17話 ディストピアその7
〈ディストピアその7〉
〜〜〜〜〜〜〜〜〜回想続き〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
約束の通り、洞窟があった。
結構危険で入り組んでいて、確かに観光でも、地元の人間にも忘れ去られるのだろうと納得させられる造りをしていた。
でも、その中で人の痕跡があった。
それは、約束通りに待っていたナードだった。
こちらを確認したら、すぐに引き上げるように計らってくれた。
看板に上がった我は、海水に浸かったわけでもないのに、震えが止まらなかった。
すぐに出発した。
「まず、ありがとう。正直、信じてもらえると思っていなかった。この島から離れるのは本当に辛い決断になると思うから。」
「えーと。とりあえず、ここから船で3時間。この偽造パスポートと予約した飛行機で、日本にでも行こうとそう思う。」
「あまり細かい話をすると辛いだろうから、水分でもとって。気持ちを落ち着かせて。」
「あの…ひとつ訊いていい?」
「なんだろう?」
「あの話が、嘘でも本当でもあなたにはリスクにしかならないはずなのに、どうして我を助けるような危険なことをしたの?」
「僕は、あの風習を知ったとき、トラウマになったんだ。幼くて純粋だったのもあったけど、でも、やっぱり本気で恐ろしかった。」
「h島のことを調べるのもそれで最後になった。でも、縁がまた出来てしまった。過去からは逃げられないってね…思ったよ。」
「しかも、あまり良くない関係とは言っても、知り合いじゃないか。だから、うん、知ってしまったからには見過ごせないじゃないか。」
「もしものことがあっても…恐らくh島はなにも変わらず明日を始める。僕はそれがとにかく気持ち悪かった。」
「これは、挑戦なんだと思う。トラウマを克服するための。過去に立ち向かうための。」
「すごいと思うわ。我にもそんなことは出来なかった。」
「ありがとう。でも、そういう情熱はある日いきなり湧き上がってくるものだから。心配しなくていいんじゃないかな。」
そのまま、順調にボートは進んでいった。
進んで1時間程過ぎた。
そのときだった。
船に、ひっくり返らないまでも、大きな衝撃が走った。
「これは…まさか…軍隊の持つような潜水艦を…!?」
船は完全に止まってしまった。
ナードは、衝撃で倒れたまま、気絶していた。
前から、ズラリと潜水艦が顔を出してきた。
そして、後ろからは、分かりやすく1番の指揮権を持ちそうな潜水艇が出てきた。
潜水艇のハッチが開いた。
あの夜、貰い手の女とその娘が殺された時に私を送り届けるように言葉をかけた男が出てきた。
その後ろを、彼女の父親が続いた。
「やぁ。おはよう。君はよく誘拐されるようだねぇ。」
「でも、大丈夫だ。安心するといい。何度でも私は君を助けるよ。」
指示を出すと、潜水艦から出てきた数人で我とナードを拘束して、そのまま潜水艇の中へと押し込まれた。
「や、無事でなによりだよ。怪我もなさそうだね。飲みたいものはないかな?」
彼女の父親は優しく我に語りかける。
真実を確かめる気にはなれなかった。
勇気がなかった。
彼女のことも、島のことも、遂に我にとっての理想のままに留めようとそう思った。
その心中を察したのか、彼女の父親も、それ以降になにも言うことはなかった。
ナードが目を覚ました。
「………そうか。本当にごめんよ。」
「こうなることが、1番残酷だった。考えていなかったわけではないんだ。でも、自分の心を大切にしたんだ。」
我は、その言葉を聞いてこう発言した。
「このまま、我をどうしても構いません。でも、この人の命を保証してください。無事に今後の人生を歩めると約束してください。それならば全てを協力します。」
「あぁ。そうか。今、確信したよ。やはり最悪のパターンなようだね。」
「ただのストーカーにしては、やけに知能犯だと感じていたんだよ。この少年にはね、でも…そうか。」
「少年。我々の目をどうにか誤魔化そうと色々と努力していたようだね。」
「例えば、“パーティーキ”への手紙とコメントの数々。手紙の方の宛先には、実際の参加者名簿から参加者の情報を盗んだろう。コメントにはストーカーの傾向のあるアカウントを乗っ取って使ったな?特定したその住所も、同じくパーティーキへの手紙の宛先と一致する。」
「我々の捜査力を活かして分散させたな。この島の中に真犯人として潜んでも見つかりにくいように。」
「その他にも、色々と仕掛けてきていたな。いったいいつからこの島に潜伏していた?」
「……“ミスh島・コンテスト”の開催を知ってから、計画を練って、計画が完成してから現場検証のためにすぐに来た。」
「ほぉ〜。すごいなぁ。尊敬するよ。儀式の邪魔さえしなければ、我々の直属にしたい程の逸材だぞ君は。」
「が、惜しかったな。島の中はよく調べられていたが、h島はその海までも含めてh島なんだ。我々は、極秘だが、一切の空路も、海路も封鎖しているんだ。常時ね。」
彼女の父親から、はっきりと“儀式”という言葉を聞いた。
その場にいながら、螺旋階段を滑り落ちる感覚が5分くらい続いた。
ナードは、涙を流しながら、沈黙した。
落下が止まったあと。
我も、ナードの勇気に呼応するかのように、疑問を口に出していた。
「我は、………いや、彼女は、我に関することを知っていたのですか?」
「あぁ。知っていた。確かに、君がこの島にずっといるように、枷としての役割もあったよ。でもね、君に対する娘の感情も、発言も、態度も、全て本当さ。本物の恋と愛がそこにはあったよ。」
「慰めようという訳ではないよ。真実だ。それほどまでに君は輝いていた。」
「娘の命の恩人となったとき。我が家では総意で君こそ、あの名誉を受ける存在だと確信していたよ。」
「我々にとって、大切な存在であればあるほど、特別な存在であればあるほど、神秘的な存在であればあるほど、この儀式に意味はある。」
「イカれているぞ!大切な人を生きたまま、最大限の苦痛を伴わせて殺すなんて!」
ナードが吠えた。今にも噛みつきそうだった。
「この島へと降り立つ神に並ぶような女性と、我々の島の神と寄り添わせることが、この島の向こう500年の繁栄の礎となることが、どれだけのことか君には分かっていないのだ。」
「分かるわけ…ないだろ…」
「残念だが、話はここまでだ。到着したのでね。話はここまでだ。」
「少年。君は今日だけは拘束させてもらう。その後は彼女との約束通り自由だ。が、互いのためにこの島に2度と足を踏み入れないと約束してもらおう。良いね?」
「君は、今夜に備えるんだ。色々な準備があるけれども、とりあえず、今からは私の娘と過ごしてくれ。良いかな?」
「……ぜひ、この人の命を…」
「ああ。娘と、君と、我々の島に誓ってこの少年は無事に返すよ。」
珍しく、日の光を雲が隠したり、と思えばまた地上にその恵みを届けたりする。
そんな空だった。
言われた通りに、彼女の家へとやって来た。
彼女と挨拶をした。
「…どこか、行きたいところとか、したいこととかある?」
「あ、そうか。我は…“パーティーキ”に行きたい。良いかな。」
「うん。良いけど、今日はもうお休みよ。」
「あなたと、一緒に踊りたい。だから、お願い。」
すれ違う観光客の何人が、その風習を知っているのだろうか。
0人だろう。
そして、私も、知ったうえで、もう無視をした。
この島でこの風習に抵抗すれば、恐らく命はない。
あの子が無事なのかも多分永遠に分からない。
この島の住人で何人が、風習のことをしっかりとでも、軽くても知っているのだろうか。
ほとんど全員なのだろう。
この島の異常なる雰囲気を肌で感じていた。
気になったから、彼女と散歩したかったんだと思う。
「着いたわね。」
「ほとんどの思い出が、ここに詰まっていると思う。あなたとの出会いも。だから…」
「別れには相応しいって?フフ。我はそんなつもりでここに来たわけじゃないわ。」
「ここを、一緒に燃やさない?ファイヤーパフォーマンスよ!」
「ここを…燃やす…。」
「ええ。どうせ我のことを今も監視しているんでしょう。我はね、焼身自殺しようって訳じゃないの。」
「ここを燃やしたいのはね。弔いよ。我に関する全ての。」
「我の、過去への決着のつけ方がこれだったの。別に、止めるなら止めて。手伝ってくれるなら、手伝って。」
彼女は辺りを見回した。
許可を求めているんだろうなと思った。
そして、我にこう告げた。
「手伝う。」
「じゃ、中で踊りましょうか。」
「うん。」
「監視の人にさ、ガソリンとマッチ買わせておいてよ!ね!」
「うん。」
そのあと、“パーティーキ”の中のステージで、観客のいない中で彼女と2人きりでいつもの踊りをした。
そのあと、“パーティーキ”のそこら中にガソリンを撒いていって、火をつけた。
我は
何故か、火災対策のシステムが作動せず、全てが順調に燃えていった。
昼間に見る炎はとても良いものだった。
「次、良い?」
「なにしたい?」
「決まってるでしょ、2人きりになりたい。」
「そっかぁ。」
「ダメっぽいよ。」
「良いとこ知ってるよ!今朝見つけたの。」
「うん。行きたい。」
見れば、バイカーが燃える“パーティーキ”を見ながら佇んでいた。
我は思い切って声をかけた。
「通報しないの?」
「あん?ああ。そりゃそっくりそのまま君らに返すよ。その言葉をね。」
「ふふ。そっか。」
「ねぇ。」
「あん?なんだい?」
「あの火さ、我とこの子で着けてきたって言ったらさ、信じる?」
「ウヒャ!ウヒャ!ヒャヒャヒャ。ああ。信じるよ!ロックってのは冒険と探索の先に巡り合うんだぜ。ここで巡り合ったなら、多分アンタはロックな存在なんだろうな。」
「ここから離れたくてさ、この2人をさ、あのデートスポットに連れてってくんない?」
「あ!慌ててるよあの人たち。」
「じゃ、急がないとね。」
「うんうん。良いぜ。乗ってきな。ちゃんとヘルメットしろよ。」
「ありがと。」
そのバイクは、音を置き去りに出来るスピードで走っていった。
あっという間に尾行も振り返り、その時だけは、誰からも縛られていないのだと本気で感じた。
そのまま、人混みに紛れて、ナードの用意した隠れ場所に到着した。
「ウソ!こんなところ知らなかった。そっか、もうわたしよりも、この島詳しいのか。」
「ううん。我じゃない。けど、そうだね。上には上がいるよ。攻めたこと言うとさ、神様とかよりも多分上がいると、そう思う。」
「ふーん。」
「怒らないの?」
「ううん。なんだか今日はね、変なの。いつも通り大好きだし、いつもと違って、ただ正直なわたしであなたと関われいるけれど、それよりもっと変なの。分かりにくいね。」
「うん。でもね。なんだか分かるよ。我は、多分。全部分かる。」
「ダメだ!もう駄目。もーダメ。我慢できない。怖くないの?悲しくないの?私とこうしていて良いの?」
「どうして?」
「だって、あのときだって、あのときだって、わたしはいつでもあなたのことを慰めてきた。でも、今日はまだ、というかもう今日の夜まで、その瞬間は来ないと思う。それが気になって。」
「なんでだろう。うん。朝のあのときは、色々怖かったよ。でもね、怖いのも哀しいのも、皆んなの語る名誉ってやつも、全部感じないの。」
「真っ白でも、真っ黒でも、透明でもないの。でも、“無”なの。完成した“無”。」
「じゃ、愛も無くなった?」
「ううん。愛の1番先?深く?…にあるのが“無”なの。」
「その“無”で、我はあなたを包み込む。」
「うん。このまま、パパか誰かが見つかるまで、一緒にここにいよっか。」
「そうだね。あ。夕陽。」
2人で頭のてっぺんを寄らせながら、肩を合わせて眠った。
起きれば、彼女の家の一室だった。
この家で見かける女給がバタバタと小道具や必要な品を用意していた。
彼女の祖母、彼女の母、彼女自身。
3世代が揃って我を清めた。同時におめかしを我に施した。
彼女の祖母が声をかけた。
「本来ならね、おまえさんがね、儀式のことを知ったところで候補からは外されるんだよ。邪な気持ちを持ってしまうからね。」
「でも、おまえさんは特別だった。全てを知りながら、自身の持つ神聖さをより高めより強めて見せた。」
「…それなら、この儀式は我を最後にしてください。」
「あぁ。そうなっても不思議ではない。全ては神に聞いてからじゃ。」
「はい。」
聖櫃を運ぶような恭しさで、我は台に乗せられて、彼女の家をあとにした。
中継地点で儀式専用に作られた車を、まるで王族になったような気分でどんどんと進み、火山の待っている自然公園へと向かった。
辿り着き、皆んな顔を隠している男たちが、先程少しだけ乗せられた台に我を移すと、火山を登り始めた。
先頭に誰がいるのかは、大体の察しが着いた。
いつもならとっくに侵入できないはずの入り口を超えて、さらに、観光客も絶対に知る由のない登山道を進んでいく。
その頂上には、危険だという距離感の手遅れになる程の近さで火口に接近出来るスポットに繋がっていた。
その台の上は恐ろしいほどに安定していた。
全くの揺れを感じさせなかった。
覚悟を決めろと告げられている気がした。
いよいよ、登っていった先。
無事に登頂に成功した様子だ。
いつから準備してあったのだろうか、祭壇があって、先頭の男が華麗なファイヤーパフォーマンスをしていた。
夜も深く、その炎は良く映えていた。
全ての儀式の準備が終わったあと、先頭の男がこう宣言した。
「無事の繁栄で儀式の出来る感謝を!次の我々に儀式を受け継ぐ力を!この島の繁栄を!今、この島の持つ永遠を守るため更なる薪をくべるとき!」
我は、その場の全員に促されるままに火口に続く道を渡っていった。
裸足のはずであったのだが、不思議とその道はヒンヤリとした冷たさまで感じた。
驚くほどしっかりとしたその道は、確かに石で作られており、歴史を感じた。
我は目を瞑った。
そして、道の終わりにいてたちすくむ我を、先頭にいた男が棒で押した。
我の身体はスルスルと火山に飲み込まれていった。
溶岩が我を受け止めたことすら分からなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜回想終わり〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〈パイナツプル大王〉
全てが、巡ってきた。
確かに、封印していても仕方ないガラクタばかりだった。
そして、目の前の彼女を見ながら考える。
そう。この力。望む物を全て与えてくれるこの力。
そうか!
この力の正体こそが…まさに!
“島の繁栄の力”
そうであるに違いない。
それならば、やることは簡単だ。
この島を世界の中心に、全てを支配する。
この島を作り直した後には、世界を作り直す。
一切の後ろめたさなどない!
我の目の前には、“無限の可能性”が広がっているのだと、そう感じた。
強く、強く、感じた。
彼女に向かって挨拶をした。
「やぁ。こんにちは。君は何がしたい?」
彼女は、しばらく俯いて、向き直ってこう言った。
「燃やし尽くしたい。なにもかも!」
「うんうん。分かった。そうしよう。」
我は手に出現した鏡を見た。
金色の髪に緑色の目。
記憶の中にいた美しい娘がそこにいた。
「やはり、ここは現実か?天国か?地獄か?」
「なんにせよ、とりあえず、この顔とはしばらくお別れだ。」
そう言うと、初恋のあの、島の守り神の人形の顔を大きくした、硬い木の面を顔にはめ込み、記憶の中の島のある限り全てを再現して再生させた。
「今日!これより!我の名をパイナツプル大王とする。ここにパイナツプル王国を建国する。その目的は、全世界の支配にある。」
ビーチのところに適当なイスを2つ並べて彼女と共に座る。
ここから、このパイナツプル大王によりディストピア世界の創造が始まるのであった。




