16話 ディストピアその6
〈ディストピアその6〉
〜〜〜〜〜〜〜〜〜回想の続き〜〜〜〜〜〜〜〜〜
街の皆んなが祝福してくれた。
誇張表現ではなく、本当に街で見かける全ての人から挨拶をされた。
おだてる者も、軽く挨拶してくれる者も良い笑顔だったので、なんだか参加して良かったような気分になった。
島の中のニュースに載り、インターネットにも掲載された。
それには別に何も感じなかったが。
で、また毎日が始まる…はずだった。
でも、事件が事件を呼ぶらしい。
連日の人気が続くパーティーキに、我宛ての手紙が来た。
パーティーキのSNSアカウントにもその手紙と同じ内容のメッセージが来ていた。
“ミス・h島は今すぐに島から出ていけ”
筆跡が分からないようにしていた。
イタズラの中でも最もいけ好かない類いのものだった。
この島から出ていくことの意味するのは、全てを失うということだ。
周りの仲間は、前のコンテストで結果の振るわなかった参加者の見苦しい嫉妬による嫌がらせだと言った。
我もそう思った。
1番怒りに燃えてくれたのは、もちろん彼女だった。
後にも先にも、ここまで怒る彼女を拝むことはなかった。
「この件は、パパに報告させてもらいます。」
「あなたは、なにも気にせずこの島にいて、わたしの側にいてね。」
まぁ、その通りに従う。
喜怒哀楽の前半部分が見事に揃ったので、哀と楽を揃えてグループでも作ろうと思えるくらいに、その日の我と彼女の感情を読むことは簡単だっただろう。
側にいたい人に側にいてくれと言われる。
心地良い。全く、心地よい。
それで、この投稿のあった後は、中傷を受けたはずの当人がずっと上機嫌で、その周りがしばらくのうち皆んなで不機嫌でいるという珍光景が誕生した。
だから、皆んなで揃ってその憂いを吹っ飛ばすために遊びまくった。
パーティーも良くしたし、経験したことのないようなことも色々とした。
その都度例の子は、SNSで普段の生活風景写真を投稿するアプリケーション。
我の居場所がバレる原因となったあのアプリケーションを使って、皆んなで写真を撮った。
全てから解放された今、あの時には怒りも覚えた行為だったが、スマートフォンのカメラを向けられたら、積極的にポージングした。
たくさん楽しいことをしたので、我もカナダ辺りに旅行へ行こうと皆んなに誘ってみた。
彼女も、皆んなもその提案を聞いた瞬間に、ピクリと固まった。
時間でも止めてしまったのかと思った。
夏の南の国に似つかわしくない冷気を感じた。
そのあとの数秒後に皆んなから、いや!繁忙期でしょ!と口々に言われた。
そっか〜と答えた。じゃ!冬のカナダとかに行こうと提案した。
彼女も皆んなもそれなら承諾してくれた。
この写真の投稿群がまたも引き金となった。
その提案から2日後。
パーティーキのスタッフ用の女子トイレに座っている男がいた。
懐かしいといえば懐かしい顔だった。
我がイジメていたナードだった。
我の持つ暗い過去のうちの一欠片だった。
だいぶ小さくなってきた、ヌメリのある黒い塊も、その粘り強さで私にくっついて中々離れてくれないらしい。
思わず声が出た。
「あんたは…!」
「ひ、ひ、久しぶり。いや!ホントごめん。ここしか君と話せる場所がなくて、要件だけ伝えたらすぐ出てくから。ちょっと聞いて!」
「イカれてんの?警備員を呼ぶわよ!」
「そっかー、やっぱり元気になったんだ…この島で。でも、それでも、辛い決断になるけど、君に絶対に必要な話だと思う。」
「?…何を言ってんのよ!」
「今は全部話せない…から、これだけ言っておく。最近、常に誰かに見張られている気はしない?この島で常に。なんなら、尾行され続けているとか。意識してみて…それで、思い当たることがあれば、ここで働き終わった後にこの場所に来て欲しい。」
「この場所は、観光客が来すぎてギュウギュウになっているから人混みに紛れやすいんだ。」
「来てくれたら黒色のテープを辿って。その先に僕はいる。」
「これだけだから。じゃあ。」
そう言うと、本当にナードは復讐もなにもせずにただ、我の前から急いで消えていった。
不思議だった。
それで、意識してみると確かにこの頃は街行く人々に良く見られることがあった。
それに、その街の人以外で、何度か多めにすれ違う人がいる?そんな気がした。
が、それほど確信が強いわけではないので、こういう時にすることは1つだった。
彼女に相談してみた。
我が、なんだか人に好意で見られるというよりかは、監視されている気がすること。
根拠はなかったが、尾行されていることも伝えてみた。
彼女は、申し訳なさそうな顔で我に振り返ってきた。
以外な反応だった。どういうことなのか分からなかった。
混乱する我を見て、すぐに全部説明してくれた。
「その…最近はさ、色々事件があったでしょ、で、また最近はあなたに直接のメッセージが届いたから。わたし、不安と責任感を感じてパパに相談したら、パパが勝手にあなたに監視の目をつけてたみたい。」
「それくらいのことなら簡単にできるから。それしか考えられないわ。でも、わたし、あなたに事件のこととか辛いことを忘れて欲しかったのに…こんな…ごめんなさい。パパに頼んでもうそんなことしないように釘を刺しておくからね。」
全く安心した。
ナードの言い方からは、何か鬼気迫るモノを感じたから。
危険なヤツらが近くにいるんじゃないのかと不安になった。
考えてみれば、そんな危険なヤツらだったら、すぐに我に危害を加えているはずなのだ。
彼女に気にしないでと言った。
まぁ、監視されている状況は解除してくれるようにお願いしたが。
それから、ショッピングモールに出かけたとき、土産物の人形屋にまたナードを見かけた。
そう言えば、店に並ぶ人形と同じようなものをナードから無理矢理奪ったんだ。
酷いことをした。
だがもう、関わることもないだろう。
けど、強力に罪悪感もあったので、ひと言だけ過去のことを謝って、それで別れようと、そう思った。
それで、ナードに声をかけた。
「その…今日声をかけたのはさ、あの時の返事とかじゃなくて、謝り損ねたから。だから今さ、あの時の全部のことをさ、私が悪かった。本当にごめんなさい。あの時に奪ってしまったお金とか。全部返します。だから…」
「ええ。ええ。分かりました。では、この金額をこの場所で。待ってますから。」
小声でこう付け足してきた。
「そのメモは読み終わったら返してください。」
そこにはこう書かれていた。
“後ろでスマートフォンをいじくる夏物の白いドレスを着た女と、アロハシャツにハットを被ったアジア系の男。この2人が尾行。確信したらこの前伝えた場所へ 期限は明日まで”
「では、これで。」
ナードの方から、我から離れていった。
集中してみると、本当にその2人が怪しかった。
その2人が、尾行のプロのような動きをしてそうなのが更に疑惑を深めていった。
単純に悲しかった。
何故なら、彼女が我との約束を破ったことを意味するのだから。
でも、だからこそ、今度はただ事ではないと思ってしまった。
そこで、酒を飲みまくるふりをして、次の日に休める口実を作った。
次の日。
二日酔いを覚ますための散歩と書き置きを残し、早朝に家を出た。
ナードとの約束の場所に向かう。
有名なデートスポットだった。
なるほど、ここでカップルのフリをして喋るのか…と思い誘導の黒いテープを探した。
ボロくて、たまに道に捨てられたガムと見間違えそうになったが、ちゃんと誘導に従って進むと、我でも知らないベンチがゴールで、ナードの姿はなかった。
植物で隠されていた道を過ぎたのて、葉っぱと木の蔓が身体を撫でる感覚があって気持ち悪かった。
ベンチの所をよく探すと、一昔前の小さなミュージックプレーヤーがあった。
その裏に矢印が刻まれていたので、林の中をその矢印の通りに進む。
ナードらしい発想だ。ゲームでこの手法を学んだんだな。
なんて呑気なことを考えていると、印のついた木に辿り着く。
その中にイヤホンがあったので、ミュージックプレーヤーに差し込んで再生する。
『これから話すことは、全て証拠を挙げられるだけの下調べをした僕の見解です。真剣に聞いていただきたいです。』
『結論を先に言いましょう。あなたの命が危ないのです。他の島に今すぐ逃げて、そのまま大陸に帰還するか、他の国に移動するべきです。』
『この結論に至るまでの筋道はこうです。僕は少なからずこの島に興味を抱いていました。幼少の旅行からでした。この島の守り神の人形も家に並んでいます。』
『だから、島の文化や歴史を調べました。たくさん調べました。良く書籍を読み、インターネットに転がる雑多な情報も検証しました。』
『その中で1番恐ろしさを感じた風習がありました。兄に頼み大学図書館のところから盗み出した禁書の中に書かれたモノでした。』
『500年に一度、島の外からやって来る、神に最も近そうな美しさと器量を持つ素晴らしい女性を、火山の中から神に捧げるのです。』
『つまり、女性を、生きたまま、火山の火口に投げ入れてしまうという風習です。』
『なぜ、恐ろしさを感じたかと言えば、僕の知るh島の伝説、御伽話の中にも、いくつかの似たような描写のある話があったからです。』
『その描写の具体的な内容が、残酷な内容が書かれたそのページを忘れられなくなりました。』
『それから、あなたに出会いました。そして、h島の守り神の人形があなたに渡りました。』
『しばらくして、あなたが居なくなりました。最初は喜びました。そのまま過ごしていました。』
『あなたの住んでいた家の事件を知ってしまってからは、ただならぬ事情を感じていました。事件のことについてもう少しだけ興味が湧いたので調べようとしました。』
『すると、どうでしょう。捜査は便宜上は継続となっていましたが、実質的に見切りをつけたような状況になっていました。結構早い期間にです。違和感を覚えました。』
『それから、あなたの家の中にいた娘さんに取材しに行きました。いじめられていたことを伝えると、悲痛な反応をして、自分たちの境遇も語ってくれました。』
『更に、流行りのSNSアプリケーションに写るあなたを見せてもらいました。そして復讐を持ちかけられました。勿論、断りました。』
『そして、僕もそのアプリケーションを始めてあなたの居場所を知りました。h島にいることを知りました。』
『なんとなく、嫌な予感がしました。この感覚はなんだろうと思いました。h島に移動したことがインターネットに投稿されているのに、動かない警察。』
『独自に、あなたをh島に逃がしたというか、移住をさせた人は誰なのかと、調べました。すぐに答えに辿り着きました。』
『学年のクイーンビーが、あなたをh島に移住させたのを知りました。それが、酷似していました。恐ろしい風習の第一段階に。』
『各地で影響力を持ち、候補となる娘を島へと誘う。』
『定期的に、あなたの住んでいたところの母娘とも、連絡をとり続けていました。娘さんに、特に、精神カウンセリングを勧めました。復讐を止めようと思いました。』
『でも、ある日、決行する旨のメッセージを残してそのまま島へと向かったようでした。そこから、連絡が途絶えました。』
『その後、あなたが、よくSNSアプリケーションで写真に写るようになったのを見て、何かがあったことを悟りました。』
『でも、その割にはh島に該当するような事件があった痕跡はありませんでした。疑惑は募っていきました。』
『その疑惑がより一層確信に変わったのは、急に開催された“ミス・h島コンテスト”でした。小さな大会こそあれど、規模の大きなこの大会を、毎年やらずにこの年だけ開催したのは何故だろうと思いました。』
『僕は考えないようにしていましたが、結局のところその結論に辿り着きました。あの恐ろしい風習です。そうです。あの大会が開催された今年は、丁度前回の風習から500年なのです。』
『今年に、その儀式が行われるのです!』
『その、被害者は…恐らくあなたなのです。だから最近は監視されていたのです。無事に儀式を行えるように。街ぐるみ、島ぐるみで祝福するフリをしてあなたが逃げられないようにしていたのです。』
『これなら、本国の警察機関が捜査を実質的に打ち切ったことにも説明がつきます。あなたが、島に招かれたことにも説明がつきます。』
『その儀式の日は○月×日です。ここまでの内容を信じてくれるのなら、この先の入江にゴムボートがあります。そこからオールで漕いで右に進んで洞窟を目指してください。そこで合流します。』
我は、心臓に血が、肺に空気が、胃に胃液が、喉に唾液が全くないような感覚に陥った。
とにかく空っぽになってしまった。
枯れ草のような感覚でフワリフワリと風に乗るように、川の流れに従うように、ゴムボートに乗っていた。




