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ディストピア世界のポツンと団地子育て  作者: ビチンタ


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20話 お空に気持ちがあるの? 解決編その2

〈お空に気持ちがあるの? 解決編その2〉


〔浜 捩子の視点〕


グリちゃんの待つドア。

あのドアを開けるのは、もしかしたら目の前の青年なのかもしれない。

あたしが、あたしだけがグリちゃんに本気でぶつかる。

それは、いけない。


一方、この青年に、人と本気でぶつかるエネルギーがあるのだろうか?

ないと思う。決意を固めた目を見せたのも、瞬間。


「グリちゃんが、あなたを友達に選ぶって言ってたけど、あなたはどうするつもり?」


「〉〉友達になるって、言えないじゃないですか。」


(※お隣さんによる注釈。〉〉これは、仁悟くんが早口で話してることを表しているよ。)


うわずった声で昔の映画のような早口も、401号室に入ったときからは随分とマシに聞き取れるようになった。


「いいえ。本心を正直に言うの。グリちゃん答えが聞きたくて待っているのは、多分、あなたの方。」


「…………」

「〉〉やっぱり…友達にはなりません。なれないとか…まぁそれが一番大きな理由です。でも、それだけじゃなくて、オレがグリちゃんの友達になるのは残酷なんです。」

「〉〉この世界が、本当に団地以外は全て消えてしまったような気になると思うんです。互いに。オレはまだ、気持ちの整理がついてない。」


「多分、この先も、整理は…つかない。」

「だから、手伝うのは今回限り。受け答えも、浜さんが。それが一番です。」


「そう。…分かったわ。」

「答えを考えましょう。」


今回の質問は多分、グリちゃんが友達とはなにかを知れて、質問の答えにもなっている解答を望んでいるのだろう。


果たして、どんな…

あたしに友達はいた。まぁ、部活の仲間でチームなら簡単に仲良くなれる。

普通の学生らしい遊びをした。


学生らしい遊びは、学生の憧れだったから。


一緒に何かを成し遂げる仲間なら、友達になる可能性も高い。

あるいは、長い間一緒にいるのだとすれば、それでも親睦が深まり、友達になっているだろう。


目の前の青年に、意見を求めてみるべきだろうか。明らかに友達の居たことが無さそうな青年に。

なにが答えとして返ってくるのか。


“知らないです。”か。

“と、と、とと友達なんて出来ちゃことないむ。”か。

“手伝うの…ヤメマス!”か。


互いに良くない結果を招きそうだ。

目の前の青年には酷なことを聞いているのだろうし。


「友達か。友達…浜さんには友達がいましたか。」


「えぇ。あなたは?」


流れに任せて聞いてしまった!

やらないと強く意識すればするほど、意識して抑えてる言動の引き金になってしまうものだ。


「〉〉…ネット上なら。VIPって分かります?そこで5人ほど。挨拶とかしてね。待ち合わせ時間とかをゆる〜く決めたりして。」

「〉〉…まぁ、全員守らなかったケド…」


「友達って、どんなものか分かる?」


「〉〉それは…レスバ…意見交換したり、粘着…長い間一緒にいたり、祭り…楽しいことがあったら共有したり、スレ育て…一緒に目標に向かって頑張ってみたり。」

「こんなとこですか?」


「お…おう。」

意外に世間一般的に、まともな感じの答えが返ってきて驚いた。


「〉〉空に…気持ちか…。あの、ハマグリちゃんとは天気についてなにかしら話したことはありますか?」


「そうね。」

「考えても…そんな老人会の最初みたいな話をグリちゃんとはしなかったわね。」


「〉〉なら、浜さん以外の天気の話をしてそうな誰かとか分かります?」


脳裏に浮かぶその人を、グリちゃんは直感で避けたのだ。

あたしは、グリちゃんの直感がどれだけに信頼できるのか知っている。

グリちゃんの直感は、普通の人の確信を持った正しい選択の500%信頼できる。

だから、この話題はしない。


「居ないわ。多分ね。」


「〉〉天気なんて…どうして今…そんな場合じゃないだろうに…もっと別のことを気にならないのか?この状況に怖がったりしないか?普通…」

気を使って聞かれないような声で独り言をブツブツと。

喋るのに慣れていないと独り言が多くなるのだろうか。


「人は、空に支配されてきたわ。特に昔の人なら、天気で生活をぐるりと変えてきた。」

「天気の天は…神に等しい力を感じていたのかも。神に気持ちがあるのかって聞きたいの?」


「〉〉天には空という意味しかないのでは?空に気持ちはないでしょう。大気が集まってるだけですから。気持ちなんてない。空の様子を表現しやすい言葉でまとめた。それだけです。」


グリちゃんが、ただ小さな子供だったら、青年の言葉は正しいのだろう。

でも、あたしはグリちゃんの秘密を知っている。

グリちゃんと、限られたときに逢えたもう1人のグリちゃん。


そうか!

グリちゃんの秘密をあたしに教えてくれたもう1人のグリちゃんこそ神さまなのかも。

グリちゃんは、自分の中にいるもう1人のグリちゃんが気になっているのだ。


もう1人のグリちゃんの孤独を知っているのだ。

あたしと同じく、関わって、癒やしてあげたいのだ。それがお節介で嫌がられたとしても。


目の前の青年には、全く信じられないだろうし、話すつもりもない。

けど、答えは出来上がった。迷いはない。

だからあたしはドアノブに手をかけた


迷いは…ない。なのに…不安だ。

あたしの考えに間違いはないはずだ。

でも、やはり、目の前の青年はこの答えになにも関わっていないのだ。

あたしが知るまま、あたしがグリちゃんの気持ちを考えて答えを用意する。


いつも通り。いつもと同じで変わらない。


「答え…は出来たわ。」


「〉〉そうですか!?良かったです。」


青年は、心のこもってない、音もない拍手をした。


「でも、足りないことがある。」


「〉〉なんです?」


「天気の話題をするとき、2人で同じことを言い合うでしょ。『最近は暑いね』『本当だね暑いね』みたいな。」

「2人目は賛成して、頷くだけ。意見が対立することはない。でも、それだけじゃ仲良くなれない。」


「天気の話題で喧嘩してちょうだい。あなたが、グリちゃんと。」


「〉〉口喧嘩ですか?ハマグリちゃんと?嫌です。こんな言葉を都合のいいときだけ引き出したくなかったですけど、大人気ないですって。それに、口喧嘩って初めて会ったときにはやりません。一昔前のラブコメ漫画かよw」


「でも、ネットではなかったの?書き込みの文章で喧嘩とかさ。」


「〉〉は…白状しますよ!レスバ…は単なる意見交換ではないんです。本当はレベルの低い罵り合いの悪口大会。相手も自分も大切なものをすり減らして臨むものです。」


「娘さんに……悪影響です!」


「そうね。あたしが許可する。」


「〉〉やりません。やりませんよ!絶対に!」


あたしがグリちゃんと仁悟くんの口喧嘩を提案した理由。

それは、つまるところ、グリちゃんと神さまみたいなもう1人のグリちゃんのためだ。


あの2人は、互いに自分自身のことだから、理解し合えるだろう。

2人とも賢く、精神に余裕があるから争いみたいな人間の好きそうなことは起こらないはずだ。

でも、それは良くない。


互いに慰めたり、褒め合ったり、認め合ったり。

せっかくのもう1人の自分と関われるのなら、むしろ、自分自身の敵でありかつ支え合えるような2人で1人になって欲しい。


それは、友達との接し方でも同じことが言える。


グリちゃんは、グリちゃんの中にいるもう1人のグリちゃんと口喧嘩くらいして欲しい。

その勇気と実例を、仁悟くんで…


「手伝ってくれるんでしょう。やりなさい。命令よ。あと、れすば?ってのが終わったらあたしの答えを伝えて。」


「〉〉アンタはイカれてるよ!!」


〔二胡 仁悟の視点〕


グイと押されてドアノブの前に。

もはや、この401号室はワイの城でも住処でもなくなったのだと自覚した。

なんて酷い巻き込まれ方をしたんだと思う。


ずっと考えていた。

浜さんの強い想いを少しでも理解しようと、子育てについて、ワイに子供が出来たら。


ワイに子供が出来たら。

連帯保証人にはなるなって言うし、ローン払いは避けるよう言うし、ギャンブルはやめとけって言う。

そんなつまらないのはどうだっていい。


ワイが育ててきたスレ。

缶コーヒーが同じ銘柄でも、日によって味が変わると感じて、毎日日記のようにその日の自販機で買うコーヒーの味を、偉そうに評価してた。


たまたま缶コーヒー関連で事件が起こったタイミングで、そこそこの人が集まったのがこのスレの寿命を伸ばすことになっていった。


愛着とか、喜びとか色々あった。


まさに、とは言わないが、浜さんがハマグリちゃんに抱く感情の、1番近いのはワイにとってのこのスレだろう。


それが、ワイ目線で言うならスレが荒らしに会うようなものだ。

浜さんの目線に立てば、娘が嵐に遭うようなものだ。汚い言葉の嵐に。


でも、強制的にやらされる。不本意でたまらないのにやらされる。

やっぱり、怖くて逆らえない。


これが、社会経験の差ってやつなのだろうか?

というか、ワイのこれが社会経験そのものか?

もう社会なんてものは存在していないけど。


考えてると悲しくなってくる。

こうなったらもうヤケだ!

どうにでもなれ!


ワイのPCの前に座るハマグリちゃんは腕をめいいっぱい伸ばして、ガチャガチャと音を立ててキーボードのキーを押しまくっていた。


確かにすぐ消えてしまった気がするが、質問をしたときの、あのちょっと圧のある雰囲気はもうどこにもない。


「〉〉ハマグリちゃん。えっとね…えーと。男の喧嘩って分かる?不良マンガとか…」


「フリョウマンガ?シってるよ!」


「〉〉そーだよね、知らないよね…知ってる!?」


どーして?って言いそうになる。

でも、自分からあげた話題じゃないかと自己批判をする。こういうときに、自分のことを批判するのは役にたつ。


「〉〉あー。良かった…よ。じゃあ、男の決闘はどんなときに映えるかな?」


「うーん…ユーヤケ!」


「〉〉夕焼けかぁ。オレは断然雨の中だな。」


ここら辺で、ハマグリちゃんのことはまともに見られなくなった。

天井をみて考えるフリをしながら、なるべく目の前に人がいるという事実をなかったことにしようと、自己催眠しようと努力した。


「どーして?アメでケンカしてるとイイの?」


「〉〉なんて言ったって、雨の中の拳を交えるのは立場の違いとかやりきれない思いのぶつかりとか、そういう哀しさが詰まってるから。」


「ユーヤケも、セツないのよ。カナしいキモちになるのよ。」


「〉〉ニワカ乙ww夕焼けが切ないのは別れとセットだからだゾ。喧嘩とは関係ナサス。」

いや、言われなくても分かってる。ネット民の中でも、一昔前の方にいた奴だろって?


そもそも、ワイは昔からネットをやったし、それに、ネットの環境に古いも新しいもない。

泥沼は昔も今も汚い泥にまみれてる。


ネットの言葉を実際に発音するのは…自分の中にあるなにかを捨てたうえでないとやれない。

そして、口喧嘩するなら、この口調じゃなきゃ無理だ。


「“にわか”ってにわかアメ?ケンカしてるトチューにヤんじゃうのよ?」


「あ、いや、あ、違……っ」


「あとね、でもね、ケンカによってナカナオりするだけじゃないのよ。もうずーっとワカれることにもなるのよ。」


「そりゃ…あ。そーだけど。」

「〉〉でもでも、雨の中で喧嘩すると、拳によって起こる水しぶきとかさ、倒れるときの汚れ方が良いんやで。」


「ユーヤケわね、ゼンブがカゲなのよ。マックロなの。ヨゴれもワからない。カオもミれない。」

「でもね、ウゴきはワかる。」


「ハゥ!」


「それって、ゼンブがハデにミれるアメのナカよりも、もっとステキよ。」


「〉〉でも、雨の切なさと…夕陽の切なさは違う!」


「そーね。でもね、アメはコトワザもあるよーにね、ジメンがカタまるの。ナカナオリがデキるヨカンがあるの。アメって…アタタかいのよ。」


「ンニィィィィイイイ」


ここで、粘れば勝てる!

勝てる?いや…負けてるわ。

分かりきっとるわ。


だって、雨に対しても夕焼けに対してもこちらより上手なことをおっしゃられーたのだ!


えぇ〜

予想外だ。

最短で、最速で負けたわ。

ワイの人生って?


「これが、コタえ?」


「あー…いや、そうだ。浜さん…からね答えを言伝で。『グリちゃん。お空に気持ちはあるわ。複雑で人には理解出来なかったけど、グリちゃんなら…分かるから。お空の気持ちが分かるなら…“せめぎ合う”の。良いことと悪いこと。不安と安心。晴れと曇りと雨。友達とはせめぎ合っていくの。』」


「ママは…ニコちゃんをミトめてくれました!」


「え?あ?え?これ?そーなの?」

混乱したさなか、外を見れば雨が降っていた。

もしかしたら、現実でレスバをしてたその時にはもう雨が降っていたのではないかと思った。

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