18話 お空に気持ちがあるの?
〈二胡 仁悟の登場。世界終了への反応〉
〔戻って日本。浜宮離子と浜捩子のいる、とある団地。その401号室〕
ワイが小学校を不登校になってから、現実を諦めることを覚えて、今に至る。
昨日までは、ずーっとずーっとネット掲示板に張り付いていた。
というか貼り付いていたのかもしれない。
文字通り…掲示物として…
やめよう。学校を思い出して気持ち悪くなってしまう。
深夜に寝たら夕方に起きることに、自動的になってしまう。
エネルギーを使ってもないはずなのに、人より多くの時間寝られるのだから、人体の神秘を感じる。
感じねーよ!バカ野郎!
でも、今日起きてみたら、まだまだ午前中の空だった。
なんとも久しぶりに見た。
デスクトップでは味わうことのできない青…
フフフフフ…
いつもなら、スヤァと、グッスリと寝ているはずなのに。
最近は現実と夢の区別がついていないのか、日常を悪魔だと捉えているから、寝ている間は精神を安定させようと、脳みそクンが頑張っているのか知らないが、まぁとにかく、なにを言いたいのかといえば、悪夢で飛び起きるような起き方も、もう長い間していないということだ。
だから、本当に不思議だ。
ある意味で、社会人よりも規則正しい生活を(正しいのは規則だけで、社会的な正しさはゼロだ!)しているはずなのに。
まぁ、気になったのもあり、ネット掲示板への書き込み欲もあり、時間を調べたいのもあり、とにかくコンピュータを立ち上げた。
我々を、生活に生産性がないと侮辱する輩が多いのだが、全く心外である。
というのも、インターネットをやる理由なら無限に生産できるのだ。
そんなことを思いながら、コンピュータにウインクした。
余計なことをしてしまったのか分からないが、コンピュータが一向に起動しない。
ついに、長年の相棒からも呆れられて、愛想を尽かされてしまったのか?
最悪だ!
頑張ってくれよ〜
それでも、起動しない。
コンセントを調べてみる。
Wi-Fi接続を調べてみる。
ここまで、原因がコイツらにあって欲しいと願ったこともないが、ハズレ。
チッ!クソが!
誠に不本意ながら、ネットに生きる同志の中でも、特に見下しているスマートフォン勢に、自分の身を投じることになってしまった。
泥で身体中を洗っている気分だ。
それは最早汚れをつける作業だと思う。
美肌にはなりそうだが。
ぱっと見てみると…おかしい。
時間の表示が…バグっている。
なんてことだ!うわー!怖い!
勿論だが、Wi-Fiは接続されているはずなのに、全く使い物にならないので、電波を繋げて、そのままインターネット掲示板を開く。
掲示板に辿り着いたその瞬間!
今度は電波通信。あぁ!モバイル通信も駄目になってしまった。
画面を思い切りぶっ叩いた。
自分の指は、ただでさえ日光を浴びないので白めの肌色だったが、今ので真っ赤になった。
おい!オイ!
【悲報】ベルさん終了のお知らせ
ってか?面白かねぇゾそんなの!
でも、インターネットが使えないことに違いがない。
ワイは、ワイ自身を水を全部抜かれてたあとに、ピチピチと無様に跳ねる魚のようだと思った。
そうだ!ここは宇宙空間と一緒だ。
無重力でフワフワだ!楽しいね!宇宙服があればね!?
まさかと思って窓を開けてみたら、ビックリだった。
本当に大気圏にいるではないか!
更にここから宇宙に飛んでいくのではないか!?
そりゃ大気圏は圏外だわ。
飛行機に乗ったことはないが、機内モードっていうクソモードは、一切のインターネットの使用を受け付けなかったもんなぁ〜
…………
頭が起きてきた。
起きてすぐ、絶望するのなら、まだ寝てたかった。
インターネットが使えない!?
そんなバナナ!
そして外!
よく見れば、この団地はなんの浮遊感もないし、窓から恐る恐る下を覗いて見れば、ちゃんと地面の上に乗っかっていた。
でも、それ以外の全部がない。
なにも…見えない。
………
(^ω^)
オワタ
\(^。^)/
世界がオワタ
\(^。^)/
ホントにこのままのポーズを取っていた。
余裕感ではなく、どうにもならなくても、せめてどうにか壊れないように、このポーズを取ったのだ。
現実か?
いや、そもそもワイの現実はインターネットの中に…
いや、そんなことはどうだっていい。
あぁ。あー!アー!
悪夢だ。
久しぶりに見たんだ。
そういやぁ、昨日も昨日とてレスポンスバトルで、華麗なる大勝利を納めたんだ。
で、相手に、
〉〉君、呪うからな。
なんてことを言われた。
捨て台詞だ。負け犬の遠吠えだ。
でも、プラシーボさんのお得意の催眠効果でデバフがかかっちゃったんだね。
さ!寝よ。
うん!寝れない。
全く同じ感覚を毎日味わっている。
というのは、いつもの起きてしばらくしたあと。
いつもならインターネットをいじくっている時間だ。
じゃあ!今のこれはなんだよ!
ワイは激怒した。
別に暴君もいなければ、親友なんていない。
っていうか、親友というか相棒が、話の始まる前から死んでいるという、物語破綻ルートを暴走中だ。
ハァハーン。
なんかで見たことあるゾ。
ワイは、これからここで死ななきゃいかんのだ。
そしたら目が覚めるんだ!
よし…えっと、できそうなのは、
練炭は…ムリ
溺死も…ムリ
包丁があったワ!…包丁は料理に使うものだゾ。
どうにか、タオルと木の柱で首を吊るしか無さそうだわ。
マッマ!ごめん!
成仏は多分できそう。
だって、成仏を願ってくるインターネットはもうない。
さらば現実。
別に楽しくなかったゾ。
首を吊るところで、チャイムが鳴った。
〈お空に気持ちがあるの?〉
〔404号室 浜宮離子と浜捩子の部屋〕
「やっぱりそう。ワタチタチにわミカタがヒツヨーなのです!」
「ええ。私たち2人を守ってくれそうな人を。」
すぐに思い浮かぶのはお隣さんだった。
まぁ、でも、はやとちりする訳には行かない。
前から交流のある人間ほど、警戒しなくてはならない。
純粋に気になって訊いてみた。
「お隣さんはどうかな?」
「グリちゃんの、昨日までのお隣さんへの印象って?」
「……う…ん…と…ね」
「ヒツヨーじゃないかな?ヨリミチってカンジ?」
「あのね、オトナリさんわね、なんていうかーね、タバになってる?カタマリになってる?とにかくミツドがミチミチなの。」
「ヒトコトでいえばー!ヨリミチミチ!」
あたしが無事で嬉しかったのか、グリちゃんはテンションが高かった。
「…そう。つまり、なるべく会わないのが吉って感じかな。でも、それ以外のここの住人はいっさい分からないからなー。どうしよう。」
これから会う人物に求めるのは、まず、第一にモラル。
女と子供をしっかりと守ってくれる倫理観が、この非常時の非常事態にあるのかだ。
次に、第二に、頼れるかどうかだ。
この先、この団地を離れて、なにもない未知の世界を遠征する。だとすれば、最低限の強さと身体能力が必要だ。
この2つの条件をしっかりと兼ねている人物が、この団地にいるのだろうか。
うーん。
正直言って、期待出来ないだろう。
でも、探すしかない。全員に会ってみなくては。
勇気を出して、包丁とフライパンを持ち、グリちゃんは待機させて、そして、401号室に訪問することを決めた。
インターフォンを押して、住人が出てくるのを待つ。
いやに時間がかかったが、多分数分が経ったのちに、401号室のドアが開いた。
401号室の住人の第一声は
「あれ?知らない人?じゃあ…現実?」
だった。
401号室の住人の印象。
それは、“殻に篭る”だった。
伸びすぎた髪は、ちぢれ気味のロングヘアで、顔の正面をしっかりと鼻の方まで覆っていた。
とにかく色白だった。
鼻と薄い唇は、毛の生えてる感じが全くなく、若々しさというよりはドラキュラのようなイメージを持たせていた。
細い体はモデル体型と言えばまぁ聞こえは良いのかもしれない。
でも、悪く指摘するというか、現実に引き戻すと、モデル体型にはどんなファッションでも似合うという事実の反例ともなるほどにダサいスウェット姿だった。
ずっとみていると体調の悪くなりそうな色の黄ばみの混じったライムグリーンのスウェットのセットアップは、どこのブランドなのか分からないが、センスの無さに恐怖した。
スウェットの中から、よほど骨ばっているのか大体の関節を把握することが出来た。
一瞥、二瞥。
そして、全体を把握してから答える。
「えーと。そうよ。現実よ。驚くかもしれないけど、本当にこの世界は終わっちゃったの。」
「はい。コレ。証拠のスクリーンショットね。」
そう言って、スマートフォンを見せた。
どうやって見ているのか分からないが、そのスマートフォンを顔でじっくりと覗き込むと、401号室の住人は、内容をしっかりと目を追った。
段々と体の揺れが大きくなっていって、仕舞いには後ろに倒れてしまうんじゃないのかと思った。
「えーと。え…と…あ。あ、しゅたぅ…うぅ」
解読不能の謎の言語を語り始めるので、大丈夫か尋ねよとしたら、そのまま口を押さえて素早く振り向き、部屋のトイレへと急行して行った。
オェエエエ! オェエエエ!
と、嫌な音が響いていた。
持ってきたフライパンと包丁が馬鹿らしくなって、玄関の方に置いたら、その背中をさすりに行った。
貴重なトイレタンク内の水資源を無駄にしたことに、実は憤りを感じていたが、それでもジッと耐えて優しく背中をさすった。
「ご…べんなざい。うぅぅぅ。そど、トラウマで。ちゃんと人と、ウェェエエ〜!」
落ち着いたあとに、住人を置いて、勝手に部屋の中を探索した。
これは……最近流行りのミニマリストってやつ?
最低限に必要な家具しか置かれていなかった。
だからこそ、タオルで雑に作られた、首を吊るために用意したであろう簡易的なロープ(ロープと呼べる代物じゃ、もちろんのことない。言うまでもない。)が部屋の中央にあったのがとにかく目立っていた。
401号室の住人が、トイレから出てきて、部屋を物色するあたしの前にやって来た。
「ウプ!ふー。」
「その!ごめんなしゃい!これは。あ…そ…ひとと話すのののが、でてばっフ。出来ないので。」
「そうなの。じゃあ、その、なにか困ったならさ、またいつか会えば助けあいましょうね。それじゃこれで。」
そう言って、部屋を出て行こうとした。
「あああの!わざわじゃ!すみませぬ!ホントに!ホントに…」
「うん。じゃあね。」
部屋をあとにしようとする。と、引き留められた。
「ワー!ワー!ワイ…ファイと…か!ネット↑とか、ないスか?かいせ…んが、死んでてるんぇですよぉ↑」
「いや、その、あたしの部屋もおんなじよ。インターネットは使えない。朝からちょっと前までの一瞬だけだったわ。」
「なら…どうすれば…」
ほとんどこの声は聞こえなかった。
聞かせるつもりもないと、言葉はスラスラ出てくるようだった。
「…電波塔とかに行って、設備を復旧させれば、またインターネットが使えるんじゃない?でも、今からインターネット使ってどうすんの?」
「んんんんん…グフッ!」
「うん。えーと。もういい?あの、じゃあね。」
「ママ!この人わ?」
「うん。あの…ね。……え!どうして出て来ちゃの!?」
「だってぇ!キになるんだモン!」
「ひゃの!コンニチハえーとエエーエー、お子様でしゅきゃ?」
401号室の住人は正座していた。
「……ええそうよ。帰るわよ。部屋に、この人と会えて、目的は達成したわ。」
「ううん。だって、ワタチはこのヒトとアってないもんー!」
「いや…まぁ…そうだけど。」
気がつけば、鼻の啜る音が聞こえてきた。
そう、401号室の住人が泣いていた。
「ええ…なに?」
あたしは、401号室の住人の出すほとんどの体液を見ることに成功した。
全く嬉しくない訳だが。
「いや…その、母のことを考えてしまって。っていうのは、この生活も、実は親の仕送りで成り立っているんです。」
「というのは、うちの母親、結構しっかりと生活を覗こうとしてくるんです。掃除をしっかりしているか。とか、歯をきちんと磨いて、風呂にしっかり入っているか、とか。ちゃんとしたものを食べてるか、とか。」
「鬱陶しかった。でも、従うしかないから、だからちゃんと報告の写真を送り続けてました。スマートフォンがぁ、だから嫌いなんですね。」
「あー。そうなの?」
「でも、目の前のあなた達のやり取りを見て、その……恋しいなって。会いたいなって。そう思ったんですよ。」
「でも、もう会えない…さっき…それがハッキリとしてしまった。それが…悲しくて。」
「すみません。なんでこんな長い話を喋れたんでしょうか。」
「すみません。また、なにかあれば…」
頼りなさは、感じた。
モラルも、第一印象とか、生き方とかを勝手に想像して、駄目だと判断してしまった。
けど、目の前のこの青年は、青春こそ過ごしていないのかもしれないが、家族を愛する気持ちがあって、ルールを守ることも…出来そうだ。
グリちゃんが、服の袖を差し出して401号室の住人の近くに寄り添った。
「ありがとう。でも、ほら、ここにタオルがあるから。」
「ママ!キめたわ。ワタチ、このヒトと、トモダチになる!」
「ええ!」
「ええ!」
あたしと、401号室の住人は、声がこだました。
多分、思っていることも同じだった。
「ワタチ!ハマグリちゃん。ヨロシク」
「え。あーあのあの、二胡 仁悟って、えとえー↑言いましょう?言いまふ↑。よろしく?」
「じゃあ、ユーコーのシルシね!」
「いや…その、もっと友達は選ぼうよ!」
来た!
グリちゃんが質問する時のあの表情だ。
まさか、こんなに早く、401号室の仁悟くんにほとんど全ての情報が渡るとは思わなかった。
けど、グリちゃんはそんな下心もないんだろう。
「ほら、オレはその、人とどう接するのか分かんないんだよ!?ちよ…ちょっと?」
「アレ?ハマグリちゃんの雰囲気が…」
「お空に気持ちがあるの?」




