじゃない!

子供がケガした?最悪じゃないか!

「〉〉ドドドド…どこぉ↑お…オエ!オェ…応急手当てを!!」


“ド”の音はさながらワイ自身の動揺による急激な鼓動が、心臓だけじゃ満足に働いていないことを伝えるように口から出た。

これが、先人が口から心臓が出るという表現を思いついた体験なんだと、一人で納得していた。


「ドコぉ?ってぇ〜ね!アソコ!」

ハマグリちゃんはワイに向かって指を指す。

「ドアが、オオケガしてる!」


その先のドアを指差しているようだ。

もう泣きそうになった。

ある意味でワイは大怪我しっぱなしだ。


遊ぶならおもちゃで遊んで欲しかった。

ワイでさえネットのおもちゃで遊んでるのに。

いや?よく考えてみたら、“ネットのおもちゃ”ってそう呼ばれているだけで、人間では?


あれ?掲示板にいないで、こうしてリアル人間と時間を過ごすと、この世界は本当に人間が生きていて、インターネットは人間が利用するサービスだと自覚できてくる。


今までレスバしたアイツ。

安価で野菜寿司ばっか注文させたアナタ。

アンチスレでおおいに盛り上がって悪口を言った、生意気な2世タレントの〇〇。


ごめんなさい。いや…本当に。

こうして遊ばれて、不条理なことに巻き込まれて、心の底から申し訳ないと思う。


だから!解放してくれ!


ハマグリちゃんをドアから遠ざけながら、ドアのガラス部分に開いた穴に慎重に手を突っ込んで、向こう側でロックされてる鍵を解除した。


玄関のほうきとちりとり。

ガムテープの残りを使って、飛び散る破片を片付けた。

片付ける間にハマグリちゃんにこれ以上びっくり行動しないよう釘をさした。


「〉〉屋上は、滑って危ないから来ちゃダメだ。本気!本気だから!」


「ウン!」


ハマグリちゃんは、こちらの予想をいかにも裏切りそうな動きを見せそうで、怖い。

ハマグリちゃんが乱心してるのか、ワイも乱心しそうだ。

乱心は伝播する。


でも、ハマグリちゃんと長く一緒にいたら怖いという気持ちが、屋上で作業しなくちゃいけない勇気のなさを吹き飛ばしてくれた。


どっちみち怖いなら、浜家の2人と解散できるように頑張ってみようと思った。


「〉〉だから、バケツを持ってこよう…それで充分手伝いになるから。」


「ウン。」


ハマグリちゃんは絶対分かってないような気配で答えた。

生返事ってやつを初めて見たんだろう。

レスポンスの雑さ、粗さがネット民とは違うタイプだった。


バケツを手に持ち、何度も何度も振り返りながらハマグリちゃんが動かないのを見ながら、階段を登った。


だるまさんが転んだのようだったから、振り返るたびに固まる…みたいな動きをしてくれれば、子供らしくて可愛げがあるなと思って期待した。


しかし、そんなことはお見通しという目でこちらを見ながら、早く行けよという目を向けながら、ワイが階段を登る間はリラックスしていた。


このまま、この世界で、2人に振り回されてしまう毎日が続くのか。


屋上は、地面の素材が流石に滑り止めの対策もされていて、囲いはないが、ものすごい危ないというわけでもなかった。


でも、やっぱり、浜さん!これで死んだら恨むぞ!


そう考えて、怒りで身を誤魔化しながらバケツを置いていく。

階段を降りて、ハマグリちゃんから渡されたのは、おまるだった。


イヤ…ウン…良いけど…良いの?

そう思いながら、おまるを運ぶ。

飲み水には使わないように気をつけて欲しい。

それこそ、下水として使って欲しいと思う。


次に渡されたのは、空気が入れられたビニールプールだった。

なんで団地にビニールプールを?

庭を持っている家庭で使うものだろう。


部屋で遊ぼうものなら全部ビチャビチャに濡れてしまう。

団地の公園には、遊具があるが、水道がない。広くもない。


浜さんも、子供にねだられて考えないで買い物することもあるのか。

抜けてるな。

まぁ、ようやくちょっとだけ親しみが湧いたかな。


そう思いながら運んで、屋上に並べたところでようやく気がついた。

これ!うちのマッマが送ってきたヤツだ。

だって、膨らませた底が外れて、そこから手紙が出てきた。


“仁悟へ、プールは運動に良いそうです。運動してね。”


複雑に折り重なった感情で、雨の中で突っ立っていた。


マッマ…馬鹿なのか?ビニールプールが団地で使えるか!

親がミスしたら恥ずかしい。親がミスしたのを勘違いで人のミスにしてしまうのはもっと恥ずかしい。

あと…こんなんで運動できねぇっての。


でも…なにより。マッマもパッパも疲れるまで働いて、仕送りでこんな凡ミスの塊みたいなものを送ってくるなんて。

苦労してたのかな?

多分、送ってきた当時のワイはそんなこと考えなかっただろうに。

今ははっきりと思う。優しいな。


濡れた手紙をポッケに入れて、また戻る。


「ニコちゃん、笑って!」

なぜか、ハマグリちゃんがそうやって言ってくれた。

だから、笑った。


それから、鍋に、フライパンに、洗面器に、ペットボトルを飲み口を切ったやつに、水筒に、どんどんと並べた。

で、往復して往復して、足が激しく痛み出したころ。

ようやく並べ終わった。


浜さんに対する怒りとかも、もう消えていた。


で、並べ終わって、達成感に満ち溢れて、空を見れば、綺麗な青が広がっていた。


晴れていた。

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